【アルバム紹介】cali≠gari、異形のヴィジュアル系バンド

 1993年から紆余曲折ありながらも活動を続ける異形のヴィジュアル系バンド3人組。唯一のオリジナル・メンバーである桜井青さん(Gt,Vo)のもとに、石井秀仁さん(Vo&Gt&PG)と村井研次郎さん(B)が集う。

 メンバーの増減が多々あってその遍歴を第〇期と表しており、2015年からの現3人体制は第8期となります。

 奇形メルヘン音楽隊、異能派音楽集団といったコピーが過去につけられた稀有な音楽性はヴィジュアル系に属しつつ、軽やかにヴィジュアル系からはみだします。

 ロックを基調にニューウェイヴ、歌謡曲、フォーク、ハードコア、ジャズなど多様な音楽を内包する。

 本記事は第7期からの作品を取り扱い、18作品について書いています。

タップできる目次

アルバム紹介

ブルーフィルム(2000)

    ミニアルバム。2ndプレスは全8曲約40分収録。ヴォーカルに石井さんが加入し、第7期cali≠gariとしての初音源。コンセプトはエロで通称”エロ・アルバム”と言われています。

 分厚いギターリフにレトロな歌謡センスが融合した#1「エロトピア」、軽快な曲調とメロディが青春の1ページを鮮やかにめくっていく#7「ブルーフィルム」という2大名曲を収録。

 cali≠gariの軸となる変態性と哀愁をこの2曲が特に示しています。ただ、エロといってもポルノという表現の方が近いのが桜井青氏の年代や趣向的なものでしょうか。

 ジャズ/フュージョン要素も盛り込まれ、気品としなやかさを兼ね備えた#5「真空回廊」、音響系アプローチの#6「原色エレガント」にしてもサラッと上品に聴かせています。

 全体を通してもバンドの中で新しい輝きを放つ石井さんの声が優しくもセクシーに響きわたっている。アングラかつムーディな雰囲気を保つ中で、歌とメロディを狡猾に聴かせる技巧は冴えており、際立った個性というのを感じさせる内容。

 cali≠gariの核となるものが詰まっている名作です。

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第6実験室(2001)

   第7期cali≠gariとして初となるフルアルバム。全15曲約61分収録。本作から石井さんが作曲に参加。元々のフォークやレトロ歌謡といった持ち味を時に侵食するほど、彼が持ち込んだテクノ/ニューウェイヴ要素が大胆に効力を発揮し始めました。

 それでも約80秒の#2「-187-」で”死ね死ね”&”殺してやる”の連続でコミカルに盛り上げていくスタートがcali≠gariらしさ。#3「ギャラクシー」からはキャッチーに寄り添っていきますが、毒は吐き続けます。

 代表的なのが#6「近代的コスメ唱歌」。ピコピコの軽快な曲調を矢面にしてヴィジュアル系シーンを痛烈に皮肉っている。

 そして#8「マス現象」にて先輩バンドに毒を吐き、#9「ひらきなおリズム」では5番煎じに美を感じる精神を面白おかしく表現。全体としてもニューウェイヴ+ギターロック風の意匠とブラックユーモアが目立ちます。

 しかし、これまでのバンドの音楽と中和させるべくアルバム終盤に青さんの曲が固まっています。彼の感傷的な楽曲は欠かせないもので、特に#13「ママが僕を捨ててパパが僕を犯した日」の残酷な歌詞なのに哀愁に満ちた名曲です。

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第7実験室(2002)

   メジャー・デビューとなるフルアルバム。全15曲約60分収録。”実験室”継続。ナンバーガールを思わせる正統派なギターロック#2「ハイカラ・殺伐・ハイソ・絶賛」で始まりますが、整合としつつも混沌としている。

 アルバム全体を聴き進めるとギターロックとニューウェイヴ、昭和歌謡、ジャズ、フュージョン、アンビエント、ハードコアにフォークと多彩に振れていく自由すぎる感性を発揮。

 1曲たりとも似たような曲調が無く、これまで以上の振り幅で聴き手をもてあそぶ。そして、”変”という言葉をアングラ寄りの毒気、質の高いメロディで褒め言葉にまで昇華。

 バラエティに富む音とは裏腹に電車の人身事故をテーマにした#4「マグロ」を筆頭に、別の意味で話題になってしまった#7「きりきりまいむ」、石井さんお得意のエレポップ#8「デジタブルニウニウ」、後年に再録されるジャジーな#11「東京ロゼヲモンド倶楽部」、フォークバラード#13「東京病」が揃います。

 そして隠しトラックの#15「失禁」で一発かまして終わる。活動休止前で一番人気と評価が高い代表作です。

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8(2003)

 活動休止前最後のフルアルバム。全12曲約46分収録。プロデュースをムーンライダーズの鈴木慶一氏が担当。実験室シリーズを卒業しましたが、変わらずに実験的です。

 アクの強さと毒々しさは本作にてかなり薄まっていますが、異能派音楽集団というキャッチコピーは体現。それこそ前半は石井さんのソロなんじゃないかというぐらいに彼作曲のものが並ぶ。

 軽やかなギターロックと打ち込みが妙に歯切れが良く、冒頭の#1「その行方、徒に想う…」からその傾向が見えます。

 打ち込み中心でリードするシングル#3「舌先3分サイズ」やアンビエントな意匠を施した#4「虜ローラー」に加え、研次郎さん作曲の2曲がまた変化球過ぎて笑います。

 漂わせる”そっけなさ”は、cali≠gariではあるけれどもお約束/様式から離れてリスナーを試しているようにも感じられる。対して後半は対照的に青さん作曲の4曲が並ぶ。

 #9~#11はそれこそ独演会のようでレトロ、歌謡性、青春要素を表出してアルバムを軌道修正しようとする。

 このように前後半であっちこっちに振り回し、リスナーもレコード会社もおちょくるように活動休止へ向かうのでありました。

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グッド、バイ(2003)

   日比谷野外音楽堂での活動休止ライヴと同日の2003年6月22日に発売された、さよならベストアルバム。第7期になってからリリースされた楽曲から15曲、新曲2曲も加えた全17曲収録。

 さらに『再教育』収録の5曲は再録し、全曲リマスタリングされています。下述する『カリ≠ガリの世界』よりキャッチーな曲が多いのが特徴。

 いきなりグッドバイして、死ね死ね叫んで、2人の秘密の暗い山へ行って、フラフラスキップする。

 次々変わる曲調に振り回されていたら「かじか」を元ネタに進化した#6「3.2.1.0」や#7「空想カニバル」が飛んできて、強まる打ち込み&アブストラクトの要素にポカーンとする。

 そういった実験的な部分は残してリスナーを試しつつ、名曲オンパレードの後半へ。一度聴いたら忘れられない/忘れさせない#8「エロトピア」や#14「冷たい雨」、#16「ブルーフィルム」を収録。

 濃い曲を収録していますが、”キレイなcali≠gari”といえる優しい入門編のベスト盤は間違いなくこちら。

 ちなみにわたしがcali≠gariを聴き始めたのは、03年の活動休止して数カ月経ったあとに本作を聴いたことから。cali≠gariで一番好きな曲は「ハイカラ・殺伐・ハイソ・絶賛」です。ただ第7期以前は未だにちゃんと聴けてない。

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カリ≠ガリの世界(2009)

 活動休止6周年記念企画となるベストアルバム。全21曲約75分収録。当時は「消費期限付き」での復活でした。

 『グッド、バイ。』よりも実験室のテイストを引き継いでいて、本来のベストアルバムと言える内容です。かつて実験室時代にあった入口と出口、寸劇/コント的なドラマが復活。

 ライトな選曲だった前ベストと比べても「37564。」「禁色」「失禁」「嘔吐」「発狂チャンネル」など道徳の教科書に載せてはいけない曲が並ぶ。教室の片隅でこっそりと嗜むようなこのアングラ感は、密室系と呼ばれる人たちならでは。

 さながら悪意のバラエティ・パックです。何と言ってもメジャー・デビュー曲が「マグロ」な人たちですからね。

 かと思えば人気曲#6「せんちめんたる」や#19「青春狂騒曲」を収録し、cali≠gariらしい歌やメロディをじっくりと味わうことができる。ちゃんと寄り添えるところは寄り添ってくれますのでご安心を。

 『グッド、バイ』と比べると濃ゆい味付けですが、クセになる味付けなので摂り過ぎには注意。

10(2009)

   再始動後1枚目のフルアルバム。全11曲約39分収録。復帰後初シングル「-踏-」「スクールゾーン」で健在ぶりを示しましたが、本作はスタイリッシュになった印象が強いです。

 GOATBEDやSEX MACHINEGUNS、lab.といった各ソロ活動のフィードバックを踏まえ、4人の噛み合わせが良くなって洗練・ビルドアップ。

 石井さん主導の曲が引き続き多くなっているものの、『8』ほどそっけなく突き放した感覚はなし。電子音と生音がばっちり融合し、歌メロはポップな聴き心地。

 メンバーもあえて昔っぽい曲や重い曲調はアルバムから外したと言っていますが、復活して昔と目指すところが変わってきているのかもしれません。

 ハイテンションな#2「マッキーナ」、GOATBEDがcali≠gariチックに変容した#5「ハラショー!めくるめく倒錯」、うねりまくるベースとコミカルな要素が合致した#8「混沌の猿」などわかりやすく耳に届く。

 ニューウェイヴを軸足とし、バスケのピボットのように片足は様々なジャンルに動かせる強みを発揮しています。

 そしてデジタルなタッチに重きを置きながらもセンチメンタリズムが通底した#11「電気睡蓮」を青さんが作曲していることの頼もしさ。健在どころか”更新”を示す内容に納得させられる作品です。

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≠(2010)

 消費期限の終了を記念したミニアルバム。全て新曲となる6曲約22分収録。読み方は”ジュウイチジャナイ”。ヴィジュアル系のマナーに則って3形態発売(笑)。コンパクトさのわりに『10』よりもバンドの濃い部分が垂れ流されます。

 ほとんど同じフレーズを繰り返す中でメタル的な性急さとゴリゴリのサウンドで90秒間痛めつける#1「反ッ吐」で始まり、#2「マネキン」が早口にまくし立てハードコアのアグレッションを叩きつけます。

 かと思えば#3「散影」では強烈なビートに乗せてポップな歌メロと電子音が煌めく。鋭いエッジとアンサンブルで牽引する前半3曲はあっという間に突き進みます。

 後半は小気味よく踊れるタイプの曲が揃いますが、もちろん一癖ある。#5「オーバーナイト ハイキング」はライヴの定番曲でお客さんが懐中電灯の白い光で満ちた景色を演出。

 #6「クロニック ダンス」では泣きと表現したくなるギターソロが入ってくる。濃さのベクトルが以前とは違いますが、活休前の雰囲気は『10』よりもこちらの方が強いです。

11(2012)

 活動休止の”休止”を宣言して 再始動後2作目のフルアルバム。全11曲約41分収録。前作と比べると”へんてこりん”度が増しています。

 『≠』と同様に濃さはあるけど、やはり以前とは別のベクトルを感じます。それでも散耳する懐かしさと復活以降の新しさが結びついていて、cali≠gariの個性は強くなっています。

 妖しげに色めきだつロックチューン#1「吐イテ棄テロ」、メタル系の攻撃性をひけらかす#2「JAP ザ リパー」で激しく幕開け。さらに華美なプレゼンテーション#3「娑婆乱打」の畳みかけ。

 #7「初恋中毒」なんていうGOATBEDの渡辺美里さんカバーよりもびっくりする、ロマンティックな飛び道具も用意されています。

 アイドル並のフレッシュ感から実験室時代のアングラまで醸し出しながら好き勝手に振る舞う。何より本作では石井さんと青さんのソングライターとしてのカラーが両立。

 青さんによる#10「最後の宿題」~#11「東京、40時29分59秒」の私小説を兼ねたセンチメンタルな風情が沁みます。

 時に袴を着こなし、時にパレコレ・ファッションを着こなすように音楽の装いを変えてくる。単なるありがとう再結成では終わらない創造性がうらやましい。

春の日(2013)

 タワーレコードとライヴ会場限定で発売された久々のシングル。1,000枚完全限定の7inchとCDの2タイプがあり、表題曲の「春の日」以外は収録内容が違うのはヴィジュアル商法にのっとって(以下略)。

 表題曲はbounceのインタビューにて青さんが「ひねりのないラヴソング」と仰ってます。詩にも出てくる”桜闇”をキーワードに、別れ・出会いの桜色の息吹を感じさせる名曲。

 涼やかでストレートな曲調ではあるものの、豊かな起伏があり、ここまでセンチメンタルに聴かせてくれるのは嬉しいものです。

 アナログ盤収録の「ウォーキング ランニング ジャンピング フライング」は、春めいた温かさと軽やかな疾走感が実にいい。CDの方には青さんが作詞・作曲した「ミッドナイト! ミッドナイト! ミッドナイト!」を収録。

 そして岡村靖幸氏の「Dog Days」のカバー曲。これまたcali≠gari節が効いた仕上がりなのでぜひ聴いてもらいたいです。

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1(2013)

 結成20周年記念プロジェクト第1弾となる完全新録音のセルフカヴァー。全6曲で約14分収録。本人たちが語るよう”悪意の詰め合わせ”。cali≠gariのヤケクソ・タイプ6曲を選抜。

 冒頭を飾る#1「ギロチン」が収録時間を半分に縮め、約1分の中でも暴れるサックスとうねるベース、激しいドラムが荒々しく掻き乱す。続く#2「失禁」では原曲よりもやや整然とした音作りではあるものの狂気にブレはなし。

 中二病丸出しの#3「-187-」や#5「37564。」という子どもの道徳によろしくない曲を盛り込み、ちょいセクシーな気品とズレた感覚を持って突き進む#4「クソバカゴミゲロ」がある。

 ここまでの曲は1~2分台。汚い言葉と異様なテンションで本当にあっという間に過ぎ去ります。目玉はラストを飾る#6「サイレン」。原曲よりもテンポを落とし、ドゥームメタルにも接近するヘヴィさを獲得。

 なおかつ不穏なサイレンが強烈に鼓膜を劈く。また、石井さんと青さんの阿鼻叫喚というべき叫びがあまりにも痛々しい。

 cali≠gari流の”狂いのススメ”をパッケージ化したイケナイ作品であります。

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2(2013)

 セルフ・カヴァー2作目。全5曲約19分収録。当時のcali≠gariにニューウェイヴやエレクトロニカといった新しい要素を持ち込んだ石井さんが作詞作曲の5曲を収録。

 帯には”鮮やかな色彩を拡散する、心ないエレクトロニカ——。”という言葉が添えられています。

 どこか皮肉めいた中に軽度のポップさがあった#1「その行方、徒に想う…」から電子音の鮮やかな煌きを押し出す事で、大胆な変化。予想を超えるほどエレクトロ色を強化して石井ワールド全開。

 #2 「ギャラクシー」みたいにギターロック色が強い楽曲にしても、勢いを殺さない形でエレクトロニカの洗礼を受け、「マス現象」の一部をドッキングするという荒技で再構築。

 一番びっくりしたのはラストの#5『虜ローラー』。ゴージャスな打ち込み音と共にアッパーな曲調に様変わり。華やかにアゲてくる曲調が新鮮で心も体も踊ります。

 正直『1』よりも、現在のcali≠gariというフィルターを通して生まれ変わった印象は強いです。幅広い層にリーチできる逸品。

12(2015)

 再始動後3枚目のフルアルバム。全12曲約46分収録。2014年9月を持ってドラムの武井誠さんが脱退。残り3人の”第8期cali≠gari”として制作された初作。

 序盤に”死”という単語が入っていることの妙な安心感(笑)。青さん自身が”踏み絵”と評する妖しくグルーヴィな#1「わるいやつら」で”死ねばいいのに”と吐き捨て、BPMが260を超える#2「脳核テロル」で過激×カゲキに攻めこんでくる。

 80’sを手引にしてJ-POPとニューウェイヴを魅惑的に昇華するエンターテイメントの痛快さは変わらず。ゲスト・ドラマー4名の個性を上手く落とし込んでアンサンブルを強化し、お馴染みの秦野猛行氏やyukarie氏も参加。

 懐かしさのある哀愁シンセポップ#4「セックスと嘘」のような曲は鉄板にせよ、13年の野音ライヴで言っていた”アダルト・ヴィジュアル系”を強化して情熱的なサックスがジャズ/ファンク要素を盛りつけ。

 真夜中のハイウェイを突っ切って行くような#6「ギムレットには早すぎる」、文化系集団なのに無理してヤンキー用語を使いまくったリード曲#8「紅麗死異愛羅武勇」辺りはyukarie氏が正規メンバー並の活躍。

 円熟なんて言葉で簡単に済ませられない大人達のクレイジー・ギリ・ポップス集。

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13(2017)

 再始動後4枚目のフルアルバム。全13曲約38分収録。狂信盤のデザインは魔夜峰央さんが担当。13という数字から表向きは”ダーク”をテーマにした作品です。

 特有のアングラ感が濃縮した#2「ゼロサムゲーム」、あてもない夜を駆けるような#3「トカゲのロミオ」と序盤から暗いテイストに染まります。

 引き続きゲスト参加のyukarie氏によるサックス、さらに林正樹氏のピアノが乱舞。ムードたっぷりの#4「汚れた夜」、小洒落たバーでダンスに明け暮れたくなる#8「三文情死エキストラ」などアダルトなジャズ街路へ誘い込みます。

 相変わらず雑多ながらもスタイリッシュにまとめあげるのが上手く、そこに一貫して流れる夜のムード。

 円熟した表現だからこそできる軽妙さと重みの使い分け。実験室時代の雰囲気も感じますが、その頃よりもデリカシーのある狂いと感じます。

 異色な曲も用意していて、コミカルなのにグロテスクな#5「トイレでGO!」は「マグロ」の変異形ともいえ、#10「ファニソン」はライヴのMCによると最高のエクササイズ・ソングとして君臨。

 なお、青さんは本作について”僕の中での『13』は〈破綻してない『8』〉なんですよね“とMikikiのインタビューで答えています。

14(2018)

 再始動後5枚目のフルアルバム。全10曲約39分収録。メジャーから離脱して密室ノイローゼからのリリース。結成25周年記念盤となる本作は、明確なテーマは設けずに制作されています。

 本人たちが語るように死生観がキーワードにありますが、前作を踏まえるとポジティヴな響きの曲が多い。

 華やかな曲調と跳ねるビートの#3「天国で待ってる」、軽やかなエレクトロ・ポップ#4「拝啓=BGM」、バンドの生き様を異様なぐらいポジティヴに表現した#9「いつか花は咲くだろう」とまるで明るい弔いをしているかのよう。

 前作のジャズのように特定の要素が強まっているわけでもなく、あくまで自然体の表現。そしてコンパクトでサラッとした創りであっても濃縮されて詰まっています。

 cali≠gariのへんてこりんが垂れ流される#1「カメラオブスキュラ」があり、着火剤となる速い曲#2「マシンガンララバイ」や#8「火葬遊戯」があり、意表を突くアンビエント#7「月白」がある。

 バラエティに富むラインナップでも滑らかな連動で巧妙にcali≠gariらしく仕上がる。25年という時間だけで説明できない創造性と3人の融合っぷりが見事。

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15(2021)

 15thアルバム。全13曲約51分収録。ROCK AND READ 98号のインタビューで青さんは、”日本がどよーんとしているから、エネルギッシュな作品を作ろうという漠然としたテーマがあった“と話しますが、前半は特に力強く疾走感があってキャッチー。

 スパニッシュ・ギターを軸に鮮やかに駆ける#1「一つのメルヘン」をスタート地点に、序盤からコール&レスポンスが必要なアッパーな曲調が続きます。

 しかも研次郎さんのベースがいつも以上にブースト。なかでも#3「嗚呼劇的」は一発で惚れるほどの名曲。

 これまで通りに幅広い音楽を経由してきたことで成せる音使いですが、凝っていてもわかりやすく聴こえる熟練の妙技を披露。懐かしきを大半の参照元にするも楽曲には活きの良い瑞々しさがみなぎっています。

 後半はアコースティックな色調が表出し、ストリングスアレンジが加わる#9「100年の終わりかけ」はシンプルに胸を打つ。かと思えば終盤に置かれた#12「四畳半漂流記」のガチャガチャとした喧騒と突っ走りはいかにもこのバンドらしい。

 『15』は活動休止の休止を宣言して以降の最高到達点だと感じますし、cali≠gari入門編に大推薦できる作品。そしてcali≠gariは紛れもなく”今のバンド”だということを証明しています。

アーティスト:cali≠gari
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16(2023)

 16thアルバム。全12曲約45分収録。”原点回帰”というキーワードがインタビューで飛び出していますが、そういったニュアンスを召喚しつつ、復活以降にcali≠gariのモードが貫かれます。

 前作はコロナ期間ゆえの反動から開放感とシリアスな雰囲気を持っていました。対して本作はかつての密室/実験室的アングラ感が漂う中でもキャッチーに。歌舞伎役者の坂東彦三郎氏の口上#1による幕開けは驚きますし、タイトルが御法度な#2「切腹」にしても歌舞伎とポストパンクと藤崎マーケットが合体した果たし合いを課してきます。

 先行シングル#4「狂う鐫る芥」は活休前を思い出すスラップベースに引率され、インダストリアルな味付けと奇っ怪な詞世界がリスナーの脳みそをかき混ぜる。そんな密室的な愉しみ方を提供する一方で、そこに留まるようなことは決してない。

 #5「赤色矮星」は途中でソナタアークティカになったりするし、アダルトヴィジュアル系を貫くしっとりジャジーな#8「夜空に乗じて」、ストレートな曲調の#10「燃えろよ燃えろ」などがこのバンドらしいレンジの広さと自由さもたらしています。

 毒もポップもノスタルジックもアングラも懐刀に突き進み、ラストを飾る#12「銀河鉄道の夜」で感傷的に締めくくる。相変わらず飄々と妙技を繰り出しながらリスナーをこねくりまわす。cali≠gariはこうでなくっちゃ!

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17(2024)

 17thアルバム。全11曲約44分収録。CD帯には”アップデートした昭和”という言葉が躍る。前作に引き続き全体としてのコンセプトはないそうですが、青さんが17から想像できるもの、石井さんが不必要にシーケンスを組まないといった各自がテーマを持って作曲したことをMikikiにて語っています。

 ピアノとサックスを巻き込んで混沌の饗宴と化す#1「サタデーナイトスペシャル」から#2「龍動輪舞曲」の開き直ったポップさが一気に明るいムードに持っていき、人によっては一生分ぐらいバカと言われ続ける37564~187系の悪意ハードコア「バカ!バカ!バカ!バカ!」の炸裂。頭3曲だけでもうcali≠gariでしか得られない栄養とスパイスが効いてます。

 全体通しても相変わらずのバラエティパックですが、どうしようもなくcali≠gariの音楽が浮かび上がります。滑りの良い語呂感と歌メロの心地よさに口ずさみたくなる#5「化ヶ楽ッ多」、80年代歌謡をコミカルにやりきる#7「ナイナイ!セブンティーン!」、”夢は夜開く”という印象的なワードをキーに大人びた演奏と歌で聴かせる#9「東京アーバン夜光虫」など。

 閉じた世界も開かれた世界も古きも新しきも自由に横断。それにグラマラスな煌めきや洗練されたスタイリッシュがあるのにこってりしているという不思議さもある。

 終盤を飾る#10「月に吼えるまでもなく」や#11「沈む夕陽は誰かを照らす」には亡くなった偉大な存在へのリスペクトが込められる。1年という短いスパンにも関わらず快作は続く。温故知新をこれほど体現するバンドもそうはいないし、なんなら彼等が導き出す”新”の部分に驚嘆します。

アーティスト:cali≠gari
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どれを聴く?

興味を持ったけど、枚数多いからcali≠gariのどれから聴けばいいの?

2003年活動休止時に発売されたベストアルバム『グッド・バイ』、2021年リリースの『15』が入りやすいですね。

前者はライトな選曲ですが、聴きやすい主要曲が揃っています。

後者はキャッチーでありつつcali≠gariの個性が堪能できる再結成後の最高傑作と言える1枚です。

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