
2020年に結成されたインストゥルメンタル4人組。ロンドンを拠点に活動。海洋保護活動に従事するEdward Thompsonを中心に結成され、始動時から2022年リリースの1stアルバムまでは2人組。それから徐々に増員して現在は4人体制です。CaspianやExplosions in the Skyといったバンドに影響を受けた轟音系ポストロックを主体に、アルツハイマーや生物の多様性といったテーマを作品に落とし込む。
バンドはこれまでにMaybeshewill、Overhead, the Albatross、Hundred Year Old Man、Codespeakerなどと共演。また中国で開催されたインスト・ポストロック系が中心のOffside Festival 2025に出演を果たしている(日本からはTokyo Shoegazer、paranoid voidが出演)。
本記事は2026年6月にリリースされた3rdアルバム『You Be Good, I Love You』について書いています。
作品紹介
You Be Good, I Love You(2026)

3rdアルバム。全8曲約53分収録。前作に引き続いてのRipcord Recordsを始め、Dunk! RecordsやA Thousand Arms、AnGoal Musicとの共同リリース。先にこれまでの作品をふりかえりますと、2022年の1stアルバム『A Gap In The Clouds』はアルツハイマーが進行する女性、2024年の2ndアルバム『I May Be Some Time』は悲劇的な結末を迎えた南極探検隊の物語を題材にしていました。
まず本作のタイトルについて。ヨウム(大型インコの仲間)は人と言葉で意志の疎通ができるのか?をある研究者が長い年月をかけて追求していたのですが、そのヨウムが最後に残した言葉とされている「You be good, I love you(いい子でね、愛しているよ)」から採られている。なお研究の過程はハヤカワ文庫NFからノンフィクション作品『アレックスと私』として発売されています。アルバムのテーマは”地球上の生命の多様性と美しさを称えるものです。他の動物たちの内面世界に焦点を当て、共感と思索を促す内容となっている“とFacebookの投稿で説明。
MIllion MoonsはCaspianやExplosions In The Skyといったバンドから影響を受けた轟音系ポストロックが主体です。8分30秒に及ぶ長編のオープナー#1「Titan of the Deep」からその特徴は表れる。シンセサイザーによる緊張感高まる導入部からポストメタル風味の重いサウンドが前半を引っ張り、中盤では切ないフレーズを重ねてトレモロ奏法を主体とした大音量のピークへと達していく。
続く#2「Last Days Together」はピアノの優しい音色を前半の軸に置き、後半から終盤にかけては感傷と歓びが入り混じる轟きを全身で受け止めることになる。そして#5「Secret Histories」では4thアルバム辺りのCaspianを思わせる力強さと繊細さが宿り、#6「Memories of a Past Life」にて本作で新たに導入されたサックスがインパクトをもたらしています。
本作を紐解くうえでIDIOTEQのインタビューにおける全曲解説は必見でしょう。”他の動物たちの内面にも目を向けてほしいと思っています。彼らの内面は、私たち自身の内面と同じくらい豊かで意味深いものなのです“とテーマの真意について語っている。取り上げられているのはイカ、鳥、クジラ、芋虫、クラゲといった生物。また#2ではソングライターであるEdward Thompsonが、保護施設から引き取ったラブラドールと過ごした日々をインスピレーションに楽曲へ落とし込んでいるとのこと。
特に印象的な楽曲は#3「Black Sun Rising」。これぞド直球の轟音系ポストロックという楽曲ですが、バンド自身が最もドラマティックと自負するほど調和と爆発を美しく感じる曲に仕上がっています。作品の終盤を彩る#7「Echoes in the Abyss」にしてもMaybeshewilllを彷彿とさせるエレガントなタッチを施していて印象深い。
本作は教会オルガンやサックスといった新たな選択肢を加えていますが、それ以上に静と動による壮大な魔法が効力を持つようになっている。音楽で表現される生物たちの声や自然とのつながり。それらを通して共生共存とは何かを考えるきっかけをMillion Moonsは与えている。
