【作品紹介】Carved Into the Sun、太陽に刻む静けさと轟き

 2019年に始動したカリフォルニア在住のEric Reifingerによるソロプロジェクト。Russian Circles、GY!BE、Sigur Rós、Caspian、ISISといったバンドに影響を受けたインストゥルメンタルを展開し、ポストロックとポストメタルの境をうろつく長尺楽曲が持ち味。

 プロジェクト名のCarved Into The Sunの由来は、カーディスプレイに表示されたParadise Lostの楽曲「Carved into the Skin」をCarved Into The “Sun”と見間違えたことであるらしい(参照:The Smashing Skull Sessionsの動画インタビュー1分40秒辺り)

 これまでにフルアルバム3作品を残しており、最新作は2025年10月にリリースされた3rdアルバム『Silent Tower』。なお現状は音源制作プロジェクトであり、ライヴをしたことはない模様。

 本記事はこれまでに発表されたフルアルバム全3作品について書いています。

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作品紹介

Carved Into the Sun(2020)

 1stアルバム。全4曲約36分収録。SAOSINのギタリスト兼サウンドエンジニアであるBeau Burchellがミキシング担当しています。本作はEric Reifingerのワンオペでプレス・リリースを参照すると、ドラムは全て打ち込みであるとのこと。またこちらの記事によると4曲のタイトルは、いずれもコーマック・マッカーシーの小説『ブラッド・メリディアン』から引用されたものです。

 声なき声を雄弁に。クリーンなギターを中心に長い時間をかけて丁寧に織り上げていき、トレモロやディストーションで恍惚を滲ませていく。いわゆる轟音系ポストロックのスタイルを基本軸に置いているものの、いささか重めなのが特徴。Eric ReifingerはISISやRussian Circles、Caspianといったバンドに影響を受けているらしく、ポストロックとポストメタルの境をうろつくバランス感覚を有しています。

 #2「A Taste For Mindless Violence」で聴けるリフには、Mike Sullivan(Russian Circles)が時たま降臨したりしますしね。ちなみに本作では声を一切入っておらず、ピアノやストリングスといった楽器も使われていない。あくまでギター主導。全編にわたり、もの悲しさが漂う作風を貫いています。

 #3「Across A Paper Skyline」のむせび泣くようなトレモロ・ギターは印象的ですし、締めくくりとなる14分近い#4「He Says That He Will Never Die」は、声を失ったA Swarm of the SunとMONOが合体したような趣です。

メインアーティスト:Carved Into The Sun
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The Earth Fell Away(2022)

 2ndアルバム。全7曲約60分収録。基本的にはソロプロジェクトという姿勢は変わりませんが、本作からロシア人ベーシストのArtem Molodtsovが全曲で参加(前出の動画インタビューによると直接会ったことはないそう)。引き続きBeau Burchellがミキシング。そして新たにMagnus Lindberg(Cult of Luna)によるマスタリング。

 本作は、2020年に急逝した4歳年下である弟・Brandon Reifingerの喪失が中心的なテーマとなっています。全曲の詳しい解説はIDIOTEQにてEric自身が行っていますが、 冒頭を飾る#1「Hexis」こそ弟が亡くなる前に作っていた曲。そして#2「5-25-20」が死去した日付を指し、以降の楽曲で深い悲しみのプロセスを辿っていきます。

 近親者を亡くす。それだけでも磁場の強い物語になりうるとはいえ、不安定な精神状態を音楽に反映し、楽曲として見事に昇華しています。脆く繊細な感情をギターフレーズに乗せ、やり場のない怒りや絶望感をノイズに込める。再びコーマック・マッカーシーの小説『ブラッド・メリディアン』から曲名を引用した#3「The Earth Fell Away On Every Side」の壮大なクレッシェンドには胸が圧し潰されそうになります。

 この曲を含め時折出てくるデスメタル風味のリフは、弟のブランドンがメロデス・バンドのギタリストとして活動していたことへの敬意を示していると感じます。また、もう一人の弟であるGabriel Reifingerが#2「5-25-20」にてピアノで参加しており、哀悼をしめやかに捧げている。

 加えて本作から新たにスピーチ・サンプルを導入。#4「Inverness」と#5「Even As A Dream」をまたがる形でBernard Albertsonの有名なYouTube動画『An Old Man’s Advice』が組み込まれ、全体を貫く儚いトーンの中で今を生きる者たちへの強いメッセージを送っています。また11分を数える#8「Shoreless」は様々な感情の重なりを音で表現したとのことですが、こちらではC.S.ルイスの『悲しみをみつめて』の一部を引用。そして2分に満たない#9「Chasing the Rain」が干上がった心に潤いの光をギターで少しだけもたらして作品は締めくくられる。

 ”このアルバムに全てを注ぎ込みました“とEricは語ります。死の直面、そして受容。悲しみはラケットで打ち返せないし、哀しみが何度となく蘇るなかでも音楽/作品に落とし込んでいくことで救われる部分が確かにある。喪失は通り過ぎる出来事ではなく、生涯にわたって向き合い続けていくもの。それを改めて思い直させる60分をかけた時と音の巡り。

メインアーティスト:Carved Into The Sun
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上記のプレイリストは、『The Earth Fell Away』に影響を与えた作品を集めたプレイリストなのでご参照あれ。

Silent Tower(2025)

 3rdアルバム。全5曲約41分収録。Beau BurchellとMagnus Lindbergのコンビがミックス&マスタリングで再登板。ベーシストのArtemも前作に続いて全面協力し、実弟のGabriel Reifingerがピアノでスポット参加しています。また本作にはチェリストのC.E.Brownが新たな助っ人として貢献。

 喪失の悲嘆を経た本作。執筆時点(2025/10/18)で参照できる本人コメントは見つけられないのですが、暗くメランコリックに満ちた作風は継続しています。ゆっくりと丁寧なビルドアップを基に、夜の帳を思わせる静けさと嵐の轟きが混在する。

 冒頭を飾る#1「Catastrophist」から繊細なギターと厳かな彩りを与えるチェロによる重奏が心の機微をつづっていく。続く#2「At The Mountains Mercy」は10分を超す長編。Gabriel Reifingerのピアノがしみじみとしたタッチを加え、暗く儚いトーンを持続しながらも強烈な音の壁を建造する終盤が待ち構えます。

 なお前作で用いられたスピーチ・サンプルの類は採用せず、純然たるインストゥルメンタルに戻しているのも特徴です。それでも近親者の死に直面した『The Earth Fell Away』よりも、なぜか本作の方が重苦しく内省的な雰囲気が強まっている。旋律の儚さによるものか。それとも張り詰めっぱなしの緊張感のせいか。純文学を音楽で表現している、そんな印象すら浮かびます。

 表題曲#4「Silent Tower」ではまるで日常がモノクロームに沈んだかのような前半から、タイトルに似つかわしくない音の迫力が宿る中盤を経て、4分前後に奏でられるチェロの閑雅なフレーズを合図に瞑想的な静けさに浸る。

 そして12分近い#5「What Deepest Remains」による締めくくりへ。同曲はWe Lost The Seaにも通ずる切なさや険しさを感じさせるもので、ギター・ベース・チェロが衝突と調和を繰り返しながらポストメタルに比肩する重みとなって迎える壮絶なエンディングに圧倒される。本作にはそんな厳しさを含んだ美しさがためらいもなく表現されています。

メインアーティスト:Carved Into The Sun
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