2005年に結成されたUKのポストハードコア/クラストパンク・バンド5人組、Fall Of Efrafa。
リチャード・アダムスが1972年に発表した小説『Watership Down(邦訳:ウォーターシップ・ダウンのウサギたちで刊行)』にインスパイアされ、独自解釈を加えた三部作を発表することを目的にバンドは結成されました。
小説自体は、野ウサギを主人公とした児童文学として親しまれています。バンドのコンセプトの文脈では、Owslaは物語が展開する大衆を表しており、Efrafaは人類を表している模様(Fall Of EfrafaのwikipediaのGoogle翻訳によるところ)。
音楽的には、His Hero Is GoneやTragedyといったクラスト勢から、envy、Godspeed You! Black Emeperor、ISISといったバンドまでさまざまな影響のもとで構成されています。
便宜的にネオクラスト~ポストメタルという括りにはなりますが、悲哀と激情を帯びた疾走から、ドゥームメタルのような重厚感までを行き来しながら、壮大な楽曲を作り上げています。
バンドは三部『Owsla』『Elil』『Inlé』作を発表し、目的を達成したことで潔く解散。中心人物であるAlex CfはLight Bearerを結成しています。本記事ではフルアルバム3作品について書いています。。
アルバム紹介
Owsla(2006)
2006年に発表の1stアルバム。リチャード・アダムスの小説『WATERSHIP DOWN』を彼等なりに解釈を加えた三部作の第一作となります。Owsla(アウスラ)は群れ(村)における幹部階級を指す。
初期は、AmebixやHis Hero Is Gone、Tragedyなどのクラスト勢に大きな影響を受けた作風。けたたましいメタリックなクラスト・サウンドに、メロウさを絶妙に混じり合わせ、悲哀と激情を帯びて走ります。
ハードコアの荒らさ・激しさが際立ち、さらにアレックスの咆哮も勇ましく重く響くかのようで、感情を強く奮い立たせていく。そこからテンポチェンジを交えた緩急のつけ方も絶妙で、envyやgantz、Funeral Diner等の影響下にあるような深遠な静パートも登場。
前半の楽曲では、まさにTragedy直系のクラストという強烈さがあり、#2「Pity The Weak」でその破壊力に悶絶。#3「A Soul To Bare」ではイントロの叙情的なギターから撲殺にかかるリフと咆哮の連打に殺られます。
後半の楽曲では、2nd『Elil』や3rd『Inle』という後の作品につながっていくアーティスティックな芸術性が表出。
特にバンド名を冠したラストトラック#6「The Fall Of Efrafa」は、Tragedyがポストメタル化したかのような15分超であり、ストリングスを交えながらあまりにもドラマティックに展開。解散した今でも熱い支持を受け続ける彼らの源流が本作に示されています。
Elil(2007)
1年の時を経てリリースされた三部作のニ作目。ウサギ族にとっての人間、肉食獣などの敵を意味するElil(エリル)がタイトルに用いられています。
1stアルバムと比べると大きな変化を遂げており、スラッジ~ポストメタル的な趣が顕著となっています。収録曲は3曲ですが、いずれも20分を超える大曲が並ぶ。
前作の後半の楽曲で顕著だったように、静から動を行き交いながらドラマティックに昇華されていくスタイルへ移行。スケールの大きな音塊を丹念に打ち立てていく。ハードコア~クラスト要素が強く出た激しい疾走パートは登場回数を減らしています。
代わりにアコースティック・ギターや深遠なアルペジオを基調とした静パートの割合が増加。とはいえ、地響きのような重いリフとリズムは健在。ヴォーカルもクリーン・ヴォイスを取り入れることなく、全身を震わせるような強烈な咆哮を叩きつけています。
激情、憤怒、怒号、哀愁、壮麗をまといながら哲学的/芸術的に飛躍を続ける楽曲はただただ凄まじい。NeurosisやISIS(the Band)をも脅かす壮絶な音楽が生まれています。
哀しげなアコギの旋律から始まり、切ない響きを持ったメロディ、重厚なスラッジ・サウンド、激しいメタリック・クラストと幅広い音を発しながら豊かなストーリーを綴ったラスト#3「For El Ahraihrah To Cry」が特にインパクトの強い曲。
この3部作は、最終作の『Inle』で完成系を見ますが、本作『Elil』も負けず劣らずの傑作と言えるでしょう。
Inle(2009)
UKのネオクラスト/激情ハードコア・バンドの3rdアルバムにして最終作。
徹底して表現を突き詰め、1stアルバムから続くコンセプトを反映することで、スピリチュアルな感覚をさらに引き出し、確実に震撼する作品を創り上げています。本作はウサギ族にとっての死の象徴であるインレの黒ウサギをフィーチャー。
音楽的には前作からの延長といえるもの。ハードコア~ネオクラストから、Neurosisの壮絶な絶対領域に進出し、さらにはISISやenvyやGodspeed You! Black Emperor等の音楽性と精神性を加味しながら、聴き手の核心を打つ。
地底を揺るがす重厚なサウンドと鬼神の如き咆哮、そこにポストロック的なたおやかな旋律が織り込まれていく音像は脅威的で、7曲79分という長編もさることながら、どの曲にも激情と叙情で綴られるドラマが凄まじい緊張感の中で息づいています。
10分を超える5つの楽曲は、強大な音の迫力と深遠なる物語性にただただひれ伏すのみ。未知の聴感とインパクトを叩きつけていきます。切迫とした音が積み重なり、極端な美と醜を配しながら物語を組み立てていくのはAmenraやLvmen、または近年のcorrupted辺りとも共振。
暗黒渦巻くシリアスな悲壮感、それに重い美しさは群を抜いており、アンダーグラウンド界で孵化した音の激流に飲み込まれます。最期を飾る問答無用の傑作。本作を持って彼等はいさぎよく解散をえらびました。