【作品紹介】Glare、ぼんやりと陶酔的なシューゲイズ

 アメリカのテキサス州リオ・グランデ・バレー出身のシューゲイザー4人組(かつては5人組)。元々は2013年から活動していたエモパンク・バンドのDispiritが休止に伴い、そのメンバーが後継として2017年に始めたバンドです。slowdiveやCocteau Twins、WhirrやNothingに影響を受けてパンク/ハードコアにシューゲイズを組み合わせたサウンドを志向する(First Revivalのインタビュー記事より)

 活動初期から細かなシングル/EPのリリースとライブ活動によって、少しずつ人気を獲得していき、2025年4月執筆時点でのSpotifyの月間リスナー数は100万人を超す。しかしながら2025年1月、Christian “Rez” Resendezに対する性的虐待疑惑がSNSで持ち上がり、彼と別れて4人組として活動していく声明を発表。続けざまに1stアルバム『Sunset Funeral』のリリースを告知した。

 本記事は1st EP『Heavenly』、初期音源州集となる『Into You / Void In Blue』、そして2025年4月にリリースされた1stフルアルバム『Sunset Funeral』の3作品について書いています。

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作品紹介

Heavenly(2021)

 1st EP。全5曲約14分収録。リリースはテキサスを拠点とするインディペンデント・レーベル、Sunday Drive Recordsから。USシューゲイザー新世代として名が挙がることの多いGlareは、”甘美で幻想的”という枕詞がつくシューゲイザーを本作で体現しています。御三家でいうとslowdive寄りではありますが、オルタナ/グランジといった影響も垣間見える。

 リバーブやディレイを使用した重層的なテクスチャーの中に涼やかな透明感と甘美さを反映。デビュー当初にあったヘヴィさは洗練されており(Into You / Void In Blueにて後述)、このジャンルらしいレシピを忠実に守っています。

 オープナー#1「Bloom」からまどろみを誘うぼやけた音像に揺れ、続く#2「Floating」ではマイブラを思わせる瞬間もあり。タイトル通りのソフトな聴き心地を追求した#3「Soft」からラスト#5「Ghastly」のどっしり感まで。全5曲約14分と1曲平均3分に満たないのですが、シューゲイザー特有の浮遊感や幻想性、気だるさが追及されています。

メインアーティスト:Glare
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Into You / Void In Blue(2023)

 初期音源の編集盤。全4曲収録。先述のEP『Heavenly』よりも先にリリースされている作品で『Into Me』が2017年、『Void In Blue』が2018年に発表した共に2曲入りのシングルです。この2作品を合わせて2023年リマスターを施してSunday Drive Recordsからリリース。

 結成初期のデモ音源的な側面はあるにせよ、シューゲイザーを基点にグランジやインディーロック、エモに針が振れていくスタイルを提示しています。『Heavenly』と比較するとダークな色合いが目立ち、WhirrNothingに通ずるヘヴィな音圧がところどころで耳を覆ってくる。それでいて骨太の中に澄んだ美しさを両立。

 おぼろげに揺れる抽象的な歌、トリプルギターから奏でられるメロディが陶酔に導いてきます。#1「Into Me」で轟音のうねりに巻き込まれ、#2「Blank」は重厚シューゲイズの海峡をクリーントーンを頼りに渡り歩き、ラストを飾る#4「Void In Blue」ではJesuが切り拓いたヘヴィなポップ・ミュージックへと接近。

 Bandcampにて”バンドのキャリアにおける重要なマイルストーン“と紹介されていますが、初期からポテンシャルを十分に示しています。

メインアーティスト:GLARE
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Sunset Funeral(2025)

 1stアルバム。全11曲約38分収録。2025年1月、Christian “Rez” Resendezに対する性的虐待疑惑がSNSで持ち上がり、彼と別れて4人組として活動していく声明を発表(本作は5人で制作したもの)。続けて活動から8年目にしてこの1stアルバム『Sunset Funeral』のリリースを告知しました。Sunday Drive RecordsとDeathwishの共同リリースとなり、国内盤はDaymare Recordingsから発売されています。

 ギタリストのToni Ordazは本作について”自分の気持ちをどう表現していいかわからない人のための音楽“と語り、感情が言語を凌駕する夢のような悲しみの霧であると示している(参照:Bandcamp)。こうした背景をもとにしていますが、夢見心地を誘うサウンドスケープはほんのりと温かい。トリプルギターとぼやけた歌声によってしなやかに表層変化し、時には淡くうねり、時には分厚くうねります。

 水面のきらめきを思わせるギターが印象的な#1「Mourning Haze」で滑り出し、90年代オルタナとシューゲイズの折衷#3「Saudade」、slowdive辺りの影響が垣間見える#4「2 Soon 2 Tell」、”刺激的で新しい愛は不安を抱かせる”というテーマを甘美なグルーヴで表現した#9「Guts」などで彩られる。

 同じくパンク/ハードコアをルーツに持ち、親交も深いLeaving TimeTrauma Rayと比べてもシューゲイズ信仰は強め。スラッジメタルの軋みを利用した#7「Nü Burn」の重い刺激も有してはいますが、作品は全体的に柔らかなタッチで保湿されている。楽観と悲観を揺れ動く霧のような音像ではありますが、音量/音圧の支配よりも抱擁力が先行するのがバンドの持ち味。

 締めくくりの#11「Different Hue」は澄んだメロディと語りかける歌がしんみり響く。そのなかに”私たちは色合いを変えながらも前進し続ける”というメッセージを込めている。誰しもが経験する人生の浮き沈み。それを寛大に受け止める音と言葉に包まれる作品です。

 ちなみに国内盤の仕様はボーナストラックとして「Void in Blue」を収録。ライナーノーツや歌詞対訳は今回ついてませんのでご留意ください。

プレイリスト

お読みいただきありがとうございました!
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