
アメリカ・ミシガン州フリント出身のインディーロック/オルタナティヴ・バンド。小学校からの友人であるLogan Gaval(Vo&Gt)とHarpar Boyhtari(Vo&Gt)の2人のソングライターを中心に2011年に結成。シューゲイザー、スラッジメタル、スロウコア辺りが混成した音楽性が特徴です。
2017年に1stアルバム『Dixieland』を発表。同作が音楽サイト・The Alternativeの”2017年ベストアルバム50“に選出されて話題となる。その後にDeathwishと契約し、2019年に2ndアルバム『New Hell』をリリース。同作で知名度をより高め、これまでにDeafheaven、Cloakroom、Infant Islandらとツアーを共にしている。
5人体制では初となる3rdアルバム『Die In Love』を2025年6月にリリース。またHarpar Boyhtariが同作のレコーディング前の2023年10月にトランスジェンダーであることを公表しました(以前は、Sam Boyhtari。本記事でもリリース時点での名義にしています)。
本記事は最新作『Die In Love』を含むフルアルバム3作品、EP1作品の計4作品について書いています。
作品紹介
Dixieland(2017)

1stアルバム。全9曲約40分収録。作品名のDixielandはThe Collaborativeのインタビューによると、地元ミシガンにあるフリーマーケットの名前から拝借。メンバーの1人がアートワークにある看板の前を通勤時に通っていたこと、フリーマーケットという断片性が気に入った点がタイトルにした理由だそうです。
Greet Deathはインディーロック、シューゲイザー、スラッジメタル、スロウコア辺りが混成した音楽性が特徴。ゆったりとしたテンポの中で重苦しいディストーションと軽やかなコードを行き交う。その上でLogan Gaval(Vo&Gt)とSam Boyhtari(リリース時はVo&Ba)のツインヴォーカルを埋もれさせることなく聴かせます。2人の声にしてもGavalが端正、Boyhtariが鼻にかかったような感じが各々の味わいとなっている。
#1「Sheets of White」~#2「Bow」への流れはバンドの特徴を要約しており、宙をひらりと舞う旋律が誘う美、体を地面に押し付けるスラッジの重厚さが相互作用として働く。3分台にまとめられた#3「Valediction」はBoyhtariのヴォーカルを前面に出しており、重みよりも脱力感が勝るのはクセの強い声質ゆえでしょうか。
バンドの面々は青春時代にGreen DayやBlink-182といったポップパンク勢をよく聴いていたそうですが(Blink-182が一番思い入れのあるバンドらしい)、やがてSmashing PumpkinsやHumらに影響を受け、現在のスタイルに反映(前述インタビューとGood Album Fridayインタビューより)。ヘヴィ・シューゲイズという言われ方もしていますが、90年代オルタナの気質が強いというのはたしかに感じるところです。
また”死を迎える”というバンド名に則ってか、自殺願望や死生観が常に横たわっているような歌詞が目を引く。SuicideやHellといったおっかないワードを多用。それでもキャッチーさを保つ歌やメロディの魅力があります。特に#8「Cumbersome」はまるで純文学のような詞をつづった歌もの轟音系ポストロックで、本作中で最もインパクトを放っている。
New Hell(2019)

2ndアルバム。全9曲約48分収録。Convergeのジェイコブ・バノンが主宰するレーベル、Deathwishに移籍してのリリース。また前作と本作がトリオ編成での制作です。
タイトルはGavalがデイリークイーン(アメリカのアイスクリーム屋)で働いていた時に、小売業の単調な仕事に対して同僚が「毎日が新しい地獄だ」と冗談を言ったことに由来(参照:Swim into the Sound記事とAudiotree Live Session)。そして、”悪いことはすべて悪化し続ける”を全体のテーマとしており、作品には憂いや虚無感が滲む。
流麗なアルペジオからヘヴィに振る舞う#1「Circles of Hell」はGavalのモリッシー的な歌唱が耳を引き、Nothingを思わせる疾走感のあるヘヴィ・シューゲイズ#2「Do You Feel Nothing?」が序盤を飾ります。そんな本作は#3「Let it Die」に象徴されるようにアコースティックが幅を利かせるようになり、#7「Starin」ではしんみりとした曲調とドゥームゲイズ的な揺さぶりが同居します。
こうしてバリエーションを広げる中でBoyhtariの癖の強い声がわりと矯正されていて、#5「Entertainment」はそれがよく感じられるかと。あくまで歌ものとしての良さを消さないソフト/ラウドの使い分け、ツインヴォーカルの活かし方は本作でより練られている。繊細な音色、最高潮の轟き、2人の歌声が見事に融合していく#4「You’re Gonna Hate What You’ve Done」と#9「New Hell」の大曲2つは本作を象徴しています。
しかしながら、ポップや共感で機嫌を取ろうとしないのがこのバンド。後ろめたい生と死の衝動の揺れ動きを体現した歌詞は、”毎日私は空想する 私の体が死ぬ様々な方法を(#8「Crush」)”に代表されるように相変わらず。悲観主義に水を与え続けるGreet Deathは、新しい地獄の中で静かに悲鳴を上げている。

New Low(2022)

2nd EP。全5曲約21分収録。ベーシストとしてJackie Kalminkが加入し、Sam Boyhtariがギターへとスライドしての4人体制へ移行。ただし、Jackie Kalminkは1曲のみの参加となっています。
本作についてACRNのインタビューを参照すると、”僕らは常にラウドなロック・ソングを作るつもり。けれども、New Lowで聴くことができるのはもっとソフトなもの、ピアノやアコースティックなもの、より意図的で冒険的な作曲を取り入れようと模索していることの表れなんだ“と答えている。
また次作の3rdアルバム制作から少し遠回りして、『New Hell』に終止符を打ちつつ、新たな感情や領域を探求したEPであることも併せて語っています。フォーク調からシューゲイザー化していく表題曲#1「New Low」、マイブラをキャッチー&アップテンポにした曲調とSam Boyhtariのパニック発作の実体験を詞にしたためた#2「Panic Song」は、バンドのこれまでの領域内。
以降の3曲はアコースティック色を強める中に前述したピアノやハーモニカの音色を散りばめてています。それでも柔らかな響きを帯びてはいるものの、哀歌のように聴こえる儚さが楽曲からにじみ出ている。
特に#3「Punishment Existence」はひたすら湿っぽく繊細。歌詞も冒頭から”仕事を終え、ベッドにもぐりこむ。天井を見つめながら、死について考える。すべてが終わりに近づいているように感じることがある。この実存的な恐怖から逃れられたらと思う“と生の重みに耐え続けている。
#4「Your Love Is Alchohol」と#5「I Hate Everything」は、あなたの愛はアルコールや何もかも嫌いといったタイトルを逆手に取る簡素なフォークソング。沁みる曲調のわりにヒャッハーできないヘヴィな歌詞であることが、やはりGreet Deathの個性だと改めて感じるところです。

Die In Love(2025)

3rdアルバム。全9曲約44分収録。6年ぶりとなる本作も引き続きDeathwishからのリリース。ギタリストが1名加入して5人体制。また記事冒頭に述べた通り、本作のレコーディング直前にBoyhtariがトランスジェンダーを公表しました。
NEW NOISEのインタビューにて”『Die In Love』は自分たちの外に目を向けた最初のアルバムだと思う。特に、自分たちの周りの人たち、愛する人たち、パートナーとの愛と死がテーマになっている。私たちはそれぞれ家族の死や友人の死を経験しているので、このアルバムでは悲しみや嘆きに対する内面的な考察とは対照的に、人々に対する共感がより強くなっている” とBoyhtariは説明しています。
音楽的には『New Hell』と『New Low』の折衷といったイメージ。ギター3人体制にはなりましたが、それが騒々しさにつながっているわけではなく、アプローチはより繊細です。作品全体は風通しが良く、『New Low』に続いてアコースティックが目立っている。以前よりもスラッジめいた重みは遠ざけてはいるものの、爆発する部分は残しています。それこそMy Bloody Valentine寄りのサウンドに行き過ぎないよう、内省的な歌ものが牽制する#1「Die in Love」がオープナーにして一番ヘヴィかもしれません。
Boyhtariがメインで歌う#3「Country Girl」と#5「Emptiness is Everywhere」は、シューゲイズが強調される場面があれど、涼やかなギターや柔らかな残響によって差し込む明るさがある。#5については先述のNEW NOISEにて”家族や友人、そして人を失うことの避けられない現実について歌っている“そうですが、”空虚はどこにでもある、だから抱き締め合うんだ”という歌詞からも前向きな姿勢が見られたりもします。希死念慮のカーテンをいつもより開ける回数が多くなっているというか。
しかしながら、曲名のわりに穏やかなサウンドが先行する#8「Motherfucker」はGavalが”鬱のアンセム”と表現する通り、”何をするにも微妙な闇を感じる 生きているのが死ぬほどつらい”と吐露する場面はやっぱり出てきます。Greet Deathは鬱と死からは逃れられませんが、その中に煌めきを見出せるようにバンドは進化を模索している。
初期DIIVのような瑞々しい音色と疾走感に彩られるも終盤でGavalの予期せぬ叫び声が強烈なクライマックスを生む#2「Same But Different Now」、カントリーを主体とした曲調にしなやかな広がりを与えていく#9「Love Me When You Leave」。変化はこういった曲にもみられます。
重心は悲観から楽観へ。”私たちの音楽が人々の光となり、気分を良くしてくれることを望んでいる“とSTEREOGUMのインタビューでGavalは語りますが、彼・彼女らの自己を通した切実な物語はあなたに親密に響く。愛ゆえに。
ちなみにUPROXXのインタビューによるとGavalはアマゾンの配達員、Boyhtariは以前は楽器販売店で受け付け対応をしていて今は料理店のキッチンスタッフがフルタイムの仕事。STEREOGUMのインタビューも併せて専業音楽家を目指さない理由や音楽との向き合い方、バンドの姿勢を語っているので、読んでみることを推奨。
