ボストン・マサチューセッツのポストロック/ポストメタル系インスト・バンド。2005年に自主リリースで1stアルバム『Samus Octology』、2009年にTranslation Loss Recordsより2ndアルバム『Sol Eye See I』を発表。
ポストロック/メタルからプログレやR&B、エレクトロを自在に横断しながら、稀有なインストを鳴らしている。しかし、2016年以降は活動していない状況。
本記事は全フルアルバム2枚について書いています。
アルバム紹介
Samus Octology(2005)
1stアルバム。全8曲約45分収録。流麗なメロディと爆撃のようなディストーションサウンドの交錯。基本的にはポストロック/ポストメタル系インストにくくられると思いますが、かなりマスロックやプログレメタルといった領域にも踏み込んでいます。
Lentoを思わせる重音リフを振りかざし、EITSの叙情性が潤いを与えており、構成は静→動の単純構造ではなく変化とうねりの海峡を進む。
#1「Pah No」からして澄んだ美しさと重量感が合致し、両要素が手を取り合って切り込んでくる。そして、#2「Samus」においてクリーン・トーンの誘いからマスロックとスラッジメタルの親交で強烈な衝撃を与えてきます。
テクニカルな音楽という印象は与えられますが、美と暴のシームレスな行き来があって、変化に富んだ展開を持つことでスリリングな味わいがあります。
#4「Snayk’s Tale」は美しい波紋を広げながらも前述したようにLentoばりのリフで黒い荒らしが吹き荒れています。終盤の畳みかけ方は新人とは思えない度胸。この破壊力を持つからこそ、メランコリックな側面が一層際立っています。
9分に及ぶラスト曲は#8「Nonografistole Adendum」には元Kayo DotのForbes Grahamがサックスで加勢し、パーカッシブなリズムを用いるなどジャズ/プログレの要素を強めて、本作中で最も混沌とした音絵巻を描き切る。
1stアルバムにして、ポストロック/ポストメタル系に新たな方向性を打ち出しています。
Sol Eye See I(2009)
2ndアルバム。全9曲約60分収録。前作から洗練され、アイデアと展開も多彩になりました。
美しく温かいトレモロギターや幻想的なノイズによって白昼夢が訪れれば、頭蓋を打ち抜くような爆音リフが黒い嵐の如く吹き荒れる。基本的にはそのように、叙情性の強いポストロック/ポストメタル系インストに変わりなし。
穏やかな叙情と破壊力のある爆音を複雑に行き交うのに加え、ハンドクラップを効果音として取り入れたり、ホーンが鳴り響いたり、ブレイクビーツを取り入れたり、アンビエントを複雑に組み合わせりと器用さと知性がある。
前作はれっきとした全編インストでしたけど、98%近くがインスト仕様の本作は、酔っ払った叫び声や#5のように妖しさを帯びた女性ヴォーカルが入っているのが特徴。
PelicanやRussian Circlesなどと類似性を感じさせながらも、上記のバンド以上にしなやかなや有機性を感じさせます。
豊穣としたメロディラインの柔らかさがなんだか不思議と癖になってしまう。ダブステップの影響を感じさせる打ち込みを多用した飛び道具の#6や鉄琴と共に美しいハーモニーを奏でる#8といった短いインストによる繋ぎも独特の味。
豪快な爆音の炸裂感とたゆたうメロディラインの交錯が高次のドラマを描く#3「Barrageo」、神妙なイントロから妖しげな女性ヴォーカルを挟み、全てを解放していくようなクライマックスに繋がっていく#5「Cyette Phiur」など彼等の妙味を発揮。
ノスタルジックな感傷と崇高さを携えた静かな音の流れとメタリックなリフのかけあいは十二分に聴き応えあります。
「Sol Eye Sea I “は、真の音楽的パイオニアが、様々な影響からオリジナリティのある道を切り開いた、畏敬の念を抱かせる結果である。IREPRESSは、エクストリーム・プログレッシブ・ロックやメタルにR&Bやエレクトロニック・サウンドスケープを融合させ、プログレッシブ音楽の世界において独自のニッチを広げているのだ。間違いなく、これは2009年の最もオリジナルで実験的で優れたレコードのひとつになるだろう
公式Bandcampより