1994年、Jeff Mueller(Rodan,Shipping News)、Sean Meadows(Lungfish)、Fred Erskine(Hoover, The Crownhate Ruin, Abilene)、Doug Scharin(Codeine, HiM, Mice Parade)によって結成。
1994年~1999年11月まで活動し、ポストハードコア/ポストロック/マスロックに多大な影響を及ぼした伝説の存在として語り継がれます。2018年に再結成を果たし、2020年に新作を発表。2023年3月には待望の初来日。
本記事では全キャリアで発表された全てのオリジナルアルバム5作品について書いています。
アルバム紹介
Engine Takes to the Water(1995)
1stアルバム。全8曲約41分収録。RodanやCodeineから派生したバンドだからこその地続き。鼓膜にヒリつき、引きずり、裂くような音にやられます。
Slintと比較されるサウンドからもたらされる不穏な緊張感。#1「Have a Safe Trip, Dear」からJune of 44の特徴が発揮されており、楽曲からは血気盛んな感じよりも引き気味のコントロールが効く。
時代性を感じるディストーション、加減速巧みなリズム隊、物悲しさを伴った叫び。以降の作品と比べてもポストハードコア色が強く、スリリングな展開を持つ曲が多いのが特徴。
#4「Mindel」はDon Caballeroとタイマンを張るような変則性を持ち、#5「I Get My Kicks for You」ではトランペットがノイジーなサウンドにしんみりとした情緒を与えています。
美しさは控えめにしても美意識は発揮されていて、後のポストロッや マスロックの源流のひとつとされることも納得する音楽です。そして、オリジナルアルバムの中で最も激しい作品。
Tropics and Meridians(1996)
2ndアルバム。全6曲約37分収録。前作からの延長上にあるものの、隙間/余白が増えたのと展開が少し整理された曲が多め。”じわじわ追い込み型”というのが本作の特徴でしょうか。
ただ、音自体のくすみと凶暴性は変わらず。強靭なリズム隊を基盤にツインギターが神経を削るように響き、ジェフ ・ミューラーがやるせなく叫ぶ。
いきなり9分を超える#1「Anisetta」からスタートしますが、小刻みな変化とうねるグルーヴは曲が進むにつれて、どんよりとした大きな塊が迫ってくるかのようで強烈です。
#3「Lawn Brower」においては我慢の展開のもとでツインギターがかけあってゆったりと追い込み、静かな重みをもたらしていく。前作よりも抑制が効いてるはずなのに、精神にずっしりとくるものがある。
透明感のあるギターと柔らかな歌声が繊細なハーモニーを奏でる#5「Arms over Arteries」は次作に繋がる清めの時間ですが、ラストは最も重さを伴う#6「Sanctioned In A Bird Cage」で混沌と終わります。
Four Great Points(1998)
3rdアルバム。全8曲約43分収録。最高傑作に挙げられることが多い作品です。ソフト化とバリエーションの拡張がトピックに挙げられます。
ストリングス・アレンジや優しいアルペジオなどが豊かな色味を付与し、淡いや優雅という単語が浮かぶようになりました。またヴォーカルは叫びより歌ものとしての効用性が高まっています。
一方で#3「Cry Your Face」の爆発ぶりに顕著ですが、ハードコアの強度は健在。剛と柔の両面が滑らかに引き立て合いながら、どこにも属しきれない独自性を担保しています。
白眉なのは冒頭を飾る#1「Of Information And Belief」でバンドの変化を物語る代表曲。ストリングスの華麗な響きから、重金属が軋むジャンクな音までが色とりどりに景色を変えていく。
さらに終盤#6~#8は実験的な曲が並び、次作に繋がっていくダブ~アンビエント的な要素が増加。#6「Lifted Bells」は反復するベースラインの上で音響的なアプローチを繰り広げ、#7「Shadow Pugilist」はドラムレスの歌ものとして優しく胸に迫ります。
これまでとこれからが見事に融合した作品で、June of 44を最初に聴くなら本作がオススメです。
Anahata(1999)
4thアルバム。全8曲約50分収録。ハードコア色がかなり薄まって、様々な曲調を取り揃える作品です。
トランペットが優雅に振る舞い、グロッケンやストリングスに女性ヴォーカルが飛び出し、以前と打って変わるほど歌心にあふれる。物腰は柔らかくなったし、全体を通したくすんだ色合いが暖色系へと変化。
ダグ・シャーリンが関わるHiMやMice Palade寄りのダブ、ファンク、サイケ、ワールド音楽を混合させた最も職人気質なアルバムという印象が強いですね。
黄昏時に聴きたくなる#3「Cardiac Atlas」、Mice Palade的な音響と涼やかな女性ヴォーカルが心地よい#6「Southeast Of Boston」といった曲がそれを表しています。
しかし、ポストロックと安易に定義づけできないユニークさはあり。その象徴がラストを飾る15分に及ぶ#8「Peel Away Velleity」。5分過ぎにリズムが止み、フリーキーなトランペットを合図にギターがよりサイケに、やがてドローンの深淵に沈む。
リスナーに歩み寄るではなく、アーティスティックな姿勢を崩してないことが伺えます。
Revisionist(2020)
5thアルバム。全8曲約34分収録。21年ぶりとなるアルバムは、 『Anahata』、『In The Fishtank 6』、『Four Great Points』の3作品から数曲を再構築+マトモスとジョン・マッケンタイア(Tortoise)によるリミックス2曲。そして未発表曲という内容です。
純粋な新作といえるかはさておき、20年以上経っても型にはまらないバンドであることを再認識させるように、本作は混沌としています。
前半は『Anahata』の再演がメインとなっていますが、ダブやポストロックへ舵切ったあの路線をストイックに鍛え上げたような印象。リズム隊の強度がマシマシでパーティ・ハードコア曲#4のノリがなんとも心地よいものです。
そして2つのリミックスは、声や楽器が主体だったことを忘れるぐらいにハードな電子音今日の世界へ。それでも、ラストの#8「Paint Your Face」で血管切れそうなぐらいに攻撃的なサウンドを叩きつけて終える。
初心者に本作を最初に聴けというには間違いなく向かないです(汗)。しかし、長年の時を経て現在の立ち位置をしっかり示しくれる辺り、ファンにとっては嬉しいものでしょう。
2023年3月来日公演映像
わたしも名古屋公演に行きました!
伝説の存在と言われるのを納得すると同時に現役感が凄かったです。