1999年に結成されたマサチューセッツ州のメタルコア・バンド5人組、キルウィッチ・エンゲイジ(略称はKsE)。バークリー音楽院出身のギタリストであるアダム・デュトキエヴィッチを擁し、ニュースクール・ハードコアと北欧メロディック・デスメタルの性質が混合した”メタルコア”の先駆けとして長年にわたって活躍。
2002年にメタルコアのスタイルを確立した2ndアルバム『Alive or Just Breathing』をリリース。メロデスのザクザクと刻むギターリフにブレイクダウン、デスヴォイスとクリーンヴォイスの使い分けによって攻撃性と叙情性が噛み合ったスタイルは、後続のバンドに大きな影響を与えました。
KsEはこれまでにジェシー・リーチとハワード・ジョーンズという2人のヴォーカリストが交代で所属しながら、全8枚のアルバムをリリースしています。日本にもコンスタントに来日。
本記事は全フルアルバム8枚について書いています。
わたしは2005年のTaste of Chaosと2008年の来日ツアーで観てますが、また来日公演をみたいものです。
アルバム紹介
Killswitch Engage(2000)
1stアルバム。全9曲約31分収録。前身バンドであるAftershockのニュースクール・ハードコアの血筋を受け継ぎ、生々しい攻撃性があります。この後に自ら築き上げていくメタルコアの洗練された印象は薄い。
初代ヴォーカルであるジェシー・リーチのクリーン・ヴォイスはかなり控えめで、怒りに満ちたスクリームを多用。
デス~スラッシュ寄りの切り刻むようなリフを持ち味に、畳みかけるような速さと重苦しい遅さを使い分ける。全体的にはかなり粗削りですが、肉弾戦上等な勢いがあります。
2ndアルバムにて再録される#1「Temple From the Within 」や#2「Vide Infra」が初期の佳曲として鎮座し、中間のアコギが凪いだひと時を演出する#3「Irreversal」やトライバルなリズムが儀式的ムードを持ってくるインスト#9「One Last Sunset」などを収録。
バンド自身からも世間的にも評価は低めですが、決して一本調子の作品ではない初期の味があります。
Alive or Just Breathing(2002)
2ndアルバム。全12曲約45分収録。多くのフォロワーを生んだ参照元として、メタルコアにおける聖典的扱いの作品です。
重さを伴ってザクザクと刻むリフと美麗なクリーントーン、鋭さのある咆哮と包容力のある歌、怖いものなしの加速とブレイクダウン。攻撃性を堅持したまま、”聴かせる”をハイレベルに到達させたことが、大衆に強く響くことになりました。
ポップではないキャッチーさがあり、#2「Self Revolution」や#3「Fixation on the Darkness」のコーラスにそれは表れます。
そして、メタルコアにおける攻撃性と叙情性の黄金バランスを確立した代表曲#4「My Last Serenade」は必聴の1曲。猛烈なヘヴィネスから大輪の花を咲かせるようなクリーンなサビへの移行は、このジャンルの定型として受け継がれていきます。
しかし、洗練という言葉が当てはまる中でも前作からの初期衝動とハードコア・ノリは健在。1stからの再録2曲も堂に入っている。メタルコアを確立とされる名盤は、20数年経っても色あせない輝きを放っています。
The End of Heartache(2004)
3rdアルバム。全12曲約42分収録。前作が世界的にその名を轟かせた作品ならば、本作はバンドの地位を不動にした作品です。大きなトピックとしてヴォーカルとドラムがメンバー交代。
新加入のハワード・ジョーンズは、ジェシー・リーチと比べれば殺伐感や攻撃性では劣るものの、粘り気と伸びやかさのある声が魅力的。
その適性が反映されており、前作で確立した様式を用いるなかでメロディアスな曲調が全体的には増えています。
声がもたらす叙情性はハワードの方に分がある。映画 『バイオハザードII』のメインテーマ曲となった叙情的ミドルナンバー#7「The End of Heartache」は、彼なしでは生まれなかっただろう名曲。
またリズム隊に関してもメタル的な硬質さが強まっていて、作風としてハードコア寄りはメロデス寄り。#2「Take This Oath」や#3「When Darkness Falls」の畳みかけに圧倒され、重戦車のごとき畳みかけから得意のクリーンな移行をする#4「Rose of Sharyn」がバンドの代表曲として君臨。
メタルコアの入門編としては、前作よりも本作を推奨したいです。
As Daylight Dies(2006)
4thアルバム。全12曲約44分収録。KsE史上最も売れたアルバムで全米売上:50万枚以上を記録。3rdアルバムからの継続路線を走り、ハワードの歌をさらにフィーチャー。
叙情的なフックやミドルテンポを多用し、ドラマティックなスケール感が増しています。テクニカルなギタープレイを挟むも力強さを持った歌ものとして成立する#3「The Arms of Sorrow」は新境地のひとつでしょう。
KSEはメタルコアという属性ながらハーモニーの良さが肝のひとつですが、消化しやすい聴きやすさと余韻の残る味わいの両方が、全作中で一番良いのが本作だと感じます。
なかでも#5「My Curse」はサブスク配信で1億超の再生数を誇るメロディアスな代表曲。また締めくくりの#11「Reject Yourself」はブラストビートを用いてスピードとリフの切れ味で最後の最後にぶったぎる。
後にリリースされたスペシャル・エディションでは、ライヴで演奏頻度の高い「This Fire」とDIOのカバー「Holy Diver」を追加収録。バンドの充実ぶりを物語る一作です。
Killswitch Engage(2009)
5thアルバム。全11曲38分収録。バンド名を冠した2度目の作品は、史上初となる外部プロデューサーのブレンダン・オブライエンを招いて制作されました。
00年代に確立したKsE節を惜しみなく踏襲する形は続き、手堅い作品です。本作も速いよりは遅めを重視し、切ないエモーションをまとった歌が聴き手の心をきっちりと熱くする。
昔は喧嘩っ早かったのに今ではスポーティな感じになった印象。モダンな作風は続き、#6「Take Me Away」は美しい旋律に乗せて低域から情熱的に歌い上げ、#5「The Return」や#10「Lost」といったパワーバラード等で叙情的な力強さを生み出しています。
それでも、むさくるしいエモさが出てくるのはKsEっぽい。しかし、変則的なリズムで引っ張る#1「Never Again」、ブラックメタル+メロデス風味な#4「Reckoning」といった曲もあり。
リードシングルである#2「Starting Over」はイントロの勇壮なリフから疾走を繰り広げて昂揚感を煽る。マンネリと言われようが、平均点やや上ぐらいのクオリティを確実に届けてくる辺りは、メタルコア重鎮の面目躍如。
Disarm the Descent(2013)
6thアルバム。全12曲約41分収録。糖尿病で離脱したハワードに代わり、初代ヴォーカリストのジェシー・リーチが電撃復帰。その影響からか近作にはなかった疾走感やアグレッシヴさが一番に出ています。
それは運動量の多い過去を取り戻したという類のものではなく、今のKsEとしての自然な流れからきている印象の方が強い。実際にスピード感のある曲は多く、ブラストビートをいつもより多く使ったというドラマーの証言もあります。
メタルの硬質さと重みを発揮しつつ、メロデス寄りのリフは切れ味鋭く、#4「In Due Time」に代表されるようにギターソロもずいぶんと気合が入っています。
肝心のジェシーのヴォーカルは、肉食獣はそのままに繊細な表現力に磨きをかけました。マイルドな歌い回しで扇動する#11「Always」はこの上ない歌ものに仕上がっており、彼の復帰が縁故採用だったわけではないことを物語ります。
ジェシーであろうとハワードであろうとKillswitch EngageはKillswitch Engage。その意思が明確にこもった力作。
Incarnate(2016)
7thアルバム。全12曲約43分収録。ジェシー復帰2作目。ダークな作風になっていますが、以前の彼等に戻った感じはあります。
アグレッシヴに攻め入って、クリーンなサビを伸びやかに聴かせる。00年代で築き上げたそのKsE職人芸にわたしたちは心酔し、ライヴでは大運動会を繰り広げます。
いきなりメタルコア再教育を促す#1「Alone I Stand」~ #2「Hate by Design」は強烈で、本作でもその効力は十分。哀愁の配分を多めのメロディック仕立てにしたことは、気を遣ったところでしょう。
アコギのスタートから全力メタルコアする#7「Quiet Distress」、壮大な曲調と中盤からポストロック風ギターが入ってくる#11「We Carry On」には驚かされます。
ジェシーは広がりのある繊細な歌声をレパートリーに加え、さらには動の部分のキレ味を持つのでKSEのVo適任者はやっぱり彼なのかもと思ったり。安定飛行といえばそれまでですが、叩き上げでやってきたバンドの力量を感じさせる作品です。
Atonement(2019)
8thアルバム。全11曲約39分収録。Roadrunner Recordsを卒業してSony Music(北米はMetal Blade)からリリース。タイトルは”償い”という意味。ジェシーはポリープ除去後にトレーニングを重ねて録音に臨んだとのこと。
結成から20年。時代や流行が変わろうとメタルコアの力学を追求し続け、良い意味でも悪い意味でも変わらない。それが俺たちだと本作でも宣言。2~4分の尺の中で緩急強弱の変化を重ねる中、ドラマティックな聴き応えと”歌える”を実践。
そのバランス感覚は相変わらず秀でており、#3「Us Against The World」や#10「I Can’t Be The Only One」にそれは表れている。
そして目玉となる#2「The Signal Fire」ではハワード・ジョーンズを召喚し、新旧ヴォーカリストが共闘。スラムダンクの桜木と流川と違って彼等の関係は良好であり、新しいアンセムとして人々に轟きます。
いつまでもメタルコアは彼らとともにあるのです。
どれを聴く?
Killswitch Engageのどれから聴けばいいか教えて!
彼等と言えばこの2作品といえる『Alive Or Just Breathing』か『The End of Heartache』がオススメです。
ジェシーとハワードとヴォーカルが違いますし、それを比べるのもおもしろいと思います。