1991年に結成された岐阜県出身のロックバンド。初期は4人組のバンド編成でしたが、時が経つに連れてメンバーが減り、清春(Vo)と人時(B)の2人編成として世間には認知されています。
インディーズ期はダーク・ヴィジュアル系の基盤ともいえる暗黒耽美な音楽性を提示。メジャー進出意向はポップとの距離を詰めながら、オリコンチャートで上位進出やライヴ会場のキャパシティを広げるなど成功を収めます。
しかし、彼等はその成功を経て、さらにコアな部分を突き詰める方向に向かっていく。ハードコア/パンク的な音楽性とライヴ活動を重視し、1997年や1998年には100本以上ものライヴを重ねるほどに、生の体験を大事にしたバンドです。
ところが、2人の関係悪化に伴い1999年1月29日に活動休止。10年後に一夜限りの復活公演にして解散公演を敢行。
ただ、ここで終わらずに2010年に活動再開。以降はオリジナルアルバム2枚発表と継続的なツアー。2014年から2015年にかけては50本近い最後のロングツアーを駆け抜ける。ここで黒夢としての幕を再び下ろしています。
本記事は、オリジナルアルバム8枚とミニアルバム1枚、ライヴアルバム1枚について書いています。
2014年の最後のロング・ツアー4本に行けたことは、わたしとしても幸運でしたね。でも、活動休止前のライヴを体感したかったというのはずっとあります。
アルバム紹介
亡骸を・・・(1993)
インディーズとしてはラスト・リリースとなった1stフルアルバム。全10曲約49分収録。歌詞、曲調、濃ゆい化粧、黒服、過激な表現。
前年発表の『中絶』『生きていた中絶児』の流れを発展させ、ダーク・ヴィジュアル系としての完成系/ひな形を作り上げたのが本作です。
初期の彼等の音楽には暗黒と美が共存するということを教えられます。憂鬱と狂気を送るおどろおどろしい表現や救いのない歌詞が飛び交う。一方で、耽美なメロディと哀愁が乗る。
清春さんは本作においてビブラートはそこまでですが、シャウトやクセはやはり強く、ヴォーカリストとしての個性を如何なく発揮。
ギターの臣さんが作曲で主導権を握っていた影響でメタルっぽさを随所に感じますが、残虐ハードからメロディアスへ自在に行き交いながら楽曲の世界観を構築しています。
これぞヴィジュアル系な2ビートで疾走する#1「UNDER…」から、光などまるで見えない冷たい暗闇があなたを待つ。とはいえ、前年のミニアルバム『生きていた中絶児』よりも本作はメロウさに拍車がかかっています。
#4「讃美歌」や#6「MISERY」、#7「If」辺りでその辺りがうまく表現されていますが、同時に虚無と退廃を含んでいる辺りは初期・黒夢っぽい。
インディー期では一番のメロウさを表現したように思う表題曲#10「亡骸を」では、清春先生の実父が涙を流したという逸話もあり。
当然ながら攻撃性も十分。ギターソロを始めとしてHR/HMの要素が強い#5「十字架としての戯れ」は強力だし、#9「親愛なるDEATH MASK」はDIR EN GREYの「残 -ZAN-」の元ネタとして有名です。
この曲はミニアルバム時からのリメイク。言っちゃいけない単語を叫び、一線を超えた激しいサウンドで血圧を上げるブチ切れモード全開で衝撃を刻み続けます。彼等のインディーズ期が伝説だと象徴するような曲です。
そんな初期の黒夢の集大成として君臨する作品であり、後続バンドに大きな影響を及ぼした重要作。本作を置き土産に、バンドはメジャーへと進出します。
2014年5月には初期楽曲を主体とした『地獄の三夜』という3公演がありましたが、本作を軸とした第2夜「脱皮」の名古屋公演にわたしは参加しています。歴史の追体験というには濃厚すぎる公演でした。
迷える百合達~Romance Of Scarlet~(1994)
メジャー1stアルバム(通算2作目)。全12曲約48分収録。いきなりオリコン・チャートで3位を記録し、堂々たるスタートを切っています。
本作よりプロデューサー・佐久間正英氏と長らくタッグを組みます。メジャー移籍したことでポップの骨格をはっきり持つようになり、そこにインディーズ期の黒夢らしい中毒性を程よく持ち合わせた仕上がりです。
特徴的なビブラートを聴かせる清春先生のヴォーカル、憂いを含んだメロディ、少なからず残るダークな衝撃。”耽美かつ妖艶なヴィジュアル系”というイメージは、本作に一番当てはまるでしょうか。デビューシングルである#3「for dear」でそれを特に感じます。
これぞダークV系といえる疾走曲#2「棘」、妖しくドロドロとした表現が活かされた#4「Masohist Organ」、暗黒と幻想性が合致する#6「百合の花束」。前半はインディーズ期との折衷と呼べる内容です。
後半はクリーントーンを主体としたアップテンポ&ミディアムな歌ものが並びます。#8「Neo Nude」や#11「Utopia」は白化していく黒夢を象徴しているかもしれません。
#9「autism-自閉症-」が諸事情で再発盤には収録されていませんが、歌詞からして放送禁止的な要素をたくさん含んでいます。ちなみにわたしは2014年11月の名古屋BOYS ONLY公演でこの曲を体感することができました。
以前までの狂気に満ちたハードな楽曲は少ない。ポップス系のメロディへ軸足を移行しつつも、”百合の花”が連想されるほどに儚さと危うさを孕んだ本作。メジャーデビュー作としては上々の結果でしょう。
この後に脱退してしまうギタリスト・臣さんがメインで作曲していたこともあり、この頃にしかない味があります。次作『feminism』も区切りの1枚だと思いますが、本作はミニアルバム『Cruel』よりも区切りの1枚だと感じてます。
Cruel(1994)
前作より半年のスパンでリリースされたミニアルバム。全6曲約24分収録。次シングル『優しい悲劇』の製作途中で臣さんが脱退するため、3人編成としては最後の作品です。
過去(インディーズ期)の揺り戻しと今の延長。その両面が本作にはあります。ド頭を飾る#1「CHANDLER」はいかにもなハードコア・ナンバーで、強烈なシャウトとラウドなギターサウンドをたたきつける。
後にリメイクされる#2「SICK」も問答無用の一撃ですが、これは再録Versionの方が遥かにカッコいいです。ライヴの終盤を飾る重要曲へと進化しましたし。
以降は前作から引き継がれた音作り。引き算された軽快なギターサウンドの上を清春先生のヴォーカルが泳ぐ#3「SISTER」がムードを変える。
幻想的なミディアムバラードかと思いきや、妖しい世界戦に突入していき、モーニング娘。よりも先に”笑って”をインパクト化した#4「意志薄弱」が脳内で引きずり続けます。
#5「ICE MY LIFE」はメジャー2作目のシングル。シングルで発売されたときは”~残酷な僕から~”という副題が添えられていましたが、王道のV系メロディアス疾走曲でど真ん中をぶち抜きます。
ボーナストラック扱い?で前作収録の#6「寡黙をくれた君と苦悩に満ちた僕」をアコーステイックVerで入っています。ミニアルバムゆえのボリューム不足は否めません。
ですが、前半のハードさと後半の挑戦的なポップスという2つの色をミックスさせた意欲作として楽しめる1枚。
feminism(1995)
オリコンチャート初登場1位を記録した3rdフルアルバム。全14曲約59分収録。本作から完全に清春さん&人時さんによる2人体制です。
ジャケットの中性的な清春先生が象徴的ですが、2人とも見た目でもカジュアル化。”売れる”ことで以前を超えていくという意思が感じられます。
本作は”白化した黒夢”の到達点と呼べる1枚です。例えるなら、以前は暴力的だったのに急に優しくなったので心がコロッと動くことに似ている。
冒頭#1「心臓」~#2「解凍実験」の流れがガスバーナーで解凍した3人の黒夢終焉儀式の様相であり、以降は彼等流ポップスの乱れ打ち。表題曲#3「feminism」から上質なメロディを備えて聴き手の心を鷲掴みにかかります。
「カマキリをつぶせぇー」と生類憐れみの令に反する#12「カマキリ」というハードコア・ナンバーを携えてはいます。
しかし、激しいのはこの曲ぐらい。全体通しても歌謡性がグッと増しており、ロックというよりはポップス色の方が圧倒的に強い。
中性的なヴィジュアルと女々しいと言われそうな歌詞、少々陰りを帯びたメロディの相乗効果。さらには人時さんのふくよかなベースラインも音量が上がって、より印象深いものとなっています。
ギターが前に出てきてないのも、歌とベースの主張をはっきりさせるためでしょうか。 2枚のシングル曲#8「優しい悲劇」と#11「Miss MOONLIGHT」の存在感は格別。
他にも自然光の温かい優しさが詰まった#4「眠れない日に見る時計」、切な系疾走感がリードする#6「LOVE SONG」、独特のムードたっぷりに聴かせる#7「白と黒」に#9「情熱の影」と作品はポップかつ艶やかに揺れ動く。
ラストを飾る#14「至上のゆりかご」は、清春先生の極端に低いキーの歌と幻想的なサウンドが不思議な魅力となって表れています。
黒夢ポップサイドの進化の果てにして完結編。本作で聴ける感傷と優しさを持つ歌の数々は、発売から27年の時を経ても人々の心にソフトに響き続けるものです。激しければいいってもんじゃない。それを高らかに主張する名作ポップ集。
FAKE STAR(1996)
約1年ぶりとなる4thフルアルバム。全17曲約57分収録(SEが5曲入ってる)。おそらく最も大きな転機となった作品です。デジタル要素を大胆に取り入れて、傑作だった前作の流れをぶっ壊してしまう。
このように活動休止前の黒夢は、破壊と再構築の繰り返しによって自らを進化させてきました。にもかかわらず本作もオリコン1位を記録。
前述した通りのシンセやプログラミング音をがっつりと組み込み。サイバーパンク的な様相を帯びていて、耳に刺さる感じが強まりました。前作のソフトな聴き心地からは、また随分と転換しています。
ライヴの定番曲となっていた#4「BARTAR」はその変化が顕著ですし、過激な言葉と共に突き進む#9「SEX SYMBOL」や#11「S.O.S」辺りはついてこれない奴は置いきぼりにしていく姿勢すら伺えます。
それでもJ-POPへの挑戦もたたきつけていて、特に#3「BEAMS」は黒夢流ポップスの最高峰に位置する曲。ほかのシングル曲#6「SEE YOU」や#14「ピストル」も彼等ならではの味。
そして、#15「夢」は『feminism』の延長上といった印象を与え、#16「H・L・M is ORIGINAL」の癖になるシンセと歌謡性が不思議な魅力をもたらしています。
本作は表題曲#2「FAKE STAR」の存在感が群を抜いています。”外人かぶれが優秀なら 僕は偽りだらけのFAKE STAR”という強烈なメッセージを込めたハードな1曲。
ライヴだとオープニングに演奏される事が多く、めちゃくちゃテンポが速くなって、サウンドもゴリゴリ。本曲のライヴversionは『LIVE AT 新宿LOFT』やベストアルバム等で聴けますので、その違いを体感してほしいところ。
強烈なシャウトが戻ってきて、生とデジタルの融合で分厚いサウンドを構築し、パンキッシュモードへも移行中。ヤンチャだけど実はいい子的に多彩な曲が詰まっていて、バラエティ豊か。
ただ、統一感はあまり感じられません。しかしながら、これまでで最も変化を感じる作品です。
Drug Treatment(1997)
約1年ぶりとなる5thアルバム。全14曲約55分収録。佐久間正英さんのプロデュースから離れました。
デジタル要素は大幅に削ぎ落し、鍛え上げた生身のバンドサウンドと世間への反骨心でもって痛快なハードコア~パンクへと昇華。スラムダンクの流川楓よりも天上天下唯我独尊ぶり。どこまでも我が道を行きます。
CMソングに起用されたミドルテンポのヘヴィナンバー#1「MIND BREAKER」、清春先生のラップ風歌唱が聞ける#2「DRUG PEOPLE」と変化球を序盤で繰り出し、#3「DRIVE」からギアチェンジし、スピーディ&ラウドに突っ走って聴き手に衝撃を与えていきます。
タイトル通りドラッグをテーマにした曲を筆頭に、社会の不条理、フォロワーへの皮肉、自由への渇望。もはや行き過ぎた表現だから歌詞すら掲載できない曲もあります。それぐらい特定のシーンに対して強烈な皮肉が込められている。
俺たちのロックこそが本物だという情熱と自信。この頃の清春さんは音楽のみならず、ファッションにおいてもカリスマ性を見せつけていました。
sadsのインタビューにありましたが、“若い男ほぼ全員に、服装から何から俺の真似させる”と昔は考えていたとか。
本作をさらなるきっかけとして、本格的なライヴバンドへと覚醒していきます。毎作、大きな変化が訪れた黒夢ですが、ミュージシャンとしてのカッコよさを追及するという点ではずっと変わりません。
#4「C.Y.Head」や#6「Distraction」のようなハード・ナンバーが目玉ではあります。それでも中盤から後半にかけて歌ものを固めて収録しており、特にアコースティック調にアレンジされたシングル曲#11「NITE&DAY」が異色の存在感を放ってます。
前作よりバランスよく曲を配置し(おそらくライヴを意識した曲順になっている)、現状を抜け出したいというエネルギーを全面に出しながらもロックアルバムとして魅力的な作品です。
何よりもバンドにとって最も重要な曲#13「Like @ Angel」収録。ほとんどのライヴにおいて最後を飾った黒夢のアンセムです。
しかし、ここで終わらずにハード&スピーディな#14「BAD SPEED PLAY」で本作を締めくくるのは、次作『CORKSCREW』への繋ぎか。オリジナルアルバムだとわたしは本作が一番好きですね。
LIVE AT 新宿LOFT~1997.10.31~(1998)
1997年に敢行したツアー「1997 tour “Many SEX Years” VOL. 2 Many SEX, DRUG TREATMENT」の新宿LOFTでの追加公演を収録した作品。
音源と映像作で分けられており、それぞれ2曲ほど収録曲が違います。「autism ~自閉症~」が当日に演奏されているようですが、両方に収録されていません。
今となっては恐ろしい話ですが、1997年から1998年にかけては約230本を数えるほどに、ライヴに活動の軸を移していました。
ライヴで自分達の姿を追い求め、生だからこその本質と魅力を存分にみせつけ、その上で観客と戦う(この頃には清春VS人時のバチバチな側面もあったはずですが)。
それぐらいに黒夢といえばライヴ。オリジナルアルバムではありませんが、活動休止前の黒夢を一番に象徴するのって、本作じゃないかなとずっと感じています。
「クスリは効いてるかー」と『Drug TReatment』の曲を中心にひたすら攻めた14曲。どれもスタジオ音源を凌駕する迫力とエネルギーです。
ぶっちぎる勢いと骨太な演奏の#1「FAKE STAR」にアがらない者はいるのか。#2「DRIVE」からどんどんと熱量を増していき、#4「S・A・D」のような旧曲を含みつつ、ハードコア/パンクの性急さで迫ります。
この作品を聴いてて思うのは、汗が見えるということでしょうか。パッケージされた録音作品だろうと熱気や臨場感が生々しく伝わってくるのです。#10「カマキリ」~#11「SICK」の途中で照明が落ちるというハプニングもカットされずに収録。
でも、それだってライヴの醍醐味だと言わんばかりに。ラストはアンコールの#13「少年」~#14「LIKE @ ANGEL」という代表曲2連発。これぞ黒夢というものが凝縮されております。
わたしが本作を初めて聴いたのは中1~中2(1998年~1999年)ぐらいの時だったと思いますが、これを超えるライヴアルバムってほとんどない。それぐらい衝撃は今でも続いています。
CORKSCREW(1998)
活動休止前ラストとなった約1年ぶりの6thフルアルバム。全14曲約44分収録。黒夢で最も売れたアルバムです(累計48万枚)。そして、#6「少年」が最も売れたシングル曲となります。
ちなみにわたしは小6(1997年)の時に目にした「少年」のMVでロックへお目覚め。金髪・上裸の清春さんの姿がとてつもないインパクトがあって、これがロックなんだと脳に強く刷り込まれました。
おそらく世間の黒夢のイメージってヴィジュアル系出身ではあるけど、本作と前作のストリートなパンクというイメージが強い気がします。前述した「少年」のMVが強く焼き付いている人が多いはず。
アルバムとしては珍しく前作の延長上にある形。パンク路線をさらにソリッドに、さらに速く。加えてスカやメロコア等の要素も入ってきてます。
ということで、前作以上にヴィジュアル系?っていう感じでファッションも音もその面影は無くなりました。3年周期で人は変わると言われますが、黒夢は何年にもわたって変わろうとあがき続けます。
シングル曲を除くと2~3分台とコンパクトにまとめ、さらに間髪無くスピーディに曲がどんどんと進んでいく。#1「MASTURBATING SMILE」から#5「CANDY」までの畳みかけ、そのシンプルでいて攻撃的なサウンドと誰も寄せ付けない勢い。
#6「少年」で強烈なメッセージとロックミュージシャンとしてのカリスマ性を提示し、作品は後半へ向かいます。#9「HELLO, CP ISOLATION」のご機嫌なスカ要素や#12「MARIA」で歌われる救いと苦悩、#10「YA-YA-YA」の愚直すぎて笑ってしまう感じ。
アルバムとして一本筋が通ってる中で、後半はいろいろな調味料が効いています。それでもパンクとして突き抜けていくパワーと勢いは凄まじい。当時、2人の関係がとてつもなく険悪だったことでのバチバチ感もそれを手伝っているのでしょうか。
活動休止前の到達点として、最高傑作と評されることが多いのも納得の作品。
黒夢はダーク・ヴィジュアル系という様式を確立もしていますし、ポップスとしての優秀さも示しましたし、極めつけはストリートなハードコア/パンクへの道を開眼しました。
ただ、その黒い夢にうなされる日々が1999年1月末に無くなるなんて・・・。それから2人は各自で歩んでいくことになります。
Headache and Dub Reel Inch(2011)
2009年の一夜限りの復活にして解散公演。そこから1年後に復活宣言。そして、13年半ぶりの発表となる7thフルアルバム。全12曲約44分収録。
2010年にSADSと共に活動再開が発表されてから、両バンド共にアルバムを発表しています。
後期・黒夢のようなパンク路線の継続ではありません。4thアルバム『FAKE STAR』を思い出させるようなデジタル色の強いサウンドになっています。
清春先生のソロがあり、同時に復活したSADSでの活動があり。それらと折り合いをつけ、過去との対峙を交えた音に落ち着いている印象です。
グラムロックのテイストやアダルトな薫り、円熟味からくる哀愁。懐かしいという想いに駆られる人時さんのうねるベース、プログラミング音がもたらす古き良き感触。
アグレッシヴにもポップにも振れつつ、13年ぶりという時を埋めようとしています。2人が経験値を重ねて黒夢を再構築した形。
しかしながら、過去を超えるというのは容易ではないわけでして。当時の2人の関係性や世間への反抗等、カウンターから吐き出されたソリッドな音と迫力を思い出すと、再結成後に新音源をつくる難しさをどうしても感じてしまいます。
先行シングル#5「ミザリー」、#6「アロン」の哀愁と疾走感、ラストを飾るバラード#12「Glass Valley’s Oar」のアダルトチックな魅力。随所に光る部分はありますが、アルバム自体の求心力は弱いかなと。
黒と影(2014)
黒夢記念日である1月29日にリリースされた約2年3カ月ぶりとなる通算8枚目。復活後2作目は、全13曲約48分収録。
アルバム発売日には、日本武道館でアルバムと同タイトルである「黒と影」公演を敢行。約8000人のファンを熱狂させました。
2013年9月に観たライヴ・ビューイングでの2人のインタビューを思い起こすと、「生々しいロック」に仕上がっているとの発言が強く記憶に残っています。
確かに前作『Headache and Dub Reel Inch』のようにデジタル色は強くありません。生演奏が前面に押し出されています。
刺々しさやアグレッシヴさがずいぶんと戻ってきており、冒頭のインスト#1「ZETO」に引き続いての3曲が荒くヘヴィに攻め立てる。
とはいえここまでは序の口。作品の流れとしては、前半では勢いと激しさで攻め、後半はメロウさに拍車がかかっていく。アルバム・タイトル通りのダークな世界観をしっかりと通底させ、多彩な味わいが楽しめます。
軽快なリズムに乗せた哀愁の#5「A LULL IN THE RAIN」、妖艶かつ毒気も孕む清春のヴォーカルが映える#7「MAD FLAVOR」、ダークで鬱蒼とした雰囲気に渋味を効かせた#9「SOLITUDE」など一癖も二癖もある楽曲を揃えています。
その中でも映画”バイロケーション”の主題歌にも起用された#8「ゲルニカ」で聴かせるプログラミング&ストリングスを交えた雄大なヘヴィロックは、これまでになかったタイプの曲。
また本作は、これまでに無いぐらいに様々なゲストミュージシャンが、楽曲に華を添えているのも大きな特徴。SADSでもタッグを組むK-A-Zさん、GOさんの2人はもちろん、他にもtoeの柏倉隆史さん、downyから青木裕さんと秋山タカヒコさん、そして是永巧一さん、coldrainのKATSUMAさん等が参加。
妖しくもダークな世界を奏でながらメロウに引き立った#12「黒と影」で炸裂する青木さんの情熱的なギターソロは、聴き所のひとつ。
わたしとしては、#13「Kingdom」が復活以降で一番の曲ではないかと感じています。美麗な旋律を基調に重厚なサウンドを展開。
ポストメタルに足を突っ込んだ哀愁と重音は、清春さんの艶めかしいヴォーカルが絶妙に絡みつき、クライマックスの聖歌隊のような大合唱で幕を閉じる。黒夢のキャリアを通して最もスケールの大きな曲といえるかもしれません。
全体を通して、前作よりは確実に積みあがっています。繰り返される変化は、回帰も含みながら黒夢の今となって表れている。 「いろんな色を重ねていくと黒になる。黒が一番強い色なんだ」という清春先生の言葉を感じさせる1枚。
どれから聴く?
読んでたら黒夢を聴きたくなってきたけど、どれから聴けばいいの?
黒夢は作品ごとに音楽性が異なるので、人によってピンポイントでこの作品!っていうのが非常に難しいです。
そこで今回は1999年の活動休止時に発売されたベストアルバムをオススメします。わたしは若かりし頃、オリジナル作よりもこれを一番聴いてました。
ハードサイドとポップサイドに分かれ、彼等の真髄であるライヴ音源もちゃんと入っている全37曲。黒夢をプレゼンするのに一番良い作品だと思います。