2004年に結成。名古屋を拠点に活動するヴィジュアル系ラウドロック・バンド5人組。ヘヴィかつメロディアスを軸にしたサウンドに定評があり、2011年にメジャー・デビュー。
2度の活動休止期間があるものの、コンスタントにリリースとライヴ活動を継続してファンを獲得。2022年11月には初の日本武道館を開催しました。
本記事はフルアルバム、ミニアルバム、ベスト盤を含めて全13作品について書いています。
わたし自身、ワンマン公演や主催イベント”BLACK BEAUTY BEASTS”、3年連続の年越しライヴ、ルナフェス等で見てますが、もっともっと知られて欲しいバンドです。
アルバム紹介
THE AVOIDED SUN(2007)
2ndアルバム。全11曲約44分収録。初期の名盤として名高い作品です。
LUNA SEAを思わせる耽美なメロディを従え、ニューメタル~メタルコア的な強度、ハードコアパンク寄りの疾走感を持ち合わせたサウンド。そして、ヴォーカル・葉月氏のつややかで品のある歌と強烈なデスヴォイスの対比。
ヴィジュアル系+ラウドロックとしてのlynch.のフォーマットが初期から固まっていたことがうかがえます。重量感はほどほどに破壊力と叙情性は高いレベルで共存。なおかつダークでシリアス、貫かれるlynch.らしい硬派さ。
決意のこもったシャウトでスタートする#1「libaration chord」からバラード調の#11「from the end」で締めくくる全11曲。
90’sヴィジュアル系からメタルコア、スクリーモといった参照元を昇華しながら初期衝動が宿ります。序文で述べた通りに初期の傑作。
SHADOWS(2009)
3rdアルバム。全10曲約45分収録。lynch.のファンクラブ名になっている”SHADOWS”を冠します。
清冽としたピアノからメロディアスなロックを展開する#1「LAST NITE」の意表を突くオープニング。このイメージに引っ張られるからか、全体的に聴かせる曲が増えています。
”魔性のブラック”という詞から始まるミドルテンポの切ない歌もの#3「MAZE」、軽やかな疾走感とクールな風情を感じさせる#5「 I DON’T KNOW WHERE I AM」、ファルセットを使いこなして葉月氏の魅力をたっぷり詰め込む#6「Ambivalent Ideal」。
それでも大人しくなったわけではなく、激しい曲はSHADOWSの影をさらに濃くさせます。
#2「ADORE」はlynch.三種の神器のひとつ(他はGALLOWSやpulse辺りか)といえる代表曲で、#8「SHADOWZ」やラストの#10「MARROW」辺りはヴィジュアル系ラウドロックの王道を行く。
影が濃くなるほどlynch.は黒く輝く。それを示す充実作。
I BELIEVE IN ME(2011)
4thアルバム。全12曲約42分収録。ベースの明徳氏が正式メンバーとして加入。長らく続く現5人体制となってのメジャー・デビュー作。
”メジャーへ行って大人しくなったと言われたくなかった。1番激しい作品になった”とiLOUDのインタビューで答えています。
全体を通して“激しくて速い”へのこだわりを感じさせ、晁直氏のドラムを基点とした加速&切れ味がこれまで以上。
序盤を飾る#2「UNTIL I DIE」~#4「JUDGEMENT」まで持ち味を発揮したうえで、激しさとメロディは一段上のレベルへ引き上げられています。
さらには2分の短時間で一蹴する#6「-273.15℃」や#10「TIAMAT」の破壊力はかなりのもの。
一方で葉月氏の歌と透明感のあるギターが幻想的なムードを生む#8「THIS COMA」は、V系というよりはUKロックに近さを感じる新境地。
lynch.は例えるならプロボクサーなんですが、スピーディなフットワークと力のあるワンツーのコンビネーションで聴き手をKOする。自らをシャープに研ぎ澄ませ、勢いをさらに加速させた作品です。
INFERIORITY COMPLEX(2012)
5thアルバム。全10曲約36分。速いって素敵やんってことで、全10曲中BPM200超えが7曲におよぶ本作。BARKSのインタビューでは”lynch.の芯を考えて【速さ、激しさ、メロディアス】の3つにしぼった”と特徴をのべています。
驚くほどの速さでジャブを連打する#1「MOMENT」から攻める攻める。自らの王道を突き詰めた#3「MIRRORS」、ファンク~ミクスチャー色をまとった#4「NEW PSYCHO PARALYZE」とインパクトは十分すぎ。
lynch.は言葉で表すとヘヴィというよりも”ラウド”であり、他の同系バンドにはないスポーティさと熱量を感じさせます。これはおそらく00年代初め~中期のUSスクリーモが葉月氏のルーツにあることが大きい。
また本作は飛び道具を用意しており、#7「EXPERIENCE」にてLUNA SEAのINORAN氏がアルペジオを添えている。それを筆頭に後半はお耽美かつ色気がある曲が揃う。
#8「FROZEN」や#10「A FLARE」は、ただ速いを追求しただけではない叙情性が魅力的に映ります。アルバム・タイトルは”劣等感”ですが、それを乗り越えようとするバンドのタフな姿勢が表れた1作。
EXODUS-EP(2013)
2ndミニアルバム。全6曲約20分収録。レーベルの意向を汲んだシングル『LIGHTNING』と『BALLAD』を経て、lynch.のあるべき姿と音を追及した作品です。
(脱ヴィジュを目指してやめていた)メイクを復活させ、黒い服で全身をキめ、音もダークかつハードに。原点回帰を含み、得意分野で勝負することを徹底しています。
2分にも満たない時間で獰猛に畳みかける#1「EXODUS」に始まって、ラウドかつメロディアスという基本条項を守りながらキャッチーさを加味した全6曲。ライヴでの演奏頻度が高い曲がそろっています。
今回はレーベルの意見を入れずに自分たちのやりたいようにやる。そのふっきれが良い方向に左右しており、改めてバンドの基盤をつくり直すことに成功しています。
なかでも悠介氏が作曲した#4「BE STRONG」は急逝したPay money To my PainのK氏に捧げた曲。儚いメロディと彼への想いを込めた詞に涙腺が緩みます。決意を示す一枚。
GALLOWS(2014)
6thアルバム。全13曲約43分収録。結成10周年に生まれたバンドの代表作です。流麗なピアノと共に絞首台のテッペンへと上がる#1「INTRODUCTION」から、痛烈無比な代表曲#2「GALLOWS」の破壊と衝撃。
悠介氏が作曲した#5「ENVY」と#12「RING」の2曲ではしなやかなメロウさが引き立つものの、前ミニアルバムをたたき台に全編を通して”激しく・切なく・ダークなlynch.”を貫いています。
まるで時代や流行に左右されないオレたちの音楽がこれだと高らかに宣言しているかのように。
さらには日本語詞が大幅増。葉月氏のプライスレス・グッドボイスと共に言葉を受け取りやすくなり、#11「TOMORROW」~#13「PHOENIX」の終盤はメッセージ性を特に強く感じさせます。
幾度もあるテンポチェンジと終盤のスラップ・ベースが印象的な#4「GREED」、シャッフルを取り入れた#6「GUILLOTINE」、哀愁ヘヴィ4つ打ち曲#8「OBLIVION」などリズム面での変化も入れつつ、自分達の武器を最大限に磨き上げる。
lynch.美学の結晶にして、新たな原点。
10th ANNIVERSARY 2004-2014 THE BEST(2015)
結成10周年を記念した2枚組36曲収録のベスト・アルバム。オリジナル作をのぞいて手っ取り早く彼等を知りたければ本作を聴きましょう。
楽曲はインディーズ~メジャーの垣根なくメンバー自身が選んだ楽曲を収録しており、lynch.がわかりやすくプレゼンできる内容。
しかも新規ファンへのアピールだけではなく、ライヴ音源の収録や初期楽曲を録り直しているので既存ファンも楽しめます。
DIR EN GREYの薫氏に初めて褒められた曲だという代表曲「ADORE」から始まって、怒涛の勢いに飲まれる。
メジャー進出以降の曲がやや多めですが、音楽性を一貫しつつも自分たちの美点を鍛え上げて、階段を上がってきたことを感じさせます。
DISC1、2共に終盤にライヴ音源を収録している辺りは、黒夢EMIベストのオマージュですかね。
D.A.R.K. -In the name of evil-(2015)
7thアルバム。全13曲約47分収録。lynch.なりのキャッチーさと折り合いをつけながら、DARK(闇)でEVIL(邪悪)な部分を突き詰めることがコンセプト。
耽美なメロディを配した瞬発力の高いラウドロックが変わらず軸です。#4「EVOKE」や#9「BEAST」で弾丸のように打ち抜き、87秒で完結する暴れ曲#10「INVADER」ではベースの明徳氏が躍動。
ただ徹底して黒かと思えばそうでもなく。シングルとなったバラード#7「ETERNITY」を中心に白が入り込む余地があります。
#2「D.A.R.K」や#12「MELANCHOLIC」辺りは、葉月氏のカッコよセクシーな歌ものとして仕上がる。
邪悪なアルバムとしてどっしり構えながら、歌詞やリズムでの遊び心・歌謡性・全体のバランス感が練られています。新しい面が見られる作品であるのと同時に、葉月氏のキャラクターも手伝って人間味を感じさせる。
『GALLOWS』とは別のステージに立つ作品であり、締めくくりの#13「MOON」は必聴の曲です。
AVANTGARDE(2016)
8thフルアルバム。全12曲全44分収録。タイトルの”AVANTGARDE(アヴァンギャルド)”は前衛的という意味ではなく、”最前線でありたい”という想いが込められてます(YOUNG GUITARインタビューより)。
キーワードに”パンク”や”ハードコア”が出てきたものの、ノー・コンセプトで良い曲を並べたとのこと。
前述のキーワードを体現した#5「DAMNED」や#11「THE OUTRAGE SEXUALITY」などを収録し、小細工せずにライヴで盛り上がる曲が多め。
自らを再定義した『GALLOWS』、それを基に歌やメロディに艶やかさが増した『D.A.R.K.』ときて、ここでシンプルな作風へと向かうのはうなずけます。
メタルコアとV系がガッチリ握手の#2「EVIDENCE」やlynch.王道#4「F.A.K.E」に加え、アコギが醸し出す哀感と葉月氏の男性フェロモンたっぷりな低音ボイスが印象的なバラード#12「FAREWELL」までの全12曲。
”何にも縛られていない最新型lynch.が聴けるアルバムです。僕の中では1stアルバム(2005年)に近いものを感じているんです”という言葉を葉月氏は当時に残しています(OKMusicのインタビュー)。
SINNERS -no one can fake my bløod-(2018)
ベースの明徳氏が例の件で一時脱退していた2017年に発表したEP『SINNERS EP』とシングル『BLØOD THIRSTY CREATURE』。この2作品を彼の復帰に伴って、新たにベースを録り直した編集盤。全9曲約38分収録。
lynch.の2017年は4人編成でサポート・ベーシストを迎えて活動していました。『SINNERS-EP』はゲストをひとりずつ招く方法が取られ、LUNA SEAのJ氏や黒夢の人時氏らが助力。
激しさから切なさまで行き交う曲調に、ゲストプレイヤーが新たな色を加えていました。本作における明徳氏のベースは、バトンを引き継いだ形でそこまで大きな変化はしていません。
ですが、バンドがまた前進していく上で明徳氏の存在意義を改めて示す意味で、このリリースは避けては通れなかったのだと思います。
派手なスラップが炸裂する#7「CREATURE」、心地よいドライヴ感がある#9「TRIGGER」など全9曲。明徳氏の低音と声が必要だったことを改めて感じさせる作品です。
それにしても”SINNERS=罪人”というタイトルをつける勇気よ。
Xlll(2018)
9thアルバム。全13曲約49分収録。結成13年、(EP等含めて)通算で13枚目、全13曲と【13】にこだわりをみせる。
”おのおのが育ってきた音楽のバックボーンをすごく色濃く反映させたアルバム”と本作について答えます(ROCK AND READ 098 玲央氏のインタビューより)。90年代V系~ニューメタルといった彼等が育ってきた音楽を自ら奏でてみる。
具体的に言えば#5「JOCER」にはマリリン・マンソン、#11「FAITH」には黒夢がわかりやすく引用されており、#4「EXIST」には00年代のヘヴィロックやスクリーモ勢の影響が大きいと葉月氏が自ら話しています。
オマージュを散りばめてはいるものの、本作はlynch.印の音楽性にメロディアスなつや感の方が勝っているのが特徴に挙げられます。そして激しくビルドアップしても遊び心とキャッチーさを忘れない。
それに過去作よりもルーツをはっきり出している分、作り手&演者としての人間味があふれているので親しみやすい。やっぱりlynch.ってイイ兄ちゃん達的な距離感の近さがあります。
メンバーと同系統の音楽を聴いてきた者だったら思わずニヤけてしまう。また近作では一番入りやすい”歌の良さ”があります。
ULTIMA(2020)
10thアルバム。全12曲約46分収録。”サイバーパンク”や”近未来”といったキーワードをもとに作り始めたが、結果的にエッセンス程度にとどまったそう(OKMusicのインタビューより)。
いつものlynch.を貫きながらもプラスアルファとなる肉付けがあります。葉月氏はガテラルやスクリームなどの攻撃的なバリエーションを増やし、弦楽器隊はさらにチューニングを低くして重く武装。
河村隆一氏が参加した#2「XERO」を始め、#5「ALLERGIE」や#10「MACHINE」で火力を上げて聴き手はサンドバッグ状態へ。『Xlll』は歌ものの印象が強いですが、本作ではアグレッシヴさが戻っています。
それでいて過去作よりも秀でているのは”スケール感”。#1「ULTIMA」でシンセや女性コーラスで効果的に広がりを持たせ、悠介氏が亡くなった祖母への想いを込めた#11「ASTER」にはポストロック的な開放感と壮大さがあり、ラストの#12「EUREKA」は中盤で一体となった大合唱の光景が浮かぶ。
ヤンキーとホストを同時に演じれる二面性。ヤンチャな楽曲から大人びた歌ものまでお手のもので、#4「EROS」にて”貴女に射舞りつきたい”と色気のある歌声で迫られればイチコロですかね。
そんな己を磨き続けた15年目の結晶が『ULTIMA』です。
REBORN(2023)
11thアルバム。全10曲約41分収録。これまでの活動を見直すべく2021年末に活動休止→翌年11月に初の日本武道館公演→『REBORN』へ。
本作にコンセプト自体ありませんが、5人それぞれが2曲ずつ作曲する新体制を取っています。おもしろいのは各メンバーが1曲はlynch.っぽくて、もう1曲はlynch.っぽくないものを持ち込んでいるところ。
晁直氏の「THE FORBIDDEN DOOR」にはデジタルなイントロからスピーディな展開と語りが入り、明徳氏の「NIHIL」はスラップ・ベースが躍動する中でPENICILLINのロマンス的な何かが発動。
UKロックを意識した玲央氏の#7「PRAGMA」、レディオヘッド的な曲調と雰囲気へ導く悠介氏の#10「SINK」とこれまでにない幅をもたらしています。
この中で葉月氏による2曲#1「ECLIPSE」と#9「CALLING ME」はlynch.の顔として機能しており、やっぱり彼がど真ん中だと改めて思わされる。
本作の試みは”これから”を見据えた荒療治ではありますが、lynch.5人のファミリーとしての強さが発揮されたアルバムになっています。
どれを聴く?
興味がわいたけど、lynch.はどれから聴いたらいいの?
オリジナル作でなくて恐縮ですが、10周年記念で発売されたベストアルバムがオススメです。
インディーズからメジャーまで全楽曲の中からメンバーがセレクトした全36曲。ライヴ音源も入っているので、lynch.を知るにはもってこいの内容になっています。
オリジナル・アルバムですと、代表作にあげられる『GALLOWS』です。結成10年目につくられたlynch.美学の結晶にして新たな原点。
オススメ曲
lynch.の1丁目1番地といえば、この曲!(もしくはGALLOWSだと思います)
オフィシャル・プレイリスト
lynch.初の日本武道館公演『THE FATAL HOUR HAS COME』のセットリスト通りのプレイリスト。こちらもベストと言える内容で入りやすいです。