前身となるJOURNAL SPY EFFORTから改名し、2006年から活動するインスト4人組。ツイン・ギター、ベース、ドラムというシンプルな編成のもと、歌心と衝動性を持ち合わせたインストゥルメンタルを奏でる。
07年7月に発表した1stアルバム『On, Then, In』を発表し、その後もスプリット作品やEPをマイペースにリリース。2024年9月にフルアルバムとしては17年ぶりとなる2ndアルバム『VOICES』を発表。本記事は『VOICES』について書いています。
作品紹介
VOICES(2024)
2ndアルバム。全10曲約42分収録。新音源としては8年ぶり。フルアルバムとしては1stアルバム『on, then, in』以来17年ぶりとなります。00年代のインスト・バンドはわりと聴いてる方ですが、MIRRORはなぜか聴いておりませんでした。その点は申し訳なく、本作のみを聴いた記事となります。
音楽的にはPeleやGhosts and Vodkaの流れを汲むようなインストゥルメンタル(付属のライナーではFaraquetなどが登場)。ツインギターとベース、ドラムが細やかな気配りのもとで絡み合い、衝突しあいながら、聴く者の心を弾ませます。”歌心のある”と言われるタイプであり、作品タイトルと反して声は一切なし。しかしながら、4人の奏でる演奏からは歌やざわめきが聴こえてくるようです。
躍動感あるベースリフから出立する#2「Fight For Fools」、軽快なテンポの上でツインギターが鮮やかに咲き乱れる#3「Cross Connection」、ギターが表現する泣きと儚さを強調したという2016年の再録曲#4「Rail to Rail」と序盤からバンドの特性を発揮。
CDに付属するライナーノーツを読むと、自然体とか衝動的に出てきたものを大事にしているそう。しかしながら、こねくり回していてもストレートな聴き心地の良さがあり、なめらかな流動性のあるつくり。
スロープのように支えとなるリズム隊の上をツインギターが縦横無尽に動き回るのですが、柔らかなメロディの連なりも虚をつくフレーズもそこに置く必然性を感じさせます。それでも聴き手を置いてきぼりにしない。バンドの公式Xでは”血汗涙と様々な汁の結晶の2ndアルバム”と言っていますし、生々しい演奏がこの上なくフィジカルな営みであろうと、暑苦しさよりもカラッとした爽快感が勝っています。
時が経てば生活が変わり、社会が変わり、音楽にフル回転だった日々からは遠ざかる。それでも音楽やバンドからはやっぱり離れられないことは伝わります。MIRRORは”あの頃の”にすがりついて研ぎ澄ませるスタイルだと感じますが、玄人好みや職人的なアルバムといった言葉では片付けさせない熱がある。前作から生きた年月分で芽生えた想いや感情を目一杯乗せており、苦節あろうと楽しんで演奏している姿が浮かびます。
ちなみにセルフライナーノーツでは『VOICES』というタイトルに納得するほどしゃべくり倒している。こちらも併せると作品への理解と想いがさらに伝わるのでオススメです。
我々は歌のない、演奏だけをするバンドである。歌や歌詞は無くとも、この音源に収録されてい10曲は、 どれも我々の声にならない作曲当時の想いや感情・感覚が込められている曲群である。その表現方法として使っている楽器はギター2本とベースとドラムだけだ。至ってシンプル、 がゆえに、シンプルだからこそ過剰な装飾や演出もなく、誤魔化しのない生々しい表現手段だと思っている。 繰り返される日々の中に感じる喜怒哀楽やあらゆる感情をこれからもこの手で生々しく奏でていきたい。
『VOICES』セルフライナーノーツ、INTRODUCTIONより