
デンマークで2番目に大きな都市であるオーフス出身のブラックゲイズ5人組。読み方はモルじゃなくて”メル”。デンマーク語で蛾を意味する(WARD LIVE MEDIA PORTALのインタビューによる)。
DeafheavenやAlcestといった先駆者から引き継いだブラックゲイズを軸に、同郷のMewやシューゲイザー・レジェンドのマイブラやslowdive等からの影響を加えた繊細かつ暴虐的なサウンドが魅力。
これまでにフルアルバム3作品を発表しており、2ndアルバム『Diorama』と3rdアルバム『DREAMCRUSH』はメタル・レーベルの最大手のひとつであるNuclear Blast からリリースされています。
本記事ではフルアルバム全3作品について書いています。
作品紹介
Jord(2018)

1stアルバム。全8曲約41分収録。”タイトルはデンマーク語で “地球” “土壌” って意味を持つんだ。アルバムのテーマは、この宇宙の中で青く回転する星で、いかに限られた時間を過ごすかについてなんだ“とMMMのインタビューでギタリストのFrederikが回答しています。
音楽としてはブラックゲイズ必修科目のひとつ、Deafheavenを彷彿とさせます。ギャーギャー系のスクリーム(これまたジョージ・クラークに似ている)、トレモロとブラストビートを駆使したアグレッシヴかつ高速スタイルを提示しています。ですが、10分を超える曲も珍しくないデフヘヴンほどポスブラ耐久マラソンはしておらず、MØLは4~6分ほどの尺で収めています。
加えて大胆に緩急を活かしており、ダイナミックな浮き沈みの中で、Alcestに影響を受けていることを示すエメラルドの叙情性が盛り込まれる。MVが制作されている#2「Penumbra」や#3「Bruma」が特にそうですが、攻撃性を発揮しつつ夢見心地なトーンを見事に再現できる構成が光ります。
他にもslowdive辺りに通ずる清らかなインスト#5「Lambda」、冒頭から1分前後まではテクニカル・デスメタルの惨劇を繰り出す#6「Ligament」、押し寄せるブラックメタルの波動にロマンティックな感傷が重なる#8「Jord」と魅力的な楽曲はそろう。
個人的かつ誠実な表現のためにデンマーク語を取り入れたとも話しており、影響元を的確にブレンドしながらMØLの音楽性をしっかりと提示した作品に仕上がっています。
Diorama(2021)

2ndアルバム。全8曲約46分収録。メタルレーベルの最大手のひとつであるNuclear Blastへ移籍。またミックスとマスタリングはテッド・ジェンセンが務めています。
ギタリストのニコライはアルバムのテーマについて、”内面における自分のバックグラウンド、自分自身の歴史を探り、過去に起こった問題を乗り越えて、より良い自分になるみたいなことがテーマ“と述べている(WARD LIVE MEDIA PORTALのインタビュー)。
Deafheavenからのれん分けという基本的スタイルは変わってませんが、メランコリックな振る舞いがわかりやすく増えました。クリーントーンや女性ヴォーカリスト2名が参加しての美成分の増量。耳に刺さるようなスクリームやスピード違反上等の爆走によって過酷な攻撃性を維持する一方で、涼し気な光が入り込む余地をどの楽曲にも残しています。
Astronoidほどの変化はないにしても、あくまでポストブラックという体を崩さず、闇落ちしないちょうど良いカジュアルさがあることは魅力。散弾銃のような悲惨さからドラマティックな展開で歓喜に向かう#2「Photophobic」は特に強烈な一撃です。さらにはTouche Amoreを思わせるハードコアなノリがある#4「Vestige」、ヴォーカル以外はシューゲイザーに傾く#5「Redacted」で幅広い表現をみせています。
ラストの#8「Diorama」にいたっては幻想的なカーテンの下でSylvaineとの男女デュエットが闇を葬る。ブラックゲイズの中に上品な聖域をつくりだしており、MØLの確かな進化が本作にて示されています。
DREAMCRUSH(2026)

3rdアルバム。全11曲約42分収録。引き続きNuclear Blastからのリリース。”DREAMCRUSHは、夢を抱き続けることの意味と向き合う私たちの音だ。夢は私たちを高く舞い上がらせるが、同時に重くのしかかることもある。喪失と内省、そして新たな自己認識を通じて、私たちは音的にも個人的にも弱さを受け入れることに強さを見出した。このアルバムはこれまでで最も正直な表現であり、夢と現実が衝突する時に存在する美しさと恐怖を旅する作品だ“とのリリースコメントを出しています。
本作のわかりやすい変化でいえば、クリーンボイスの増量と楽曲のコンパクト化(11曲中9曲が3~4分台)。ブラックゲイズゆえんの鋭利さは健在とはいえ、それを緩衝する明るいコード感やメロディの良さは過去イチです。イントロがenvyじゃねえかと思った#1「Dream」から#2「sma forlis」の流れからして攻撃性とメランコリックなスタイルが見事に共演。
短い曲は正義とか聴きやすい方向に持っていけば進化かといえば、そう単純ではないと思います。ですが、本作においては荒々しさがスポーティな感触になっているように感じますし、昂揚感を帯びていく展開、暴美のなめらかな接続とバランス感覚を含めて心身に訴えかける内容です。チェロがしのばせられた#6「Favour」は、スロウダイヴがブラックゲイズのスクリームを覚えたような楽曲ですが、終盤の天へ舞い上がっていくギターソロは特に聴きどころ。
英語とデンマーク語を混成した形で吐き出すKim Song Sternkopfのヴォーカルは、ジョージ・クラーク(Daefheaven)型のスクリームとジェントルな歌い回しを使い分けており、その表現の巧みさ#4「Hud」や#5「Garland」、#9「Dissonance」といった曲で特に表れている。なかには#10「Mimic」のような攻撃特化型の曲も用意していますが、全体の流れを崩さずに機能しています。
Kerrang!のインタビューで制作中にヴォーカルのKim Song SternkopfがADHDと診断され、ギタリストのNicolai Busseは父親になったことを明かし、こうした個人のパーソナルな出来事を最も反映しているのが本作だと語っています。夢にも人生にもあらゆる形態の痛みや歓びが潜んでいるものですが、それらをラストの#11「Crush」はMØL持ち前のダイナミクスで表現。ミントグリーンが示す安らかさを細やかに配慮しつつ、切れ味はそのままに。ブラックゲイズ入門盤にもオススメできる作品となっています。
