東京を拠点に活動するポストブラックメタル・バンド。2016年から始動(参照:3LAさんインタビュー記事)。唯一のオリジナルメンバーであるHirofusa Watanabe氏をコンポーザーに、”ブラックゲイズ・メランコリア”を標榜した音楽を目指している。2018年にPest Prodcuctionsから流通という形で初の正式音源である5曲入りミニアルバム『EP』を発表。
その後は2019年にバンドは止まってしまいますが、2023年から新たなラインナップで再始動。ヴォーカルとノイズを担当するNiiK氏(ex-SUGGESTIONS)、ベースにTakahiro Watanabe氏、ドラムにKou Nakagawa氏(レーベルのungulates主催)が参加した4人組という形態をとっています。
本記事は2025年1月にリリースされた1stアルバム『Our Hearts In Your Heaven』について書いています。
作品紹介
Our Hearts In Your Heaven(2025)
1stアルバム。全7曲約46分収録。”Blackgaze Melancholia:ブラックゲイズ・メランコリア”を標榜するPaleの初フルアルバムは、当ブログではおなじみのTokyo Jupiter Recordsより。
7年前にリリースされたミニアルバム『EP』を併せて聴きましたが、AlcestではなくDeafheaven寄りのブラックゲイズを汲む作風であり、攻撃性と切迫感がオーバーヒートする強烈さがありました。『EP』収録の8分強「Hortus Sanitatis」における長尺表現が本作での主流となり、作品全体を通した緩急の妙が効いています。
暴と美の陣地取りを繰り広げるトレモロ、猛烈なブラストビート、”揺らぎと解放”を促すスクリーム。そういった軸となる武器の上に、光速明滅を繰り返すビームを思わせるノイズが入ってくる。これらが自然なタッチで馴染んでいる不思議さがあり、リード曲となる#1「Euphoria」から本作におけるバンドの特徴が示されています。
直線と曲線の織り成す暴美の極致は8分に及ぶ#2「Coral」にてより鮮明になり、泣きと言われる類のギターソロまでが飛び出してくる。またnhomme + 冬蟲夏草 + 明日の叙景との4way-Splitからの再録となる#5「Dakhme(ダフメ:沈黙の塔を意味)」はノイズを加えた現編成でアップデート。イタリア語で哀歌を意味する#6「Lamento」もゲイズに媚びない粗悪なブラックメタルとして苛烈に駆け上がります。
歌詞については全て英語詞で統一(歌詞は#1~3、#6がNiiK氏、#4がGt.ワタナベ氏とMarino氏、再録となる#5は前任ヴォーカルの坂口氏)。訳に関してはAI翻訳によるものですが、信仰についての疑問を投げかける#1を始めとして自己とは何か、表現者としての矜持について言及しているように思える。
そうした中で最も惹かれるのは本作最長となる約12分の#4「Almost Transparent Blue」。訳すと”限りなく透明に近いブルー(私も読んだ村上龍氏の同名デビュー小説の英訳タイトルがまさにこれ)”。クリーン・ヴォーカルやLUNA SEA的な美観のあるうるおいケアを施しながらもブラックゲイズという本分も欠かさない。”折れた翼を引きずって道を歩く” “虚無と戦う”など表現者としてのあがきを示したワタナベ氏による詞を含め、血と感情の結晶となっています。
”ブラックゲイズ・メランコリア”を掲げる上での倣いと抗いが本作に表れている。創造の炎と引き換えに新たな風を吹かせる力作。