99年から2016年ぐらいまで活動を続けていた実力派インストゥルメンタル3人組+@、sgt.。ベースの明石興司さん、ヴァイオリンの成井幹子さん、ドラムの大野均さんがコアメンバーに、4人編成の時代もありました。
ヴァイオリンを中心に据えた編成から繰り広げられる、烈しさと麗しさを備えたダイナミックなサウンドスケープが持ち味。活動から10年を経て2008年9月にリリースされた初のフルアルバム『Stylus Fantasticus』が各方面から賞賛を浴びます。
翌年以降も精力的に動き、09年にはミニアルバム『Capital of gravity』を発表。2010年には初の海外ツアーも敢行。2011年8月に待望の2ndアルバム『Birthday』を発表。ここ数年は動きがないですが、
本記事はこれまでにフルアルバム2枚、ミニアルバム1枚、ライヴアルバム1枚について書きました。わたしはライヴを3回拝見しています。もう活動されていないようですが、こういう良いバンドがいたというのを是非とも知ってもらいたいですね。
アルバム紹介
Stylus Fantasticus(2008)
全8曲入りの1stフルアルバム。この時は3人編成。サウンドはヴァイオリン、ギター、ベース、ドラムが軸となったインスト。ですが、ピアノやサックスなどの楽器による彩りとノイズを絡ませることで豪華絢爛にドレスアップ。
多方向に広がる至上のサウンドスケープを生み出しています。エレガントという言葉がしっくりくるし、獰猛な獣を思わせる激しさだってある。既存のポストロック勢とはまた違う力強さと美しさがsgt.にはあります。
ROVOを思わせるようなカタルシスもまた醍醐味のひとつ(実際にヴァイオリンの成井さんはROVOの勝井さんの弟子筋だという)。またジャンルの垣根を越えてジャズやクラシック、ノイズ、エモなどが交錯しており、独自の色彩に染め上げる創造性と技巧は特筆すべきものがあります。
全8曲、1曲ごとに流れ行く情景はこの上ない風情がある。ダイナミズム、スリリングな展開、凛々しき美しい魅力に満ち溢れた本作は鮮やかな世界へと人々を連れていく。
ピアノのエレガンスな響きと光に彩られた#1「すばらしき光」、華やいだメロディに温かみを覚える#4「声を出して考える方法」、サックスなども交えて優雅な一時を演出する#5「再生と密室」は鮮やかに。さらには16分をこえる時間で圧倒的なカタルシスを生む#7「銀河を壊して発電所を創れ」はすさまじいの一言。
天空を優雅に舞い踊る麗しきヴァイオリン、悠然とした大地を思わせるほどの力強さを持つリズム隊。それらが紡ぐ壮麗なるスペクタクル・ドラマがあまりにも美しい。10年に渡って蓄積した技術・経験という揺るぎない土台をベースに大輪の花を咲かせた傑作。
Capital of gravity(2009)
6曲入り2ndミニアルバム。ギターに新メンバーを迎えて4人編成で制作。繊細さと攻撃性を同居させたギターに正確無比な鉄壁のリズム隊による土台、そこに凛々しいまでの麗しさを持つヴァイオリンが幻想性を加味し、sgt.という名の生命を宿す。
基本は変わらないものの、高品質の楽曲群には唸ってしまいます。獰猛かつ荒々しさは前作ほどではないのだが、滑らかで流麗な曲調による色鮮やかさ、静謐な音の持つ力や深みがさらにアップしているように感じます。
ヴァイオリンの美麗な響きと肉感的なリズムが塗り重なっていく#2「Apollo Program」からして、sgt.らしい。突如としたリズムチェンジからのた打ち回るように崩壊へとベクトルが向く#3「Tears of na-ga」も揺らぎをもたらしています。
その中で#4「Ant’s planet」のように従来のバンドサウンドに加えてキーボードが戯れ、ラジカルな音響処理が絡む新境地を見せています。
徐々に爆発していくヴァイオリンの高らかな旋律が宇宙へと連れ去るかのような10分越えの#5「Epsilon」も特筆すべき出来。息の詰まるような展開と緩急の妙技で一気に楽曲に引き込まれます。
フルアルバムから繋がる流れとしては至極順当に思えるが、彼等の実力が確かなことが如実に伺える作品である。その豊潤な音色には心の底から酔えます。小説との連携も取られた本作は、音だけでない表現もプラスしたかったということなのだろう。
ちなみにsgt.の中でも特に人気の高い#6「銀河の車窓」はリミックスバージョンとして収録。配信限定で再録バージョンが販売されています。
LIVE(2010)
2009年11月25日の”Capital of gravity” TOUR FINAL ONEMAN SHOW @ 下北沢ERAの模様(ちなみに初のワンマン・ライヴ)を収めた2枚組ライヴアルバム。
元々はototoyと一部店舗限定で昨年10月に販売されていたものですが、2ndアルバムの発売に伴って同時に全国流通する運びとなった。
選曲は「銀河の車窓から」が入ってない事を除けばこの時点でベストといえるもの。MCはカットされてますが、全12曲で93分にも及ぶ白熱のパフォーマンスを封じ込めています。
ゲストプレイヤーに中村圭作氏や大谷能生氏を迎えており、白熱のアンサンブルが醍醐味。個人的にも公演は3度体験しているが、10年にも渡ってひたすら鍛錬し続けてきた彼等のライヴ力は半端のないもの。
初っ端の「囚人たちのジレンマゲーム」から抜群の安定感で突き進み、変拍子も交えたスリリングな展開をリズム隊が大木のように支えています。そして、ギターが折り重なり、核となるヴァイオリンの旋律を伴って壮大な空へと飛翔。鮮やかにsgt.の世界へと引き込む。
ゲストのピアノやサックスも完璧に結晶化されていて、まるで隙がない。所々ではアドリヴも入ってるし、音源からの進化も感じ取れます。
スリリングな展開で魅せまくる「Epsilon」や「Apollo Program」、代表曲「再生と密室」、圧倒的なアンサンブルと轟音が火を吹く「ムノユラギ」など聴き所多し。ファンならずともチェックしてほしいライヴアルバム。
Birthday(2011)
3年ぶりとなる全9曲入り2ndアルバム。幻想的な世界観と根幹の音楽性はそのままに、本作は“星の少女が旅をする物語”を多彩なアイデアとアンサンブルの元で投影していくコンセプト・アルバムとなっています。
赤子の声が序章を飾る20秒強の#1「古ぼけた絵本」が始まりを告げ、自らの音楽をさらに精錬した#2「cosgoda」で加速して銀河を突き抜けていく。
強靭でグルーヴィなリズムの上を美麗な鍵盤とヴァイオリンが響き、火花を散らすようなスリリングな展開を繰り広げる9分間にはグイグイ引き込まれます。
続く#3「ライマンアルファの森」では一転してクラシカルな叙事性が色濃く表現されているが、終盤では独特のアンサンブルの上で優雅に舞うヴァイオリンの旋律に虜。情感豊かで映像性の高いサウンドは熟成を重ねています。
メンバー自らの高い技術と構成/展開力を集約。ゲストプレイヤーとして中村圭作や大谷能生、uhnellysのkim他が参加。その調和が見事なもので、バンドのアート感覚にも還元されていて作品の深みに繋がっています。
フリーキーなサクスフォンが暴れ回り、プログレッシヴの展開力とジャズの生々しい緊張感とロック的ダイナミズムが交錯する#4「アラベスク」、Uhnellysのkimによる軽快なラップとうねるグルーヴィなリズム、情熱的なトランペットに艶やかなメロディが手を取り合う迫真の#7「Zweiter Weltkrieg」では新境地を開拓。
その中で実験性の強い#5~#6のインタールードといい、これまでと違った刺激で昂揚を湧きたてていく。ゲスト陣と一気にジャズ/クラシック的なフィーリングが増して荘厳で華やかな#8~#9の締めくくりもまた甘い陶酔と深い余韻を誘う。
自らの想い描く”世界観”を突き詰め、情感豊かに織り上げられたこの壮大な物語には、心の芯に響く感動がある。激しいダイナミズムと壮麗な音色が合致した傑作の1st「Stylus Fantasticus」を駆け抜け、様々なアイデアや構築に工夫を重ねながら新たな領域へと突入した本作もまた新鮮な驚きを与えてくれる作品です。