【作品紹介】Show Me a Dinosaur、麗らかな突風のごときブラックゲイズ

 ロシア・サンクトペテルブルク出身のブラックゲイズ4人組。コアメンバーが大学生時代の友人で2011年に結成。もともとはインストゥルメンタル・バンドとして活動していましたが、2014年に発表した1stアルバム『Dust』から歌入り曲を導入しています。

 2016年にブラックゲイズに本格的に舵を切った2ndアルバム『Show Me a Dinosaur』をリリース。その後2020年末に3rdアルバム『Plantgazer』を発表しています。ちなみにRawk’n’RollThe Pit of the Damned、2つのインタビューを参照するとバンド名に特に由来や意味はないらしい。

 本記事はこれまでに発表されているフルアルバム全3作品、EP1作品について書いています。

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作品紹介

Evolvent(2011)

 1st EP。全6曲約30分収録。結成当時はインストゥルメンタル・バンドとしており、本作は全曲が歌なしです。次作発売時のインタビューになりますが、Rawk’n’Rollの記事によるとインスト・バンドをやってみようと結成したことが出発地点。This Will Destroy YouPianos Become The TeethDeafheavenJesuSlowdiveGodspeed You! Black Emperorといったバンドに影響を受けているとのこと。

 本作で聴けるのはまぎれもなく轟音系ポストロックの系譜によるものですが、前述したTWDYに加え、Explosions In The Skyを思わせる叙情性の強いインストが主体。クリーントーンやトレモロを駆使し、5分前後の尺をゆったりと起伏。そして希望を感じさせる終わり方へと向かう。#3「Is This Really Happening?!」はその特徴を大いに発揮し、作品を通しても暗より明の要素が強く出ています。

 アルバム自体は、宇宙飛行士の名を冠した#2「Gagarin」を始めとして、#1「Still First in Space」に#5「You Can’t Find This Place on Google Maps」と地球外の惑星や空間にロマンを馳せる。この点を踏まえるとRosettaのように宇宙をテーマにしていると思われます(本EPについての記事はほぼないので、あくまで推測です)。

 他にも世界遺産に登録されているカムチャツカ火山群を擁するロシアの都市名をタイトルにしている#4「Petropavlovsk-Kamchatsky」も興味深い。結成して間もないころにリリースされた本EPをこんな時期もあったと捉えるか、インスト時代こそが至高と捉えるかは人それぞれ。それでも、この手のインスト好きにはうなずける内容です。

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Dust(2014)

 1stアルバム。全7曲約45分収録。前作に引き続きインスト曲が大半を占めていますが、終盤2曲はヴォーカル入り。ブラックゲイズの種が蒔かれた作品となっています。arctic dronesのインタビューを参照すると、作品のテーマとして”偽りの価値観”を挙げる。ラストに置かれた#7「Rain」の歌詞 、”雨は 私たちが築いてきたすべての嘘を 洗い流してくれるだろう“はそれを要約して伝えています。

 インストを大半が占めるとはいえ、前作とは違ってそれらの曲でスピーチサンプルを使用(この記事によると、#1と#5に映画『ジュラシック・パーク』のサンプルが使われている)。またブラストビートは登場しないですが、以前よりも速いリズムが取り入れられたり、ブラックゲイズ系に連なる陰鬱さや重厚さをまとったりと変化はあります。

 どんよりと分厚い雲のような閉塞感が続くインストの#1「Man Made God」から作品は幕開け。続く#2「Bhopal」では1984年のインドで起きたボパール化学工場事故を取り上げており、史実からインスピレーションを経て沈痛な物語と描き出しています。そして中盤に置かれた#5「Drawing the Line」は、TWDYの3rdアルバム『Tunnel Blanket』ばりの凄まじい音圧が感覚の全てをかっさらうもので、本作でも指折りの楽曲です。

 終盤の2曲#6「Dust」と#7「Rain」は前述したように歌入り。本作で聴けるヴォーカルはがなりと金切りの中間に感じますが、あくまでひとつの楽器としてサブキャラ的な位置です。#7「Rain」はブラックゲイズを取り入れたEITSみたいで、なかなかに新鮮。

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Show Me a Dinosaur(2016)

 2ndアルバム。全7曲約41分収録。ポストブラックメタル・ガイドブックによると、本作は天体や銀河の成り立ちと人間の内部を結ぶのがコンセプト。

 The Pit of the Damnedのインタビューでは、”このアルバムでは、Woods Of DesolationとLantlosから最も大きな影響を受けた“と話します。加えて、リズム隊のメンバーが2人とも入れ替わったことで、ブラストビートが導入できたとも語る(技術的なものではなく、音楽的嗜好が前ドラマーとは違ったそう)。

 大胆な変化はオープニングを飾る#1「Rakev」で表れていますが、トレモロリフ+ブラストビート+絶叫という神器を用いて旋風が吹き荒れる。その上でShow Me a Dinosaurはブラックメタルの暗鬱と残忍性をメロディで手なずけ、ほどよく丸みを帯びて聴こえるように施しています。

 繊細なトーンでつづられるインスト#3「Ochag」から、麗らかな突風のごとし#4「Lights」と#5「Gone」の流れにはジャケットのような色彩に溢れる景色が浮かびあがる。その辺りは前述したLantlosはそうですが、初期から脈々と続くインスト・ポストロック勢からの影響が垣間見えます。

 ラストを飾る#7「Wojna」は10分超の大曲。ポストメタル的なダイナミクスを活用する中で戦禍の悲惨さが重苦しく迫ります。ブラックゲイズ本格化。進化は踏み出した変化と共に訪れる。

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Plantgazer(2020)

 3rdアルバム。全7曲約44分収録。かつてヘルマン・ヘッセは”庭仕事とは、魂を解放する瞑想である“と述べました。対してのShow Me a Dinosaur。コロナ禍という孤独の隔離期間に観葉植物を眺め、物思いに耽ることは新たなゲイズに通ずることを発見したとか、してないとか。

 冒頭を飾る#1「Sunflower」にしても#5「Unsaid Ⅰ」にしても、Deafheaven『Sunbather』に明らかに迫る作風です。甲高い絶叫スタイルを取り入れたことがそう感じる一番の要因だと思いますが、激情という言葉がよぎるアグレッシヴなパートを涼やかなメロディがくるんでいる。それゆえにキャッチーであるのと同時に昂揚感に包まれます。初期EPの頃から考えると光属性タイプのバンドとはいえ、十二分な日射量による光合成ゲイズとして成立させているのは素晴らしいのひとこと。

 本作の重要な手がかりとして、IDIOTEQにてヴォーカルのArtemが全曲解説している記事があります。その記事内でひとつ取り上げるとしたら、Spotifyで100万回再生を超している#3「Red River」でしょう。ロシアのダルティガン川が工場排水によって赤く染まる環境汚染が題材(参照:ギズモードジャパン記事)。Jakobを思わせるディレイと反響を活かした序盤からブラックゲイズ的なスタイルへと落とし込む佳曲となっています。

 ヨーロッパ最後の独裁国家と言われるベラルーシの2020年夏の出来事を題材とした#2「Marsh」は、ヴォーカル以外はenvy的な領域。ですが、終盤のコーラスワークと共に歓喜を分かち合う様子に胸を打たれます。

 そして誰もが耳と心を奪われるだろう#6「Hum」もまた耳を引く。柔らかなトレモロやクリーンボイスに導かれる序盤を経ると、激しいブラストビートを中心とした爆発力も携えているのですが、全体的にメランコリック。のどかに照り付ける陽光を浴びている温かさがあります。

 太陽の恵み、植物の恵みは音楽を育てる。つぼみだった光属性のブラックゲイズは本作で完全開花。ポストブラックメタル/ブラックゲイズ入門の先頭集団に挙げるべき名品です。

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プレイリスト

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