宇宙へと愛をこめて。ポストメタル・バンド、Rosettaについて。

 Rosettaは2003年8月にアメリカ・フィラデルフィアにて結成されたポストメタル・バンドです。結成時のメンバーは全員が高校の知り合いであり、幾度かのセッションを経て活動に至ったそうな。音楽的には冒頭でも書いたようにポストメタルと呼ばれるものですが、自身の音楽性を”Metal For Astronauts(宇宙飛行士のためのメタル)”とユーモラスに表現する通りに、空間を重視したサウンドスケープが特徴的です。

 活動は15年以上。これまでにフルアルバムは6枚発表し、EPも数枚リリース。その中で1曲あげますとThe Cureのカバー「Homesick」が彼等でしかないスペーシーなメタルサウンドで彩られており、まず聴いてもらいたいと推薦する曲です。

 ここ日本にも2016年12月に初来日。Tokyo Jupiter RecordsとOVUMの招聘により東名阪ツアーが実現しています。2018年9月にはTJLA FESTにて再来日。わたしは2016年と2018年に1公演ずつ参加しています。音源の理知的な印象だったのが、ライヴではとてもアグレッシヴでハードコアな姿勢がまじまじと伝わり、そのギャップに驚かされました。熱くて肉体的なパフォーマンスであるのがとにかくインパクトとして残っています。いずれまたみたいところです。

 本記事ではRosettaの作品を紹介していきます。

目次

The Galilean Satellites(2005)

 1stアルバム。CD2枚組で1時間58分という収録時間。タイトルはガリレオ衛星で、木星の4つの衛星のことを指す。宇宙や天文学を背景に哲学的でスペーシーなポストメタルを展開。圧倒的な轟音渦と繊細にたゆたう叙情を両手に携えて、銀河をドラマティックに脅かします。初期から先陣達の要素を噛み砕きつつも自らの個性を発揮。

 長尺ながら静と動の巧みな押し引きによる展開に、スラッジメタル寄りの重低音の迫力、美しいメロディの質感、それを隙のない構成力で楽曲に寄与していきます。空間に気を遣いながら絶妙に各楽器陣を絡ませて思慮深く、深遠な音の層を形成。

 Vo.Mikeの咆哮もかなり強烈です。特に個性的に感じるのは、空間の操り方の巧さと浮遊感で、エフェクターを使用しての奥行きの出し方と拡がり方に特徴があること。あとは本作だけ、ヘヴィメタル的なギターフレーズが用いられていること。「Absent」は特にMastodonっぽさを感じます。

 ポストメタルでも先駆者ISISと並んで音楽IQの高さを伺わせますし、アーロン・ターナー総帥が提唱する”Thinking Man’s Metal”を体現しているバンドであると感じます。その証拠にディスク2はアンビエント/ノイズ/ドローン編となっており、さら空間軸/時間軸を巧みに操って聴き手の内側を浸食していく。2枚同時にかけると地球から解脱しての宇宙遊泳があなたを待っているそうな。

Wake/Lift(2007)

 2ndアルバム。全7曲約65分収録。天文学や宇宙というテーマを掲げた作品は引き続き。ISIS(The Band)やPelicanといったポストメタル系バンドが活躍している中で(2007年当時の話です)、Rosettaもそのジャンルに入れられる存在ですが、彼等とは違う方向性を持ったバンドだという事を印象付けます。

 ポストロックとシューゲイザーの錬金だけでは到達しえない空間演出の妙。空間系のエフェクトを多用したスペーシーなサウンド・メイキングがそれを物語ります。静と動によるダイナミックな展開とスケール感は1stアルバムを遥かに洗練させたものとなっており、自らのスタイルをものにした作品とも表現して差し支え無し。

 冒頭のビッグバンからスラッジメタルとアンビエンスが手を取り合う12分を越えの#1「Red in Tooth and Claw」がもたらす衝撃。続いて#2~#4の組曲「Lift」にて繰り広げられるスペクタクルな展開と鮮やかな描写。そして、現在でもライヴで演奏されることの多い彼等にとってのクラシック曲#5「Wake」のカタルシス。いずれもが強力です。

 ヘヴィかつアトモスフェリックに紡ぐ宇宙賛歌。ポストメタルと共に行く宇宙紀行。ガリレオ衛星を超えた先の天文を彼等は見つけたのです。

A Determinism Of Morality(2010)

 約2年半ぶりとなる3rdフルアルバム。全7曲約47分収録。天文学/宇宙空間への興味・憧憬はさらに増したのか。本作は洗練の度合いが非常に進んでおり、繊細なギターやリズム隊のかもし出す浮遊感が強まっています。スケールの大きな空間描写の中で、ロマンティックで艶やかな風情や麗しさというものが静けさの中に感じられ、ふわっとした柔らかさも強靭なグルーヴの中に落とし込まれている。

 アトモスフェリックなギターの音色はまさしくそれを体現していますし、クリーンヴォイスやアルペジオが積極的に導入されているところを見ると、美しく詩的なサウンドスケープへと転換を図っているようにも思えます。曲自体がラスト曲を除くと5~6分台と短くなり、コンパクトになった中でも彼等の持ち味はしっかりと発揮。

 静と動の振れ幅やコントラストは確かに強力。その上で本作では、刻々と時の移ろいと共に増す緊張感の方が身を締め付けます。より顕著なポストロック化は感じるところ。しかし、突如として猛威を振るう轟音波動やVo.Mikeの咆哮には背筋がピンと伸びるし、カタルシスをもたらす爆発は景色を一発で塗り替えてしまう破壊力を秘めています。

 印象的なベースリフから始まるラスト曲#7「A Determinism of Morality」は、ポストメタル史に残る名曲のひとつ。壮麗なる美と威圧的な轟音が緻密に編みこまれながら、母たる大地と憧憬の宇宙をリンクさせてしまうRosettaのスペース感覚はここにきてさらに極まっています。 Rosettaで一枚挙げろと言われれば、わたしは間違いなく本作を選びます。

The Anaesthete(2013)

 約3年ぶりとなる4thアルバム。全9曲約58分収録。気付かぬうちにバンド・ロゴがブラックメタル風へと変化し、本作のジャケもRosettaとは思えないまさかのものであって、情報が掲載された時は思わずひっくり返るほど衝撃的でした。

 これまでのポストメタルの流れを汲みつつ、本作ではここにきて変化を求めています。彼等にしては前のめりな楽曲があったりするし、想像以上に重い音塊を見舞う前衛スラッジ曲#4「Oku / The Secrets」、ギターノイズを中心にして荒廃の風景が奏でられる#9「Shugyo / Austerity」といった新しい試みがチラホラ。なかでも#6「Myo / The Miraculous」みたいなどす黒くヘヴィな楽曲は、ちょっと想像ができなかったので驚かされました。

 クリーン・トーンの艶やかな音色に引っ張られながら、強度・重度共に強烈な轟音がダイナミクスに拍車をかける#1「Ryu / Tradition」からは、磨き上げられたRosettaのサウンドが表出。#7「Hara / The Center」を聴いてもわかるように、ゆっくりと丁寧に時間をかけながら静と動の旅路につく曲も当然あります。

 独特ともいえる浮遊感や時空の切り分けによる緻密な音響空間の生成、雄大に轟くヘヴィネス、アンビエント/ドローンとの有機的な連動。リスナーの求めることにしっかりと応えています。ジャケットからもわかる通りに怒りや炎からイメージされる激しさの部分が、全作品中で一番強い。ただ、作品としての求心力や叙情味は前作に譲るのも事実。要所は締めているとはいえ、本作はやや食い足りなさが残ります。

Flies To Flame(2014)

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 4曲入りEP。4thアルバムはやたらとスラッジ・メタル色を出した曲、ノイズ増量の曲などの冒険を見せましたが、本作の感触は3rdアルバム『A Determinism of Morality』に近いもの。いつも通りの様式は用い、自身の最大の武器であったスペーシーな意匠に細心の注意を払っています。空間にまろやかに溶けていく美しいメロディ、浮遊感を伴った轟音が最大限に迫る効果を発揮。いわゆるアトモスフェリックな感触が強くなっているのが良いですね。個人的には4thアルバムの変化は少し首をかしげましたが、本作は従来のファンとしては安心して聴けます。

 約9分半にも及ぶ#1「Soot」や#3「Les Mots et les Choses」は、スペーシーな美轟音ポストメタルとして秀逸であり、彼等がこれまで残してきた「A Determinism of Morality」や「TMA-3」などと引けをとらないかなあと。Explosions In The Skyにこんな曲なかったっけって思えるインスト#2「Seven Years With Nothing to Show」はご愛嬌。重厚スラッジから淡くセンチメンタルな風景へと着地する#4「Pegasus」には驚かされたのですが、精度の高い4曲が揃っており、期待以上のEPです。

Quintessential Ephemera(2015)

 宇宙へと愛をこめて。約2年ぶりとなる5thフルアルバム。City of ChipsのGt/VoであるEric Jerniganを正式メンバーに迎え、5人編成で制作されています。アルバムやアートワークについての説明は、リリース元であるTokyo Jupiter Recordsさんのページをご参照いただきたい。録音がなぜか小さいことが気になるところですが。

  ちょっとした実験台となった前作『The Anaesthete』での経験を経て、博士の愛した数式はこれじゃなかったと悟ったのでしょうか。昨年にリリースの4曲入りEPと同じく、3rdアルバム時のようなポストメタル路線に戻っています。静・動アプローチの妙によるアトモスフェリックかつ奥行きの深い音像。そして、流行り廃りとはまるで無縁の特有の浮遊感。さらには轟音スイッチが入った時の低音咆哮と重厚なサウンドも含め、Rosetta構成要素が惜しげも無く使われております。

 本作においては、新メンバー加入によるクリーン・ボイスの増量、またメロディが今まで以上に滑らかな光沢を放つようになるなど叙情性がフォーカスされています。ドラマティックな作風を助長する美インストであるオープニング#1、エンディング#9に配置(特に#9は彼等がこれまで発表した曲の中で一番美しい)。

 その中に「Untitled」と名づけられた7曲をはさみ、Rosettaらしい宇宙規模のスケールを提示してます。特に#6「Untitled Ⅴ」で聴かせる新境地に惚れ惚れ。さらに国内盤にはボーナストラック2曲を追加収録。ConstantsのGt/VoであるWill Benoitのソロプロジェクト、Living Phantomsによるリミックス2曲が前作に続いて提供されています。

 ト◯タ生産方式のように改善を重ねての品質向上は十分に伝わります。ただ、3rdアルバム程の衝撃はないかなというのが正直なところ。轟音パートもメロディに重きを置いている分、全体として丸みを帯びている印象がありますし。この辺りにもっとガツンと衝撃あり、コントラストが鮮明な方が良かったかなと。とはいえメロディに惹かれる分、Rosetta入門編として勧められる一作。

Utopiod(2017)

 約2年ぶりとなる6thアルバム。引き続きの5人編成で制作し、全9曲約62分収録。タイトルは理想郷を意味する「Utopia」と、依存症を生じやすく離脱症状や過剰摂取により、アメリカにおいては薬物中毒死の半数近くを占める医薬品「Opioid」という、ほぼ正反対の意味を持つ2つの言葉を組み合わせた造語です。

 一人の人間の誕生~死まで、喜怒哀楽の感情を楽曲によって塗り分けて描き切る。もともとコンセプチュアルなバンドでしたが、本作ではさらに深い内省を促し、自己の内的宇宙と深奥を巡ります。冒頭を飾る#1「Amnion」~#2「Intrapartum」でわかる通りに、儚くエレガンスな音像への研磨が顕著。以前までとは違うベクトルの柔であり、いうなれば上品さが漂うものです。

 ツインギターによる空間演出の妙と重く騒々しいサウンド、Mike Armineの轟く咆哮は健在。2nd~3rdアルバムの表現を美アップデートした#6「Detente」。4thアルバムで聴かせた怒りの爆発よりも深い次元へ到達した#8「Qohelet」と深化を感じさせる曲の存在が頼もしい。

 言えるのは全体として叙情性へ重きが置かれています。全6作品の中でも一番かなと感じるほどに。これまでを踏まえ昇華してきた上で、理知的でメロウなポストメタル系への転質。それが人の感情と共鳴する。人の人生と共鳴する。彼等のディスコグラフィーにおいて常に内在していた”空間と宇宙”は、もちろん本作にも存在します。ですが、かつてにはなかった味わいがここにはあるのです。

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