【作品紹介】SPORT、小気味良い疾走感とエモさの絶妙なブレンド

 フランス・リヨンで結成されたインディーロック/エモ4人組。主に2010~2019年まで活動。欧州からエモ・リバイバルへ貢献した存在で、2017年には来日公演も実現しています。

 19年を最後に解散していましたが、2024年に復活。25年に新作となる4thアルバム『In Waves』のリリースを控えており、2025年7月には来日ツアー7公演を開催予定。

 本記事はこれまでに発表されているフルアルバム3作品について書いています。

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作品紹介

Colors(2012)

 1stアルバム。全13曲約28分収録。SPORTというバンド名から勝手に縛りを設けているのか。曲名は#1「Barcelona, 1992」や#2「Helsinki, 1952」からもわかる通り、ほぼ全タイトルがオリンピック開催地と開催年にちなんでいます(#11「Annecy, 2018」だけは最終候補地)。

 SPORTはツインギター、ベース、ドラムというオーソドックスな編成で、ギターの片割れとベースがツイン・ヴォーカルを担当。そんな彼らが主体とする音楽スタイルはエモ。新緑の煌めきを思わせるアルペジオと味つけのタッピング、そして軽快な進行が楽曲の源。そこにシンガロンガできる歌メロ、選は細くとも情熱的な叫びが組み合わさります。

 冒頭を飾る#1「Barcelona, 1992」から若さと勢いは全てを解決するみたいなノリ。当時はエモ・リバイバルが波及しつつあった時期で、Algernon CadwalladerやSnowing辺りと共振する部分が少なからずあります。ただ印象でいうと、SPORTの方が整理されていてストレートな聴き心地。メロディックパンクという表現もあてはめられますし、#6「Sydney, 2000」なんかはメロコアですしね。

 1~2分台の曲が10/13を占めていることからも全体通して小気味よく進む。その中でEnemies辺りのマスロック勢に通ずる#4「Saint Moritz, 1928」、ミッドウェストエモ的な何かが宿る#11「Annecy, 2018」は良いスパイスになっています。

Bon Voyage(2014)

 2ndアルバム。全11曲約28分収録。前作に続いてスポーツ関連の曲名をつけており、本作では故人となった著名アスリートの名を冠しています。

 コート上で亡くなったNBA選手のレジー・ルイス(#2)、陸上競技における女子100m、200mの世界記録保持者のフローレンス・グリフィス=ジョイナー(#4)、プロレスラーのアンドレ・ザ・ジャイアント(#7)など。ただ、オープニング#1「.」は映画『スタンド・バイ・ミー』からの引用だったりしますが。

 前作の延長上の作風で、エモ・リバイバルの片棒をかつぎながらもパンクやマスロックの要素を組み合わせる。それでも丁寧に物事を運ぶよりも勢いが重要であるみたいな姿勢が良いですね。若者らしい熱量と蒼さを全面に出して、テンション高く突っ走り、歌い叫ぶ。また欧州ではなくアメリカのエモ・バンド寄りの音の感触があるのも特徴です。

 軽快なギター・フレーズから怒涛の勢いで駆け抜ける#2「Reggie Lewis」、冒頭のドラム捌きから98秒間エネルギッシュなスタイルを貫く#3「Eric Tabarly」、穏やかなサウンドが寂寥感を湛えつつも肩を組んでの絶唱でひとつになれる#6「Jacques Mayol」等を収録。アルバムを通して、小気味良い疾走感とエモさの絶妙なブレンドぶり。ライヴを熱と一体感で共有する姿が浮かんできます。

Slow(2016)

 3rdアルバム。全9曲約31分収録。調べた感じ、本作では曲名に対しての縛りはない模様(“sport slow”という検索泣かせもありますが、オフィシャル含めても情報がそもそもほぼなかった)。

 タイトルが作品を要約しているのか、これまでの2作と比べて抑制が効いています。某プロレスラーの”元気があれば何でも”より、メロディに重きを置いて感傷的なムードを引き立てる方向に舵を切っている。ヴォーカル以外はAmerican Football的な#4「Full House」、2ndアルバムのFoxingを思わせる#5「Leaves」など一歩引いた目線での曲でそうした変化を感じ取れます。

 ラスト#9「..」にいたっては、初期のtoeを彷彿とさせるインストを披露していて驚き。しかしながらアルペジオを主体とした組み立て、ツインヴォーカルの掠れ気味の声で訴えかけるのは変わらない。#1「Deadfilm」や#6「Muscles」辺りはバンドの本分が発揮されているように感じますしね。

 これまでよりも涼やかでいて、滋味深くもあり。自分たちの強みを活かしながら『Slow』の中には大きな前進があります。前2作の方が人気だとは思いますが、私は本作が一番好み。ちなみに#7「Trompe l’ennui」はフランス語で”退屈を忘れさせる”といった意で、ワインの名前にも使われているらしい。この曲の”死を免れようとしても、鎌はあなたの足元を傷つけるだろう 人生に皺を寄せ付けないために人は死ぬ”という詞に何とも考えさせられます。

In Waves(2025)

 4thアルバム。再始動後の初アルバム。

ライヴ映像

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