シアトルを拠点に活動したポストハードコア4人組。Botch、Nineironspitfire、Kill Sadieといったその筋で名の通った元メンバーが集結し、2002年から2009年まで活動。つかみどころのない変則的なハードコア、度肝を抜くライヴパフォーマンスを繰り広げました。
活動期間の中で3枚のフルアルバムを残しています。2006年3月にIndependence-D、2007年1月にはISIS(the Band)のサポートと2度の来日を行いました。わたしは2007年の公演を体感。そして解散後の2016、2021、2022年に再結成公演を行っています。
本記事は彼等が残した3枚のフルアルバムについて書いています。
アルバム紹介
Oxeneers or The Lion Sleeps When Its Antelope Go Home(2004)
1stアルバム。全11曲約47分収録。4人の正規メンバーの他にシアトル界隈のミュージシャンが6名参加。エンジニアはマット・ベイルズ(ex-Minus The Bear)を起用しています。ハードコアという根幹があるにせよ、TAASの特徴はダンサブルで自由な振る舞いができることでしょう。
ヴォーカルも楽器隊も変幻自在に音を出すことができ、制限を設けることなく聴き手を驚かせ、楽しませる。#1「The Shit Sisters」から特性が凝縮。出自ゆえの太い音を出し、シンセサイザーを絡め、ねちっこいリズムと叫び踊るヴォーカルがリード。#2「Angela’s Secret」も”踊れる”の人力アンサンブルでギターフレーズがやたらと耳に残ります。
常に”狂い”と”流動”があり、既存のポストハードコアにはない無軌道さと揺れ動きがあります。それは聴いたままに感じろという訴えか。
特にヴォーカルはどこでスイッチが入るのかわかりません(笑)。楽曲はバリエーションの広さがあり、8分を超える実験的なサイケデリア#5「Gadget Arms」、着地点不明のクラウトロック~プログレ#11「Idaho」まで用意。
ウナギのようにつかむのが難しいけれど、食すと極上の味がする。加えて声やフレーズの断片が耳の片隅にこびりつく。誉め言葉としての”変態”を彼等には用いたくなります。
Easter(2006)
2ndアルバム。全12曲約48分収録。ドラムがクリス・コモンに交代(彼はプロデュースも兼ねる)。ジャケットの晴れやかさは感じるものの、前作同様にトリッキーで在り続けようとし続けます。
同じBotch派生組のMinus The Bearと共振する部分もあれど、彼らほどの清涼感はなく。逆に解毒剤の効かない中毒性がある音楽にTAASは向かっています。
本作ではキーボードの活用と空間の余白を増やしたことは特徴ですが、手なずけることが不可のヴォーカルが変わらず縦横無尽に歌い散らかしています。変則的なリズムを乗りこなし、本能でやっているようにみせて、雄叫びと酔っぱらって歌う感じを上手く使い分けてる。
楽曲の方に目を向けると冒頭の#1「Mescaline Eyes」は反復の中で狂いが増幅され、#3「Subtle Body」はエフェクトによる多彩なギターと明確なグルーヴがあり、#8「Deer Lodge」にはマスロック的なアプローチも取り入れられています。
#2「Horse Girl」が最もキャッチーに聴き手をつかむのに対し、ラストの#12「Crazy Woman Dirty Train」はまるでセッションしているかの切迫感と混沌としたエネルギーを感じ取れる。本能的なヴォーカル、理知的に統率する楽器隊。これらの混成による分類不可避のひねりは、聴き手をおかしくさせてくれます。
Tail Swallower and Dove(2008)
3rdアルバムにして最終作。全10曲約44分収録。Jade TreeからSuicide Squeeze Recordsへ移籍。約1ヶ月というグループにとって最も短いレコーディング期間で制作されました。
軟体動物のような捉えどころの無さは健在で、ひたすらに変動するトーンを操っています。”真にオルタナティヴ”という表現もされますが、定型には絶対にハマらないし、ハマるような面子でもない。ヘヴィネスを薫らせ、ダンサブルで実験的な曲を並べています。
本作はその傾向が特に強く、5曲目以降は消化しにくい曲が並んでいて耳を困惑させてくる。#5「Ethric Double」はサイケデリックな蛇行をし、#9「Cavity Carousel」の甲高いコーラスとギターがかき回し、#10「Briggs」は展開自体が予測不能。
反面、#2「Prince Squid」や#3「Red Line Season」辺りの曲には1stアルバムのテンションが蘇りますが、作品を出すごとにそれは薄れているのは否めないところ。
TAASは前衛という言葉よりは筋書きはあっても、音楽を聴いたままに感じる原始的な楽しみや紐解いていく喜びを示しました。そして、他にはないユニークさと頭のネジが一本外れた感じが常に魅力的でした。