1978年にロバート・スミス(Vo&G)を中心に結成されたUKのロックバンド(前身バンドは1976年から活動)。ダークな美学に満ちた楽曲とカラフルでポップな楽曲を両立させ、今なお現役で活動を続けるレジェンド・バンドのひとつ。
本記事は現在のところ、1st~5thアルバムまでの5作品について書いています。
アルバム紹介
Three Imaginary Boys(1979)
1stアルバム。全13曲約35分収録。当時はスリーピース編成でベーシストはマイケル・デンプシー。彼が唯一参加したフルアルバムであり、ジミヘンのカバー#7「Foxy Lady」ではヴォーカルもとっています。
”キュアーのディスコグラフィーの中で、1枚目は最も好きになれないアルバムなんだ。自分で書いた曲だし、歌っているのは紛れもなく僕自身だけど、それ以外のことには一切口出しできなかったからね“とロバート・スミスは語ります(Rolling Stone誌のインタビュー記事より)。
プロデューサー主導のもとで収録曲や曲順、アートワークが決められたことの不満。それが以降の作品でロバート・スミスが主権を握れることへつながったとか。音楽的にはポストパンクを軸にサーフロックやパワーポップ、サイケ的なニュアンスが盛り込まれます。
#3「Grinding Halt」や#5「Object」での蒼さと疾走感は若さゆえの衝動が乗り、ロックの快活さを示す。一方で#4「Another Day」のクリーントーンの合間に差し挟む淫靡な響き、#6「Subway Song」のホラー要素、#10「Fire In Cairo」のシュールな色合いと雑多な味付けが施されています。後のダークサイドな湿り気がほんのりと表現されている。
ロバート・スミスの歌声は魅惑するような感じではなく、曲に合わせたポップさ。とはいえ全13曲はわりとフラフラしてて雑多な印象があり、一番異色と言われるのも納得します。ちなみに同時期にリリースされている代表曲「Boys Don’t Cry」は収録されていない(後の拡張版などでは収録してたりする)。
Seventeen Seconds(1980)
2ndアルバム。全10曲約35分。ベーシストがサイモン・ギャラップに交代し、キーボーディストのマシュー・ハーリーが加入。
”『Seventeen Seconds』を作ってた時、誰も聴いたことがない音楽を生み出してるっていう手応えを感じてた。その時から僕は、いつだってバンドの最後のアルバムにするつもりでレコーディングに臨むようになった(Rolling Stone誌のインタビュー記事より)”。
鍵盤を主体とした#1「A Reflection」から前作との違いを実感しますが、リズミカルなベースリフの反復と幻想的なギターに覆われる#2「Play For Today」でそれは確かなものとなります。
全体を通してバンドの暗黒耽美的な側面が浮かび上がり、冷ややかで不愛想なトーンでつづられる。実質的な1stアルバムといえるThe Cureの礎となる作品です。ポストパンク的なニュアンスを残しつつ、ゴスに通ずるダークな風味と不気味さが作中の鍵。
#5「Three」はミニマルで無機質なリズムの上を妖しげなギターとシンセで彩色し、#9「At Night」にて重苦しい雰囲気を引きずる。しかしながら、繊細なギターサウンドを中心に哀愁と透明感は謎に確保。
そんな本作の象徴となるのは初期の代表曲#7「A Forest」。緊迫感をもたらすリズム隊の仕事ぶりとミステリアスなムードで覆うギターがタイトル通りに鬱蒼とした森をさまよわせる。同曲はwikipediaによると結成から今まで1000回以上プレイされており、バンドが最も演奏しているとのこと。
なお本作は『死ぬ前に聴くべき1001枚のアルバム』に選出されています。
Faith(1981)
3rdアルバム。全8曲約37分収録。キーボーディストのマシュー・ハーリーが早くも脱退して3人編成で制作。”バンドのメンバー全員が家族の死を経験したことが、『Faith』のサウンドに大きく影響した“という言葉が前述インタビュー記事に残ります。
前作の延長線上にあるのは確かですが、比較するとBPMや色味を抑えて音数もそぎ落とされています。より暗く冷え冷え。モノトーンを基調に明るさという言葉が存在しない世界のよう。
それにベースがやたらとくっきりしているわりに、歌やギターは遠くから聴こえてくるようでしんみりとしています。#1「The Holy Hour」や#8「Faith」は特にその傾向が強い。しかしながら、かすみがかった空気を切り裂くアップテンポ曲#2「Primary」や#6「Doubt」は、世界と決別しているわけではないことを示す。
Faithとは信仰を意味する言葉ですし、本作はロバート・スミスの宗教観が出ているそうですが、本作からは迷いと閉塞感の方が強調されている印象はあります。実体をあえて伴わずに響いてくるというか。
その中でシンセサウンドを基調とした#5「The Funeral Party」は異色の華やかさをもたらしてます。ちなみに#4「All Cats Are Grey」と#7「The Drowning Man」はマーヴィン・ピークの小説『ゴーメンガスト』にインスピレーションを受けているらしい(参照:wikipedia)。
なお本作はFactが2010年に選定した『20 best: Goth records ever made』への選出、ならびにBrooklynVeganが2020年に発表した『Classic Goth’s 13 Greatest Albums』の1枚に選ばれている。
Pornography(1982)
4thアルバム。全8曲約43分収録。引き続きの3人編成で制作。”制作中は酒とドラッグに溺れていて、バンドは崩壊寸前だった。極端な状況に身を置かなければ生まれ得なかったアルバムだと思う“と本人は振り返ります。
そぎ落とされたミニマル志向だった近作からすると、タムを多用したドラムの躍動感と不穏なギターやシンセが目立ちます。それでもカジュアルな部分はあまりなく、鬱を併走させて重苦しさはより深まる。精微に点検しても光が見えてこない状況です。
#1「One Hundred Years」からしてトラウマを植え付けるようなギターが精神をザワつかせ、#5「The Figurehead」にリズム隊の主張の上に哀しい旋律と悲痛な歌声が重なり、#7「Cold」はシンセが加わってより大仰に。
メンバーそれぞれがギリギリの状態でつくられたことでの緊張感や精神的な痛みを反映し、暗い美学はより深まっている。そんな中で民族的なビートと強烈なベースラインがリードする#3「The Hanging Garden」は、”首吊りの庭”という邦題のわりにキャッチーに聴こえる不思議。
前作に引き続き”ゴシック”という立ち位置においても評価は高く、NMEが2011年に発表した『Darkest albums ever: 50 of the best』では『Pornography』は第6位にランクインしています。
The Top(1984)
5thアルバム。全10曲約41分収録。”『The Top』は、僕のソロアルバムと言っても過言ではないかもしれない。僕はアルバム一枚を完成させるだけのまとまったアイディアを持ち合わせていなかったし、それが作品にも反映されてると思う。たぶん、キュアー史上最も散漫なアルバムだろうね“とロバート・スミスは振り返る。
ダークサイドの深淵に堕ちた『Pornography』を経ての本作は、奇想天外でサイケデリックな風合いが増しています。散漫という印象は確かに抱き、パッチワークのように素材をつぎはぎ。オーソドックスな楽器編成に加えてリコーダーやサックスや、バイオリンにパーカッションの音色を投入しています。
これが気まぐれなのか計算通りなのかはわからない。曲調もエスニックだったり、シュールだったり、サイケだったりとさまざまです。それでもポップになってきているのは感じるところで、シングル曲の#6「The Caterpillar」からはこれから本格的に踏み込んでいくカラフルなポップさが表出。
かと思えば終盤は頭のネジがゆるんだようで、ハーモニカの狂騒を中心にラリった感覚につきあわせる#9「Bananafishbones」、少ない音数で暗黒の神殿を巡るかのような雰囲気をかもしだす#10「The Top」が控える。
ほぼソロ名義に近いこともあってイレギュラーなのは間違いないところ。変幻自在過ぎることも確か。The Cureの過渡期の作品というのが世間的な評価となっています。
The Head On The Door(1985)
6thアルバム。全10曲約38分収録。
Kiss Me Kiss Me Kiss Me(1987)
7thアルバム。全18曲約74分収録。
Disintegration(1989)
8thアルバム。全12曲約72分収録。
Wish(1992)
9thアルバム。全12曲約66分収録。
Wild Mood Swings(1996)
10thアルバム。全14曲約61分収録。
Bloodflowers(2000)
11thアルバム。全9曲約58分収録。
The Cure(2004)
12thアルバム。全12曲約55分収録。
4:13 Dream(2008)
13thアルバム。全13曲約53分収録。