【アルバム紹介】Thou、残酷さと芸術性を備えるスラッジメタル

 2005年に結成されたアメリカ・ルイジアナのスラッジメタル・バンド、Thou(ザウ)。

 ”人々に自分自身、周囲の世界、そしてその中での自分の位置について批判的にしてもらうことが、私たちの音楽全体を通しての核となるテーマ”に持っている(Echoes And Dustのインタビューより)

 スラッジメタル~グランジ~パンクを背景に持つ重量級サウンド、個人と政治に関することを中心とした歌詞を自身のスタイルとし、これまでにフルアルバム6作品を発表。4thアルバム『Heathen』はPitchforkの”2014年度ベストメタル・アルバム第1位”に選出。

 2015年にはスラッジメタル・デュオのTHE BODY、2020~21年にはシンガーソングライターのEmma Ruth Rundleとのコラボ作を発表。また2020年6月にはNirvanaのカバー・アルバム『Blessings Of The Highest Order』をリリース。

 本記事では単独名義で発表されているフルアルバム全6作品について書いています。

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アルバム紹介

Tyrant (2007)

 1stアルバム。全7曲約59分収録。五臓六腑を喰い散らかす悪徳スラッジメタル。Thouは初期から一貫して、肉体的にも精神的にも聴き通す耐久力を必要とするバンドです。

 同郷の大御所であるEyehategodから引き継いだヘヴィネスに、メンバーが公言するNirvanaやAlice In Chainsといったグランジ勢からの影響、さらにはKhanate辺りに通ずる残忍さがThouの音楽には乗り移る。

 歪みと非情さに特化した重いリフと喉から絞りだすような叫び。その掛け算によるスロウテンポのスラッジ爆撃がパワープレイのように精神を追い詰めていきます。楽曲は短くても6分半で長くて12分という構成もそれに拍車をかける。

 ただ、本作においてはメロディックな”湿り気”が与えられているのが特徴。時折のブルージーな旋律やわびしいクリーントーンを組み合わせ、一定の穏やかさを持ちこんでいます。

 それは#2「With a Cold~」や#4「I Was Ignored~」を聴けば明らか。ラストを締めくくる約12分の#7「Acceptance」にはポストロックとの錬金が図られたドラマティックさが光る。

 ちなみにタイトルのTyrantは、君主や暴君を意味する。

 本作についてCVLT NATIONのインタビューでヴォーカルを務めるBryan Funckは”Tyrantは支配する上流階級について書いたものであり、加えて睡眠や無意識、無自覚についても描かれています“という言葉を残しています。

メインアーティスト:Thou
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Peasant (2008)

 2ndアルバム。全6曲約43分収録。Peasantは農民を意味します。

 再び前述のインタビューから引用すると”Peasantは下層階級について書かれている。また死をテーマにしており、隷属と苦悩に分かちがたく結びついています“とのこと。アートワークにもそれが表れています。

 10分台の曲がひとつありますが、平均7分で5分台が3曲と少しだけコンパクトになっている。けれども肉体的にも精神的にも消耗する重量感と悲惨さは相変わらず。

 鈍いリズムの上を黒く濁ったギターリフが這い、ブライアンがわめき散らす。怒りよりも哀しみの堆積からくる苦悶スラッジが聴き手に犠牲を強います。前作のような叙情性のドッキングは成されていても、これまでほど柔らかさを帯びていない。

 11分を数える#2「An Age Imprisoned」の後半はSUNN O)))を思わせる重厚なドローンへ発展し、たそがれた旋律から有害な重厚さで制圧していく#4「Burning Black Coals And Dark Memories」と心身をグラつかせる。

 やや速足の#6「The Road of Many Names」で火力と突進力を上げますが、しんみりしたギターの音色によって静かに幕を下ろすさまが何とも不気味。孤独が深まる。

 Thouはテレビのように演出された美しさを良しとしない。世界とはただただ残酷で卑しいことを己のヘヴィネスでもって知らせています。

メインアーティスト:Thou
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Summit(2010)

 3rdアルバム。全5曲約42分収録。10分近い2曲と10分越えの2曲に、3分のインストが締めくくる構成。

 Muzikamagikaのインタビューによると歌詞は”社会的または政治的な意味で、現代の資本主義から生まれた息苦しい階級制度に反抗することを意味する“とブライアンが回答。

 また同インタビュー内ではギタリストのアンディが”音楽的にも歌詞的にも、より広大で高揚感のある壮大なアイデアをこのアルバムに取り入れることがアイデアとしてあった“と話しています。

 確かに#1「By Endurance We Conquer」のブラックメタル風の猛突進に始まって、#3「Prometheus」では終末の重低音にヴィオラが寄り添い、#5「Summit Revisited」では悲しげなホーンを中心に約3分のインストゥルメンタルを披露。

 終わりなき地獄へと連行していく無慈悲なサウンドに、多少の余白と彩りが生まれています。#2「Grissecon」からはPelicanのようなオリエンタルな艶やかさを感じさせ、Hydra Head~Southern Roadに連なる前衛ヘヴィネスに近づいた印象。

 しかし、実験的でドラマティックな方法を取り入れながらも、赤黒いマグマのように煮えたぎるサウンドに容赦はない。Thouの音楽は苦行を強いると同時に人生を見つめ直させます。

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Heathen(2014)

 4thアルバム。全10曲約74分収録。タイトルは訳すと”異教徒”。レーベルサイトの紹介では、”自然、官能的な世界、性的退廃、痛みとエクスタシー、現在を積極的に体験することが好きな人にオススメ“と書かれます。

 CVLT NATIONのインタビューではブライアンが歌詞について”自然崇拝や神格化についてではなく、社会構造から自分を解放し、宇宙の前で自分の取るに足らない存在であることを認識することを目指した“と述べている。

 本作では、過去2作で控えめだった叙情性が再び浮かび上がります。冒頭を飾る14分の大曲#1「Free Will」、#3「Feral Faun」とスラッジメタル黒海をゆっくりと進行する中で、渋いメロウさと泣きの表現がなんともドラマティックに楽曲を彩っている。

 しかしながらヘルシーにはなっておらず、濁りや強度、重量感と超一級品の持ち味はそのまま。とはいえ過激なシーンだけザッピングする雑さはない。引きの部分にフォーカスをあてることで長大で禍々しい物語はさらに説得力を増しています。

 何よりも長尺曲の合間に間奏曲を入れるシームレスな構成を取り、それぞれに楽曲を引き立てている。チェルシー・ウルフっぽい女性歌唱を交えた重音葬送歌#9「Immorality Dictates」、荘厳なイントロから暗鬱に精神をかき乱す#10「Ode to Physical Pain」辺りは痛みと芸術の表裏一体を知らしめます。

 まさに底なしの深遠。なお本作はPitchforkにて”2014年度ベストメタル・アルバム第1位”に選出されています。

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Magnus(2018)

 5thアルバム。全11曲約75分収録。2015年にThe Bodyとのコラボレーション作、2018年にはEP3連作をリリースしてきた中で締めが本作です。前作が異教徒。本作が魔術師。対を成す作品です。

 STEREOGUMのインタビューでは”『Heathern』とはコインの裏返し。異教徒は自然、官能的な世界、喜び、そして痛みを讃えるもの。『Magus』はこれに対する反論であり、内省と自己批判、そしてより難解な哲学、理論、詩を掘り下げている。具体的な物理世界ではなく、より抽象的なもの“と答えています。

 ただ音楽的には前作を踏襲するもので、10分という長尺曲の合間に短い間奏曲を挟む構成であり、全長もほぼ同じ75分。そして変わらずに、重と柔が交錯する巨大なサウンドの上をギャアギャアとわめきちらして耳を痛打します。

 重厚なドローン、アコースティックの色調、女性ヴォーカルの降臨はより自然な流れで統合されており、Thouのスタイルはさらに磨きがかかっている。そして、教壇に立って説くかのような言葉もまた思慮深さと重みを増しています。

 国内盤に付属する歌詞対訳によると#5「Sovereign Self」では”男性的美徳に酔いしれる”と書かれた通りに有害な男性性を糾弾し、#9「Elimination Rhetoric」では”女性蔑視が蔓延した熱き夢から目覚めよ!”と警告するなど具体的に踏み込んでいる。

 苦痛のアンセムを奏で続ける中でThouは内省と自己批判をうながす。猛烈なサウンドが襲い掛かる約11分の#11「Supremacy」を終えた時、聴き手は内なる聖域に何をみつけることができるのか。

 例えるならば”Thinking Man’s Sludge”というべき哲学性をThouの音楽は帯びています。

メインアーティスト:Thou
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Umbilical(2024)

 6thアルバム。全10曲約49分収録。マスタリングをKhanateのジェイムズ・プロトキン先生が担当。ここが煉獄一丁目一番地。アンディ・ギブス(Gt)はThe Quietusのインタビューで”アンチ Heathen”だと本作を端的に表現しています。

 たしかに『Umbilical』には10分超の曲がなく、メロディアスな補填をすることはほとんどありません。歴代の作品の中で最も直接的な表現が目立ち、殴打を強調したリフが鼓膜と心臓を蹂躙する。それに3~4分台が6曲と半数以上をしめ、長くても6分。これまでと打って変わったコンパクトな設計であることも特徴です。

 なのにエゲツなスラッジをギチギチに詰め込んでいる悪徳の所業。主力メンバーが40代を迎えているのに丸くなるどころか、一番野蛮で攻撃的です。#1「Narcissist’s Prayer」はクライマックスで”it’s time to die. So die.(死ぬ時が来た だから死ね)”と狂ったように叫んでおり、言葉の方も容赦ない。

 前述インタビュー記事では”20歳の戦闘的なイデオロギー的視点で書かれた“とはありますが、バンド初期に通ずる荒々しさはひしひしと伝わります。また本作にはThouのライブに最近増えて問題視している”とんちき”達への警告も兼ねられている模様。

 しかし、思いやりを完全に葬ったわけではなく、Uniformの Michael Berdanをフィーチャーした #4「House of Ideas」に叙情的な潤い、そして#8「The Promise」ではシンガロンガできるパートを盛り込んでいて多少は歩み寄っています。

 とはいえ聴きやすさなんてものは微塵もない。Thouの怒りと絶望のハイライトシーン詰め合わせ。地獄のスラッジ千本ノックを受け止める覚悟、それが必要だと聴きたい方に警告はしておきます。

メインアーティスト:Thou
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プレイリスト

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