
アメリカ・コネチカット州で結成されたエモ/インディーロック・バンド。2009年に結成されて当初は4人から始まるも、2013年頃は10名前後が在籍し、記事執筆した2025年9月時点では6人組です(作品ごとにメンバー増減が激しい)。
2013年にバンドは1stアルバム『Whenever, If Ever』を発表し、2010年代前半に起こっていたエモ・リバイバルの波もあってヒットを記録。ただし、バンドはエモの影響にとどまらず、ポストロックや90年代オルタナ、ハードコアといった性質を交えた繊細で壮大な音楽を特徴に持つ。3rdアルバム『Always Foreign』では政治的主張を強め、5thアルバム『Dreams of Being Dust』はヘヴィなスタイルが顕著になっており、作品ごとに変化し続けている。
本記事は2025年8月にリリースされた5thアルバム『Dreams of Being Dust』を含め、これまでに発表されているフルアルバム全5作品について書いています。なお記事内でバンド名を用いる時は、TWIABPと略しています。
作品紹介
Whenever, If Ever(2013)

1stアルバム。全10曲約35分収録。Topshelf Recordsからのリリース。当時は一応8人編成ですが、本作には総勢10人が参加(参照:Captain Maudlinインタビュー)。2025年現在も主要メンバーである5人(Josh Cyr、Steven Buttery、Chris Teti、David Bello、Katie Dvorak)はこの頃から在籍しています。
こうした大所帯でストリングスやホーンといった楽器を含んでおり、オーケストラルな質感を備えたエモがバンドの基盤にあります。アルペジオを中心に引き出してくるキラキラ感、そして歌から沁みてくるナイーヴな詩情。実質のスタート曲である#2「Heartbeat in the brain」はそういった特徴を発揮しつつ、もう少しポストロック寄りのじわじわとした展開で聴き手を惹きつけます。
かと思えば次曲#3「Fightboat」ではトランペットを皮切りに軽やかなビートで進行し、シンセの無邪気な音色と男女混成4人のヴォーカルが交錯する。歌ものオーケストラル轟音系ポストロックの盛り盛り状態なのに4分で終わる#7「Ultimate Steve」のインパクトも大きく、ラストのタム乱打で祭事的な昂揚感をもたらします。
当時からエモ・リバイバルの潮流に位置づけられるバンドではあるのですが、全体を通してSunny Day Real EstateとExplosions In The Sky、Arcade Fireが交わった世界線にいるようなサウンドに感じさせます。OX-FANZINEのインタビューによると”曲がシームレスに流れ、アルバム全体に有機的な流れがあるという点は、スタジオで初めて生まれました。ジャンルの概念を超えたこの一貫性こそが、最も重要な要素です“と本作について答えている。
American FootballとEITSのニュアンスが噛み合わさる最終曲#10「Getting Sodas」は7分に及びます。同曲終盤の歌詞にはバンド名をもじった箇所が用いられており、”世界は美しい場所だが、それは私たちが作るしかない“という言葉は彼らの真意が伺える部分でしょう。
ちなみに本作は、SPIN誌が2017年に発表した【30 Best Emo Revival Albums】の第2位に輝いている。他にもConsequenceが22年に発表した【The Top 15 Emo Albums of the Last 15 Years】にも第8位に選出。驚くことにビルボード200にもランクインしています(196位)。

Harmlessness(2015)

2ndアルバム。全13曲約54分収録。かの名門・Epitaphへと移籍してのリリース。本作はクレジットによると9人で制作。アルバムタイトルは2010年のEP『Formlessness』をもじってつけられています。Epitaphのリリースインフォによると、”『Harmlessness(無害性といった意)』は達成すべき状態であり、「Formless(形なき)」存在の開放的な精神にふさわしい倫理観である“と説明している。うむ、よくわからない・・・。
アコースティックでつづられる#1「You Can’t Live There Forever」が朗らかな曲調のわりに、”世界は大丈夫だと思ってるが、それは嘘だ。死ぬのが怖い“と前作の終曲とは違って、今度はバンド名を否定してから本作は始まる。メンバー変更に伴って本作からDavid Belloがメイン・ヴォーカルを担当。湿っぽい歌唱から鼻にかかった感じの声まで印象に残る歌声を披露してますが、それに加えてKatie Dvorakとの男女のコンビネーション、他メンバーによるバックコーラスを通した豊かなヴォーカルハーモ二ーを聴かせてくれます。
エモの中にインディーロックやポストロック、オーケストラの雰囲気がフィットしたというサウンド。それは本作でも中心に置かれますが、瑞々しくも温かく、場面によっては滋味深さがもたらされます。前述したようにアコースティックが主導権を握る曲が出てきたり、シンセやストリングスのにぎやかしと軽快な進行に心弾む#4「The Word Lisa」、残り1分付近で5拍子へと変わる#8「Wendover」からシームレスにつながるポストロック+慎重な歌もの#9「We Need More Skulls」と聴きどころは多い。
そんな本作で最重要曲となっているのは先行シングル#3「January 10th, 2014」。同曲は2013年にメキシコ・フアレスで起きたバス運転手射殺事件を取り扱っており、性的暴行容疑のかかるバス運転手へダイアナという女性が報復を行った実話を物語としている(MVも同テーマに合わせてつくられている)。穏やかな領域から復讐の炎が燃え上がる瞬間までを幅広いサウンドで表現。そして掛け合いの男女ヴォーカルは胸にせまります。
タイトル通りに#7「Mental Health」とド直球な曲もあり、#12「I Can Be Afraid Of Anything」はうつ病との闘いと助けを求めることの重要性を歌詞に示す。苦悩や痛みと向き合いながらも生きていく美しさを見出そうともがく。それでも、最終曲#13「Mount Hum」はExplosions in the Sky『The World~』辺りを思わせる高音域のギターと小楽団が鳴らす祝祭が一体感を生み出すも、”我々はみんな死ぬ”という言葉を残して締めくくるのが印象的です。
前作よりも暗い領域やテーマに踏み込んでいるものの、繊細な感情表現とそれを実現する卓越したアプローチに魅せられます。また後のインタビューでより重層的な作風を目指したと話していますし、バンドの着実な進化を示す作品です。なお本作はBrooklyn Magazineが発表した【The 20 Best Rock Albums Of 2015】の第1位に選出されている。

Always Foreign(2017)

3rdアルバム。全11曲約42分収録。7人編成となり、引き続きEpitaphからのリリース。”アルバムの曲作りを始めたのは、ちょうどトランプが大統領に選ばれた時だったから、これまでの俺たちの作品には無かったような怒りがこのアルバムにはあるんだ。収録されている曲全体に、レジスタンス的思考が今まで以上に出ているような気がする。反トランプをはっきり打ち出した感じではなく、白人優位やこの国を支配する事柄なども取り上げたりしながらね“と本作についてメンバーは語ります。
ただ、こうした怒りを音の攻撃性へ単純に置き換えないのがTWIBAP。多彩なヴォーカルや楽器が奏でるハーモ二ーには歓喜の輪を広げていく温かさ、逆に視線を合わせて丁寧に諭す繊細さは変わらずの魅力。
STEREOGUMのインタビューによるとアルバム前半はシンセサイザーを増やしたとも話していますが、加えて#1「I’ll Make Everything」や#5「Gram」における金管楽器の華やかな主張は祝祭感をかつぎだす。にぎやかさと静けさが代わりばんこにやってきながらも、心地よい聴感が続きます。
また、ポップパンクの軽やかな疾走感で駆ける#2「Future」、2分半にも満たない中で即効性の高い#6「Dillon And Her Son」といった今までにないロックチューンを用意。Blink-182の「Built This Pool」をちょっと前にカバーしていたことも影響していると思われますが、こうした変化も聴き逃せない部分です。
前述したように本作は政治的な主張を強めており、最も反映されているのは#9「Marine Tigers」。メイン・ヴォーカルのDavid Belloはプエルトリコ(父)とレバノン(母)の混血ですが、同曲は彼の父親が1940年代にアメリカに移住した際の人種差別を経験を基にしたもの。“もし全ての州が崩壊したとしても、まだ国と呼べるのか?“と痛烈な批判を、ポストロック影響下にある脆くも壮大なサウンドに乗せている。
#8「For Robin」では薬物中毒、#10「Fuzz Minor」ではヘイトスピーチにも言及。まばゆさや浪漫よりも明らかに現況を捉えた歌詞は、怒りも態度も和らげることはない。争いも諍いも絶えない世界で今を生きる人々へ、私たちは無力ではないことを切実に訴えてくる。でも、音はその限りではなく多様で優しい。

Illusory Walls(2021)

4thアルバム。全11曲約70分収録。これまでで最小編成となる5人での制作(といってもゲストミュージシャンは多数います)。DISTORTED SOUNDのインタビューによると、アルバムタイトルはDavid Belloがファンであるゲーム『ダークソウル』に由来している。
ゲストクレジットに一応あるホーンセクションが控えめ気味だったり、Katie Dvorakがメインで歌う場面が増えたり、Russian Circlesかと思えるギター・フレーズが入ってきたり。また、これまでインタールードの意で曲名に使用していた「Blank」が歌入りの曲として制作されていることも特徴に挙げられます。
こうした変化に加えて最後の2曲がそれぞれ約15分と約20分もある。COVID-19の世界的流行によって、これまでのアルバムに比べて制作時間が取れたとFLOOD MAGAZINEのインタビューで答えていますが、大胆な領域に踏み込んでいます。それでもTWIABPらしく様々な音色が滑らかに協力しあう。
湿っぽく暗いトーンから温かい広がりをみせる#1「Afraid to Die」が開始点。そこからKatieの軽やかなシンセと歌声を中心に優雅に突き進む#2「Queen Sophie For President」、過剰な消費文化への批判と頻繁に入ってくるタッピングがインパクトを残す#3「Invading~」、終盤のコーラス・ワークとストリングスの絡みが秀逸な#6「Died in the Prison of the Holy Office」といった楽曲が続き、作品を彩ります。
その上で低所得や食料や医療費の高騰、鬱、薬物中毒、消費主義といったテーマを取り上げ、歌詞で抵抗を試みています。”100ドル前後でどうやって生き延びろというのか(#4「Blank:Drone」)”、”病院代も払えず、地面がバナナの皮だらけのときに、現実を受け入れること以外に喜劇とは何か?(#9「Trouble」)“など辛らつな言葉が多数つづられている。
ラストの2曲は1stアルバムの収録時間に匹敵するぐらい長い。それゆえに濃密です。特に約20分に及ぶ#11「Fewer Afraid」は、バンドの総決算といえる楽曲。歌詞にしても音にしてもキャリアで培ったものをてんこ盛りにした内容で、全てを懸けるという言葉を当てはめたくなります。1stアルバムに収録されている「Getting Sodas」の”世界は美しい場所だが、それは私たちが作るしかない“というパートの引用も含め、流動的な音の変化と立ち向かう言葉を持って、人類に前進する力をもたらそうとしています。

Dreams of Being Dust(2025)

5thアルバム。全11曲約44分収録。今度は6人編成となり、Epitaphからのリリース。いきなりブラストビートをぶちかます#1「Dimmed Sun」で始まるので、再生する音源を間違えたかと思いましたが、まぎれもなくTWIABPのレコードでした。
冒頭の目の覚める一撃で本作はアグレッシヴであるとお灸を据えてきます。NEW NOISEのインタビューによると”このアルバムで、バンドに対するこれまでの認識を覆したかった“とChris Tetiは回答している。Foxingも同じく5枚目のアルバムで凶暴化してましたが、オラつき出す頃合いなのでしょうか。
荒々しいスクリームやヘヴィなリフを中心に組み立てられており、#4「Beware The Centrist」にてポストハードコアの狂乱に演奏と雄叫びを捧げ、#6「Captagon」からは『That’s The Spirit』期のBring Me The Horizon的な何かが感じられる。さらにはFull of HellのDylan Walkerが加勢した#8「Reject All and Submit」も準備。本作はストリングスやホーンもほぼ使ってませんし、野蛮な確変モードに突入している。
レコーディング中にはDavid Belloが父、新加入のギタリストのAnthony Gesaが母が逝去。ジャケットにはBelloの父親の写真が使われており、配色も青をあえて使ったとTHE NEEDLE DROPのインタビューでChris Tetiは回答しています。しかしながら、こうした喪失を作品に強く反映しているかといえばそうではありません。”生計を立てるのに必死な生活に心底うんざりだ。こんな腐った政策ばかりでは、呼吸する代金を払っているようなものだ(#9「December 4th, 2024」”という言葉からもわかる通りに、彼らは言葉でデュエルを仕掛けている。
#3「No Pilgrim」は以前の色合いが反映されているとはいえ、全体的に重くチューンナップされ、増水した河川のような勢いで突き進む本作。これまでのファンがそっぽを向くには十分な変化を遂げる一方で、新しいファンを獲得する契機にもなりうる作品です。TWIABPも15年以上の歴史を紡ぐ中で、美しい場所からますます遠ざかっていく世界を良くすべく、音楽を届け続けている。
いずれ誰もが死ぬのは明らかだが、芸術作品を遺せればそれは世界への貢献となる。最終的に重要なのは、無意味な存在で終わるのではなく、後世の人々が体験できる誇れる何かを創造し、貢献できるかだ。他者に対して最善を尽くすこと。こうしたことを僕らは曲を作り、組み立てる度に考えているんだ。
THE NEEDLE DROPのインタビューより
