2020年9月に無期限の活動休止を発表したAnathema。その中心メンバーだったダニエル・カヴァナーが長を務める新プロジェクト。構成員にはドラム / プロデュース等を手掛けていたダニエル・カルドーゾも含まれる。本記事は1stアルバム『Ocean Without A Shore』について書いています。
作品紹介
Ocean Without A Shore(2024)
1stアルバム。全9曲約56分収録。”音楽は前バンドの遺産を引き継ぐものになる”とFacebookページの投稿で明らかにしていた首謀者であるダニエル・カヴァナー(本作ではヴォーカルとほとんどの楽器を担当)。Bandcampでも作品の大半はAnathemaのセッション中に生まれたという記述があります。
本プロジェクトでは3兄弟は解体され、リー・ダグラスさんもいません。ですが、光の音楽として無双した2010年代Anathemaの再現ドラマが上映されております。前バンドのレール上にそれぐらい乗っている。
ポストプログレとも評された繊細に構築された展開。それをなめらかに駆け上がっていく中で、気品のある美しさと心地よい躍動感がもたらされ、男女デュエットによる高めあうヴォーカルがドラマ性を助長。清冽とした光を浴びているような感覚に聴き手を包みます。ピアノやストリングスのアレンジも見事で、エレクトロニックな装飾も含めて豊かな味わいがある。
元Anathemaのメンツ以外は新たに呼んできているのですが、人事異動が起ころうと確立された黄金の方程式は揺るぎません。先行シングルのひとつ#2「Do Angels Sing Like Rain?」は象徴のような曲ですし、加えて#3「Untouchable Part 3」、#5「Are You There? Part 2」という続編も持ってきている。完全に横綱相撲。なぜもっと多くの市民権を得られなかったのか?と不思議になる美しい音楽が継続して奏でられています。
しかしながら、過去の遺産と言われすぎないような部分もあり。こちらの動画インタビューでは最近のAnathemaでやるには重すぎたかもと言及する#1「Synaesthesia」では久しぶりにヘヴィなサウンドを召喚。それにヴォコーダとシンセサイザーで幽玄につづる表題曲#8「Ocean Without a Shore」と多様な側面は見せています。
Anathemaをまた演りたいという本音は全く隠していません。歴史はつながっている。Weather Systemsは過去を美化し、現在をも美化する。意義のある前進。