2023年も読んだ本のベスト10選をブログに残します。例年は映画もやっていましたが、生活環境の変化で映画館にほとんど行かなくなってしまったのでお預け。2024年はまたいけるようになるといいんですけど。
2023年の読了数は104冊でした。その中から10冊を選んでいます。なお、刊行年は2023年にこだわっていないのであしからず。興味がわいたらぜひ読んでみてください。
2023年ベスト本10選
嫌われた監督
2年前の刊行ですが、2023年はこれがベスト本です。わたしが中日ドラゴンズのファンを30年ぐらいやってるのもありますが。落合監督時代は黄金期ですし、特に熱心にみていた時代だけに余計にのめり込んで読みました。
プロとは何か。感情やロマンを排除した采配。勝負に必要のない無駄をそぎ落とす。そして 結果的に個を束ねて勝利へと導く。「心は技術で補える。心が弱いのは、技術が足りないからだ」という言葉にハッとしましたね。
わたしは昨年11月に落合さんの講演会(with森繫和氏、英智氏)に初めて行きました。もう70歳なので監督再登板は現実的じゃないですし、お年がお年なので生で話を聞けるときに聞いておきたい。そういう気持ちからです。物静かですが、含蓄のある物言いで勉強になりましたよ。
勝利のパターンは決まっていた。ゲーム中盤までにリードして、あとは徹底的に逃げ切る。ロマンやカタルシスの入り込む隙のない粛々とした進軍だった。感情を消し去り、繋がりを断ち切り、研ぎ澄まされていった落合は、勝利以外のあらゆるものから解脱した僧のようだった
『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』p173より
世界はなぜ地獄になるのか
橘玲さんの書籍は結構読んでいます。『言ってはいけない』『無理ゲー社会』『バカと無知』『黄金の羽根の拾いか方』などなど。働き方、マネーリテラシー、社会リテラシー、ひいては生き方と勉強になる内容ばかりです。
本著は主に現在のキャンセルカルチャーを分析/考察した内容です。多様性や豊かさを得ていっているはずなのに、”自分らしく”が逆に衝突を生むことは避けられない現代。地雷を踏まぬよう生きよという提言を著者は送りますが、結局はそれしかないのかもしれませんね。
自分の身を守る方法は、リアルでもバーチャル(ネット)でも同じだ。最も重要なのは、「極端な人」に絡まれないこと。そのための最低限の法則は「個人を批判しない」だ。自分が「被害者」で、なおかつ「正義」だと信じている相手に対しては、ほぼ打つ手はない。
『世界はなぜ地獄になるのか 』p265より
ただしさに殺されないために
ただしさの裏には計り知れない闇がある。美しいという言葉の裏に影ある。多様性という言葉は本当に正義なのか。多数の共感をえる美しい物語からこぼれ落ちた断片に光をあてる一冊。気分が重くなるけど読み通しました。
私たちの世界は、太陽の光が当たれば、必ず陰になる部分ができる。その陰影を捉えてようやく、世界は立体的に見える
『ただしさに殺されないために~声なき者への社会論』p70より
「居場所がない」人たち: 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論
独身生活者研究の第一人者・荒川さんの著書は数冊読んでいますし、メディアでもご活躍をみております。中野信子さんとの共著『「一人で生きる」が当たり前になる社会』が対談形式で読みやすく、かつ今のソロ社会を捉えているのでオススメ。
それでも荒川さんの著書ではこれが一番響くものがありました。データを基にした超ソロ化社会への現状分析、孤独は悪という風潮への反論、コミュニティは所属から接続へ。特に第五章の「新しい自分を生む旅へ」は著者の想いが誠実に伝わってきましたね。
わたしも独身者ゆえに読んでると考えることが多い。40代に入ると本当にヤバくなるのかも。でも、独りの生活が自分には合ってる(と言い聞かせている)。
人とのつながりは、基本的には自分ではない相手と向き合うことでの違和感を生じる。しかし、その違和感がなければ、自分の中に新しい自分は決して生まれてこない。人とのつながりで傷つけられ、傷つけるというのは、それが人生において必要な行動なのである。と同時に、生きている証でもあるのだ
『「居場所がない」人たち: 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』p190より
ルポ 誰が国語力を殺すのか
国語力は学問だけでなく、人間が生きていく上であらゆることの基礎となる力(P24)。
ヤバい、エグい、ウザいばかりじゃ伝わんない。幼いころに国語力をしっかり獲得しておくことの重要性がわかる一冊です。コミュニケーション力も想像力も国語力があってこそ発揮されるもの。
冒頭の『ごんぎつね』の誤読から興味深い内容であり、あとがきに出てくるヘレン・ケラーの話は言葉を知ることで世界が広がることが如実に感じられるはず。お子さんのいる方は読んでおくべき一冊です。
(著者が思うに)国語力とは、社会という荒波に向かって漕ぎだすのに必要な「心の船」だ。語彙という名の燃料によって、情緒力、創造量、論理的思考をフル回転させ、適切な方向にコントロールできるからこそ大海を渡ることができる
『ルポ 誰が国語力を殺すのか』より
オルタナティブ
共感とか映えとかエモいとか言ってる場合じゃねえ、オルタナティブであれと。永野さんが音楽や映画や人生経験を通して語るオルタナティブ論。”自分なんて生粋の社会不適合者です”とはっきり書いていますけど、そんな人にしかこの本は書けない。おもしろい。
何も起こらない人生の格好良さ。人生の時間を棒に振るという格好良さ。そこには努力なんて概念はありません。人生を無駄にしたという思い、自分だけじゃないと思うんですよ。みんなあると思うんです。その後悔の数が多い奴がオルタナなのかもしれません
『オルタナティブ』より
メタル’94
ラトヴィアの作家による半自伝的小説。ラトヴィアの文学作品で初となるEU文学賞を受賞し、舞台化・映画化された作品です。
青春時代の94年にニルヴァーナでロックに目覚め、デス~ブラック~ドゥームなどのアンダーグラウンドなメタルへと傾倒していく主人公。メタルを聴いてる時の無敵感、だけど自分には何もないって自覚するせめぎ合いが続く。でも、メタルは何を人にもたらすのか。それは読んで確かめてみてほしいです。
ヘッドバンギングをするのは、脳という意識の要塞をノックアウトして恍惚状態に入るためだ。ひたすら頭を振り動かすと、鍋の粥が縁から弾け、僕たちの内に眠る王国が思考から解き放たれて、その一瞬、存在に直に触れる・・・・・手短に言えば瞑想と同じだ
『メタル’94』p134より
ネクスト・ギグ
ロック×ミステリーな本格小説でめちゃくちゃおもしろい一冊。
全編にわたって「ロックとは何か?」をキーワードに、ステージ上で起こってしまった殺人事件の謎を解く。読んでみて欲しい1冊です。著者の方の逆ライナーノーツがまた良い。あのバンドやアイドルはこれがモチーフだったのかわかりますし。
ロックは、たしかに人の命を奪うことがあるかもしれない。だがそれ以上にロックという熱は、人を生かすはずだ
『ネクスト・ギグ』p399より
黄金蝶を追って
1960年代から間もなく訪れる未来まで描いた6編のSF短編集。
日常の中に幻想と不思議が潜りこむ。でも、日常。人間の情と苦悩、他者との繋がりが主に書かれているように感じ、AIコンビニのロボと老店長のやり取りが印象的な”星は沈まない”がすごく良かったです。
朝日が昇ることで星が見えなくなったとしても、それは消えたわけではありません。星はいつでも存在しています。AIが得意とすることはありますが、人間にしかできない分野だって多くあります。役割が変わっても人とコンピュータは共存し続けていきます
『 黄金蝶を追って』より
パリの砂漠、東京の蜃気楼
6年間暮らしたフランス・パリ、2018年に帰国後の東京。その前後2年間のウェブ連載エッセイをまとめたものが本著。エッセイというよりかは日記であり、日記というよりは日々を通した小説でもある。エッセイというと軽やかでユーモアに富んだ作品の方が多いが、本著は全然違う。金原さんの苦悩が赤裸々に書かれている。
自身の日常のこと、日々を通した考察等をメインに、娘2人の話、夫や友人とのことが書かれているが、どこへいても映し出されるのは自分が抱える生き辛さ。
フランスにいようが、東京にいようが、苦悩に襲われ、どこか孤独が居座った状態は変わらないという。自己嫌悪や憐憫を頻発させ、生と死の境界線でふらつきながらも恋愛に音楽に小説に救われてきた日々。それらの感情や経験を言葉にできる鋭さがスゴイ。なかでも「フェス」がとても良いです。
いつも泣きそうで、それでも幸せだったと綴る。自分のことを書いているのに、どこか他者からの視点で書かれているような感じがあり、かと思えば起伏の激しい感情が表現されてもいる。そこに惹かれます。当ブログ読者には男女問わず読んでいただきたい一冊です。
小説に救われ音楽に救われ何とか生きてきた。そしてこうして藁をも掴むように言葉や音楽から力をもらい息をつなぐ人たちがたくさんいるのだという事実こそが、星を見失ったとしてもどこかへ立ち向かう力を与えてくれるような気がした
『パリの砂漠、東京の蜃気楼』p133より