アルバム紹介
ending story(2000)
1stアルバム。全10曲約72分収録。長らく廃盤でしたが、2011年に自身のレーベルであるVirgin Babylonから再発。このストーリーに込められるのは終末に向かいゆく儚さか。それとも終わりを迎えて感じるだろう開放感か。
wegのデビュー作にして氏の音楽性がほぼできあがっている作品です。本人によるXの投稿を参照すると”この頃はサンプリングメインが多い。97〜99年頃の作品をまとめた。Aphex TwinとCornelius(FANTASMA)の影響が大きい時期“とのこと。
ルーツであるAphex Twinを参照にエレクトロニカやクラシック、メルヘンチックな映画音楽の要素が組み合わさる。低音の蠢きの中でカットアップされた電子エディット、ジブリに通ずるようなファンタジー、ほくそ笑む喜劇と悲劇。それを平均7分超え(最長で約15分)の中で披露しています。
#2「Magical Romantic Freestyle」におけるユーモラスなおもちゃ箱から#8「Red Red Red」のようにwegのスタンダードになっていく死生観と美の表現、約15分を数える中で壮大に展開する表題曲#9「Ending Story」まで。不穏でいてロマンチックな世界が広がっている。
farewell kingdom(2001)
2ndアルバム。全8曲約73分収録。本作からしばらくは”日常に寄り添う音楽をコンセプト”にスタートしたNoble Labelからのリリース。
こちらもXの投稿を参照すると、”Godspeed You! Black Emperorの影響を受けつつ、ドラムンベースの倍速になるのパターンとポストロックのクレッシェンドバーストパターンは掛け合せれるなと“とポストしています。またそれまで一人完結だったところをゲストプレイヤーを加える形へと変化。
ヴァイオリンやチェロが静寂をいたわるように鳴り響く一方、ピアノは繊細な美しさを醸し出し、不規則なデジタルエディットは童心と悪戯心を併走させてもてあそびます。長い時間をかけて物語をつくりあげる必然性は15分に及ぶオープナー#1「yes」から明白。
アコギと鳥のさえずりを編集した前半の郷愁が後半でGY!BEを彷彿させる荒涼とした世界へ転化する#3「daydream loveletter」、チェロを主体とデジタルエディットを主体に重厚なメルヘンを奏でる#5「fragile fireworks」など憂いと歓喜を帯びた祝祭が繰り広げられます。
なかでも天上知らずのセンチメンタリズムが通底する#7「you」は本作の白眉。Piana氏をゲストヴォーカルに迎えた#2「call past rain」は映像/映画的とも評されていくwegの音楽性を反映した楽曲ですし、前作から飛躍的な進化を遂げた作品なのは間違いないでしょう。
dream’s end come true(2002)
3rdアルバム。全4曲約50分収録。メーカー・インフォメーションによるとタイトルは”夢の終わりは叶う”という意味で良いらしい。オリジナルアルバムでは一番短い作品ですが、濃度は変わらず(それでも50分)。
ピアノやストリングスに本作ではサックスが加わり、Aphex Twinばりの強烈なビートと不規則エディットが縦横無尽に遊びまわる。それらが生み出す儚い美と狂乱の暴がシームレスに繋がっていますが、その振れ幅がより大きいと感じます。例えるなら天使と悪魔が陣地取りし合っているようなせめぎあい。
#1「singing under the rainbow」にしても#2「caroling hellwalker」にしても可愛らしいメロディが親密な距離感を作り出していたのにも関わらず、過激なノイズ+エディットによる無双モードがいきなり急襲する。
加えて七尾旅人氏が参加した#3「all imparfect love song」が本作の核心。氏の幻影のようや語りと歌による惑いを与える中で、wegの要素詰め合わせパックによるドラマティックな展開が、25分という長尺にも関わらずしっかりと引き込んでくれます。
懐に入り込むキャッチーさとブレーキをかけない過激さのかけひき。様式/規則性にとらわれない中で、wegの美意識は爆発している。本作はオリジナル作で一番短いこともあって入門編に推せる逸品。
”いろんなことが自分のなかで二重に進んでいる感じがあるんですよ。例えば、生が終わって死が始まるんじゃなくて、どちらも一緒に進んでいて、生が終われば死も終わる。そういう風に大抵の物は何か繋がっていると思う(bounceインタビューより)”
enchanted landscape escape(2002)
4thアルバム。
The Lie Lay Land(2005)
5thアルバム。
Hurtbreak Wonderland(2007)
6thアルバム。
SEVEN IDIOTS(2010)
7thアルバム。
LAST WALTZ(2016)
8thアルバム。テーマは自身の名でもある「world’s end girlfriend」で、これまでで最もパーソナルな哲学と領域に深く踏み込んだ作品となっているそう。
確かに電子音と生演奏が摩擦を起こしたり、溶け合ったりして構成されるダイナミックな音像は彼らしい。曲によってはPianaさんや湯川潮音さんが歌声を添え、downyの青木裕氏やabout TessのTakuto氏によるギターが交錯する分、余計にね。
以前のwegの作品にしても、万物の根源に問いかけてくるような表現で彩られ、その美しさに魅了されてきました。ただ、本作は今まで以上にずっと重い。3.11はもちろんのこと、この6年間には日本だけでなく世界中で様々な出来事があり、多くの悲しみが連結していきました。
その影響があるのか、本作品は全体から得も言われぬ悲壮感が漂っています。個別で1番にそれを思わせるのが#4「Flowers of Romance」という14分に迫る大曲。歪な電子音とストリングスを交えながら翻弄するように展開を練り上げています。感情を揺さぶる怒涛のスペクタクル、音楽はここまで圧倒的な力を持つことができるのかと思わされるほどです。
重量級のサウンドが残酷に響く#1「LAST WALTZ」、湯川潮音さんの声を楽器のように用いつつ狂気と美が入り混じった#2「Plein Soleil」といった曲においても、心の内を深く鋭くエグってきます。様子見のジャブなんて打たない。全てが核心を突く曲であり、生半可な気持ちでは受け止めきれないほどに重みがある。
Pianaさんの歌声に赦された気分になる#7「In Silence / In Siren」、祝福のメロディが舞い降りる#9「Girl」と後半には慈しむ曲が登場しますが、張り詰めた空気がゆるむようなことはありません。ラストの#10「Last Blink」に至るまで、試練を課すかのように肉体と精神に迫る音が響いているのです。
全10曲約70分の本作からは、甘いファンタジーよりも重いリアルを描いた印象が強い。人間の悲喜こもごもよりも、ロマンチックな希望よりも、現実にある生と死が身近に感じられるのです。自身でwegの音楽には特定のメッセージはないと言います。
ですが、万物の美しさや生命力を容赦のない表現で持って肯定する。そんな大河のように雄大な音の芸術。彼のカタログの中で最も精神的に響く作品でした。
Resistance & The Blessing(2023)
9thアルバム。