【アルバム紹介】Tycho、ゆらめきまどろむ柔らかな音響

 サンフランシスコを拠点に活動するScott Hansenによるソロ・ユニット。ISO50というヴィジュアル・アーティストとしても知られる。ドリーミー・シューゲイズ、エレクトロニカ、チルウェイヴを繋ぐ架け橋と言えるようなサウンドを聴かせ、人気を獲得。

 本記事では2ndアルバム『Dive』、3rdアルバム『Awake』について書いています。

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Dive(2011)

   サンフランシスコのScott Hansenさんによる5年ぶりとなる2ndアルバム。これは本当にメロウでドリーミーなエレクトロニカ/IDM。懐かしく胸に染み入り、清涼感のある音が鼓膜を伝って全身を癒します。

 四つ打ちも交えたゆったりとしたビートに、柔らかなシンセやギター等をメランコリックに重ねて、非常にまろやかな味わい。エフェクトをかけて霧のような拡がりを見せたかと思うと、明確なメロディが顔を出してきて、鮮やかにかつ幻想的に交わっていく。Boards of CanadaやUlrich Schnaussと形容されるのも納得の音響です。

 優しく体を包み込むような温かさ、メロウで懐かしい感触はとても親しみやすい。曲によっては強く打ちだされるビートがダンサブルな昂揚感を煽ることもありますが、The Fieldのようにシューゲイズを取り入れて白昼夢のような時間を提供したりもします。また最近のチルウェイヴとも賢く親和しており、時代を読みながらの構築はなかなかのもの。

 先行シングルとなった#2「Hours」は本作でもキーとなっているし、続く#3「Daydream」で聴かせるアコギの旋律を交えたオーガニックなエレクトロニカには思わず涙腺が緩む。シューゲイズ・テクノ風味を効かせたアブストラクトで昂揚感ある#4「Dive」、それに本作では一番温かくノスタルジックな締めくくりの#10もいい味を出しています。全12曲約60分(国内盤ボートラ2曲含めると)、ゆらめき、きらめき、まどろむ柔らかな音響がピュアに胸打つ良作。

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Awake(2014)

  昨年にはTAICOCLUBで初来日を果たした、ティコの約2年ぶりとなる3作目。前作では、Scott Hansenによるソロ・プロジェクトとして、チルウェイヴに接近した優美なエレクトロニカを創り上げました。

 本作はさらに飛躍すべく、昨年のTAICOCLUBで披露したトリオ編成そのままで制作。そのため、リズミカルで骨太なベースとドラムを中心に生音の占める割合が増え、ポストロック色が濃くなっています。確かにミニマルな展開が高める昂揚感は、前作以上に心地良く感じられる。それでいて上品さと親しみやすさを備えたカラフルな電子音が、絶妙なバランスで絡みます。

 表題曲#1「Awake」におけるトロピカルな南国気分の味わいは格別であるし、幾つもの電飾を重ねたように一層の煌びやかな彩りをみせる#3「L」もまた本作を代表する曲。反復で快感を誘いながら、ノスタルジックに訴えかけるメロウな音作りはもはや職人技。

 それに淡いシューゲイズ模様は変わらずだし、#2「Montana」や#5「See」のような4つ打ちのダンス・チューンもしっかりと機能。アコースティックな音色も交えながら、夏の終わりを告げる様な風情ある#8「Plains」という感傷的な曲をラストトラックに据える辺りも良いです。本作を聴いて、ティコはこの界隈だとずば抜けて好きだなあと改めて思った次第。

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