【アルバム紹介】MASS OF THE FERMENTING DREGS、裂いて包む音

 2002年結成。“マスドレ”の略称で愛される神戸出身の3ピースバンド。Ba&Voの宮本菜津子さんをオリジナルメンバーに初期は女性3人組として活動し、FUJIROCK FESTIVAL07のRookie A GO GOへの出演。1

 その後はドラマーの脱退を経て2人組になった中で08年1月にセルフタイトルの1stアルバムを発表。2010年にメジャー・デビューを果たし、アルバム『ゼロコンマ、色とりどりの世界』を発表するもメンバーの脱退が相次いだために12年9月に活動休止。

 宮本さんはソロとして再出発・・・していた中で15年末に新メンバーを含めた3人体制で活動再開宣言。18年に8年ぶりのアルバム『No New World』を発表。

 結成20年目となる22年はアルバム『Awakening:Sleeping』のリリース、UKの大型フェス”Arc Tangent Festival”に出演を果たしました。

 本記事はこれまでに発表されている5枚のアルバムについて書いています。わたしは1stアルバムのころから聴いていて08年2月に行われたmudy on the 昨晩とviridianとの名古屋公演で初めて見ました。

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アルバム紹介

MASS OF THE FERMENTING DREGS(2008)

 1stアルバム。全6曲約30分収録(ミニではないらしい)。当時は女性3人編成でレコーディングした後にドラムの方が脱退。某大型CDショップの“女性版9mm Parabellum Bullet”のコピーに惹かれ、当時に購入した記憶があります。

 あの頃にもてはやされた”突然変異型”と呼ばれた切り裂き感と衝動性を持ちつつも、NUMBER GIRLの色が濃く出ているのはギターの石本さんが田渕さんに影響を受けているのが大きそう。

 そして宮本菜津子さんの歌声がもたらす清涼感と伸びやかさが、攻撃的なオルタナ系ギターロックと強くマッチしています。

 #1「delusionalism」や#2「ハイライト」にバンドの特徴が発揮される。さらには9分に及ぶポストロック風インスト#4「エンドロール」も揃えています。

 デイヴ・フリッドマンが終盤2曲を手掛けており、弾丸のようなドライヴ感と切り裂き感が鮮やかな#5「IF A SURFER」はヒリヒリ製造マシーンと化し、爆音を撒き散らして心も身体も乱す#6「ベアーズ」は怒涛のラストを飾ります。

 ほぼ全曲一発録りというのもあってエキサイティングな仕上がり。”刺さる”と”響く”、”衝動”と”ときめき”を同時に覚える作品。

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ワールドイズユアーズ(2009)

 2ndアルバム。全6曲約22分収録。サポート・ドラムに吉野さんを加えた3人編成制作し、共同プロデュースに中尾憲太郎氏を起用。

 前作よりも性急切り裂きモードはやわらぎ、宮本さんの歌をさらに活かした曲作りに移行した印象を受けます。ドラムがやたらとパワフルになりましたし、ギターは相変わらずに鋭角に入ってきてキメ所も多し。

 その上でポップさに拍車をかけたことが#1「そのスピードの先へ」や#6「ワールドイズユアーズ」辺りから感じます。演奏陣は蛇行を繰り返しているのに歌はとてもストレート、そのギャップが魅力的。

 トライバルなリズムを軸に広がりをもたらしていく#3「かくいうもの」、変則的なギターリフとコーラスワークが印象的な#4「She is inside, He is outside」といった楽曲はバンドの新しいうねり。

 #5「なんなん」の感傷と爆発もこれまでに無いタイプの曲として存在感を放つ。キュートな魅力が多種類の変化球と共に凝縮されており、彼女たちの進化を感じさせる作品です。

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ゼロコンマ、色とりどりの世界(2010)

 3rdアルバム。全9曲約35分収録。正式に3人編成となってメジャーからのリリースです。

 Bounceのインタビューにて「原点回帰してる気がしますよね。足して足して足して、っていうファーストから、引くことを覚えたセカンド。両方経たうえで、いい塩梅のところを探せたように思うんです。」と宮本さんは語ります。

 牧歌的な歌ものというスタンスの中で楽器陣が所々でスパークする#2「まで。」、ささくれ立つギターと焦燥感に駆られたような歌を響かせる#8「ひきずるビート」というメジャー・シングルを携え、マスドレらしくガチャガチャしている感じはあるし、整理されている感じもある。

 彼女たちらしい平常運転の中で、伸びやかなヴォーカルや懐っこいメロディに軸足を置いています。そして鋭さと丸み、緊張と開放がいいバランスで組まれている。

 エモの熱を湛えていたり、オルタナの感性が輝いたり、歌ものポップスとしての聴き心地を備えるマスドレ節はメジャーでも大きく変わっていない。

 ベースリフの始まりからしんみりとしたダークな曲調の中で感情が錯綜する#5「ONEDAY」、轟音系ポストロックの手法に感情が乗りまくった歌が乗る#9「さんざめく」。この2つのスロウな歌ものがやたらと響くのが本作の特徴でもあります。

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No New World(2018)

 4thアルバム。全8曲約27分収録。2010年末にギタリストの石本さんが脱退、2012年9月の活動停止、2015年末の新メンバーを加えた3人編成での活動再開宣言。こうして迎えたアルバムのリリースは約8年ぶり。

 わたしたちに円熟なんて言葉は似合わないと宣言するように、エネルギッシュでアイデアに溢れています。宮本菜津子さんの歌とオルタナ系サウンドは引き続きの軸。

 ギタリスト交代の影響で音は切れ味よりも厚みの方へと移行していますが、迫力や重厚さはこれまで以上に感じます。

 またキャッチーさを前提とし、尖ったユーモラスな部分を随所に発揮。ブラックサバスからマスロックへ飛び火する#3「だったらいいのにな」、殴りに行かないけど騒々しい50秒の宴を繰り広げる#4「YAH YAH YAH」、涼やかなシンセの上に侘し気な歌声が乗せられる#5「No New World」の中盤は特に色とりどりの世界。

 そして#1「New Order」や#8「スローモーションリプレイ」の陽気な開放感のあるサウンドがひたすらに心地よい。時代が移り変わっていく中で惑わされずに自分たちの音楽をやるという強い意志。

 マスドレにお帰り!と気持ちよく言いたくなる快盤です。

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Awakening:Sleeping(2022)

 5thアルバム。全9曲約33分収録。8月には20年から2年延期されていた”Arc Tangent Festival”へと出演を果たしました。SPICEのインタビューで「簡単に言うと、何も気にせず自由にやった結果という感じ」と本作について話します。

 実際にバラバラなものがまとめられたヘンテコリンなアルバムです。#1「Dramatic」はPains~辺りのドリームポップの意匠、#2「いらない」の轟音シューゲイズ的なニュアンス、#3「MELT」と#5「Helluva」のニューメタル~ミクスチャー寄りの重低音が響き渡る。

 自由にやった結果とはいえ、無理してる感もなくマスドレの良さはそのままでバリエーションの拡張に成功。

 #4「1960」ではNEU!を思わせるクラウトロック寄りの8分半のインストが続き、ギターの小倉さんがメインVoを取った#6「Ashes」を繰り出し、ゲスト・ヴォーカリスト(Discharming manの蛯名氏とBO NINGENのTaigen氏)を迎えたデュエット砲もあり。

 男女混成ヴォーカルの側面が出てくることなんて10数年前には考えられなかったことでしょう。終盤は#8「鳥とリズム」のド直球な歌ものに感傷を掻き立てられ、同期を初導入した#9「Just」が締めくくる。

 活動20周年。これまでと違うマスドレが堪能できる作品です。

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