想い出波止場でドラムを叩いてきたChew氏が率いる、関西のドゥーム/スラッジメタル・バンド。1994年から活動を開始。すでに脱退しているが長らくはHevi氏(Vo)、Talbot(Gt)を含めた4人編成で数々の作品を残す。
本記事では『Paso Inferior』~『Felicific Algorithm / Mushikeras』までの単独名義6作品について書いています。
アルバム紹介
Paso inferior(1997)
1作目。1曲約41分収録。極端なまでの激遅激重サウンドによる心身破壊。それは負の原液を飲む覚悟はあるのか、と問うようです。
遅いテンポを徹底する中でどす黒いスラッジリフを基調に、高低を行き交うギターノイズが鼓膜を引きずるようにむしばみ、ヴォーカルが野獣のごときうなり声をあげる(詞はスペイン語)。
重度の闇と破格の大音量が支配するも以降の作品と比べると大きな展開はなく、重く鈍い一定のペースを続けます。Borisの初期作『Absolutego』は近しくも精神的な圧力は本作の方がさらに強い。
余白はなく、精神的な負担が強いられ続ける。商業的な部分はどこにも存在せず、優しさや希望を許さない非情なる音の群れ。
重さと闇に振り切れており、まるで絶望の大気圏を延々と歩んでいるかのような41分となっています。
Llenandose de gusanos(1999)
2作目。CD2枚組でDISC1は「Sangre / Humanos」のワントラックですが、2部構成の約50分収録。DISC2は「El Mundo」の1曲約74分収録。
第1章となる「Sangre」は厳粛としたピアノ、ボソボソとした語りで構成された約17分半。他の楽器は登場せず。また聴き取りづらいですが詞は日本語で、人間の尊厳について書かれている。
「Sangre」は美しさを感じさせるよりも、生と死の対岸をながめるような悲壮感に満ちています。
続く第2章「Humanos」にてスラッジの鉄槌をようやく下し、Corrupted本来の激遅激重音が到来。歌詞はスペイン語へ戻し、変わらずの心身殴打型の重低音が襲いかかります。
しかしピアノの旋律を相席させたため、これまでとは別の厚みとドラマティックな演出が効いています。それでも突き付けられるのは人間の無力さ。音楽に打ちのめされる体験がここにある。
DISC2は世界が一変したかのようなアンビエントの大平原が約74分も続く。それはDISC1で精神を使い果たした後の虚無状態を表しているかのよう。終わりの始まりではなく、終わりだけの音楽。
Se hace por los suenos asesinos(2004)
3作目。全3曲約36分収録。干からびた大地に月光というささやかな恵み。ヘヴィとは音だけでなく精神的なものが伴うことを示す作品です。
幕開けを飾る約17分の#1「月光の大地」はまさかのアコースティック・ナンバー。月明かりの慎ましさを持つアコギの音色、渋く低い声で読経のように日本語詞を唱えるヴォーカルでつづられます。最小限の音と声による静的支配。そこにはヘヴィに従属せずとも重さや哀しさが表れています。
#2「Rato Triste」こそCorruptedのトレードマークといえる10分のスラッジ獄門島。続く#3「Sus Futuros」も同じくスラッジ・ナンバーで彼らにしては短めの7分30秒ほどですが、以前とは明らかに違う推進力を持っています。
ドラムによる躍動感と引率力が過去最高。速くはないんですが、彼等にしてはエンジンをだいぶ踏んでいる。それに鬱憤をはらすかのような肉体的衝動性も伴っており、強烈です。
笑顔から最も遠い音楽であるが、この過酷さがCorruptedを聴く意義。とはいえスゴすぎて笑ってしまうことがあります。
El Mundo Frio(2005)
4作目。全1曲71分39秒という巨編。”El Mundo Frio”はスペイン語で“冷えた世界”を意味しますが、ここには集大成といえる表現が詰まっています。
アコースティックやクリーントーン、新たに追加されたハープが中心となる静・美パートに大部分を置き換え、スラッジを基調とした動・轟パートと時間をかけて交錯する。
初期のような暗黒圧殺地獄という雰囲気はやわらぐも、清濁併せ持つ長尺物語は大河ドラマのごとき人生訓として心の芯に響きます。
瀕死の疑似体験から天に召されるような恍惚まで。共有と消費を拒み続けるこの音楽には、誰にも奪われない体験がある。
廃盤・サブスク配信なしで軽々とアクセスできない(全作そうですが)、また1曲71分超という時間がそり立つ壁のように聴き手を跳ね返す孤高の要塞としての『El Mundo Frio』。
24分50秒前後の掠れ声で語られる”繰り返される破壊と混沌。差し込む希望の光は刃となって我の肌を刺す”はバンドの姿勢を表してるように思えます。
Garten Der Unbewusstheit(2011)
5作目。全3曲約63分収録。タイトルはドイツ語で日本語訳は”無意識の庭園”(こちらを参照)。本作ではたおやかさを増すと同時に重い美しさを湛えています。スラッジ化したGodspeed You! Black Emperor的な雰囲気もあり。
28分にも及ぶ#1「Garten」はハイハットの先導とクリーンなギターサウンドを中心に穏やかな時間が大半を占める。5分ほどはヘヴィなサウンドが鎮座しますが、これまでになかった少しだけ明るいエッジと音に身を委ねられる感覚を有します。
哀感をさらすアコギの旋律が響き渡る4分半の#2「Against the Darkest Days」を経ると、地続きで#3「Gekkou no Daichi」へ。
30分を超える同曲は「月光の大地」の新録Verとなりますが、かつてよりも時間は13分延び、全編アコースティックだったのが激重の轟きをど真ん中に据えています。
#1「Garten」の写し鏡のように静と動の割合が反転。20分以降、より苛烈さを増していくグロウルと分厚いフィードバックがもたらす修羅の激動は、最後まで聴き通す覚悟を問われてるかのようです。
初期からサウンドを変化させてきていますが、Corruptedの音楽は変わらずに聴き手の人生に深く影響を及ぼすものです。取りつくろった表現はない。簡単に答えをくれない。極地をいく表現はここに研ぎ澄まされている。
Felicific Algorithm / Mushikeras(2024)
全3曲約49分収録の編集盤。2018年作となる約11分の#1「Felicific Algiorithm」と約9分30秒の#2「Felicific Aligorithm」、2023年作となる約27分の#3「Mushikeras」をまとめた作品です。
#1~#2は2012から2014年にかけて尼崎(兵庫)、大阪、福島でのフィールドレコーディングを素材にして制作。2016年にミックスされたものとなります。
#1「Felicific Algiorithm」は静寂を嗜んでいると少しずつ音が増え、4分手前ぐらいから平穏を飲み込むようにノイズが氾濫。スピーカーがバグったと錯覚するほどの大音量が耳をつんざきます。3分を過ぎると無音になり、そこからアンビエントに転移。
続くパッと見てタイトルほぼ同じ(iの位置が違う)の#2「Felicific Aligorithm」はビィーっという感じの警告音がひたすら発せられる。終了1分手前ぐらいで凪ぎますが、不穏な空気は決して消えません。
難解であるこれら2曲。しかし、ヒントは与えられていて6pデジパック仕様の1面には、”学校の校庭は汚染された瓦礫の山に埋もれていた。子どもたちの声はどこからも聞こえません。足音とガイガーカウンターの警告音だけの音の世界“と英語詞でつづられています(訳はDeepLによる)。
2022-2023年に制作された#3「Mushikeras」はCorruptedらしい長編。Kaz Mike (Gt&Ba)、Rie Lambdoll (Vo&Ba)、Mark Y. (Gt&Ba)、Chew(Dr)の4人編成でRieとMark Y.が詞を担当。Mushikerasはおそらく虫けらの意だと思いますが、詞では”無視螻”という表記がされています。
ピアノの叙情的な立ち上がりから楽器隊によるどす黒い重低音が轟き、Rie Lambdollのパフォーマンスもあいまって肉体的にも精神的にも負荷をかけ続けます。鈍行で高まっていく緊張感と迫真性。サウンドの趣向や曲展開からはCorruptedらしさを感じられます。それはまるで長い時間をかけて負の元気玉を作り上げていくかのように。
その上での変化はヴォーカルの交代。Rie Lambdollは朗読のような語り、悪霊が乗り移ったかのようなうめき声、奇妙な笑い声、ボソボソとしたささやき、低域の咆哮など一人で多数の役を演じ分けています。その影響で音楽を通した演劇・舞台をみているかのような感覚が強まっており、魔性の魅力を彼女が書き加えている。
バンドの体制は変わりましたが、Corruptedの極致の表現に妥協なし。30年の歴史は伊達じゃない。本作もまたフィジカルオンリーです。
オススメ作品
ただ、Corruptedの作品はサブスク配信はされてませんし、CD/LPともに軒並み廃盤です。心して手に入れてほしい。