【アルバム紹介】meth. エクスペリメンタル・ヘヴィの果ての地獄畑

 アメリカ・シカゴのエクスペリメンタル・ヘヴィバンド5人組。2016年にヴォーカリスト兼マルチプレイヤーのSeb Alvarezのソロプロジェクトとして始動し、その後にバンド編成へ。マスコアとノイズを混ぜ合わせた音楽性に苦悩をつづった歌詞が乗る。

 本記事は2024年2月リリースの最新作『Shame』を含むフルアルバム2作、EP1作の計3作品について書いています。

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アルバム紹介

I Love You(2018)

 1st EP。全5曲約14分収録。V13 Mediaのインタビューにて”「The Choir of Red Light(オリジナルストーリーか?検索しても明確な答えは見つけられませんでした)」を題材にしたコンセプトレコード。カルトに誘拐され、自分が神であると信じるように洗脳される登場人物の一人称視点で書かれている“と本作について話します。

 そのコンセプトはあるにせよ、どこがI Love Youじゃ!という怒りを買いかねない、労わりのカケラもない非情な音楽です。儀式の始まりを思わせる#1「Opaque Release」を起点にThe Dillinger Escape Planを彷彿とさせるマスコアの爆撃が襲い掛かってきます。

 ピロピロ系ギターと高速ドラムのツインコンボ、喉にハードモードな負担をかける叫び。それらを平均2分50秒という短尺の中で繰り出し、テンポチェンジを織り交ぜながら実験的な音響を重ねてくる。その辺りはエクスペリメンタル系ノイズ集団と自身で銘打つのに納得させられる点ですね。

 #2「Shuttering Impulse」や#4「Ascend and Dispose」の苛烈なマスコアから後半のノイズまみれは人生を見失わせるのに十分。加えて#3「Prayer in Shallow」はAndy Stott~Demdike Stareラインのダブテクノへと橋渡し。

 逆にメロディは毒だとばかりに甘味をほぼ配合していません。終幕となる#5「You Are Home」はConvergeチックな前半からサイレンのような高音が頭の中を搔き乱す。繰り返しますが、どこかI Love Youじゃ!と。まあ、バンド名のMethもそういう意味ですしね。

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Mother of Red Light(2019)

 1stアルバム。全9曲約44分収録。マスタリングをJack Shirleyが担当。題材は前EPと同様であり、舞台はそれから2年後。近親相姦、死、精神病、宗教的精神病が本作の包括的なテーマで”母親”が物語の触媒となっているとのこと(前述インタビューより)。

 音楽的には前作から引き続いてマスコアを主体とした瞬発力と獰猛さを確保しつつ、増幅した不快感がつきまとう。一気呵成の畳みかけからテンポを落としての冷酷なクリーンパートやささやき声、不協和音。それらが計算式にバグを起こして気味悪さを充満させます。前半を飾る#1「Failure」~#4「Her Womb Lays Still」まではいずれもそのスタイルといえます。

 以降の中盤から変化がみられ、ミドルテンポの#5「Inbred」からはUnsaneっぽい薫りがしますし、7分にわたる#7「Psalm Of Life」は真綿で首を締めるかのようにアンビエンスな前半から徐々に音数を増していく。

 そして11分を数えるラスト曲#9「The Walls, They Whisper」は5分以降にMerzbowを思わせるノイズで思考回路を狂わせる。変わらず迎合という誘惑には乗らず。実験的な姿勢を貫いたままで、雰囲気もので終わらないきな臭さを漂わせています。

 同じブラストビートを用いつつも#8「Return Me」ではデスメタル色が強くなっていますし、作品を通しての変相もポイント。これは黒魔術ならぬ赤魔術か。レッドゾーンまでいききりたい人にはオススメしときます。ただし、用法・用量には注意が必要です。脳と心に負担が大きいから。

メインアーティスト:meth.
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Shame(2024)

 2ndアルバム。全7曲約44分収録。スロッビング・グリッスルのパロディとなったお花畑で笑顔のアー写に騙されることなかれ。前作から4年半という歳月をかけてより無慈悲に。より残忍に。例えるなら時速150kmで走行可能なThe Bodyのようであり、税金よりも重いノイズを聴き手に課してきます。

 前作までにかろうじてあったハードコア的なスポーティさは感じなくなり、デスメタルやグラインドコアにスラッジ、そしてノイズがかき混ぜられた地獄生産システムが稼働。何よりも重量感をかなり増していて、冒頭の#1「Doubt」から鼓膜を圧し潰そうとする場面に何度となく遭遇することになります。

 #2「Compulsion」や#5「Cruelty」はThis Gift Is A Curse、Rorcal辺りのブラッケンド・ハードコアにアメリカンなジャンク・ロックを加えたような質感。速攻と遅攻でいたぶりながら刺す、斬る、潰すを仕掛けてきます。音楽/精神面からしてChat Pileとツアーやっているのもわかる。meth.の方がエクスペリメンタル寄りではありますが。

 作品については”自分の精神疾患(双極性障害)、アルコール依存症、そして人生のストレス要因をさらに無視するために常に自分を圧倒する問題が内在化した恥を感じ、自分自身の問題を乗り越えるために 『SHAME』を書いた“とMetal Injectionにてセブ・アルバレスは語る。

 タイトルが直訳すると”恥”ですが、私の苦悩と痛みこそがリアルだとしてつづられる歌詞。音としての強度に加え、その言葉にも並々ならぬものがある。#4「Give In」における負のスパイラルから成るノイズの壁、表題曲#6「Shame」の非情さを前にしたら誰だって健康寿命が縮みかけるものです。

 そんな本作はエゲつな大賞2024年ノミネート作品。ジャケットの子どもは両親に一体どこへ連れ出されてしまうのでしょうか。心配です。早まるな。

お読みいただきありがとうございました!
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