【作品紹介】Unreqvited、憂鬱と昂揚を揺れ動くポストブラックメタル

 カナダのオンタリオ州オタワを拠点に活動する”鬼”によるポストブラックメタル系ソロプロジェクト。鬼というステージ名については日本語の漢字である鬼から来てますが、意味は中国語の幽霊を参照している。それは音楽を生み出す存在を、音楽そのものと同じように幽玄的で異世界的なものにしたかったという理由から(参照:ポストブラックメタル・ガイドブックのインタビューより)。

 自身の音楽については”Unreqvitedは2016年に始めた私の主な音楽活動。私が言葉にできない感情を表現する主な手段であり、シンフォニックな要素を持つアトモスフェリック・ブラックメタルとポストロックの中間のようなものだ“とTaedium Vitaeのインタビューで回答。そういった音楽性に対してストリングスやシンセの音色を加え、自然や生物の声をサンプリングとして取り入れているのが特徴(ただし生楽器ではないとV13のインタビューで話している)

 活動当初からリリースは非常にハイペースで、2021年8月に発表された6thアルバム『Beautiful Ghosts』まではほぼ毎年といえるスパンでフルアルバムをリリース。その傍らでSylvaine明日の叙景、Violet Coldなどのアーティストとのスプリット作を発表。この作曲ペースについては各インタビューから抜粋すると”創作していないと逆に気が狂う“、”作曲は私の唯一の創造的/感情的なはけ口“、”自分の時間の約75%を音楽を書くのに費やしている“、”各アルバムは私の人生の特定の瞬間を収めたタイムカプセル“などの言葉を残している。

 本記事は2025年2月にリリースした最新作となる7thアルバム『A Pathway to the Moon』を含む、これまでに発表されているフルアルバム全7作品について書いています。

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作品紹介

Disquiet(2016)

 1stアルバム。全7曲約42分収録。情報インフォには”このアルバムは憂鬱でありながら昂揚感もあり、巨大な峰と底なしの洞窟を旅するようだ(原文:Depressive and uplifting; a journey of massive peaks and bottomless caves)”とあります。

 Unreqvitedの音楽性はポストブラックメタルといわれるものですが、幻想的なムードとロマンチシズムを強調しているのが特徴。AlcestとDeafheavenの2大潮流でいえば前者寄りですね。ブラストビートや悲鳴のごとき絶叫によって攻撃性を帯びながらも、美と協力関係を常に保ち、染み入るメロディが心に迫る。

 優しげなアルペジオとピアノのリフレイン#1「Birth」、オーケストラルな風合いを加えたポストブラックの暴美の旋風#2「The Autumn FIre」。頭2曲の流れを聴いてしまえば涙腺は早くも決壊してしまいます。ブラックメタルの過激さを諫めるようにメランコリックな性質を処方する9分超の表題曲#3「Disquiet」もまた見事。

 Alcestには妖精という空想のパトロンがいるとしたら、Unreqvitedは自然や生物たちのざわめきをサンプリングして本作に封じ込めていることもポイントです。

 ラスト曲#7「Death」はタイトルに似つかわしくないほど繊細な手つきのハープとピアノが印象的。最初に聴くなら本作をオススメしたいです。ちなみに冒頭に述べた”Depressive and Uplifting(憂鬱と昂揚)”はUnreqvitedのキャッチフレーズとなっている。

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Stars Wept to the Sea(2018)

 2ndアルバム。全8曲約52分収録。『Disquit』の滝下りは海千を巡る物語へ。前作と比較するとオーケストラ/シンフォニック色が濃くなり、さらには幅広い楽器の音色を補強。1stでも聴けたハープやストリングスに加えてフルートの音色、そして聖歌隊のコーラスワークを数曲で採用しています。13分に及ぶ最終曲#8「Soulscape」ではクラウトロックに通ずるシンセも入ってくる。

 壮大さと神々しさを伴ったサウンドへ拡張されていて、冒頭を飾る#1「Sora 天」はRPGゲームにハマる雰囲気を持っています。また、この曲に加えて#4「Kurai 暗い」に#7「Namida 涙」と日本語タイトルが3曲あることは、日本人が親近感を抱く要因になりうるでしょう。

 絶叫やトレモロといったブラックメタル成分は本作でも健在ながら、フィジカルな衝動性よりメランコリックな性質に重きを置いているのは変わらず。

 静と動のダイナミクスを手なずける中で終盤の女性ヴォーカルの起用が神秘性を高める#3「Stardust」、幻想的な空間美から途中に猛烈なスピードで一閃する#4「Kurai 暗い」、しんみりとしたギターを中心とした前半から徐々にポストブラックのエッジが立ってくる#6「White Lotus」など収録。威風と絢爛の海千ファンタジーに心が躍ります。

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Mosaic I : L’amour Et L’ardeur(2018)

 3rdアルバム。全5曲約40分収録。次作と合わせた2部構成の1作目となります。タイトルの『Mosaic』は”たくさんの小さなピースが組み合わさったイメージのこと“とV13インタビューにて回答。副題は”愛と情熱”といった意。

 ”ある種の喜びに満ちた心境で書かれており、愛、幸福、多幸感を押し出している“とmetal1.infoのインタビューで内容について言及しています。ポストロックの性質が強まった印象を受けるのが第一印象であり、優雅で上品。

 本記事を制作する上で参照している『ポストブラックメタル・ガイドブック』のインタビューにて影響を受けたブラックメタル/ポストロックを5作品選出していますが、そこでMaybeshewill『Fair Youth』が挙げられている。その影響下にあることを『Mosaic:Ⅰ』は感じさせます。

 #3「Radiant」におけるピアノのエレガントな立ち回りと麗しきストリングスはMaybeshewillを思い出させる。ブラックゲイズのブラック要素は一応ありますが、その狂気をくるむように本作の潤いと美観が際立っており、春の日だまりを疾走する#2「Dreamscape」は特に胸を打つ曲。

 約13分を数えるラスト曲#5「Permanence」の前半はここまでのスタイルを堅持するものの、後半は不穏な空気を帯びていく。本人が言及するように次作『Mosaic Ⅱ』の内容を示唆するように。

Mosaic II : La Déteste et La Détresse(2020)

 4thアルバム。全7曲約48分収録。2部構成の2作目。副題は”苦悩と憎しみ”といった意。”この2枚のアルバムは2018年の間に一緒に書かれたものだ。 その間に感じた喜び、愛、多幸感などはすべて『Mosaic I』へ。怒り、悲しみ、不安などはすべて『Mosaic Ⅱ』に注ぎ込んだ “とTaedium Vitaeのインタビューで回答。

 ネガティヴとポジティヴの両極が2作品に差配されているわけですが、鬼自身は本作についてこれまでで最もダークでヘヴィな作品だと語っています。確かに#2「Wasteland」が物語るようにせき止めていた陰鬱で荒々しい面を強調。闇夜のうら寂しい情景の中をノイジーなギターと突風のごときブラストビートが切り裂き、耳に刺さる絶叫が木霊する。そこにサスペンスホラー色を与えるシンセまで介入してくる。

 ただし、ダークな側面を目立たせながらも美しい品位が保たれているのもまた事実。中盤に置かれた共に8分台の#3「Pale」と#4「Disorder」がそれを示しており、前者は星屑のように可憐なキーボードと中盤で高らかに響くギターが不安を和らげる。後者はMaybeshewillとポストブラックのマリアージュのごとき。

 それでも最後は絶望の色彩へ取り込みたいようで3つの組曲から成るラストの#7「Transience -Static-」は、SUNN O)))を思わせるノイズが襲いかかる。このショッキングな終焉については”概して私の音楽はすべて死がテーマになっている。『Mosaic Ⅱ』は鬱や不安などをテーマにしたアルバムなので、かなり不安な終わり方をしている。 正直なところ、この場合の死とは自殺である”とMetal 1.infoのインタビューで答えている。

Empathica(2020)

 5thアルバム。全7曲約48分収録。2部構成の『Mosaic』を経ての本作は、2ndアルバム『Stars Wept to the Sea』で発揮したオーケストラ/シンフォニック要素を再び強めています。

 いきなり総計約23分30秒にわたる3つの組曲#1~#3「Empathica」が待ち受けますが、#1からしてファンタジーRPGの冒険の書が始まる壮大さがあり、高くそびえる雄大な雪山が描かれたジャケット(著:Mark Erskine)もそれに拍車をかけている。全体を通してRPGを推進していくストーリー性を感じさせます。

 いつも通りにピアノや管弦楽器を用いた多彩な音色、それに端を発したメロディアスなスタイルの適用。『Mosaic』から作品として位置取りを変える中で叫び声は遠巻きに聴こえる形をとっており、楽器の一種としてアクセント感覚で使用しています。また、インストゥルメンタルへの比重が大きくなっているのも特徴に挙げられるでしょう。

 中盤に配置された#4「Crystal Cascade」はシンフォニック+ポストブラックの騒乱に巻き込む唯一の曲であり、例外。#3「Empathica III: Innocence」にしてもフィナーレの#7「Dreamer’s Hideaway」にしても格式高いシンフォニックな硬さよりも、メランコリックな柔らかさが勝っているのはUnreqvitedたる所以でしょうか。

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Beautiful Ghosts(2021)

 6thアルバム。全7曲約42分収録。Bandcampを参照すると、本作には”愛、情熱、献身”という強いテーマがあるとのこと。それが影響してか、絶叫やブラストビートによる破壊衝動はかなり控えめです。

 サウンドの絢爛さは健在ながらも、これまでよりも音像を整理した印象。ブラックメタルをレパートリーの一種にとどめ、幽玄なシューゲイザー/ポストロックとしての性質が強く浮かび上がる内容となっています。冒頭の#1「All Is Lost」はプログレッシヴ・メタル化したM83みたいですしね。

 ピアノ+クワイアの序盤からブラストビートが少しの間だけ覇権を握る#2「Autumn & Everley」のような狂気はあるものの、光属性のロマンチシズムに重きが置かれています。メロディの涼やかさや疾走感がまた心地よく、軽やかに鼓膜から心の内に入ってくる。

 白眉なのは表題曲#6「Beautiful Ghosts」。Unreqvitedの多彩なキャリアを濃縮還元したかのようで、9分間にわたってこれまで披露してきたジャンルをスムーズに流動し、ドラマティックに聴かせてくる。そこからHammockを思わせる穏やかなメロディの海に浸る#7「All is Found」の締めがまた余韻を生む。

 旋律の美。調和の美。混沌の美。たおやかな洗練を通してそれらを実現しており、同時にカラフルな多様性も表現する。本作もまたUnreqvitedの音楽への入り口に薦めたい作品です。

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A Pathway to the Moon(2025)

 7thアルバム。全7曲約43分収録。これまで毎年に近いハイペースで作品を量産していましたが、過去最長のインターバルである3年半を経てのフルアルバムとなります。

 過去作との大きな相違は、ライヴでの演奏を念頭に置いた作りとなっていること(参照:Bandcamp)。クリーンヴォーカルを大幅に導入したことは本作の大きなトピック。いきなり#1「Overture I: Disintegrate」からしっとりとしたピアノの上に端正な歌声を乗せ、驚きを与えてきます。

 先行シングル第一弾となる#3「The Starforger」にしても邪悪なセクションを有しながら、メランコリックな演奏と歌声が調和。このようにヴォーカルが開眼した一方で、オーケストラの魔法は以前よりもささやかになっています。それもライヴ演奏との折り合いからでしょうか。

 ただし、ピアノやシンセは変わらない頻度で美しさへ貢献しており、悪魔が降臨する瞬間はあれど儚い音色とコーラスワークに彩られた#5「Into The Starlit Beyond」には聴き惚れる。同曲の終盤には1stアルバム『Disquiet』の最終曲「Death」のフレーズが再来することも含めて。

 ポストブラックというよりはIhsahn先生チックな#2「The Antimatter」を中心に前半はアグレッシヴな仕掛けも多く、後半から終盤にかけてはシガー・ロスを思わせる天と聖界を仰ぐムードへと向かう。解放と浄化のエンディングとなる#7「Departure: Everlasting Dream」はその極み。新しく”歌”に活路を見出した本作には、ささやかな月明かりの侘しさも哀愁も含まれている。

プレイリスト

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