【アルバム紹介】Maybeshewill、変化を重ねた先の深遠なインスト

 2005年にイングランド・レスターで結成された5人組インスト・バンド、Maybeshewill(メイビーシーウィル)。

 生楽器と電子音が融合したスタイルで世界各地で称賛を浴び、デビュー当時は65daysofstaticと比較される存在でした。

 そこから作品ごとに音楽性を拡張。電子音や轟音ギターを控えめにしたうえでオーケストラのような壮大さを加えていきます。

 1st EP『Japanese Spy Trandcripte』~3rdアルバム『I Was Here For a Moment, Then I Was Gone』までは日本でも国内盤がリリースされており、2008年に唯一の来日公演も経験。

 2016年に燃え尽き症候群を理由(Guitar Worldのインタビュー参照)に解散。しかしながら、2018年にThe Cureのロバート・スミス御大のオファーによって、Meltdown Festivalで一夜限りの再結成ライブを敢行しています。

 2020年から完全復活。2021年には7年ぶりとなる5thフルアルバム『No Feeling Is Final』をリリースしており、活動継続中。

 本記事では現在までに発表されているフルアルバム全5作品について書いています。

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アルバム紹介

Not for Want of Trying(2008)

 1stアルバム。全10曲約36分収録。生演奏+電子音による連帯を強めたインストゥルメンタルを基調としており、スタイルが似ていることから”65daysofstatic以来の怪物”と評されていました。

 流麗なピアノと声のサンプリングが想像力をふくらませ、猛々しいギターやドラミング、デジタルビートが興奮を運ぶ。

 その証明となる#3「The Paris Hilton Sex Tape」にはMaybeshewillの魅力がコンパクトに凝縮されています。

 いわゆる轟音系ポストロックの静と動のクレッシェンド構成ではなく、忙しないフックのある展開が続きます。若手ゆえのいろいろ詰め込みたくなる症候群の発揮。

 それでも曲尺はほぼ2~3分台。その中にキャッチーさと高い即効性を上手く封じ込めています。

 Spotifyで再生数が1,000万回を超え、ライヴでは中盤のパートで大合唱が巻き起こる#8「He Films The Clouds Pt.2」、1976年制作のアメリカ映画『ネットワーク』のセリフをサンプリングした表題曲#9「Not for Want of Trying」といった代表曲を収録。

 当時は完全にNext 65daysofstaticという位置づけられていましたが、やんちゃさと優等生的な立ち振るまいを使い分け、人びとに衝撃をもたらす作品に仕上がっています。

メインアーティスト:Maybeshewill
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Sing the Word Hope in Four-Part Harmony(2009)

 2ndアルバム。全8曲約38分収録。INDEPENDENTのインタビューによると、”And So I Watch You From Afarとまわったツアーの影響が大きく、彼等のアグレッシヴさに感銘を受けた”とのこと。

 それが作風に表れており、階級を明らかに上げたヘヴィな装いでメタル領域につっこむ馬力が本作にあります。

 出足の#1「You Can’t Shake Hands~」から重く激しくなったリフでボコりにきますし、#5「How To Have Sex With A Ghost」はLightning Boltに引けを取らないぐらいに騒々しい。

 しかしながらデジタル・サウンドとの連携も変わらずになめらか。センチメンタルなメロディを中心とした緩・柔がきっちり介入し、人力演奏が叩きだす急・剛が熱狂を誘う。

 その結晶となった#3「This Time Last Year」にはMaybeshewillの良心が詰め込められています。そして終盤の#7~#8の流れには以降の作品へとつながる壮大でシネマティックなサウンドが表出。

 バンド史上最もヘヴィな作品と評されることが多いですが、その看板に偽りなしの肉体性にしびれます。

アーティスト:Maybeshewill
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I Was Here For a Moment, Then I Was Gone(2011)

 3rdフルアルバム。全10曲約44分収録。本作について”前作よりギターの比重を少し減らして、エレクトロニクスやオーケストラを加えて音響的に拡張したいと考えていた”とINDEPENDENTのインタビューで回答。

 さらに驚きなのが、本作ではセリフのサンプリングを完全になくしていること。ピアノやストリングスの主張を強め、キメ細やかで彩り豊かなタッチに磨きをかけています。

 #6「An End To Camaraderie」のようにヘヴィなリフの波動も押し寄せはしますが、電子音とストリングスによる煌びやかで優雅な装飾によって、スケールの大きな作風へとシフトした印象は強い。

 メランコリックな洗礼を受けて、前2作にあった激しい衝動は控えめです。しかしながら、これ以降の作品がより叙情的な方面へ進んでいったことを考えると、全アルバムの中で攻守のバランスに一番優れている。

 楽器陣の生み出すアンサンブルの美しさ、ダイナミズムとリリシズムの応酬。#3「Red Paper Lanterns」はバンドを語る上では欠かせない名曲のひとつです。

 2021年には10周年記念盤がリリースされていることからもMaybeshewillの代表作といって過言ではありません。

メインアーティスト:Maybeshewill
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Fair Youth (2014)

 4thアルバム。全11曲約49分収録。本作についてDIY MAGのインタビューにて”人生におけるネガティブなことを回避するためのポジティブな方法を音楽で表現したかった”と語ります。

 前作以上にヘヴィなギターに頼らなくなりました。代わりに補強されているのが、彼等の友人や地元の音楽家によって演奏されたアコーディオン、トランペット、バイオリン、チェロ。そして主導権を握るピアノ。

 何よりも本作で感じられる上品さ、煌びやかさ、華やかさの三位一体は研ぎ澄まされています。もはや65daysofstaticよりもThe Album Leafの方が完全に近しい存在。

 うっとりとするエレガントさがリードする#2「In Amber」、小規模のオーケストラのごとき表題曲#4「Fair Youth」、小気味よいピアノ・リフとドラムが扇動する#8「Waking Life」と洗練されたスタイルで一本筋を通しています。

 ロマンティックなスパイスが効きまくり、澄んだ旋律はしなやかに調和。それらが温かく甘美な世界を奏であげる。

 まるでHeliosのような#1「…」から#11「Volga」における美しいエンディングまで、それは決して閉じた世界ではなく、多くの人に開かれています。耳から味わうご褒美の最上級。

メインアーティスト:Maybeshewill
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No Feeling Is Final (2021)

 5thアルバム。全10曲約50分収録。2016年の解散、2018年の一夜限りの再結成公演を経て、2020年に完全復活。本作は7年ぶりのフルアルバムです。

 公式Bandcampの声明によると”本作は希望と連帯のメッセージであり、私たちに売りつけられる破滅的な未来を拒否し、平等と持続可能性に基づく新しい現実を想像している物語”とのこと。

 メインテーマは気候変動がもたらす環境破壊。それを許容し続ける社会・世界に対する怒り、現状に対しての深い悲しみや暗さが作品に通底しています。

 先行公開曲となる#2「Zarah」はアメリカのサウスコベントリーの議員、Zarah Sultanaの議会の演説をサンプリングしており、その内容は地球環境を脅かし続ける大企業への批判です。

 シリアスな痛みを表現するバンドとなりましたが、生演奏と電子音の融合というバンドのスタイルは継続。ですが生音の比重が大きい。

 本作で特に目立つのは悲壮感と連帯するストリングス。またピアノも叙情的ではあるものの緊張感を強めています。

 壮大でシネマティックなポストロックとしての風合い、警鐘を鳴らすサウンド・トラックとしての意義。バンド感をキープしながらも再出発作として、新しい地平を切り拓いた感覚は強いです。

 鍵盤の独奏から鳥のさえずりへと移行するラスト曲#10「Tomorrow」は、我々により良い未来が選択できるのか?を問いているようで胸が痛みます。

メインアーティスト:Maybeshewill
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どれを聴く?

Maybeshewillはどれから聴いたら良いの?

アゲアゲでいきたい方には1stアルバム『Not for Want of Trying』で轟音+エレクトロにまみれてもらって、煌びやかでメロウな方には4thアルバム『Fair Youth』がオススメです。

オススメ曲

この1曲を聴け!を挙げるとするならば、「In Amber」を推します。エレガントを超えるエレガント。

プレイリスト

お読みいただきありがとうございました!
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