
フランス・トゥールーズを拠点に活動するインストゥルメンタル4人組。2016年から始動。BRUITはフランス語で”ノイズ”を意味します。ポストロック、アンビエント、エレクトロニカ、現代クラシックが交差する音楽スタイルが特徴。2021年にリリースした1stアルバム『The Machine is burning~』が高い評価を受けています。
”私たちが作りたいのはクラシック、エレクトロニック、フォーク、アンビエントを取り入れたロックミュージックですが、私たちはロックカルチャーのあらゆる範囲からインスピレーションを受けています。私たちの基準はNeil YoungからThis Will Destroy Youまで、そしてMy Bloody Valentine、Fugazi、GY!BE、Sonic Youth、Jakobなどです“と自身の音楽性についてHeavy Blog is Heavyのインタビューで語っている。
また音楽サブスクリプションサービスは意図的に参加していない。そのためフィジカルやBandcampでしか聴けません(Facebookページ2020年1月の投稿にて声明を発表している)。2022年12月にはSpotifyを批判するシングル曲「Parasite (The Boycott Manifesto)」をリリース。
本記事はフルアルバム2作品、EP2作品の計3作品について書いています。
作品紹介
MONOLITH(2018)

1st EP。全2曲約22分収録。冒頭に述べましたが、BRUITはフランス語でノイズを意味します。ただし、彼等が探求しているのは騒々しい側面ではなく、芸術性を持ったノイズでしょう。
GY!BEやThis Will Destroy Youに大きく影響を受けているそうですが(参照:Redditの質問コーナー)、ポストロックに属するだろうインストを軸としながらも、クラシックやエレクトロニカの性質を加味。それを手工芸のごとき繊細な手つきで表現しています。
BRUIT ≤はギター、ベース、ドラムの基本陣形に加えてチェロ奏者が正式メンバーに常駐(ベーシストはヴァイオリンやシンセサイザーも兼任)。だいたい10分の長尺を基本にしてミニマルな構築、多数の楽器を駆使して品位と広がりのあるサウンドスケープを生み出しています。
8分半に及ぶ#1「Bloom」は軽やかなエレクトロニック・ビートの上をドローンギターがぼんやりと広がり、ストリングスがその狭間を縫うように高鳴る。それら全てが迫力を増していき到達する6~7分辺りのピークからは、精巧な構築物から離れた異質な昂ぶりがもたらされます。
14分を数える#2「The Fall」はさらに壮大。アンビエントに傾倒した前半5分。そこから演説のオーディオ・サンプルが入り(Heavy Blog is Heavyのインタビューによるとバーニー・サンダースの演説のサンプリング)、美しい重奏を披露していきます。10名の弦楽隊を追加した同曲のライヴ動画は激しさと芸術性の相互作用が見事。弦の震動ひとつひとつ、刻まれるリズムの胎動ひとつひとつが結びつき、大きな渦となって聴き手を飲み込む。
BRUIT ≤の序章にしては完成され過ぎている印象すら受ける、そんなEPとなっています。
The Machine is burning and now everyone knows it could happen again(2021)

1stアルバム。全4曲約40分収録。当初はElusive Soundからリリースされましたが、レーベル閉鎖に伴ってPelagic Recordsと契約してフィジカル関係を再リリースしています。
”映像のない映画のように書かれており、人類の文明が陥っている避けられない出来事の繰り返しと悪循環を描いた2つの章で構成されている“とは本作の声明(参照:Pelagic Recordsのリリースインフォ)。前EPを踏襲したクラシカル/オーケストラ色の強いインストではありますが、さらにクラリネットやフレンチホルン、ビブラフォンといった楽器がノイズに加担しています。
#1「Indsutry」ではリズミカルな機械的ビートを基にノイズは変相を遂げていく。その中でストリングスやギターが哀しげに響き渡り、フランスの遺伝学者であるアルベール・ジャカールのスピーチをサンプリング。シームレスに繋がる#2「Renaissance」はアコースティックギターの軽やかな反復とビブラフォンの彩色が郷愁を誘うものですが、後半にはMONOを彷彿とさせる大音量に包まれていく。
#3「Amazing Old Tree」は神妙なドローンを基調とする中で、ドキュメンタリー映画『If a Tree Falls』からの引用が用いられます。ラストを飾る#4「The Machine is Burning」は前EPの「The Fall」を発展させた形。荘厳なオーケストラが啓示を与えるように神聖な轟音体験が待ち構えており、それを終えた後に聴こえるリバーブの残響に4曲を通してわきあがった様々な感情が反芻する。
MOWNOインタビューを参照すると楽曲の背景には教育や競争主義の危うさ(#1~#2)、森林伐採に端を発した環境破壊(#3)といったテーマが盛り込まれており、インストゥルメンタルであろうと強い声明になることをBRUIT ≤は示しています。
なお、本作はCVLT NATIONの【2021年ポストメタル作品TOP10】の第2位に選出されています(私自身は本作をポストメタルとはあまり感じませんが)。

Apologie du temps perdu, Vol. 1(2023)

2nd EP。全3曲約25分収録。タイトルは”失われた時間への謝罪”という意。前年の暮れにSpotifyを中心にサブスクサービスを痛烈に批判したシングル曲『Parasite (The Boycott Manifesto)』を発表しています。スピーチサンプルと轟音ノイズが目立つシングルですが、反動からか本EPは静の側面を強めた作風。
フルアルバムの間を埋めるつなぎとして企画されたEPだとぶっちゃけていますが(参照:Pelagic Recordsのリリースインフォ)、そうした性質から普段とは違った装いになるのも納得するところです。ダイナミクスの活用や政治的なメッセージはあえて薄め。けれども曲はいつも通りに長尺です。
#1「La Sagesse de nos Aïeu」はストリングスを中心にした構成ですが、古いテープレコーダーで録音して速度を落としたものだそうですし、#2「Rêveur Lucid」は茫洋としたドローンから4分過ぎにようやくリズムが入り、シンセの煌びやかさを混じらせながら夢想的なラストへと向かう。心をざわつかせたり、鼓膜や精神的な負荷をゆるめているので聴きやすくはあります。
終曲の#3「Temps Perdus」はそれら2つの曲を統合させたような仕上がりで、終盤の上品な美しさに息をのむ。これまでの作品にないことを取り込みながらも、スロウライフのお供を務める役割でもあるのが本作の肝です。ゆっくりと時間の移ろいを味わう、瞑想的なEP。

The Age Of Ephemerality(2025)

2ndアルバム。全5曲約41分収録。タイトルは”儚さの時代”といった意。サブスク音楽配信サービスを引き続きボイコット。聴くためにはPelagic Recordsからのフィジカル・リリースとBandcamp、あとはYouTubeぐらいです。
リリースインフォを参照すると、巨大テック企業への反発、個人の意思選択を歪めるアルゴリズムへの警鐘、サブスク台頭による芸術家への搾取に本作は焦点があたっている。行き過ぎたデジタル社会への批判的な視点から作品は書かれており、軍事企業へ投資し続けるSpotifyのCEOダニエル・エクを相変わらず目の敵にしている。
本作はピレネー山脈の奥深くで作曲され、トゥールーズの築160年にも及ぶ教会でレコーディング。コアメンバー4人+弦楽隊4人の計8名によるノイズとポストクラシカルを結晶化した重奏は、壮麗さも獰猛さも有しています。なかには1864年製の教会オルガンを使用しており、古き良きを活かす。一方で前EPから続くプログラミングやテープコラージョの手法も取り入れています。
厳かに美を抱えるストリングスのモチーフと暴徒化するノイズを組み合わせた#1「Ephemeral」や#3「Progress/Regress」といった楽曲ではこれまでのスタイルを堅持。その上で本作の象徴となる楽曲は先行シングルとなった#2「DATA」です。まるでGY!BEとAphex TwinとThe Angelic Processがスクラムを組んだ衝撃があります。同時に本作のテーマを端的に要約。この曲はあらゆるもののデジタル化を通して、大量監視とグローバルな情報操作の問題を探求しているとのこと。
こうしたエレクトロニックな意匠を施すも、BRUIT ≤のクラシカルな優美さとハードコア寄りのフィジカルな性質、非現実なノイズの轟きは変わらずに人を惹きつける力がある。その凝縮がラストの#5「The Intoxication Of Power」なのですが、終盤にジョージ・オーウェル『1984』の一節を引用。”未来を思い描きたいのなら人の顔をブーツが踏みつけるところを想像するがいいー永遠にそれが続くのだ“という語りが何とも無常なエピローグとして響きます。
音楽と芸術だからこそ持てる価値の証明。BRUIT ≤はテクノロジーのしもべに決して成り下がらない。流転する静と動の中に痛烈なメッセージを込めています。
