カナダ・モントリオールを拠点に活動する3人組。Southern LordやThrill Jockeyといったレーベルからのリリースが続くそのサウンドは、重厚なドローンと実験性を持つ。その音楽は”massive minimalism”とも形容されている。
本記事は6thアルバム『nature morte』、2024年の最新作『A Chaos Of Flowers』について書いています。
アルバム紹介
nature morte(2023)
6thアルバム。全6曲約43分収録。タイトルは”静物画“を意味するフランス語用語より。2021年に発表したThe Bodyとのコラボレーション作ではフォーキーなスタイルを解放して驚きましたが、本作は通常営業です。
Southern Lord系列に連なるヘヴィネス、Thrill Jockeyに属すことを証明する実験的な構築、銃にも蜜にもなるRobin Wattieの声。#1「carvers, farriers, and knaves」から迫りくるドローンの波状とヴォーカルの気迫が聴き手をおののかせます。
SUNN O)))やNadjaに通ずる過剰なノイズを繰り出すも重圧で押し切ることはせず、どの曲にも哀感と静寂がある。さらにはパーカッションの反復と呪文を唱えるかのような振る舞いからは密教めいた雰囲気が持ち込まれていて、厳かな緊張が常に漂っています。
また本作のテーマにも目を向ける必要があります。exclaimのインタビューでは”自認する女性体の人なら誰でも、私たちが正常化し、脇に追いやってきた多くの戯言にさらされています。私はそれを地球の状態に例えました“と本作についてWattieは答えている。
公式Bandcampにも”あらゆる多元的な女性性の被支配に重点を置いています“と記述がありますが、#2にある歌詞「こんな体だからたまたま私だった」の意味することの絶望感は計り知れない。
最小限から最大限までの音量を用いながら紡ぐ高いアート性とダイナミクスを持つ音楽。その側面はありますが、切実な痛みを訴える音楽として比重が大きい。ヘヴィであることの意義。サウンドからもメッセージからも本作からは必然性を感じるのです。
Nature morteは、BIG|BRAVEが最もヘヴィーな状態で、彼らの悲痛な怒りが頂点に達したところを捉えており、それぞれの瞬間が非常に巨大で、それ自身の引力を持つようなアルバムとなっている。
BIG|BRAVE 公式Bandcampより
A Chaos Of Flowers(2024)
7thアルバム。全8曲約40分収録。The Guardianのインタビューによると前作『Nature Morte』との姉妹アルバムとなり、『Nature Morte』は自然から人間に至るまであらゆる形態における女性性の抑圧の現実を描き、 『A Chaos Of Flowers』はそれが男性を含む人々全体に与える影響について書かれているとのこと。
作品自体の変化もあり、ノイズ膨張の果てをみた前作からすると本作には静けさと文学的なタッチが増えています。お助け重音ツインズことThe Bodyとの共作『Leaving None But Small Birds』で聴かせたフォーク・ミュージックの強化。
”よりヘヴィなLow”という表現を海外誌では見かけましたが、わたしの感触だと2005年に復活して以降のEarthが近いと感じています。#2「not speech of the way」は特にそう思わせる。
息苦しくなるほどの過圧的なギターノイズから繊細につま弾かれるアコースティックの滴りまで。そこにあるのはボリュームの大小にとどまらない滋味深さでしょう。#1「i felt a funeral」や#4「canon : in canon」はその絶妙なバランスの中で感情も音量も揺れ動く。
また本作を形成する歌詞は国や時代を越えて女性作家からインスピレーションを受けており、その名にはエミリー・ディキンソン(#1)、ルネ・ヴィヴィアン(#3)、エミリー・ポーリン・ジョンソン(#8)、与謝野晶子(#2)などがあがる。彼女たちが体験したことを現代的に翻訳しながら、今も同じ問題を抱えていると訴えます。
そびえ立つ岩山のような厳しさも月明かりのような儚さもある#8「Moonset」を聴き終えた時には心には重いものが渦巻く。ソフトとラウドの循環というよりは共存、そんな花の混沌に酔いしれる。