【アルバム紹介】Frail Body、喪失感と向き合う激しい音

 2017年にアメリカ・イリノイ州で結成された3ピース・バンド。2枚のEPとスプリットでの活躍が認められ、早くも名門Deathwishと契約して2019年に1stアルバム『A Brief Memoriam』を発表。若手のスクリーモ/ポストハードコア・バンドとして台頭することになります。

 2024年3月に約4年半ぶりとなる2ndアルバム『Artificial Bouquet』をリリース。本記事はこれまでに発表されているフルアルバム2作品について書いています。

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アルバム紹介

A Brief Memoriam(2019)

 1stアルバム。全7曲約21分収録。かのDeathwishから1stアルバムを発表する。そのことがバンドのポテンシャルを物語ります。タイトルは”短い追悼”を意味。Vo&Gtを務めるロウウェル・シャファーが母親を癌で失くしたことの喪失感と愛がアルバムの主要テーマとして刻まれています。

 そのうえで本作の構成は前半が新曲4曲、後半が2017年リリースのEP『At Peace』の3曲を足したもの。音楽的にはリアル・スクリーモや日本的に言えば”激情系”といわれるハードコアです。

 冒頭2拍3連で畳みかける#1「Pastel」の勢いからして衝撃が過ぎます。ストップ&ゴーを繰り返す中で苛烈さと叙情性がにらみを利かせあう。その様は1st~2ndのころのPianos Become The Teethは近い印象。

 ハイトーンのスクリーム、高速ドラミング、切り刻むようなリフの波状攻撃。ここにポストロック系のニュアンスが多めに盛り込まれている点は、ロウウェルとニック・クジンスキー(Ba)がかつてそういったバンドで活動していたことが影響しています(Lambgoatの動画インタビュー:5分前後参照)。

 #3「Apparture」ではLoma PrietaからExplosions In The Skyの領域までを飛び交い、#4「Traditions In Verses」のダイナミックな爆発力も堂に入ったもの。『At Peace』の楽曲#5~#7はニックがメインで作曲しているためか、ベースラインが強調されたミドルテンポの曲が目立ちます(Heavy New Yorkの動画インタビューより)。

 これらのサウンドが近親者の死を経験した者の詞で結ばれます。”彼らはあなたを連れて行くでしょう、あなたの体は滞在することを許さない(#1「Pastel」)”を始め、残された語り手として感情にフタをすることなく、言葉にしたため、叫び演奏する。喪失感と向き合うために。

Artificial Bouquet(2024)

 2ndアルバム。全11曲約40分収録。プロデュースはPete Grossmannが務め、マスタリングはJack Shirleyが担当。アートワークはジェイコブ・バノン(Converge)が手掛けています。タイトルはおそらく#7「No Resolution」の一節から。

 国内盤の解説によると実際にレコーディングされたのは2021年の4月のようですが、1stからの進化は目覚ましい。エゲツなさ養成ギブスで鍛錬したのか、電気ケトルよりも時短沸騰のブラストビートとトレモロリフが本作では目立ちます。そして前作よりも全体的なスピードが増している。

 #1「Scaffolding」~#2「Berth」からフルスロットルの総攻撃で、ロウウェル・シャファーのギャアギャア系ハイトーン絶叫も鼓膜を喰いちぎろうとする勢い。ブラックゲイズとSkramz(あるいはリアルスクリーモ)の合成獣と化しており、かつてスプリットを共にしたInfant Islandとしのぎを削っている印象は強いです。

 加えて緩急の緩の有効利用、メランコリックな旋律の挟み方に巧みさがあり、リード曲#6「Refrain」においても暴力的な色彩で埋める中でも引きの上手さは目立ちます。そして中高音域をやたらと動くライン取りやバキバキに歪ませてブースターの役割を果たすなど、前作に引き続いてベースの貢献度も高いです。

 アルバムのテーマに目を向けますと、NEW NOISEの記事を引用するならば引き続き母親の死の永続的な影響、孤立や絶望、そして社会的な問題にも目を向けています。#3「Critique Programme」で”生産性で人生の価値を決めるのは正しいことなのか?”と訴え、#9「Horizon Line」は母親の臨終に立ち会わなかった一生の悔恨をつづる。

 その中で最もインパクトがあるのは6分超えの#4「Devotion」。ポストメタルの領域に踏み込んだメランコリックな音響の中で”神を最も必要としたとき 神はどこにいた”とロウウェルは叫び訴える。それは遠藤周作『沈黙』にも通ずる問いかけ。国内盤付属のセルフライナーで彼は同曲について、”母親の死をきっかけに宗教への信仰に疑問を抱くようになった”と語っています。

 全11曲が一枚岩となった容赦ない高速殴打の40分ではありますが、道中にはロウウェルの人生譚を悲痛さと激情が入り混じりながら吐露される。ゆえに心身に強烈に響く作品です。

 Daymare Recordingsからリリースされた国内盤は端的な解説に加え、「Scaffolding」「Devotion」「Refrain」「Horizo​​n Line」の4曲のセルフライナー、『A Brief Memoriam (Live)』全6曲をボーナストラックとして収録しています。こちらがオススメです。

プレイリスト

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