2005年にアメリカ・ヴァージニアにて、大学の友人たちで結成されたポストロック系バンド4人組。2013年に解散。それまでに4枚のフルアルバムを残しました。初期はインスト・ポストロックを鳴らし、優美と轟音を極めんとするスタイルで同時代を担ったCaspianやThis Will Destroyと並んで、この時期のポストロック・バンドとして名を馳せました。
しかしながら、作風は徐々に変化。最終作となった4thアルバム『A Healthy Fear』は、ポストハードコア系のバンドとして出直した感のある音をたたきつけました。このような変化の歴史を持つバンドは、前述したように2013年に解散してしまいます。ただ、2019年にはDunk!Fest出演のために復活。また、2ndアルバム『From Fathoms』のリマスター盤発売と動きます。現在は再び冬眠中。
本記事では彼等の残した4枚のアルバムについて紹介しています。
アルバム紹介
Loyal Eyes Betrayed The Mind(2006)
自主リリースした1stアルバム。全9曲約49分収録。ベースとなっているのは、Explosions In The Skyに代表されるようなドラマ性の高いインスト・ポストロック。滑らかに静と動を往来して生まれる優美で繊細な音の調べは、聴く者を虜にしていきます。
しかしながら、彼らはここだけにとどまらず。ポストハードコアやマスロック、メタル、エレクトロニカといった要素が端々にちりばめられています。定型・制約に縛られることなく、知的とも貪欲ともいえる自由な横断が楽曲中にある。
暗鬱なGYBE!からEITSの飛翔感までを感じさせる#2「Early Morning Ambulance」、中盤からのマスロック化と疾走感がたまらない#4「In The Company Of Others」、The Album Leaf辺りの要素を自分たちなりにまとめあげた#5「With The Tides In Hindsight」と当時・平均年齢20歳ながらのエネルギーとクレバーさが表現されています。
静寂の共有、空気を震わせるように轟く音のうねり。その中において、ハードコア由来だろうと思わせる焦燥感とエモーションが、彼等の力強さに繋がっています。#7「We Watched Them Lose Our Mind」はヘヴィネスと闇が鎮座。ラストを締めくくる#9「Memoranda」の美しさが、自身の運命を切り開くには十分と伝えます。
本作は、音楽サイトTheSilentBallet.comの2006年9月の「今月の一枚」に選出。そして、上々の滑り出しができたことで、アメリカのレーベルであるThe Mylene Sheathと契約を果たしました。
From Fathoms(2009)
約3年ぶりとなる2ndフルアルバム。全9曲約58分収録。本作よりCaspianも所属するThe Mylene Sheathからリリース。
耽美な響きと嵐のような轟音。インストの標準装備はしているものの、聴いてても感じる通りに彼等の場合は馬力が違う。増強されたポストロック。それこそハードコアやポストメタルのエンジンが搭載されている印象があります。本作はそのバランス感覚に優れていて、先人たちから引き継ぐ美轟音系ポストロック、そこに彼等自身の創造と剛腕さが結晶化されています。それこそ公式は必要ないと言わんばかりに。
流麗なメロディに彩られた前半からダークかつヘヴィに転移していく#1「Benthos」。この曲ではハードコア風の雄叫びも入っており、素早く変化するダイナミクスの中で存在感を放っています。そのうえでダンサブルな躍動感とどこか暗い詩情を持つ#3「Weightless Frame」、アコースティックギターの切なく甘美な響きが印象的な#5「Resurface」といった曲では心の内に寄り添ってくる。#6「Melted Wings」はEITSの影がチラつくとはいえ、昂ぶりを覚えずにはいられないものです。
プログレシッヴな展開を見せるし、ハードコアの野蛮さがあるし、エレガンスな煌めきがある。多彩な音色や構築美にこだわっていて、その組み合わせが練られています。特に終盤2曲は白眉の出来であり#7「Thawed Horizon」のエネルギーの塊ともいうべきパワフルさと加速に圧倒され、恍惚感に満ちたクライマックスで締めくくる#8「Aves」は彼等の中で一番の名曲として輝き続けている。
本作はリリースから10年後に、Dunk Recordsからリマスター盤が再発。Junius,やCaspianを手掛けた経験があるWill Benoitをプロデューサーに据え、新しいミックスとマスターを施して本作はよみがえりました。
Gifts From Enola(2010)
約1年という短いスパンでのリリースとなったセルフタイトルの3作目。全5曲約37分という収録内容は、全オリジナルアルバムで一番短いのですが、本作における破壊力には鳥肌を覚えるぐらいです。
ゆらめき輝く美しい旋律、煌めいた電子音などは控えめ。マスロック~ハードコアのアプローチを増やし、猛然と突き進む。歌や咆哮するパートがはっきりと出てくるようになり、ポストロックというタグ付けへの抵抗と解答を彼等なりに提示。荒々しく吹きすさぶ嵐のような音は圧巻です。
ずいぶんと引っ張りまくってから、爆撃のような轟音で進軍する#1「Lionized」。それこそRussian Circlesを思わせる部分があり、タイトで手数の多いドラムとドライヴ感をもたらすギターで一気に持っていきます。マスロック的な展開を大いに生かしつつヴォーカルを混成させた面白さがある#2「Dime And Suture」。その後には、ドレスアップされたギターサウンドから急激な加速とダイナミクスの渦に巻き込まれていく#3「Alagos」が中盤で輝きます。
#5「Rearview」は90年代DISCHORD的要素をポストロックと衝突させ、アトモスフェリックなポストハードコアという導きを果たす。雰囲気ものに終始せず、自身が受けてきた影響元とこれまでの音楽性を結びつけながら、焼き増しでない自分たちの音楽の進化・創造を見せています。
収録時間自体は短いし、表現の幅やバリエーションといった点では前作よりも狭まっています。ですが、厳選された骨のある佳曲だけが詰め合わさった本作は、アドレナリンの大量分泌を促す力作。それも涙まで誘ったりしてくれるおまけつき。
A Healthy Fear(2012)
約2年ぶりの4thアルバムにして最終作。Gifts From Enolaは常に刺激的な旅を続けます。前作以降のスプリット作でスタイルの如実な変化を示していますが、ここにきて完全なポストハードコア化。それも激情系と言われるようなタイプ。鋭利なギターと力強い推進力のあるドラム、そして一番の目玉となる絶叫に次ぐ絶叫。憧れだけでこのサウンドに到達したのでないと主張するように、血肉化された音が鳴り響いています。
#1「Long Weekend」の性急な始まりは雷鳴の如きお告げ。テクニカルなギターと突拍子ない展開、それらが組み合わさって聴き手の興奮を煽ります。HOOVER辺りに連なるような印象を抱きつつ、彼等なりのエナジーに溢れている。軽快なドライヴ感で突き進む前半と遅くノイジーな後半にはっきりと分かれた#2「Robespierre」と続きます。
もちろん、それだけでなくこれまでの要素もしっかりと継承。#3「Cherry」は前作に収録されてもおかしくないスタイルの楽曲ですし、#4「Honne/Tatemae」は美麗ポストロックの要素を引き継いでいて、初期Caspianとタメを張る美しさに彩られています。しかし、本音/建前ってタイトルには笑います。彼等の来日は結局、実現しなかったのに。
#5「The Benefits of Failure」から再びハードコアのギアが入る。この曲は彼等の中で最も激しい部類に入るもので、くつろぐ瞬間など用意せず、ギターの不協和音と手数の多いドラム、絶叫が血が騒ぐ瞬間を残します。MVも製作された#7「Steady Diet」では、激情系に連なるサウンドからメロディックなパートまでも用意。なぜかライヴではあまりやらなかった曲なのが惜しい。
彼等は決してその場にとどまりませんでした。ポストロックを無法地帯とするように意欲的に変化し、その時々で衝撃をもたらすような作品を残してきたと思います。Gifts From Enolaは2013年をもって解散。ですが、2019年にDunk!FestとSaint Vitus Barの2公演のみで復活を果たしています。