美轟音が奏でる光と希望 Caspian

 

 アメリカ・マサチューセッツ州にて結成されたインストゥルメンタル・ロック6人組、Caspian。2003年の暮れから04年にかけ、同じ大学の友人同士で結成されました。その音楽性はMogwaiやMono以降の轟音を主体としたポストロック/インストゥルメンタルの様式に倣ったものです。

 静から動へという様式の中で、重美を備えたサウンドメイキングとドラマティックな展開は聴くものを魅了します。それはかつて、日本のXTAL RECORDSから国内盤1stアルバム『The Four Trees』がリリースされたときは、帯にて ”Brian Eno指揮のExplosions In The SkyとIsisによる交響曲” という謎のウルトラ形容が躍るほどです。その後もコンスタントに作品を発表。活動から20年近く経つ現在でもその歩みを止めていません。2013年にベーシストのChris Friedrichを亡くすという、バンド史上最も重い悲劇に見舞われた中でもです。

 本記事では、彼等の1stアルバム『The Four Trees』から2020年発表の最新作である5枚目『On Circles』を追っています。美しいインストゥルメンタルに酔いしれたい方はぜひ。

目次

The Four Trees(2007)

 アメリカ・マサチューセッツのポストロック4人組による1stフルアルバム。ツインギターにベース、ドラムというシンプルな編成ですが、繰り出される轟音と叙情の鬩ぎあい、紡がれる荘厳な音世界に感覚がすっと引き込まれます。

 音楽性は、切ない情感が漂う静パートから、轟音が吹き荒ぶ動パートへの移行が基本。MogwaiやMonoを代表とする轟音系インストゥルメンタル・ロックと呼べるものです。時には敬愛しているというシガー・ロスばりの幽玄なムードで包み込み、時にはISIS(the Band)ばりの重さを感じさせることもあります。どの曲もセンチメンタルな情感を残す一方で、激しいカタルシスをもたらしており、早くも話題の存在になったのには納得です。

 ノスタルジックなメロディの重なりが、やがては至福の轟音へと膨れ上がっていく#「Moksha」、一段と美しいヴェールに包まれる#2「Some Are White Light」、静から動への遷移を基本線に後半でやたらとヘヴィにまくしたてる#4「Crawlspace」、パワフルなドラミングが何度も炸裂の瞬間を煽動する#7「Brombie」。それらの佳曲を軸として、しっかりと彼等の音世界が構築されています。

 劇的でドラマティックな世界。重層的ながらも繊細な美しさを持つサウンドスケープ。ポストロック好きのみならず、数多の人を巻き込んでいける引力を持っています。デビュー作にして確かな力を感じさせる快作であり、EITSの轟音耽美系が好きな方は、はまると思います。

Tertia(2009)

 メンバーが1人増えて5人体制となった2ndフルアルバム。前作で既に大器の片鱗をみせつけてましたが、本作は期待以上の完成度です。土台となっているのは、先人のメソッドによる轟音ポストロック様式に変わりはありません。儚げな叙情を湛えたメロディライン、嘆き叫ぶかのように爆発する轟音を大胆かつ緻密に行き交う展開で引きつけ、目頭を決壊させるスタイル。#1「Mie」~#2「La Cerva」の流れにもっていかれ、わたしがCaspianの中でトップ3に入るぐらい好きな#3「Ghosts of the Garden City」が雷鳴のように轟きます。

 本作からは、やや暗澹としているのと哀愁の度合いが濃くなっている印象は受けます。それに一段とダイナミズムが強まっているようにも感じさせます。その効能ゆえに、前作以上にその世界観が磨き上げられているように思えるのです。Saxon Shore的な鍵盤やストリングスの音色は、仄かな彩りと繊細なエモーションを与えており、トレモロギターと共に神秘的な雰囲気を助長しています。

 美しさと激しさを兼備したツインギターは迫力を増し、剛・柔の表情がさらに豊かになったベースライン、パワフルな躍動感が強まったドラミングと相まって強烈な磁場を築く。#4「Malacoda」では渦を巻く迫力のサウンドに飲み込まれ、ノスタルジックに彩られる#7「Concrescence」はギターの優しい旋律が染みわたるように響いてきます。ポストロック界を代表する名曲として君臨する#10「Sycamore」がもたらす至福は、筆舌にしがたいものです。

 ひとつひとつの楽器の鳴らす音の深い次元での交錯、深遠な共鳴とハーモニー。オリジナル・アルバムの中でも最高傑作に挙げられることが多い逸品。美意識に富む轟音は、壮大なスケールでもって聴き手を圧倒するのです。

Waking Season(2012)

 3年ぶりとなる3作目。プロデューサーには、定評のあるMatt Bayles(ex-Minus The Bear)を起用。本作もまた路線として大きな変更も無く、実にCaspianらしい仕上がり。職人技ともいうべき丹念に織り上げる轟音と叙情の交錯が、鮮やかなコントラストを表出する充実の作品です。

 丁寧にエレクトロを取り入れることで、麗しさと柔らかな煌きに拍車がかけられ、トリプル・ギターがもたらす荘厳な重みや迫力もまた一層スケールを広げていく。静から動へと展開するといういうMogwaiやExplosions In The Sky以降のお決まりのパターンですが、脇目も振らずに自分達のあるべき姿を貫きながら、しっかりと磨きをかける部分に行き届いた手入れが成されている。

 クラシカルなピアノやノスタルジックな旋律が清らかに鳴り響き、やがて湧き上がる珠玉の轟音バーストが天上界へと導く#1「Waking Season」は、まさに彼等らしい一撃。サンプリングされた声を操りながら、重層的なサウンドと共に神秘的な空間を創り上げる#2「Porcellous」~10分を超える大曲#3「Gone In Bloom and Bough」の流れにもまた大きな感動があります。どこまでも響き渡っていくような美しい轟音は、やはり心地よいカタルシスを誘うもの。

 過去最高に重々しいサウンドが襲いかかる#10「Fire Made Flesh」までの全10曲57分は、自身の音楽に対する揺るぎない想いがあるからこその説得力が備わっています。今までのファンにも、これからなるだろうファンにも安心の水準がある作品です。

Dust and Disquiet(2015)

 ベーシストのChris Friedrichの急逝を乗り越えての3年ぶりの4thアルバム。メンバーは残された4人から、新たに2人加入しての6人体制で彼の分をカバー&パワーアップ。もちろん、Chrisも魂はCaspianに置いてきたはずです。ジャケットにある7つの羽根は、おそらく彼と新しくなった6人のCaspian計7名を意味するものでしょう。

 轟音と静寂のシンフォニーで導く恍惚。オランダ・サッカーの4-3-3の如し様式美のインスト・スタイルは本作でも根幹にありますが、これまでになかった変化がみられます。ひとつめが歌声を導入したこと。実際は前作の3曲目「Gone In Bloom and Bough」に声は導入されていますが、あくまで楽器の一部としての機能に過ぎませんでした。PelicanやRussian Circlesも4枚目で声を取り入れていたので、Caspianもその領域にまできたということなのでしょう。その”声”に求めた活路は見事に花開き、音楽的な広がりへと繋がっています。

 ふたつめが、彼等の作中で最もヘヴィな作品ということ。身近な人間の死を経験したことで、悲しみが重さとなって表れたのかもしれません。わかりやすく変化を象徴する曲が#3「Arcs of Command」で、前述の2つの要素が惜しみなく入っています。鉄壁のアンサンブルで分厚い音の壁をつくり、さらにはenvyばりの叫びが入ることで彼等流のビッグバンを巻き起こしています。これだけ聴くと完全にポストメタルの領域。

 そして、トライバルなビートの多用に再びヘヴィなサウンドを轟かせる#4「Echo And Abyss」、前曲から一気にベクトルを変えて染みったれた哀愁をアコギの弾き語りのような形で表現する#5「Run Dry」、工夫されたリズムとエレガンスな電子音で装飾された#8「Darkfield」と作品全体のアイデアと振り幅は、過去最高といえるはずです。それもまた 積み重ねの上にあるからこそ成立すること。

 #2「Rioseco」や#10「Dust And Disquiet」のようなCaspian印の激しさと美しさの芸術に、やはり惚れ惚れとしてしまいます。各楽曲の色がはっきりと出ている分、アルバム全体を通した流れにも納得がいきます。これまでもアルバムを出すごとに進化を示してきましたが、本作においても十分過ぎる成果を示す力作です。

On Circles(2020)

 これまでで一番長い約4年4カ月の歳月を経て発表された5thアルバム。間には、ついに実現した2016年の来日公演2DAYS。さらには本作リリース直前にも一夜限りの日本公演が開催されました。わたしも2016年の公演には1日のみ参加。彼等の魂が乗り移ったインストゥルメンタルに大いなる歓喜を覚えました。

 本作は、Caspian総まとめスペシャルと言って良いぐらいに、集大成としての貫禄があります。完璧なまでの”予感”を呼ぶ#1「Wildblood」を経ると、そこには初期の優美さがあり、前作の重撃アプローチがあり、教科書ポストロック/インスト・トラックがあり、ラストにはPhilipがVoを務める渋い哀愁アコースティック歌唱があり。まとめサイトではこうはいかない、熟練の技術と構築の妙。その上で、眩いまでの光量と突き抜けるような昂揚感が伴う作品です。前作における暗重に頼る世界を抜け、清冽な音の波動が押し寄せる。

 #3「Nostalgist」では、PIANOS BECOME THE TEETHのKyle Durfeyの援助を受けた歌ものも用意。#4「Division Blues」と#7「Ishmael」ではMONOとのコラボレーションでも知られるチェリスト、Jo Quailが参加しています。

 真っ先に挙げたくなる#2「Flowers Of Light」は5分間で見事な美轟音を響かせます。勇壮なリズム隊の上でトリプルギターの異なるアプローチがワルツを踊る。一瞬の凪が訪れたあとの3分35秒辺りから優美なクライマックスへとなだれ込んでいく様に、歓喜をあげないものはいないでしょう。#6「Collapser」ではスラッジメタルの領域にまで踏み込んだ音の壁を作り上げ、その裏で咽び泣くようなギターフレーズが響き渡ります。円熟のステージに立つことで生み出されたこの2曲が、わたしとしては本作の核だと思っています。

 これまでを集約した作品でも、向ける眼差しはこの先です。彼等のカタログ中、どの作品よりも強い光と陽性のベクトルは、時代を関係なく人々を鼓舞するもの。Caspianは、眩いまでの世界へ美重音を司ることでわたしたちを連れて行ってくれます。

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