【作品紹介】Habak、怒りと抵抗のメロディック・クラスト

 外務省から不要不急の渡航中止を要請されるメキシコ・ティファナを拠点に活動する5人組。2010年代中盤から活動開始。国家や社会構造、巨大資本に対しての痛烈なメッセージ、激しさと穏やかさが両立したメロディック・クラストを展開する。

 本記事は2ndアルバム『Ningun Muro Consiguio Jamas Contener la Primavera(邦題:どんな壁も春を閉じこめることはできなかった)』、3rdアルバム『Mil orquídeas en medio del desierto(邦題:砂漠の中心に咲く千の蘭)』について書いています。

タップできる目次

アルバム紹介

Insania(2015)

 1stアルバム。全6曲約34分収録。

メインアーティスト:Habak
¥1,400 (2025/05/12 17:21時点 | Amazon調べ)

Ningun Muro Consiguio Jamas Contener la Primavera(2020)

 2ndアルバム。全9曲約40分収録。邦題は”どんな壁も春を閉じこめることはできなかった”。2024年3月に3LAさんが日本語対訳付きの国内盤をリリースしております。アートワークはオレたちのAlex CF(Light Bearer/Fall of Efrafa)が手掛けている。

 バンドの活動拠点であるメキシコ・ティファナを検索するとサジェスト(一緒に検索されやすいキーワード)で”危険”、”治安悪い”が上位に出てくる地域。そんな土地で育まれた怒りと抵抗の音楽であります。発売元である3LAさんのインタビューによると”メロディック・クラスト(ネオクラスト)をつくるつもりで結成された“という基幹の上で、envyが持つ静と動のバランス感が継承されている。

 Dビートによる苛烈な特攻、ブラックメタル風のトレモロ使い、人間卒業系のドスの効いた咆哮。そこにクリーントーンのギターを中心にメロディックな展開が頻繁に盛り込まれ、アコギやチェロによる閑話休題も差しはさむ。加えて中速と高速のギアチェンジもなめらかです。

 国内盤付属の対訳を引用すると”苦しみの神殿を燃やせ。苦痛と恐怖の帝国に死を(#6)“、“資本の中に、尊厳ある職はない(#8)”など国家や社会構造、巨大資本に対しての痛烈なメッセージを発しているバンド。ゆえに攻撃性に集中特化しているかと思いきや、均衡を保とうと叙情的なスタイルが鎮座している時間が意外なほど長い。

 わたしが聴いている範囲だとIctusやFall of Efrafaなど浮かびますが、envyからポエトリーリーディングを95%減らしてアグレッシブさと高速パートを増やしたという印象を受けます。なかでも本作では厳かなチェロを併走させながら、温和と粗暴を移ろうラストの表題曲#9が白眉。

 ”アルバム全体が当初から狙ったわけではないが結果的に、さまざまなアプローチから我々が暮らすこの地域について語ることになった“ともメンバーは語ります(前述インタビューより)。住民10万人当たりの殺人件数が世界で最も多く、さらには麻薬密売に人身売買、強盗など犯罪フルコースの危険都市・ティファナで日常を送る過酷さが本作に宿る。

 主義主張する抵抗手段としての音楽。Habakの美学がそこにある。無関心でいることを許さない魂の叫び。

人間の傲慢さの前には、いつも森の魂たちの意志が表れて挑む。 私たちは身を潜めて夜を待つ。 どれだけでも壁を乗り越えるために

Habak『どんな壁も春を閉じこめることはできなかった』 #9 日本語対訳より引用

Mil orquídeas en medio del desierto(2025)

 3rdアルバム。全8曲約36分収録。邦題は”砂漠の中心に咲く千の蘭”。前作に引き続いて3LAさんが日本語対訳付きの国内盤をリリースしております。怒りは表現するための燃料か、人生を動かすためのエンジンか。Habakにはその両方があてはまる。

 前作と比較すると、苛烈さと生々しい質感が増した印象を受けます。#1「砂漠の中心に咲く千の蘭」を皮切りに、ポストハードコア/ネオクラストの特攻で不条理な世界と闘争。ドスの効いた咆哮やスポークンワード、鋭いリフは資本主義の支配にうずくまる必要がないことを強く訴えます。

 知識を奪って孤立化を進める手段に抗う#2「根絶やしにする事」、支配から逃げる先すらないのかと暗澹たる気持ちになる#4「孤立と譫妄」など詞と音が一体となって心身に迫る。鮮烈にして過激。魂を削って生み出す表現からは”決死”という感覚が常に付帯します。

 その上で緩急や叙情性の差配は相変わらず巧み。アコースティックで綴る#5「今吹き荒れる嵐の中」の穏やかな休息。そこから繋がっていくロベルト・ボラーニョ(チリの作家)の詩を引用した#6「Notas sobre el olvido」は変化に富み、Viva Belgradoかと思う瞬間もあったり。本作は攻撃性に比重が傾いてはいますが、バンドのメロウな性質もしっかりと聴き手を引き付けます。

 締めくくりの#8「風の声を聞こう」はMONOやenvyを彷彿させるドラマティックな展開を持ち、”超消費の美術館に行くよりも、鳥の営みを観察している方が生きていると感じる”という詞を含めて胸にくる。世界は不健全で不完全。そうした中で誰しもが生きていくことを問われますが、奮い立たせる音楽としての力が本作には存在する。

私たちはユートピアについて考えることに飽き、身振りと自由の瞬間に生きている。私たちは砂漠が花咲くその時を知っている

Habak『砂漠の中心に咲く千の蘭』 日本語対訳より引用

ライヴ動画

HABAK – New Friends Fest 2023
お読みいただきありがとうございました!
タップできる目次