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奈落から天上へ向かう音 Light Bearerの軌跡

 ネオクラスト/ポストハードコア・シーンに大きな影響を与えた重要バンドのひとつ、UKのFall Of Efrafa。解散後、中心メンバーであったAlex CFを核として生まれた6人組のバンドがこのLight Bearerです。

 ”Light Bearer = 光の使者(他に”光をもたらす者”といった意)”と名付けられた新バンドでは、17世紀のイギリスの詩人ジョン・ミルトンによる叙事詩『失楽園(Paradise Lost)』やフィリップ・プルマンの小説『ライラの冒険(His Dark Materials)』からの影響を公言し、神と対立して天界を追放された堕天使ルシファーの物語を深遠な音楽で描きます。

 音楽的には、Fall Of Efrafaの後期を受け継ぐようにポストハードコア/ポストメタルと呼べるものです。Neurosisやenvyのようなヘヴィなサウンドから、Sigur RosやExplosions In The Skyといったポストロック勢の抒情性が折り重なる。10分を超える曲がほとんどですが、奈落から天上へと向かう雄大なストーリーは聴き手の感情を大きく揺さぶります。

 2011年に発表された1stアルバム『Lapsus』はその第一章であり、2013年にリリースした2ndアルバム『Silver Tongue』は続編にあたります。これからも三部作、最終となる四部作へと続くようでしたが、その四部作は完結することなく、バンドは2015年に活動停止を発表。中心人物のALEX CFは、新たなバンドであるArchivistを始動させ、活動を続けています。

 今でも解散がとても惜しい、そう思えるバンドのひとつです。本記事ではそんな彼らが残したアルバム2枚とスプリットに収録された1曲について追っていきます。

目次

Lapsus (2011)

 6曲60分に及ぶ壮絶な音楽体験をここに。そんな1stフルアルバム。前身バンドでは、哲学的で深遠な世界観を構築していました。Light Bearerではその核がはっきりと受け継がれており、さらに深化した様相を見せつけます。

 コンセプトとなっているのが、神に背いて天界を追放された堕天使ルシファーの物語(ルシファーに関してはwikiで確認してみてください)。これは四部作から成り立ち、その序章となるのが本作『Lapsus = 失策』です。この章では、天界の1/3ともいわれる勢力を引きいて神に反旗を翻したが敗れ去り、地獄へ追放となった様子を描いている模様。

 本作を初めて聴いた衝撃は、The Oceanにも勝るとも劣らないものであり、2011年のポストメタルの決定打ともいうべき内容に仕上がっています。禍々しいと感じるまでの激重サウンドに穏やかな旋律が舞い、天上のエモーショナルが折り重なる。

 巧みに思えるのはピアノやストリングスの存在で、もの悲しい旋律から独特の華やぎまでをもたらす音色が、厳かな緊張感と哀愁を共有。さらにはネオクラスト的な暴力性と呪術的な重み、ポストロック的なアンサンブルの重ね方などの様々な要素が結晶化。重い美しさを湛える要因になっています。

 前述したように音楽性としてはFall Of Efrafaを受け継いだものであることは間違いありません。静と動の壮絶なコントラストやスピリチュアルさは極まり、叙情性をより高めています。ISIS(the Band)以降のポストメタル/アトモスフェリック・スラッジを基調としていますが、Fall Of Efrafaを明らかに美しく逞しく深化させた音像は、他バンドとは一線を画すもの。

 #2「Primum Movens」はバンド屈指の名曲です。NeurosisとSigur Rosが手を取り合い、煉獄の底から天国の彼方までを13分越えの長大な構成の元で何度も行き来する。EITSを思わせるたおやかな旋律が丁寧に鳴らされる序盤を過ぎると、スラッジメタルの重波動が襲来。クライマックスにかけては躍動するドラムに先導されて、吐き捨てるシャウトの裏で華やかなサウンドがワルツを踊ります。静と動に行き来するだけの単調に陥らない多彩な表現力には鳥肌が立ちます。

 メランコリックな色調から地鳴りのようなグルーヴに揺さぶられるなど、多彩なトーンと独特の展開を基に組み立てていく15分に迫る#3「Armoury Choir」、並いるスラッジ/ドゥーム勢を薙ぎ倒す重いサウンドからエモーショナルな軌道を描き出す#5「Prelapsus」といった曲でも凄さを実感。

 そして、17分超におよぶ#6「Lapsus」では恐ろしいまでの闇が息づく重音の果てに、ストリングスとピアノが狙い済ましたかのように胸を打つ儚く美しいエンディングが綴られます。

 まだ試験段階で創られた作品だとメンバーは述べていますが、激しさ、美しさ、芸術性、どれもが極めて高い次元で共立し合った本作は凄まじいという他ありません。奈落から天上までを行き交う極端な落差が生む壮大なスケールの楽曲。あまりにも激しく美しくスピリチュアル。

Split With Northless (2012)

 アメリカ・ミルウォーキーのスラッジメタル・バンド、Northlessとのスプリット作品。Light Bearerは、2011年発表のEP『Beyond The Infinite:The Assembly of God』の続編になっているという21分43秒の長尺曲『Celestium Apocrypha; Book Of Watchers』を収録。

 昨年に発表した1stアルバム『Lapsus』はわたしの2011年ベストアルバム第1位。曲によってはSigur RosとNeurosisが手を取り合って壮絶なカタルシスを生み出しており、Cult Of LunaやLVMENをも超えていく壮大な音像に思わず息を呑みました。Isis以降のポストメタルがついにこの次元まで到達したのか、と感動したものです。

 本曲は、わたしの中ではLight Bearer最強曲です。前作と違ってストリングスやグロッケン等は使われておらず肉体勝負の度合いが濃いですが、長尺で綴る表現と物語は流石と唸ります。奇妙なノイズが垂れ流される4分間で暗闇の底へ。

 それをくぐり抜けると激重のリフと怒りの咆哮を振り回し、大らかな包容力を感じるメロディが散りばめられる。勇敢に力強く踏みしめるリズムに導かれ、激情の音塊へと膨張していく前半の流れだけでも実にLight Bearerらしい仕上がりです。

 そして、11分過ぎからは儀式的なパートを盛り込み、さらなる高みへ。Cult Of Lunaとも比肩するヘヴィネスと美しさの融合。グッと力を溜め続け、大きく羽ばたいていくような美麗なトレモロ、感情的な咆哮が天地を二分するクライマックスは圧巻です。

 この手のファン層にとどまらない支持を受ける強さと風格。Light Bearer恐るべしと言わざるを得ない凄みがあります。

Silver Tongue (2013)

 この2ndアルバムも前作に引き続き、神と対立して天界を追放され、堕天使となったルシファーの物語の続編。地に堕ちたルシファーが神に虐げられた真実を叫んでいることがメインのよう(調べてみたが、正確かどうかは判断つかないところですが)。また、本作よりルシファーに騙されたとされているイヴが登場してくる。

 ちなみにタイトルの”Silver Tongue”は銀の舌ではなく、雄弁や説得といった意味合いであるかと思います。ゲストとしてイタリアン・ポストブラックメタルGottesmorderのVo&GのMicheleが2曲で参加。

 NeurosisやIsisの重厚さと芸術性、そこにSigur Rosの繊細な美と色彩の合流し、奈落の底から天上界までもを見せてくれる彼等。振り落とす重苦しいスラッジ・リフ、飛翔していく美麗なトレモロ、ALEX CFの祈りと怒りの咆哮、それにピアノやストリングスにホーン隊が加わって極限的な美醜の対比を成しています。

 Fall Of Efrafa後期からの流れを汲む、崇高で神秘すらも覚える深遠な音楽性に全くブレはありません。長い時間をかけて漆黒の闇から希望に満ちた光へと向かっていく。その上で本作は、これまで以上にメロディが温かさや優しさを帯びています。

 それが顕著に表れているのがオープニングを飾る18分超の#1「Beautiful Is This Burdon」。ポストメタルの重量感を基盤に置きつつも、華やぎと色彩美をもたらすストリングスや管楽器とのアンサンブルが見事であり、Sigur Rosの『Takk』にも通ずる美と多幸感が盛り込まれる。

 この曲がもたらす感動といったら、前作の大名曲「Primum Movens」やNorthlessとのスプリットに収められた「Celestium Apocrypha~」と肩を並べます。小さなオーケストラが造形する重厚な芸術作品であり、バンドの核であるALEX CFの美意識の結晶、そして力強く前進を続けたLight Bearerだからこそ必然的に生まれた名曲といえます。

 また、荘厳なストリングスとクリーン・ヴォイスが荒れ果てた大地を歩くかのような寂寥感をもたらし、轟音が痛切な想いを天へと昇華する#3「Matriarch」、切迫とした激情エモーティヴHCパートとクラシックにも通ずる深い静寂パートが大きな落差を生み出している#5「Aggressor & Usurper」といった楽曲も完備。この辺りの曲を聴いていると、本作では”希望のある光の世界”へと向かっていくイメージが強い。

 それを確信へと変えるのがラストの#6「Silver Tongue」です。穏やかな旋律に誘われてノスタルジックな心象風景を映し出し、やがては壮大な音の連続へと変貌。重厚な音色が歓びを引き連れてくるクライマックスは、AlcestやJesuのような安息の世界が広がるようです。

 『Lapsus』と並んで雄大な作品です。前作にも増して壮大なスケールで構築された全6曲約79分。聴き通すエネルギーはさらに必要になりましたが、音楽とアートと哲学の共鳴が生み出す大きな感動が体中を駆け巡るはず。ALEX CFの作家性はさらに高い次元に突入しています。

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