
オーストラリア・キャンベラ出身のインスト・ポストロック5人組。MONOや初期のThis Will Destroy Youを彷彿とさせる轟音系ポストロックを主体に、トリプルギターを主導とした清冽な物語を奏でます。
本記事は1stフルアルバム『Lost Coast』、2ndアルバム『Endless』について書いています。
アルバム紹介
Lost Coast(2020)

1stアルバム。全9曲約68分収録。オーストラリアのインスト・バンドを見ていけばWe Lost The Seaとsleepmakeswavesのような豪州トップランカーにかつてはLaura、そしてマイペースに活動を続けるEchotideなど良いバンドがいます(わたしの観測範囲ですが)。
オーストラリアとニュージーランドのポストロックを集めたコンピレーションがあるので興味ある方は参照していただきたいのですが、Lost Coastもこちらに名を連ねる存在。
彼等のスタイルは今となっては珍しいド直球なまでの轟音系ポストロックと呼べるものです。アルペジオやトレモロリフを多用するトリプルギターを擁し、静から動へのダイナミクスを丁寧な演奏と共に届ける。
しんみりとするギターフレーズを重ねながらメランコリックな波紋と音圧を高めていく#1「2B」に始まり、少し速めのテンポを主体に澄んだ音色が光の世界を創出していく#9「David」まで。5分~12分台とそろう長尺の中で、轟音系といわれるお約束を律儀にこなしながら、気づけば没頭してしまう物語が展開されていきます。
また、メンバー5人による生演奏以外のギミックをあまり用いていない点は、Lost Coastの実直さの表れ。聴いているとExplosions In The Skyや初期This Will Desroy Youといった名前が浮かぶ人は多いと思います。
本作にはテーマらしきものは設けられていないようですが、通底しているのはもの悲しさ。基本的には暗めのトーンでつづられており、そういった点では一番近いのはMONOではないかと。12分30秒を超す#5「Ceyx Azureus」における闇と光の険しき巡礼は特にその影響を感じさせます。
穏やかでノスタルジックな色合いの強い#4「l’Hermite」、終盤に最も分厚いサウンドを展開する#8「Maps」といった曲もインパクトが大きい。彼等の正攻法の音楽にはスパイスも調味料も必要としていません。己のスタイルを信じ、真摯な姿勢で音楽と向き合い続けた結果が美徳ある本作に表れています。

Endless(2025)

2ndアルバム。全6曲約39分収録。2024年4月には全7公演に及ぶ初の来日ツアーを敢行していたLost Coastの約5年ぶりとなる作品です。トリプルギターを中心に織り成す、揺らぎと重層のインストゥルメンタル。その上で奥ゆかしさや哀しみの色を帯びたスタイルを継続しています。
約4分30秒と比較的にコンパクトな仕上がりの序曲#1「The Eclipse」は鍵盤からスタートしますが、クリーントーンやトレモロがどこか影を負っているように思える。前作でも感じましたが、やはり”しんみり”という表現が似つかわしい。平均6分半の尺を数える中、丁寧な組み立て/構成で音や心の揺れを描いています。
もの悲しい単音弾きのモチーフから6分前後で涼やかなアコースティック風情に切り替わる#3「Eleven」、強烈なディストーションを中心に最も重い瞬間を生み出す#4「Jugdeman」といった曲たちも感情を引きずり回す。ここまでの4曲は暗い主張が勝っているように感じます。
しかしながら、終盤を飾る2曲は希望が通行手形をもらって進行。#5「Meet The Maker」はExplosions in the Skyを思わせるマーチング風ドラムからトリプルギターがパッと視界を開かせ、4分過ぎから入る男性の歌声が不穏な心許なさに寄り添っていく。そしてラストの#6「Gospel of Wealth」はThe Album LeafやHammock辺りを思わせる温かい雰囲気に包まれます。
Lost Coastの澄んだ音色は哀しみにも歓びにも呼応しながら、聴き手の心に覆いかぶさる。本作もまたじっくりと聴き耽りたい作品です。
