【全アルバム紹介】Pohgoh、あまりにタフな人生を肯定的に捉え直すエモ

 1994年にアメリカ・フロリダ州タンパで結成されたEMOバンド。女性ヴォーカルのスージーを擁し、Rainer MariaやJejuneを追うバンドとして活躍。

 3年間という短い期間の中で97年に1stアルバム『In Memory of Bab』をリリースしましたが、その後は活動停止。01年にスージーは多発性硬化症(MS)と認定され、現在も闘病生活は続く。

 2016年に復活。解散時のメンバー3名に加え、新ベーシストに同じフロリダの90年代エモ/インディー・バンドからブライアン・ロバーツを迎える。

 18年にJ.ロビンスをプロデュースに迎えて21年ぶりの2ndアルバム『Secret Club』を発表。JawbreakerやMineralといった90’sエモの大御所との共演を果たす。19年9月には初来日ツアーを開催し、好評を博します。

 20年以降はパンデミックの影響で活動が縮小しましたが、22年11月には3rdアルバム『du und ich』をリリースしました。本記事は3枚のフルアルバムについて書いています。

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アルバム紹介

In Memory 0f Bab(1997)

 1stアルバム。20年越しのリイシュー盤は、Deep Elm Recordsのコンピに収録したために契約上、収録できなかった代表曲「Friend X」を1曲目に配置してバンドの望む形でのリリースとなりました。全11曲にライヴ音源を5曲追加収録。

 Pohgohは女性ヴォーカルを擁する90’s エモ・バンドとして、Rainer MariaやJejuneらに隠れる形でシーンを担いました。

 バンド自体はSuperchunkやVelocity Girlに影響を受けているそうですが、アルペジオやディストーションの使い方に当時のエモ風情を感じさせます。その上で風通しの良さと朗々とした響きを持つ。

 #1「Firend X」のエモ史に残る輝き、#4「Superlife」の若さゆえの力みと焦燥感に駆られた疾走、#6「All Along」のゆったり広々とした心地よさ、#7「Stateline」のいつの時代にも繋がっていく普遍性がある優しい歌と演奏。

 そして、バンドを象徴するスージーのヴォーカルは伸びやかで透明感がありますが、強く主張するようにも親密に語り掛けるようにも振舞っています。強烈な歪みを効かせたサウンドの中で甘い歌声が溶け合う#3「Tired Ear」も代表曲と言えるインパクト。

 Pohgohの音楽は何か圧倒的なものがあるわけではないですが、ほとばしる蒼さと素朴な味わいの中で感情が大きく揺れる。短命に終わったとはいえ、彼女たちの魅力が十分すぎるほどに詰め込まれています。

 ラスト曲#11「Westerberg」はリイシュー盤にて10分の即興ジャムを復元した16分のロングバージョン。音楽を演る楽しさも伝わってくる。

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Secret Club(2018)

 2ndアルバム。全11曲約37分収録。PHS全盛から完全スマホ時代へ移り変わってしまったほどの年月を伴う約21年ぶりの2ndアルバム。解散時のメンバー3名が残り、ベーシストは新メンバーに交代。

 冒頭を飾る#1「Business Mode」から1stとの違いを感じ、時流に合わせた音の変化を施していることが伺えます。インディーロック/エモというベースとは変わりません。

 ですが、サウンドはずいぶんと厚みが増していてどっしりと地についている。それはJ. Robbinsによる録音&プロデュースの賜物でしょうか。

 しかし、20年経っても大きくは変わっていない声と演奏に滲み出る蒼さと円熟味に、Pohgohの音楽として在るべき姿の継続を感じ取れます。#3「Try Harder」や#5「Super Secret Club」辺りでは若々しい煌めきと年を重ねたことによる哀愁が弾き合う。

 フロントマンのスージーは2001年に多発性硬化症(MS)と診断されて以来、長きにわたって闘病を続けています。本作にはその苦闘の跡が示され、歌詞にその葛藤や気遣いが表れる。

 自分が周囲の負担になることへの心配、何年も続けている投薬についてなど。ただ、ここに悲観も絶望もなく。決してあきらめない姿勢が言霊となって表れている。

 ポジティヴな言葉と軽快な曲調でリードする#7「Bunch」は多くの人にとって応援歌として響くもの。そして締めくくりの#11「Esterberg」には轟音ポストロック的なエッセンスも組み込まれています。

 歌うことや奏でることによる自身の救済が、人々へ活気をもたらすメッセージとなる。

 あまりにタフな人生を肯定的に捉え直す。その強さをもっていることこそがPohgohの最大の魅力かもしれません。

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du und ich(2022)

 3rdアルバム。全12曲約40分収録。引き続きJ.Robbinsによるプロデュース。タイトルはドイツ語で”あなたとわたし”。

 過去には20年の空白があったこと、そして現在進行形で闘病していることすらも忘れさせる。そんなポジティヴな音の群れが押し寄せてきます

 即効性あるメロディックパンク調から、瑞々しいギターポップの爽快感、しっとりとした歌ものによる熟練の味わい。人生の酸いも甘いも知る年齢の方たちによる音楽であるのは確か。

 ですが、ペダル・スティールにチェロやハモンドオルガンといった飛び道具で本作の彩りはさらに豊かに。加えて、スージーの歌声は全作品中で最もキュートになっている感があります。

 それは再結成後の確実な前進と充実感による余裕がもたらしたものか。とにかく本作における切り拓こうとするエネルギーは素晴らしく、誰しもの人生賛歌になりうるパワーが込められています

 多発性硬化症やパンデミックといった事象が歌詞に表れているとはいえ、優しく懐を温めるようにPohgohの音楽は鳴り響く。

 1曲をあげるとするならばラストの#12「Words Are Harder」。控えめに煌めくギターとゆるやかなリズムに支えられ、スージーの柔らかい歌声が感傷を誘い、チェロが優雅なひと時を演出していく。ささやかな音色が大きな宝物となる、そんな瞬間が詰まった曲となっています。

 自分自身も世の中も何が起こるかわからない。それを直に体験してきたPohgohは、痛みは愛に、苦しみは希望へと置き換える。その逆転の美しさは共感ではなくリアルを描いてからこその結果。

 清々しいまでに突き抜け、希望の光となる『du und ich』はこれまでの作品で最も心の内に響く作品です。

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