その一瞬に全てをかけたかのような情熱、Touche Amore

 2007年に結成されたアメリカのポストハードコア・バンド。激情迸るスピード豊かなハードコアで評判を呼び、徐々に緩急の精度やスケールを伴ったサウンドにシフト。その音楽性からDeathwishやEpitaphと契約し、世界的にも人気を得ている。これまでに5枚のフルアルバムをリリースし、ここ日本へも2013年、2014年と来日公演を実施しています。以下、作品の感想となります。

目次

…To the Beat of a Dead Horse (2009)

 1stアルバム。 未レビューです。

 Parting the Sea Between Brightness and Me (2011)

 2ndアルバム。未レビューです。

Is Survived By (2013)

¥1,728 (2021/07/03 04:30時点 | Amazon調べ)

 2年ぶりの3rdアルバム。前作に引き続いてDeathwishからのリリースで、プロデューサーには初期のSunny Day Real Estateやスマパンの「Adore」を手掛けたBrad Woodが担当。

 冒頭を飾る#1「Just Exit」から待ったなし。加減速自在の展開と迸るエモーションを核にしたサウンドが、大嵐となって吹き荒れます。その鮮烈なギターが鼓膜を突き、力強くぶっ叩かれるドラムが加速度を与え、青筋を立てながらの必死のスクリームが心を動かす。エレガントな叙情性とドラマ性を湛えながら、聴き手を巻き込む熱い喧騒を生み出す#2「To Write Concert」、変幻自在のドラムに支えられて目まぐるしく情熱をぶちまける#4「DNA」などの楽曲のインパクトは非常に大きいですね。本作はこれまでのハードコア要素に加え、プロデューサーの影響からかSDREに通ずる90’s Emo風の質感も備えていて、現行のインディロック・シーンとリンクしているような趣さえあります

 その中で耳を引くのは清流の如きメロディが行き届いた作りになっていること。ハードコアの体は崩さずに上手くドッキングさせています。一片の曇りもないリリカルな序盤からエモーションが濁流の様に押し寄せる#6「Harbor」、envyを3分台で凝縮したような静と動の鮮やかなコントラストを描く#10「Non Fiction」といった曲がまた作品を引き立てる。剛と柔のバランス感覚、そしてゆるやかに沸点に達する曲から瞬間沸騰の衝撃まで構成は非常に練られている印象です。

 リズミカルなドラムからシューゲイザー風のアプローチまで懐に収めて決死の覚悟を持って突き進む表題曲#12「Is Survived By」におけるクライマックスがまた素晴らしい。全12曲で約30分とこれまでのアルバムより10分長いですが、研磨された叙情性がポップネスを高め、より幅広いフィールドで支持されるだろう充実の一枚である。国内盤には息つく暇もない抜群のスピード感で迫るThe Casket Lotteryとのスプリット曲#13を収録。終わると同時に、再び再生ボタンを押さないといけない衝動に駆られるこの曲を最後に置くとは、心憎い(笑)。

Stage Four (2016)

¥1,793 (2021/06/05 13:25時点 | Amazon調べ)

 少しの活動休止を経て3年ぶり4作目。Deathwishからエピタフに移籍しての作品となります。バンドとしてそこにとどまっていてはいけないという意志と内容を作品毎に表現の幅を広げて提示。1st~2ndは完全に短距離専門ランナーという感じのハードコアで向こう見ずな鉄砲玉のごとく走り抜け、前作の3rdでは緩急や情緒に広がりのある印象がありました。

 それらを経ての本作では聴く側の対象範囲をさらに広げてきています。ヴォーカルのジェレミーは変わらずに叫び続けていますが、ギターが前作よりもクリーントーンの多用やエフェクトをかけて広がりをもたせている。極端にアクセルを踏みこんで突っ走る曲はなく、心地よいテンポで駆け抜けていく曲を多めに、全体をメロディアスに補完。言うなれば洗練であり、キャッチーになりというのは感じるところでしょう。

 メジャー感のある疾走曲#1「Flowers And You」で幕を開け、3分の中でダイナミックに聴かせる#3「Rapture」、陽性のメロディと中盤でコーラスとのハーモニーを利用した#7「Palm Dreams」などで要所を締め、終盤には哀愁たっぷりの序盤からドラマティックに展開する#10「Water Damage」を配置。以前ほど速いわけでもないし、激しいわけでもないです。大きなレーベルへ移籍したからの変化というのは当然あるのでしょうが、変わらないことはエモーショナルであり続けていること。そこが全くブレないから音楽性に少し変化があろうと、心を打たれるし熱くさせられるのです。

 また本作は、ジェレミーの母が2014年に亡くなったことが大きく影響している模様(タイトルはおそらく癌のステージ分類からきているっぽい)。確かにかつての怒りのエネルギーよりも大らかで包容力があります。もっといえば人生における喜びや悲しみ、生きることの儚さや尊さが詰め込まれている。Julien Bakerがゲスト参加した#11「Skyscraper」は悲哀の鎮魂歌の如きクライマックスで涙を誘うもの。その一瞬に全てをかけたかのような情熱を目一杯込め、彼等は音楽を鳴らし続けるのです。

Lament (2020)

¥2,285 (2021/09/29 21:27時点 | Amazon調べ)

 ロス・ロビンソンをプロデュースに迎えて制作された4年ぶりの5作目。前作に引き続き、Epitaphからのリリースです。Lament = 嘆き、悲しみという意ですが、本作はその感情は最優先されていません。前作はヴォーカリストのJeremyが母を亡くしたことで自身への処方箋という役割の大きさ。悲しみが根ざしつつも、大らかさとメジャー感が伴う表現の広がりを確実に感じさせるものでした。

 本作は、前作から立ち直る/乗り越えてきた果てに完成しています。各インタビューを拝読すると、『Stage Four』リリース後の人生が創作の源泉になっているそう。音楽を通して癒え、音楽を通した人との繋がりの再発見。多彩な表現を用いるようになり、多岐の感情をまとめながら聴く者を鼓舞してくれます。

 バンド史上最長となる5分超えの#5「Limelight」は、Manchester Orchestraと共に序盤の沈み込む局面から情熱を大量解放する中盤以降を大きな起伏でもってロマンティックに描き出す。#8「A Broadcast」においてメロウな立ち振る舞いと牧歌的な要素が絡み、ラストの#11「A Forecast」では叫びのスペシャリストであるジェレミーによる明確な歌とセンチメンタルなピアノが寄り添う。これまで通りじゃいられないという変化の意思が強まっていることを伺わせます。

 しかしながら、そういった曲があっても#4「Reminders」が本作の色自体をポジティヴ/陽性という方面に間違いなく振り分けます。メロディックなポップパンクとシンガロンガ必至のサビでどこまでも突き抜ける。ライヴハウスで肩を組んで大合唱している姿が目に浮かぶ、Touche Amoreの全楽曲の中でも一番に一緒に燃え上がる曲になっています。前作からの希望の先がここ「Reminders」にあったわけです。

 フルスロットルの猛烈なオープナー#1「Come Heroine」や表題曲#2「Lament」も独自のエモーションを突き付け、共に前進していくことを約束する。ほとんどの制作はコロナ禍前とはいえ、疎遠になっていく人と心にこれほどまでに熱情豊かに響く作品もそうはありません。Touche Amoreの音楽は寄り添い鼓舞し、人々を前進するための力として有効であることを証明しています。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

目次
閉じる