数多の人々を熱狂させてきた轟音フェスティバル、”leave them all behinad”が約1年ぶりに開催される。
2009年の第1回は、ISIS(the Band)やSUNN O)))をはじめとして、国内外から迎えた総勢5組が6時間にもわたって恵比寿リキッドルームを轟音で包みました。
2011年に行われた第2回は、連続出演となるBoris、envyに加えてMONOが参加。世界を舞台に活躍を続ける国内3バンドが共演し、関東と関西にて美しく強き音を刻みました。
このたび迎える第3回は、第1回以来の出演となるSUNN O)))、ついに日本の地を踏むGODFLESHをヘッドライナーに迎え、国内外から集結した総勢8組が2日間に渡って代官山ユニットを揺らす。
今回は主催者であるDaymare Recordingsの濱田忠氏にメール・インタビューを敢行。本フェスのこれまでの歩みについて、また間近に迫った第3回についてお話を伺いました。
インタビュー本編
―― まずは、leave them all behind(以下: ltab)の開催のきっかけや経緯を教えていただけますか。
大きな理由がふたつありました。ひとつは自分がそれまでにやってきたツアーやライヴ・ブッキングよりも規模が大きい、スペシャル感のあるものをやりたかったこと。2007年9月のPelicanとKTL、2008年11月のTorcheとColisiumといった組み合わせのツアーをやったことに意義を感じていたので、そこからさらに広げたかったんです。
もうひとつは、ISIS(The Band)との計画を実現させるためでした。2008年のかなり早い段階から「次のアルバム『Wavering Rediant』を出したら日本に二度来る」 「ワールド・ツアーは日本で始めて日本で終わるイメージで」と話していました。
そのためにまずは日本ツアーをやる前に彼らをヘッドライナーにしたショウをやろうと、そこが始まりです。
スペシャルと言うからには他にも呼ばないと、SUNN O)))はどうだろう、日本勢はBorisとenvyを呼ぼうか、普段観られないようなバンドも入れたいからGrowingかな、と広がっていきました。
―― ltabは、国内の既存のイベントやフェスティバルとは違う印象が強いです。ラインナップからすると、オランダのRoadburn Festivalに近い感じを持っているのですが、モデルにしたものはあるのでしょうか?
特定のお手本は無かったです。もちろん、どういうものかは知っていますが、僕はロードバーンには行ったことが無いですし、観ていないものはあまり参考にならない。
強いて挙げるなら、少なくとも日本においては自分だけしか組めないラインナップにしたい、と常に考えています。それはブッキングに関してで、運営に関しては日本のイベントやフェスティバルは一般的に丁寧だと思うので、そこは見習いたいです。
―― ISIS(The Band)やSUNN O)))など5組が出演した第1回目は、ラインナップが発表された時に「日本でもこんなイベントができるんだ!」と本当に驚きました。チケットもソールド・アウトを記録していますし、わたしも当日のライヴに足を運びました。第1回を実際に開催してみて、手応えや感想などを教えてください。
ある程度の動員は見込めるはずだと期待していましたが、ソールド・アウトにできるとは思っていなかったです。単純に多くの人に観て楽しんでもらえたのは、嬉しかったですし。
この1回目で自分の考える基本形がだいぶ形にできたと思うので、次回以降はここからさらに磨き上げていこう、という気になれました。
この時からブッキングは100%僕がやっていて、運営や実務に関しては、スマッシュ・ウエストの南部さんにフォローしていただいています。きちんとした後ろ盾があるので、ある程度思い切ったことをやっても場として悲惨なものにはならない、そういう安心感も自分の中に芽生えました。
―― それから約2年半。昨年9月に第2回が開催されました。この時は、ワールド・ワイドに活動を続けるBoris、envy、MONOという国内勢3バンドが一堂に集うもの。さらに関東・関西での2公演が行われました。この第2回についてもお話を聞かせてください。
まず2010年は、ヘッドライナーを絞り切れなかったのでやりませんでした。そしてこのまま2011年もやらなかったら、次はやりづらそうだとも考えました。
ただ2011年は日本が大変な時だったし、「絶対に安全だから来て下さい」と海外勢に胸を張って言うことが、僕にはできなかった。
そんな時にあの3バンドが三つ巴で、という案はスペシャルだな、と。今まで3バンド全てが一度に集まったことは無かったですから。そして彼ら全員も気持ち良く賛同してくれました。
そこに海外勢を1組入れることも少しだけ考えたんですけど、それだと三つ巴の持つ特別さが削がれるから入れませんでした。
関西は、単純に西部講堂でやりたかったからです。3バンドとも日本に限らず全世界を相手に自立した活動をしているのに、日本ではなかなかロックの正史で語られていない。そう感じたので、歴史の舞台である西部講堂で、真正面から向かい合ってもらいたかったんです。
―― そして今回、第3回目の開催です。ついに日本の地を踏むインダストリアル・メタルの最重要バンドのひとつであるGODFLESH、 第1回にも出演した圧巻のヘヴィ・ドゥーム/ドローン・サウンドを轟かせるSUNN O)))をヘッドライナーに据えた初めての”2日間開催”となります。この2DAYS開催というのは、当初から予定されていたのでしょうか?
元々は1日で考えていましたが、会場を2日間押さえられたので、だったらそのままやろうか、と。2日間あれば日ごとでテーマも分け易いですし。
―― ヘッドライナーの2組は早い段階で決まったのでしょうか。
今回、実際に声を掛けたのはこの2組だけです。2日間ともヘッドライナーがドラムレス、というのが面白いと考えました。どちらかができなければ、1日にするつもりでした。
―― それぞれのヘッドライナーに合わせて各日のラインナップは、決まっていったのでしょうか?
ヘッドライナーはライヴの性格を左右しますからね。常にヘッドライナーとの関連性や音楽的傾向を考えて組んでいます。
SUNN O)))に他に誰を選ぶのか聞かれてChelsea Wolfeと答えたら、2人とも凄く喜んでいました。Borisと朝生愛さんは海外の2組とも相性が完璧ですから。
envyは、ジャスティン・K・ブロードリックがやっているJesuとスプリットを出していますし、グラインド・コアの礎を作ったジャスティンに完成形のひとつ、MORTALIZEDを当てたい。
音楽的に大胆な他の3組にDeafheavenというのもぴったりだと思います。
―― 正直なところ、開催が発表された時にGODFLESHという名前を見たときは信じられませんでした。ジャスティン・K・ブロードリックは、Jesuとして5年前のEXTREME THE DOJOで来日していますが、まさかGODFLESHとして来るなんて・・。驚いている人は本当に多いと思います。先月、ついに初来日を果たしたEARTHに続いて歴史的なことが立て続けに起こっていると感じています。
GODFLESHは、Hellfestで再結成することを決めた2009年の時点でジャスティンに「他でもやるかどうかはまだ決めていないけど、呼んでもらえるのなら日本ではやりたい」と打診されたので、いつか場を調える約束をしました。
EARTHもDaymareでリリースを始めた段階で「メンバーの健康状態が落ち着いたらやろう」と話していました。
来日公演は他のテリトリーとの兼ね合いも考えないといけないし、リリースやアーティストのプライベート・スケジュールまで、調整しないといけないことがたくさんあります。
思い付きだけでは出来ないので、長期的な計画性と綿密な打ち合わせが必要です。
―― Daymareさんのtwitterで「初の日本、最大音量でやる」とジャスティンは宣言されてるそうですね。昨年のRoadburn Festivalでは名作「Streetcleaner」完全再現というのもありましたが、初の来日公演のセットはどういったものになりますか?
ジャスティンは「日本でやるのは初めてだから、バンドの歴史を俯瞰出来るようなセットがいいかな」と言っていました。彼は何をどうしたら一番良い響きが得られるか熟知しているので、期待していて下さい。
―― 7月にひっそりと来日していたアッティラ・シハーを含む、5年ぶりのフル・メンバーでの来日となるSUNN O)))は、初来日時を上回るほどの機材量で今回のライヴに挑むそうですね。彼らに関してはどうでしょうか?
ついこの間、SUNN O)))が空輸する機材の貨物手配を終わらせたところです。彼らはライヴをやることそのものでの事件性が高いですね。
パフォーマンスをはじめとして、全てにおいて一般的なコンサート事情とはだいぶ違うので。日本の直前に入れていたオーストラリア・ツアーがキャンセルになってしまいました。
「だからこそ日本ではSUNN O)))の美学を100%万全のものとして観せたい」とメンバーは意気込んでいます。制作者/出演者サイドから事前に公式発表するかは分かりませんが、東京のステージでは世界的に見ても特別なことをやりそうですよ。
―― 海外からはさらに、ドゥーム・フォークなる形容もされている女性SSWのChelsea Wolfe、激情ハードコア/ブラックメタルの新鋭Deafheavenという初来日となる要注目の2組も名を連ねてます。単独公演も組まれていますし、”今、見せたい”という想いが伝わってきます。この2組についてはいかがでしょうか?
オーガナイザーとしてはアーティストが海外でブレイクし切ってから呼ぶ方が簡単ですけど、時差が少ない方が良いですね。
地理的あるいは経済的に考えると日本はツアーを組みづらい国なので、西欧諸国と比べるとどうしても同時性が低くなってしまう。
「起きたこと」ではなく「起こっていること」を観せたいというのは、僕自身の価値観でもあります。
―― 3回連続出演となる日本勢の2組からは、大きなサプライズがありました。Borisは『flood』、そしてenvyは『君の靴と未来』を全曲演奏することが発表になっています。特にenvyは、これが最初で最後の『君の靴と未来』全曲演奏になると、先日のライヴのMCで語っていたそうですね。今回、この両バンドがスペシャル・セットを披露することになった経緯を教えてください。
両バンドには「いつもとは違うことをやってもらえませんか?」と頼みました。その中で出てきたのが『flood』であり『君の靴と未来』でした。
両作とも永遠の名作ですからね、僕自身凄く嬉しかったです。リハーサルも必要ですし、いつもと違うことをやるのはアーティストにとって負担が大きいものです。
それでもやってみようと考えてくれたこと、そして数少ない機会を『leave them all behind』に与えてくれたのは光栄です。
―― ちなみにですが、第1回、第2回ともに どの出演者も長い時間演奏してくれています。今回もそのように期待して大丈夫でしょうか?
それぞれが普段のライヴでやっているくらいの長さでやってくれます。
―― 最後の質問となりますが、濱田さんがこのイベントを通じて感じて欲しいことや伝えたいことをお答えいただけますか。
作品はその時評価されなくても後日認められることもありますが、ライヴはその場で観てもらえなければ始まらないんです。
日本はもちろん、世界中で考えてもこのままのラインナップと演目が別の場所で実現することはもう二度と無いと思います。いくつもの偶然が重なって起こる、この日限りのライヴを満喫していただきたいです。