【アルバム紹介】Do Make Say Think、調和のとれた彩りあるインスト

 1995年にカナダ・トロントで結成されたインストゥルメンタル・バンド。現在のコアメンバーは5名(公式サイト参照)。ポストロックにカテゴライズされるものの、サイケ、ジャズ、プログレ、エレクトロニカを掛け合わせた独創的なインストを志向しています。

 2002年発表の3rdアルバム『& Yet & Yet』がFACT MAGAZINEが2016年に発表した『ベスト・ポストロック・アルバム TOP30』の第19位にランクインしたり、2007年リリースの5thアルバム『You, You’re a History in Rust』がKerrang!が2018年に発表した”ポストロックの名盤 16選“に選出など高く評価されている。

 一部メンバーは大所帯インディー・バンドのBroken Social Sceneに参加しています。

 本記事はこれまでに発表されているフルアルバム全7作品について書いています。

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アルバム紹介

Do Make Say Think(1998)

 1stアルバム。全8曲約72分収録。カナダにはGodspeed You! Black Emperorという漆黒の巨帝がいるわけですが、このDMSTも同時期から活躍するトロントの重要インスト・バンドです。

 1stアルバムは例えるなら”静かなうねり”のある作品。SE扱いの#7「Onions」を除いて他は7分以上、10分超えも2曲あります。印象としてはTortoiseにクラウトロックとジャズの調味料を多めにかけた感じでしょうか。

 ホーンやフルート、シンセを活用して職人感覚で精巧に音を重ねていく傍ら、気まぐれ感のある実験精神も発揮。サイケデリックやミニマルミュージック、インプロ等が入り混じりながら着地点が見えないインストの魔境が続く。本作では爆発力のある轟音はあまり用いず、テンションの上下動をできるだけ避けた雰囲気ものになっています。

 クラウトロック風のSF空間をつむぐ#2「Le’espalace」、ジャズチックなドラムと動きのあるベースラインで渋いムードを演出する#5「Dr. Hooch」、サイケデリックな意匠と轟音が取っ組み合いする#6「Disco & Haze」などを収録。

 19分を超えるラストトラック#8「The Fare To Get There」はラウンジミュージックのような穏やかな装いで、淡々と耳をなで続ける。正直なところオリジナル作では一番地味ではありますね。

メインアーティスト:Do Make Say Think
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Goodbye Enemy Airship the Landlord Is Dead(2000)

 2ndアルバム。全7曲約48分収録。地元トロントの郊外にある古い木造の納屋でレコーディングされた作品です。サイケやジャズの引用をベースに置きながらも、前作より抑揚がついた展開が多くなっています。

 #1「When Day Chokes The Night」からゆっくりと燃え上がるような静から動への転移を果たしており、3分30秒過ぎからのツインドラムの躍動を合図にギターとホーンが荒れ狂っていく様にもっていかれる。

 #3「The Landlord Is Dead」のしんみりムードを一変させるようなダイナミクスも痛快。DMSTの場合はジャズチックなツインドラムをリード役にして、管楽器やシンセを道連れに狂騒を生み出せることが利点になっています。だからこそGY!BEは近しかったりもするのですが、DMSTの方が温かみや煌びやかさを感じさせる。

 3分台の尺に収めた2曲#4「The Apartment Song」と#6「Bruce E Kinesis」のオルガンがもたらす幽玄な響きもまた新鮮。ラストを飾る#7「Goodbye Enemy Airship」の12分30秒に渡る鮮やかな旅路はとても劇的であり、バンドの前進を物語っています。

& Yet & Yet(2002)

 3rdアルバム。全7曲約49分収録。前作のふり幅の大きいダイナミクスは少し抑えめで、ミニマルなアプローチが手綱を握ります。

 引き締まったジャジーなドラムが先導していく中でなめらかなギターやシンセ、ホーンが重なる。ここに細かなエディット処理なんかが入り、ダブ的な音響も混じります。それらが開放感と温かみのある作風を支えています。イメージとしてはMice Paradeが近くなったような感じでしょうか。

 #1「Classic Noodlanding」や#3「White Light Of」の柔らかなリフレインの中で繊細なテクスチャーを構築していく。一方で#2「End Of Music」は本作で躍動感を一番示している楽曲で、柔らかに被さる電子音響は3分過ぎから白熱した音の集合体へと化します。

 また#5「Reitschule」はGhosts&Vodkaにホーンで厚みを加えたような小気味よい進行とゆったりとしたジャズ・パートが搔き乱す9分間がたまらない。それでいてアンビエント風の装いやワールドミュージック的な風景も紡いでおり、以前と比べてもトリートメントされたきめ細かなサウンドが心地よい。

 入門編にオススメできる作品です。ちなみに本作はFACT MAGAZINEが2016年に発表した『ベスト・ポストロック・アルバム TOP30』の第19位にランクインしています。

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Winter Hymn Country Hymn Secret Hymn(2003)

 4thアルバム。全9曲約52分収録。タイトル通りに3つの楽章で構成された作品であり、#1~#3が「Winter Hyms」、#4~#6が「Country Hymn」、#7~#9が「Secret Hymn」を示しています。

 2ndアルバム期のロック感と躍動感を取り戻しつつ、全体的にどこか哀愁を帯びた装いとなっているのが特徴。

 9分を数える#1「Fredericia」を始めとして静から動への公式を再利用する中で、ジャズやダブ、エレクトロニカにオーケストラルなスパイスを混合しているのがDMST。繊細であって力強い。その強弱の押し引きを空間というパレットをふんだんに使って表現する上手さがあります。

 三拍子で進行する#3「Auberge Le Mouton Noir」、最もジャズ気質な#6「Ontario Plates」辺りは曲終盤で楽団のように混然一体となるエネルギーを感じさせる。優美であってパワフル。それでいて一歩引いた奥ゆかしさが本作にはあります。

 作品を重ねるごとに洗練ではなく変化し続けるのが彼等。#9「Hooray! Hooray! Hooray!」はつま弾かれるアコギと70年代にスリップしたかのようなオルガンの音が、のどかな風景に身を置いているかのように錯覚させる。この終わりもまた味わい深い。

You, You’re a History in Rust(2007)

 5thアルバム。全8曲約48分収録。Akron/FamilyとLullabye Arkestraのメンバーをゲストに迎えたヴォーカル曲を披露。コーラス的な声使いをしている曲は以前にもありましたが、明確に”歌”を強調した楽曲が収録されるのは本作が初でしょう。

 その影響からかインディフォーク~カントリー風味が強くなった印象を受けます。胎動のようなリズムの上でアコギが揺れ動く#2「A With Living」は、歌が介入することで新しい人格を獲得したかのようなインパクトあり。

 もちろんこれまでのDMSTメソッドが活用された中での変化であり、#3「The Universe!」における祝祭の轟音は華々しく世界を彩るものです。

 フォーキーなサウンドと口笛が牧歌的な雰囲気を生む#4「A Tender History in Rust」、子どもたちの遊んでいる様子がサンプリングされた「Herstory of Glory」は土着的な現実味と寓話的な抽象性が良い意味で中和。これまで以上に柔らかなメロディ、遊び心あるアイデアが童心に帰るアシストをしています。

 実験的なテイストはそこかしこに含んでいるものの、懐の深さと親しみやすさを両立している作品であり、こちらも初心者には入りやすい。

 なお本作はKerrang!が2018年に発表した”ポストロックの名盤 16選“に選出されています。

Other Truths(2009)

 6thアルバム。全4曲約43分収録。#1「Do」#2「Make」#3「Say」#4「Think」と4曲に自分たちのバンド名を付けた作品です。オリジナルアルバムとしては唯一となる国内盤が残響レコードからリリースされています(一応、他の作品で輸入盤国内仕様がある)。

 カントリー味のあった前作から再び変化。1曲平均10分(10分以下は#4「Think」のみ)という長尺曲だけを並べ、運動性の高さとダイナミズムに焦点があたった作品です。

 小気味よいツインギターを合図にリズム隊やホーン、コーラスを巻き込みながら巨大発展していく#1「Do」が本作の白眉。複雑なアンサンブルを乗りこなしながら火に油を注ぎまくり、華やぎと喧騒が一体になった轟音が押し寄せる同曲はわたしがDMSTで最も好きな曲です。

 引き続きAkron/Familyのメンバーがコーラスで参加する#2「Make」は後半の祝祭的なホーンに魅了され、#3「Say」はミニマルなギターを中心に抑制と解放が12分以上続く。

 ラスト#4「Think」は音数をしぼることで田舎の深夜のごときムードが延々と漂います。長年続くバンドとしての練度を躍動感に反映させたかのようでロック色が強めの作品。

 ただ、メンバー自身は次作『Stubborn Persistent Illusions』のインタビューで本作について”一歩後退したとは言わないが、前進したわけでもない”と肯定的には捉えてない模様。

メインアーティスト:Do Make Say Think
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Stubborn Persistent Illusions(2017)

 7thアルバム。全9曲約60分収録。タイトルはATTN:MAGAZINEのインタビューによると、メンバーが音楽を担当した『How To Build A Time Machine』という映画の一節から。目新しい要素はないですが、これまでの作品の集合体からカイゼンと成熟を果たします。

 ポストロッキンな騒静の上下動、繰り返しによる焦らし、オーケストラルな厚みと風合い、エレクトロニクスがもたらす光の帯・・・etc。ヴォーカルの活用は本作にないにしてもDMSTが持つ多機能性を示し、優雅に作品を編んでいます。

 10分超に及ぶ#2「Horripilation」の勇壮なうねり、#4「Bound」~#5「And Boundless」の組曲的な展開美、#9「Return, Return Again」がもたらす昂揚感。

 POP MATTERSのインタビューでは”即興から肉付けして練り上げていく”と作曲法を語っていますが、シームレスに諸要素を組み合わせながら壮大な音楽へと発展させていく美学がここに詰まっている。

 同郷のGY!BEと比較されるとはいえ、DMSTには絶望的な暗黒は存在しません。しなやかな伴奏として日常を彩り、20年以上続く老舗としてのこだわりを本作でも感じさせます。

プレイリスト

お読みいただきありがとうございました!
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