【アルバム紹介】Casey『How To Disappear』

 2014年に結成された南ウェールズ出身の5人組ロックバンド。バンド名はUSハードコア・バンドのThe Rise Of Scienceのアルバム『Casey』に由来します。ポストハードコアと歌ものポストロックの折衷したスタイルに、ヴォーカリストのTom Weaverが向き合ってきた人生の痛みを詞に乗せる。

 2016年に1stアルバム『Love Is Not Enough』、2018年に2ndアルバム『Where I Go When I Am Sleeping』を発表し人気を得るも2019年に早くも解散。しかしながらパンデミックを経た2022年末に再結成。2024年初頭に3rdアルバム『How To Disappear』を発表しました。

 本記事はその最新作となる『How To Disappear』について書いています。

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アルバム紹介

How To Disappear(2024)

 3rdアルバム。全12曲約46分収録。過去作を振り返るとポストハードコアと歌ものポストロックの折衷したスタイルを持ち味に、1stアルバム『Love Is Not Enough』では失恋、続く2nd『Where I Go When I Am Sleeping』は身体と感情の苦悩をテーマに持つ。

 いずれもが作詞を担当するヴォーカリストのトム・ウィーバーの人生における痛みと葛藤を反映しており、彼は実際に出生時に骨脆性疾患、15 歳で潰瘍性大腸炎、20 歳で躁うつ病と診断された経験を持つ(MUSIC&RIOTS MAGAZINEインタビューより)。それがCaseyを表現する上での根幹となっています。

 2019年に解散、2022年12月に復活して6年ぶりのフルアルバムが本作。プレスリリースでは”私たちの時代が終わった後、私たちが愛する人たちに残す永続的な影響を解き明かそうとしている。このアルバムでは、12曲を通して、存在と悲しみの謎めいた交差を探求している“と記されます。

 激しさとメロディを伴ったハードコア・バンドとして名を挙げたCaseyも空白期間を経ての変化をみせる。1st→2ndと作品を出すごとにスクリームが減って歌の比率が高まっていましたが、本作は95%は歌もので声を荒げるパートが時折入ってくる程度。エモやポストロックという領域で語られる軽快さとメロウさが全体の瑞々しさを担保しているように感じます。

 元々そんなにオラオラ感のあるバンドではなく、繊細で物思いにふけるアプローチの方に一日の長がありました。その特性を全面に出したのが本作です。同じ3rdアルバムで激情系ポストハードコアの大部分をそぎ落として歌もの主体となったPianos Become The Teethの変化に近い道を辿っている。

 始まりの#1「Unique Lights」から心地よいテンポを守り、やわらかなメロディとしっとりとした歌声を届けています。カラッとした開放感のある楽曲から幻想的なナンバーまで取りそろえる中でキャッチーさは過去作と比べても抜きんでている。この変化についてはKerrang!のインタビューでクラシック音楽やExplosions In The Sky、This Will Destroy Youに大きな影響を受けたとも回答。

 そういったリスナー・フレンドリーな表層を成形する一方、詞がもたらす感情的な重みと深みは変わらず。#1「Unique Lights」の”どこにでもある不快感を認めることなく、私の人生の仕組みを説明するのは難しい“から最終#12「How To Disappear」の”私が知りたいのは、どうすればあなたに心配をかけずに姿を消せるかということだけなのに“まで幾多の苦悩が語り掛けてくる。

 作品を通して家族や友人や恋人との関係性、自身が患った肉体/精神的な病、愛と死といったテーマが渦巻き吐き出されています。

 旋律や歌を手繰り寄せていくなかでCaseyは痛みを”美しい痛み”へと昇華するプロセスを持っている。”私が書くほとんどすべては、私がすでに処理した経験の回顧的な説明です(前述インタビューより)”と過去に説明していますが、痛みと喪失を通した中で表現されていく愛。『How To Disappear』にはそれがある。

メインアーティスト:Casey
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