轟音耽美四重奏 ヘヴィインスト・バンド、Pelicanの歩み

 2001年にシカゴで結成されたヘヴィ・インストゥルメンタル4人組、Pelican(ペリカン)。元々は残虐性に染まったグラインドコア・バンドTUSKの別働隊として始まります。スラッジメタルとポストロックの要素をダイナミックに交差させるインストゥルメンタルを奏で、本隊を超える人気を獲得したのは周知の通り。

 2003年に1stアルバム『Australasia』でISISのアーロンが運営するHydra Headよりデビューを飾ると、2005年には2ndアルバム『The Fire in Our Throats Will Beckon the Thaw』で高い評価を得ました。この頃、初の来日ツアーを日本のインストロックの雄・MONOの助力によって成し遂げます。その後もSouthern Lordへとレーベル移籍を経ながら、コンスタントにリリースを継続。

 2012年に不動のメンバーで10年以上の活動してきた中で、ついに起こってしまったメンバーの脱退。しかしながら、新メンバー加入後もオリジナルメンバー3名を核に、その歩みは止めていません。バンドは結成20周年を迎えた2021年現在までに、6枚のフルアルバムと6枚のEPをリリース。本記事ではフルアルバムに焦点を当て、彼等の歴史を追っていきます。私自身、彼等の2ndアルバムでインスト作品を聴き始めた経緯があります。そのため、Pelicanには思い入れが強いことをあらかじめ言及しておきます。

 ちなみにPelicanは日本へ通算4度の来日経験あり。2005年7月、2007年9月、2009年5月、そして直近が2019年12月となっていますが、近年は国内盤は欠かさずリリースされる中でコンスタントな来日には至っていません。彼等を知ってもらうことで未来の来日公演が実現することを願う人が増えれば幸いです。

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Australasia(2003)

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   ISIS(the Band)のアーロン・ターナー主催のHydra Headからリリースされた1stアルバム。デビュー前に発表したバンド名を冠した4曲入りEPでも顕著でしたが、粗削りのヘヴィネスに加え、長い時間をかけてゆっくりと紡がれるストーリーが肝となっています。バンドにはハードコアやスラッジメタルの素養が根底にある。形式としてポストロックへの落とし込みがみられますが、そのジャンルと呼ぶにはいささかヘヴィなのが、彼等の大きな持ち味です。

 幕開けを飾る11分超の#1「Nightendday」にはポストロックの血脈が流れています。どす黒い積乱雲のようにヘヴィネスが空間支配。ゆったりと抑揚を交えて展開されていき、やがて隙間から一抹の光が差し込むかのようにメロディが鳴り響き、劇的なエンディングへと雪崩れ込む。タメにタメての10分以降の展開は凄まじいまでのカタルシスを誘います。

 ラストトラックの表題曲#6「Australasia」もまたこうした流れを持つ大曲。中盤ではボウイング奏法を用いながらの幻想的なサウンドを表出しつつ、クライマックスの美しさにつなげていく。この曲では大陸的な響きやアンビエンスな揺らぎまで登場し、初期の代表曲といえるものに仕上がっています。

 それらとは逆のベクトルを進む#2「Drought」では、重音を主体にゴリ押しかつスリリングに畳みかける様に圧倒される。#4「GW」では約3分30秒の中にバンドの特性が凝縮されています。単なるポストロック扱いにとどまらない姿勢は既に垣間見えます。だからこそ初作とはいえ、アーロン・ターナー先生が惚れ込んで自レーベルからリリースしたのにも納得。

 壮大なサウンドから感じるのは大器への序章です。#1「Nightendday」や#6「Australasia」で聴かせた片鱗は、次作で大いに花開きます。とはいえ、本作で味わう/感じる初期衝動に揺り動かされるものもあります。#2「Drought」は4th以降の作品に大きく影響していると思いますし。ちなみに#6は、わたしが足を運んだ2009年の来日公演で披露しています。

The Fire in Our Throats Will Beckon the Thaw(2005)

   2年ぶりの2ndアルバムでは、厳しくも雄大で美しい自然というのが音楽で表現されました。全7曲で描かれるのは生まれ育ったシカゴの四季であり、移り変わる四季においての広大な風景。自然の容赦ない怒りとかけがえのない美しさ、それを轟音と叙情のダイナミックなシフトにより力強く描き出しているのです。

 Pelican史上最もドラマティックな楽曲といっても過言ではない#1「Last Day Of Winter」から始まる本作は、最初から最後まで壮大です。10分前後の曲4つ、5分前後の曲3つという構成。音楽的には前作ほどの重厚さはなく、クリーントーンが占める割合が増えており、全体として研磨洗練の後がみられます。市民権を得たポストロック界隈において、不動の地位を築いたExplosions In The Skyの影響もあったのかもしれません。とはいえ、ハードコア/スラッジメタル方面への敬意が含まれていますし、静と動の明確なコントラストを持つ中で、刹那的にヘヴィ/メロウの閾値をオーバーシュートすることもあります。

 穏やかな秋晴れの最中だったのが怒涛の喧騒に巻き込まれる#2「Autumn Into Summer」、荒れ狂う大海を思わせるリフが幾重にも積み重なり襲い掛かる#3「March to the Sea」と#1を含めた前半3曲に悶絶。無題のアコースティック#4を挟んでの後半の対象は空へ。#6「Aurora Borealis」と#7「Sirius」は純化した美しさを際立たせ、作品を締めくくっていきます。悠然とした大地も母なる海も大らかな空も、彼等の紡ぐ音の中で描かれているのです。

 虹色の自然叙情詩と表現できそうな圧倒的なスケールと描写。2007年頃にわたしがインストゥルメンタルを聴くようになったきっかけの作品であり、人生においても5本の指に間違いなく入るマスターピースです。そんな思い入れの深い1枚だけに、聴くたびに特別な感傷に浸ってしまう。願いが叶うのであれば、本作を#7「Sirius」から#1「Last Day Of Winter」まで逆順に演奏していくというライヴの奇跡を体感したいものですね。

 なお、amassの記事によると、海外のギター系音楽サイト”Ultimate-Guitar.Com”にてWeb読者の投票による「史上最も素晴らしいインストゥルメンタル・アルバム TOP25」を募ったところ、本アルバムが16位にランクインしたそうです。

City of Echoes(2007)

 2年ぶりとなる3枚目のフルアルバム。荒削りの重厚さが要となる1stアルバム、七色の長編叙情詩として高く評価された2ndアルバム、その橋渡しをしている中間的作品というのが第一印象でした。8曲で約42分という引き締まった内容となり、7分を超える曲が1曲だけとこれまでとは違い、曲の長さもコンパクトに保たれています。

 前作における風景を音で描写したものとは違い、本作は人間の本質に迫った“都市に集まる人々の心”を描いた作品になるという。収録された8曲は、単体というよりは8曲全部ひっくるめて都市と人々を映し出しているという印象ですね。曲のバリエーションも増え、やや短尺となったことで聴きやすくなったという側面もあります。力強さ、哀愁、構築美。四重奏が放つ重轟音と叙情によるダイナミックなサウンドは、これまでよりも強まったメタリックな硬質性を得ながら鳴っています。

 特筆すべきはタイトルトラックの#2「City Of Echoes」であり、これまで培ったヘヴィネスとメロウネスをさらに引き締まったライブ感溢れるものへと昇華しました。後に繋がっていくウォール・オヴ・スラッジメタルともいうべきライヴ定番曲#5「Dead Between The Walls」、これまでにないスピード感を持つ中でヘヴィリフが暴れまわる#3「Spaceship Broken – Parts Needed」や#6「Lost in the Headlights」。アグレッシヴさと開放感といった観点でも、これまでの2作には無かった違いを如実に感じるものです。

 こうした変幻自在さ、多彩さは初期から続くポストロックの様式にとどまらない意思表示と言えるかもしれません。2ndのような長編叙事詩があって、本作のようなコンパクトな作りで昂揚感をもたらすことができる。そこにバンドとしての懐の深さ、真髄がある。国内盤のみに付属する40分超のDVDも含めて、非常に有意義な作品だと思います。

What We All Come to Need(2009)

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 ヘヴィロックとポストロックを掛け渡す”ヘヴィ・インスト”という地位を確立する彼等の2年半ぶりとなる4作目。発売前には、MONO主催のRaidworld Festivalにて3度目の来日を果たしています。公演の際には3曲入りEP『Ephemeral』が50枚限定発売されました。そのEPで聴かせた一段と音圧を増したヘヴィネスが、本作を紐解く上でのキーとなっています(こちらにはEarthのカバー曲も収録されています)。

 レーベルはSUNN 0)))のグレッグ・アンダーソンによるSouthern Lordへと移籍。という事情が影響してか、全身を揺らめかせる重量感が顕著に表れています。現在でもライヴでは欠かせない曲のひとつである#2「The Creeper」は、本作を象徴するかのようにドゥームメタルのごとき重苦しさをもたらすもの。EPから続けて収録となる「Ephemeral」は激しいリフの嵐とパワフルなリズムによって先導され、全身にビリビリと震えを覚えます。これまでにないずっしりとした質量を肌に感じる内容ですが、序盤だけでも特化したヘヴィネスは十分に伝わるのです。

 しかしながら、潤いのような叙情性があり、Pelicanたらしめる要素が決して薄まったわけではありません。リード・トラックとなる#5「Strung Up From The Sky」はメロウなドラマを聴かせ、ラストトラックでは初となる歌ものをThe Life And TimesのVoをゲストに迎えることで実現しています。 朱に染まった雲海から流れ出す、烈しい轟音と麗しき旋律。Pelicanは本作を持って新境地へ力強く歩みを進めていきました。

Forever Becoming(2013)

 2012年4月にEP『Ataraxia/Taraxis』をリリースはありますが、フルアルバムとしては実に4年ぶりとなる通算5枚目。オリジナル・メンバーであるギタリストのLaurent Schroeder-Lebecが衝撃の脱退。結成から不動のオリジナル・メンバーで10年以上を歩んできたPelicanにとって、かつてない危機に直面しましたが、The Swan KingのギタリストであるDallas Thomasを迎えてこの荒波を乗り越えました。

 新生Pelicanの船出は、プロデュースが前作に引き続いて元These Arms Are SnakesのChris Common。リリースも同様にSouthern Lordという心強いバックアップのもとで制作されました。内容は前作からの延長上ですが、スラッジメタル要素が押し出された重厚で骨太な音を根幹に、持ち味の叙情性が作品を彩っています。

 豪胆なリズムによる牽引とリフの重音爆撃の連続である#2「Deny The Absolute」のようにひたすら攻めに打って出る曲から、地殻変動を呼び起こすヘヴィネス#3「The Tundra」といったお得意の曲、ノスタルジックなメロディの向こう側に壮大なクライマックスが待つ#8「Perpetual Dawn」のようなドラマ性を持った曲に至るまで用意。新メンバーを加えたものの、10年以上の結束のある3人を核にした、インストゥルメンタル・メタルは強力そのものです。

 ソリッドな音作りと無機質な印象を残す中で、多彩なリフとメロディの組み合わせは大きな武器。前述の#2、#8に加え、轟音ヘヴィネスの中で温かな情緒や幻想性が織り込まれた#4「Immutable Dusk」が本作では傑出しています。円熟の域に達しながらも精悍なインストは、彼等だからこその出来栄えです。それは重音四重奏の矜持というべきでしょうか。

Nighttime Stories(2019)

 約6年ぶりとなる6thアルバム。Pelicanというバンド自体、元々はグラインドコア・バンドのTuskのサイドプロジェクトとして産声をあげています。そのTuskでヴォーカルを務めるJody Minnoch氏の死が2014年にあり、悲しみと喪失を乗り越えるためのストーリーとして本作は書かれました。

 ”LIFE METAL教”の総本山・Southern Lordへの移籍以降、インストゥルメンタル・メタルとしての風格が際立つ彼等。本作において顕著なのは、短い時間軸における細かく動きのある展開です。前作でも「Deny The Absolute」にその兆候はありましたが、大きくて長い時間軸の上で楽曲の雄大なストーリーを描く初期の頃(1st、2ndアルバム)とはモードが違います。削岩機のごときスラッジメタルでゴリ押し制圧する#6「Nighttime Stories」を完備する中で、刻むリフや時にブラストビートまでを扱う瞬発性でもって聴き手をリードする場面が増えています。#2「Midnight and Mescaline」、#3「Abyssal Plain」辺りは、重量感を出し抜く緩急の急による効能を実感するはず。

 それでもなお、メタル的な刻みを取り入れる中で、#4「Cold Hope」や#8「Full Moon, Black Water」はPelicanならではのオリエンタルな叙情性を湛えており、”泣き”といえるようなギターフレーズが目立ちます。ハイライトトラックと呼べそうな#7「Arteries of Blacktop」の軽快な立ち上がりから勇壮なツインギターによるメロディを経て、スラッジメタル粉砕事業が勃興するその様に衝撃が走る。モードが違うとは言いましたが、1stに収録の「Drought」は彼等の礎だと改めて感じたり。

 そんな喪失を抜け出すための長い夜の物語は、重さとスリリングさが見事な共存の上で成り立っています。本作リリース後の2019年12月には約10年ぶりの来日ツアーが実現。わたしも今池HUCK FINNにて、彼等の雄姿を10年ぶりに目撃しました(通算3回目)。

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