1983年にワシントン州モンテサーノで結成された3人組(時期によっては4人編成)。中心人物はフロントマンのバズ・オズボーン(キング・バゾ)オルタナティヴ・ロックやグランジ、メタル等に影響を与えたヘヴィなサウンドは、結成から40年を越えてもなおも現役。2024年4月に最新アルバム『Tarantula Heart』をリリース。
本記事は現在、3rdアルバム『Bullhead』~5thアルバム『Houdini』、7thアルバム『Stoner Witch』、8thアルバム『Stag』について書いています(徐々に追加予定)。
アルバム紹介
Gluey Porch Treatments(1987)
1stアルバム。
Ozma(1989)
2ndアルバム。
Bullhead(1991)
3rdアルバム。全8曲約35分収録。スラッジメタル要素の強いMelvinsとしては、次作と並んで最高傑作に挙げられることの多い作品です。
ゆっくりと動く岩石のごときリフが繰り返される8分半#1「Boris」から極楽と地獄の逢瀬。日本のBorisがバンド名を拝借したことでも知られる本曲は、メルヴィンズのマイルストーンとして今もなお語り継がれる名曲です。
本作では彼等の伝統的要素である”スロウとヘヴィ”に磨きをかけるのと同時に悪戯心が増し、楽曲の尺も長めになりました。#3「Lignature」の引きずるようなグルーヴは重苦しさの中に快楽作用が伴い、ヘヴィにロックンロールする#5「Zodiac」も代表曲のひとつ。
後半はドラムのひとり舞台となる#8「Cow」で終わるのも独特です。遅くて重いが本作の肝とはいえ、他のヘヴィバンドと違って外交的なのはMelvins。
常に緊張感のあるNeurosisとは違い、自由さと遊び心があるのがヘヴィロックのゴッドファーザーとしての無二たる所以か。なお本作はRolling Stone誌が選定した『歴代最高のメタルアルバム100選』の第60位にランクインしています。
Lysol(1992)
4thアルバム。全1曲約31分収録。元々は『Lysol』というタイトルでしたが、同名の防腐消毒剤の商標権を持つ某会社からクレームが入り、セルフタイトルに落ち着きました。
アルバムジャケットはボストン美術館前にあるサイラス・エドウィン・ダリン作のThe Appeal to The Great Spiritに基づく。ベースが交代してジョー・プレストンが参加しています。
1曲31分という長尺構成ですが、6つのパート(というか曲)から成る。初っ端の11分近い「Hung Bunny」からセールスという楼閣に入ろうとせず、煙たいリフと鈍重なリズムに謎のうめき声が延々と続きます。8分過ぎにようやくドラムが躍動しだして、曲が前進していることを思い知らされるも焦らしプレイは継続。
明確な歌が登場しないまま次パート「Roman Bird Dog」へと引き渡され、キング・バゾのしゃがれた歌声が聴けるようになる。とはいえスロウでヘヴィという骨格そのままに、サウンドはより巨大化していく。
そしてFlipper「Sacrifice」、アリス・クーパー「Second Coming」「The Ballad Of Dwight Fry」とカバー3編が続きます。原曲を知らないので詳しくは語れないですが、ここでお茶目さとルーズさを出してくる辺りがMelvins。その後に再びオリジナルに戻って最終パート「With Teeth」で約2分を締め。
本作の6パートに明確な連続性や関連性があるわけではないようですが、ある人にとっては心地よさのタガを外します。この30分にわたるメルヴィンズ・クエストはSleep『Dopesmoker』を始め、多くの影響を与えるに至り、現在もそれに陰りはない。スラッジの重要作のひとつに数えられます。
Houdini(1993)
5thアルバム。全13曲約58分収録。アトランティック・レコードからリリースされたメジャーデビュー作品。ジョー・プレストンが脱退したためベースにはロリ・ブラックを呼び戻していますが、実際に演奏していない。ほぼ2人での制作。またジャケットはフランク・コジックを起用しています。
ヘヴィ道を歩けばメルヴィンズにぶち当たる。#1「Hooch」のあいさつ代わりには強力すぎる重量級のグルーヴとキング・バゾのしゃがれた歌声が迫力いっぱいに轟きます。そして#2「Night Goat」、#3「Lizzy」という代表曲認定される名曲の畳みかけ。
ここにKISSのカバー#4「Goin’ Blind」を原曲の2/3倍速で妖しげにうねらせ、またしても代表曲のひとつ#5「Honey Backet」でブルドーザーのごとき馬力で駆けあがる。前半はこの上ない強力さです。
メジャーからの発売ということで以前のような実験的な曲をある程度は自重しているとはいえ、キャッチーさを増しつつも偏屈という仕様はメルヴィンズらしい。
刻みまくるベースとドラムの上にささやきを入れる#12「Pearl Bomb」、パーカッションでいたずらに変相する10分超の#13「Spread Eagle Beagle」と終盤はバンド特有のひねくれた感性が発揮されています。
カート・コベインが2曲参加で6曲で共同プロデュースというトピックはあるにせよ、それを余裕で超えてくる内容。その上で全体通して以前よりも整理されている印象は強いですね。スピード違反はなくとも重量オーバーはお約束。
多作を極めるメルヴィンズの作品群で最もアクセスしやすいのがこの『Hoodini』でございます。なお本作はTreble Zineが選出した”10 Essential Sludge Metal Albums“の1作品に選ばれている。
Prick(1994)
6thアルバム。いわゆる地雷盤。
Stoner Witch(1994)
7thアルバム。全11曲約50分収録。引き続きAtlanticからのリリースです。大枠は『Houdini』の流れに沿っていますが、ダークな風合いと実験的な作風が勢力を強めています。とはいえ前作『Prick』と違い、Melvinsの中では”主流”に属するので安心してください(メジャー発売ですしね)。
約70秒のヘヴィなプレゼンテーション#1「Skeetis」を皮切りにダイナミクスの妙味を活かした#2「Queen」、低速と高速のギアを間違えたおかげでノリの良いドライヴ感を味わえる#3「Sweet Willy Rollbar」、イントロの三者の掛け合いから持ってかれる必殺曲#4「Revolve」と序盤は本当に強力。
#3は別にしてもお得意の遅さを主体にして、歌のキャッチーさはこれまで以上です。ただそれを全編通すかは別問題のようで、後半はメジャーレーベルによって締め付けられていたネジを自ら飛ばして多様さを披露。
#7「At The Stake」のようなドゥーム曲はどこかブルージーな感触を残し、#8「Magic Pig Detective」は大半をノイズでまとめながら後半はロックンロールな趣であり、アンビエント風味の#9「Shevil」や#11「Lividity」は奇妙に響く。
ヘヴィでありつつユーモアを持つという流儀は崩さず、やはり一筋縄ではいかないバンドです。ちなみに本作はTreble Zineの”10 Essential Stoner Rock Albums“に選出されている。タイトルがタイトルだけに。こちらもメルヴィンズ入門向けではありますね。
Stag(1996)
8thアルバム。全16曲53分収録。Atlantic Recordsからリリースされた最後の作品となります。
『Stoner Witch』の後半も奇妙な楽曲を収録していましたが、本作は全編にわたってそんな感じです。メジャーに迎合しない姿勢を明確化し、スラッジを基調とするも曲調は幅広い。
ハードロック、サザンロック、アンビエント、ノイズ、サイケなど。ここにシタールやホーンセクションを組み込んだ曲もあり、音種も増加させています。正直なところをいえば取っ散らかっている。ですがアルバムという糸を通した時には不思議と次は何が飛び出してくるのか、というワクワク感に変えてくる作品です。
メルヴィンズ最強曲のひとつである重量級ナンバー#1「The Bit」に始まり、ホーンを導入して明らかに以前とはベクトルが違う陽気がある#3「Bar-X-The Rocking M」と序盤から驚きの連続。
そしてこんなKAWAiiメルヴィンズがいたのかと驚く#7「Black Block」の優しさから一気に地獄の門が開く#8「Goggles」の重低音魔境、さらに#13「Skin Horse」なんて途中からキテレツ大百科じゃねえかと(笑)。
引き出しが多いのか。実験的なのか。それとも単なる悪ふざけなのか。正解は彼等のみが知るですが、確信犯的にメジャーレーベルの意向に背いてやりたい放題。大丈夫、これがメルヴィンズだから。