2021年上半期 映画10選

 2021年上半期に映画館で鑑賞した作品から選出する10作品。書いている2021年7月11日現在、劇場鑑賞数が23本だから去年の同じ時期よりも少ない・・・。緊急事態宣言が幾度か発令する中、愛知県の映画館は閉まっていなかったのに。このwebサイトを復活させて、時間を多く割いて作業していたのが要因なんですけれども、週1,2本のペースは守りたいところです。

 先日にアップした2021年上半期に読んだ本13選と比べるとそれと選出/鑑賞数における比率がおかしいですけど、10本の方がキリがいいので。あと邦画の割合が高い。今、自分が見たいと思う作品が多いからでしょうかね。洋画は『SNS 彼女達の10日間』や『ローズ・オブ・カオス』などエグくてインパクトのある作品を観ていたのもありますが。ちなみにヒューマンドラマ、社会派といった感じの作品を観るのが主なので、大作と言われるものはほとんど観てません。

 では、以下からどうぞ。

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ノマドランド

ネバダ州の田舎町の経済崩壊を受けて、ファーン(フランシス・マクドーマンド)はヴァンに荷物を積み込み、アメリカ西部の広大な景色の中で自由な放浪の旅に出る。道中、彼女はほかのノマド(放浪の民)たちと固い絆を育む。人間の打たれ強さを描いた心揺さぶる希望の物語。

 アカデミー賞3部門受賞。圧倒的フランシス・マクドーマンド作戦ですが、やっぱりすごいなと素直に思います。悲しみや喪失感を抱えながら、車上生活で土地を転々とする。主人公・ファーン(フランシス・マクドーマンド)がノマド(遊牧民)として生きる目的は、はっきりとは明かされてないが、だいたいこんな感じだろうなあというのは伝わります。

 本作を観て思ったのは、”自分軸”の重要性。過酷なはずのノマド生活が美化され過ぎている印象はあったけど、本質的な触れ合い、それこそ五感を通して接する人と自然がもたらす豊かさ、それを改めて教示してもらったように思う。鑑賞前日にカル・ニューポート氏の『デジタル・ミニマリスト』を読み終えていたことで、本作の内容がさらに響いた気がしています。

聖なる犯罪者

少年院で出会った司祭の影響で熱心なキリスト教徒となった20歳の青年ダニエルは、前科者は神父になれないと知りながらも、神父を夢見ている。仮釈放が決まり、ダニエルは少年院から遠く離れた田舎の製材所に就職することになった。製材所への道中、偶然立ち寄った教会で出会った高校生マルタに「神父だ」と冗談を言うが、新任の司祭と勘違いされそのまま司祭の代わりをすることになった。司祭らしからぬ言動や行動をするダニエルに村人たちは戸惑うが、若者たちとも交流し親しみやすい司祭として人々の信頼を得ていく。一年前、この村で6人もの若き命を奪った悲惨な事故があったことを知ったダニエルは、この事故が村人たちに与えた深い傷を知る。残された家族を癒してあげたいと模索するダニエルの元に、同じ少年院にいた男が現れ事態は思わぬ方向へと転がりだす…

 司祭のコスプレアイテムを持ってたことで思わず言ってしまった嘘。そこから始まった司祭ごっこは、やがて本物の重みをもつようになる。少年院上がりの前科者ゆえに聖職者になることが本来ならできないはずだったのに・・・。でも、彼の司祭ごっこは思わず見とれるような完璧さと感情があります。あれは騙されるわなあとさえ思う。

 赦しとは何かを信者に語りかける。”赦しとは忘却ではなく、赦しとは愛ではある”というのは本作に出てくる一説。一方で、自身は同じ少年院で過ごした人間に出くわしてしまって全てをバラすと脅される。以降の緊迫感はなかなかで、バラされるという不安の中で聖職者として目覚めた本能が彼を突き動かす。エグい作品だけども、見る価値は十分です。

あのこは貴族

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同じ空の下、私たちは違う階層<セカイ>を生きているーー。東京に生まれ、箱入り娘として何不自由なく成長し、「結婚=幸せ」と信じて疑わない華子。20代後半になり、結婚を考えていた恋人に振られ、初めて人生の岐路に立たされる。あらゆる手立てを使い、お相手探しに奔走した結果、ハンサムで良家の生まれである弁護士・幸一郎と出会う。幸一郎との結婚が決まり、順風満帆に思えたのだが…。一方、東京で働く美紀は富山生まれ。猛勉強の末に名門大学に入学し上京したが、学費が続かず、夜の世界で働くも中退。仕事にやりがいを感じているわけでもなく、都会にしがみつく意味を見いだせずにいた。幸一郎との大学の同期生であったことで、同じ東京で暮らしながら、別世界に生きる華子と出会うことになる。2人の人生が交錯した時、それぞれに思いもよらない世界が拓けていく。

 地方者の憧れで肥大した幻想都市・東京を舞台にした物語。東京出身者の中にも階級がある。それは上を見ればキリがないほどに凄まじく各階級における常識と見えない壁、たどり着けない領域。どんな人だって抱える生き辛さ。華子にとって難題であった結婚をクリアしたからといって、次には子作りという新しい難題が待ち受け、そのプレッシャーに辟易する。

 一方で東京の養分となり搾取され続ける美紀は、幸一郎との関係を持ち続けるも、地方の者でも東京の者でもない人になったようにみえる。幸一郎にしたって、家の名誉を傷つけるのはご法度なので、そのしきたりに沿った正しいレールを生きている。それぞれの辛さや苦しみの中で、もがき、前進と後退の繰り返しを余儀なくさせられながらも、月日は過ぎる。その描き方が非常にフェア。各々がぶつかる問題に納得できるし、だからこそ物語の豊かさがある。生き方の選択は親をトレースする生き方よりも自分らしく。そう訴えかける一作。

まともじゃないのは君も一緒

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外見は良いが、数学一筋で〈コミュニケーション能力ゼロ〉の予備校講師・大野。その前に現れたのが、自分は恋愛上級者と思い込む、実は〈恋愛経験ゼロ〉の香住。全く気が合わない二人だったが、共通点はどちらも恋愛力ゼロで、どこか普通じゃない、というところ。そして香住は大野にあれやこれやと恋愛指南をすることに。香住の思いつきのアドバイスを、大野は信じて行動する。香住はその姿に、ある作戦を思いつく。大野を利用して、憧れの存在である宮本の婚約者・美奈子にアプローチさせ、破局させようというのだ。予想に反して、少しずつ成長し普通の会話ができるようになっていく大野の姿に、不思議な感情を抱く香住。二人の心がかすかに揺らぎ始めた時、事態は思わぬ方向へと動き出す。二人が見つけた《普通》の答えとは?

 2021年に観た中では、一番おもしろいと感じた作品です。数学者の夢破れた予備校教師の大野(成田凌)、その教え子で受験勉強に励む高校生・香住(清原果耶)。2人の絶妙な会話劇を武器に突き進むコメディ作品となっております。ラブコメに属するだろうけど、コメディ・喜劇感の方が強いのは、会話のテンポとユーモアに引き付けられるか。結婚願望のある大野に普通になってもらおうと香住は考え、恋愛体験を通して普通化を図る。その中で考える普通とは。わたくしにとって人生の名著『コンビニ人間』と共に考えさせるきっかけを得られる作品です。

 そして、清原果耶さんはいつだって素晴らしい。ちなみに本作では彼女が歌うPUFFY『これが私の生きる道』が聞けます。

すばらしき世界

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下町の片隅で暮らす短気ですぐカッとなる三上は、強面の見た目に反して、優しくて真っ直ぐすぎる性格の男。しかし彼は、人生の大半を刑務所で暮らした元殺人犯だった–。一度社会のレールを外れるも何とか再生したいと悪戦苦闘する三上に、若手テレビマンがすり寄り、ネタにしようと目論むが…。三上の過去と今を追ううちに、逆に思いもよらないものを目撃していく–。

 同時期に公開された『ヤクザと家族』ともリンクする作品です。あちらは”反社”という言葉が大号令のように響き渡る現代社会で、どこにも存在しないだろうけど、居場所を求めて足掻くさまを描く。逆に本作は、役所広司フルコンボで描かれる元殺人犯の三上に対し、周りの人間がひとりの人としてちゃんと接している。排除という動きをせず、地域全体で受け止めるという描き方。社会の寛容さ・不寛容さというのがテーマのひとつ。

 鑑賞後に佐木隆三氏による91年刊行の原作『身分帳』を読みましたが、エピソードをわりと拾っていて、なおかつ現代にアップデートして制作。ちなみに本作で一番印象的だったのが、三上が小気味良くたまごかけご飯を食べるシーン。人間味を一番感じた場面でもあります。

花束みたいな恋をした

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東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った山音麦(菅田将暉)と 八谷絹(有村架純)。好きな音楽や映画が嘘みたいに一緒で、あっという間に恋に落ちた麦と絹は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲を始める。近所にお気に入りのパン屋を見つけて、拾った猫に二人で名前をつけて、渋谷パルコが閉店しても、スマスマが最終回を迎えても、日々の現状維持を目標に二人は就職活動を続けるが…。まばゆいほどの煌めきと、胸を締め付ける切なさに包まれた〈恋する月日のすべて〉を、唯一無二の言葉で紡ぐ忘れられない5年間。最高峰のスタッフとキャストが贈る、不滅のラブストーリー!

 カルチャーが繋ぎ合わせた2人の恋愛、時間の経過と環境の変化(本作では主に正社員としての労働)によって離れていく心。花束みたいな恋を”した”と過去形になっている通りに、あんなにも素敵に見えた関係にだって終わりは訪れる。残酷だけど、思い出は美しく残るし、これが人生。一緒に歩むのがあの人でなかっただけ。確かに語りたくなるのもわかる映画です。今村夏子さんの小説が苦手な自分が語っていいものか?というのはあるけども。有村架純さんの歌う「クロノスタシス」がハイライト。

 それにしても麦くんの労働時間は長すぎるけど、あそこまで小説や映画を読めない/観れなくなるものなのかとも思う。完全に文化を断絶してしまうほどなのか。本当に好きなのか、そこは観てて思うところだった。僕個人の場合は人間関係を断絶してるから、読書や映画や音楽に時間を割けるんだけど。観終わった映画の半券を本のしおりにするというのは全くわからなかった(苦笑)。萩原みのりさんに始まり、瀧内久美さんや古川琴音さん、一瞬の穂志もえかさんと脇のラインナップもツボをついてきてたのも良かったな。っていうかこのラインナップは瀧内さん以外、『街の上で』だとあとから気づきました。

BLUE/ブルー

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リアリティ溢れる描写で人間の光と影を表現し続ける吉田恵輔。30年以上続けてきたボクシングを題材に自ら脚本を書き上げ、「流した涙や汗、すべての報われなかった努力に花束を渡したい気持ちで作った」と語る本作で描いたのは、成功が約束されていなくとも努力を尽くす挑戦者たちの生き様。主演は演技派俳優として確固たる地位を築く松山ケンイチ。同じジムに所属する仲間を東出昌大と柄本時生が演じ、『聖の青春』以来5年ぶりの共演を果たす3人の掛け合いも見所。ヒロインは吉田監督作品への出演を熱望した木村文乃。実力派キャストが集結し、理想と現実の間で悩みながら生きる登場人物たちを熱演。夢に焦がれた若者たちの葛藤だらけの青春の日々が、観客の心に深い余韻を残す。

 なんといっても人間臭い作品です。2勝13敗(作中の負け含む)ぐらいに負け続けるプロボクサー(松山ケンイチ)が主人公ですが、日本ランカーに昇り詰めるも病気に体を蝕まれる同じジムの後輩(東出昌大)、パチンコ屋でバイトする同僚の女の子にモテたいからボクシングを始める素人(柄本時生)と三者の物語が描かれる。三者を描いていて、弱者の物語ってところは昨年公開の映画『アンダードッグ』に通ずるものがあります。

 努力は全部が全部実を結ぶわけではないし、なんなら残酷を教えてくる。向き・不向き、平凡と非凡。それでも勝ち負けよりも「好き」をとことんつらぬく。これ以外にやりたいことがないと。その想いってのは簡単には消えない。みんなの期待や思いを背負って勝つ的なのがスポーツや格闘技の物語には多い中で、ただ自分の好きや情熱に引っ張られて競技をずっとやり続ける。その地に足のついた感じがすごく良かった。ストの松山ケンイチさんのあれは素直に見惚れたなあ。本作の醍醐味って気がした。

街の上で

下北沢の古着屋で働いている荒川青。青は基本的にひとりで行動している。たまにライブを見たり、行きつけの古本屋や飲み屋に行ったり。口数が多くもなく、少なくもなく。ただ生活圏は異常に狭いし、行動範囲も下北沢を出ない。事足りてしまうから。そんな青の日常生活に、ふと訪れる「自主映画への出演依頼」という非日常、また、いざ出演することにするまでの流れと、出てみたものの、それで何か変わったのかわからない数日間、またその過程で青が出会う女性たちを描いた物語。

 下北沢を舞台にそこで生きる人々を描く。今泉監督お得意の会話劇、そして恋愛模様。若葉くん演じる荒川青の絶妙なボンクラ具合、巻き込まれまくって進むストーリー。そんな風に話が繋がっていくんだという驚きもあれば、単純に笑いを誘発するやり取りも多い。最初の方の古着屋のTシャツ選びのとことか警察官のあれ。

 長いとか短いとかの時間概念、友達と友人の違い、芸術作品は残るけど街や風景は変わっていくことについてなど、考えさせられる部分もある。そうは言っても本作は人々の温度を直に感じるようで、愛おしい。何度も観たくなる、噛み締めたくなるような良さがある。今泉監督の作品では1番好きかもと思えるぐらいに本作は良かったです。

茜色に焼かれる

1組の母と息子がいる。7年前、理不尽な交通事故で夫を亡くした母子。母の名前は田中良子。彼女は昔演劇に傾倒しており、お芝居が上手だ。中学生の息子・純平をひとりで育て、夫への賠償金は受け取らず、施設に入院している義父の面倒もみている。経営していたカフェはコロナ禍で破綻。花屋のバイトと夜の仕事の掛け持ちでも家計は苦しく、そのせいで息子はいじめにあっている。数年振りに会った同級生にはふられた。社会的弱者―それがなんだというのだ。そう、この全てが良子の人生を熱くしていくのだからー。はたして、彼女たちが最後の最後まで絶対に手放さなかったものとは?

 戦術尾野真千子による全力尾野真千子であり、圧倒的尾野真千子であり、尾野真千子劇場。彼女が噴出する情念や衝動があまりにも凄まじくて、細かい内容云々をねじ伏せるエネルギーをとにかく感じます。冒頭に出る”田中良子は演技がうまい”は果たしてどこまでか。

 弱者の生活を浮き彫りにしていく作品で、」理不尽の雨が降り続いているかのよう。それでも社会に耐えて生きるを続けなければならない。もちろん本作を観てパワーや希望をもらえる人も多いでしょう。でも、生きる覚悟とか意味とか、そんな定義できないものを説いているわけではないと思いました。僕としては、無償の愛と親子の形。最終的にはその温かさが染みる作品でした。

Arc アーク

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SF作家ケン・リュウの短編集「もののあはれ」所収の「円弧(アーク)」を実写映画化。『愚行録』『蜜蜂と遠雷』などの石川慶が監督を務め、『愛がなんだ』『影裏』などの澤井香織と共に脚本を手掛けた。近未来、放浪生活を送っていたリナ(芳根京子)は人生の師となるエマ(寺島しのぶ)と出会い、遺体を生前の姿のまま保存できるように施術(プラスティネーション)する「ボディワークス」という仕事に就く。一方、エマの弟で科学者の天音(岡田将生)は、この技術を発展させた不老不死の研究に打ち込んでいた。30歳になったリナは不老不死の処置を受け、人類で初めて永遠の命を得る。やがて、永遠の生が普通となった世界は人類を二分し、混乱と変化をもたらしていく。

 人をモノに変質させるプラスティネーションを具現化して見せたことの凄さ、19歳から100歳近くまでを演じ分ける芳根京子さんの見事さが際立ち、その上で静謐だけども深く死生観を問い続ける。若さを保った体のまま、永遠の時間を手に入れるということ。果たして、時間から逃れることができるようになったと解釈できるのか。鑑賞後に原作を読みましたが、無限の時間を得たことで生きるを急かす/脅かすことは無くなったことが、逆に後悔に繋がっているとの記述もありました。人類は新たなものを得ると、新たな問題に直面するということでしょうか。

 生と死、個と時間。パンフレットで石川監督は、「円と違って始まりと終わりがあるのが円弧」と仰っていますが、人生はそれがあってこそなのかもしれません。


他にあげたい作品で言えば『騙し絵の牙』、『SWALLOW/スワロウ』辺り。下半期は鑑賞数は増えると思いますので、年平均80本からは減りますが、50はなんとか超えたいなあと思います。やっぱり映画館で観るのが習慣ですので。

お読みいただきありがとうございました!
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