ムック(MUCC) ‐‐Review‐‐

1997年に結成された茨城出身のロック・バンド、MUCC(ムック)。初期は7弦ギターと5弦ベースを使ったヘヴィさに、痛々しいまでにリアリティとメッセージ性を持った歌詩、昭和歌謡風のメロディを織り交ぜたサウンドで人気を獲得。近年はエレクトロ・ミュージックも貪欲に取り込んだりしながら、多彩な音楽性でロック・シーンで異彩を放つ。結成から約17年、現在までに11枚のフルアルバムをリリースしている。

レビュー作品

> T.R.E.N.D.Y. -Paradise from 1997- > THE END OF THE WORLD > シャングリラ > カルマ > 球体 > 志恩 > WORST OF MUCC > サイケデリックアナライシス > 極彩 > 6 > 鵬翼 > 朽木の灯 ライブ アット 六本木 > 朽木の灯 > 是空 > 葬ラ謳 > 痛絶


 

T.R.E.N.D.Y. -Paradise from 1997-(初回生産限定盤)(DVD付)

T.R.E.N.D.Y. -Paradise from 1997-(2015)

 TVアニメ「金田一少年の事件簿R」のOPに使用されたシングル『故に摩天楼』に続く、7曲入りミニアルバム。ムックがMUCCになって以降、音楽性をどんどんと変えていくので夢烏(ムッカー)がムッカァッ(怒)とよくなっている気がする。まあ、彼等はいつまで経っても変わらない和田アキ子や黒柳徹子の髪型と違うわけでありますし。

  本作に関しては、ライヴ映えしそうな曲が多く揃っている。フルアルバムだともっとバランスを考えるところだと思うが、ミニだからこその攻めという姿勢が感じられるでしょうか。「90年代のダサかっこよさ」がコンセプトになっているらしいが、ミクスチャー感はあれど、そこまで90年代感がはっきりと表れてい るわけではない。近作で顕著だったEDM×ラウドロックの時流に本作も乗っかっている印象のほうが強い。しかしながら、豊富なアイデアを自由に詰め込み、 転調多め、長めの尺できっちりと仕上げる辺りは流石。ゴージャスな変貌を遂げていく7分46秒の#1「睡蓮」は本作の筆頭株であろう。

 #5 「レインボー」での歌謡性がもたらすホロリ哀愁、またメロディアス疾走系でありつつ、シャウトや激しいリフで急に振りきれる#3「B.L.U.E ~Tell me KAFKA~」等も良いスパイスとなっている。この辺の引き出しの多さは、MUCCの雑食性のたまものか。さらにラストの今宵をぶっ飛ばすメタル・チュー ン#7「TONIGHT」で豪快に締めくくる。40分ほどのボリュームでスカッとさせてくれる良作。最近の彼等は詰め込み過ぎる傾向にあるので、これぐらいがちょうど良いのかもしれない。


 

THE END OF THE WORLD(初回生産限定盤)(DVD付)

THE END OF THE WORLD(2014)

 約1年半ぶりとなる11枚目。もはやカメレオン・バンドという形容が相応しくなってきたムックだけど、エレクトロ・MUCCと多様性という印象の強い前作『シャングリラ』は、過去最高といえるぐらいに多彩な曲調を詰め込んでおり、バラエティに富む内容であった。そこを経ての本作はどうかというと、モダンなアプローチは各地に設けられているものの、もっとバンド然とした生音の主張を強めている。また、フォークや昭和歌謡といった彼等の重要成分にしても、ここ数作の中で一番に滲みでているように思う。意表を突く表題曲#1「THE END OF THE WORLD」からそうだが、あまり背伸びせずにいい意味で自然体で制作されたのかなと聴いてて感じる。

 久しぶりに激しいシングル曲であったトランス系メタルコア#2「ENDER ENDER」、重厚かつ切れ味鋭い#3「Ms.Fear」といった序盤では、ムックはこうでなくっちゃというヘヴィ大爆撃をかますし、メロディアスな歌ものとして新鮮な聴き心地の#5「Tell Me」、希望と共に突っ走るストレートなロック・チューン#10「World’s End」も用意。本作にも様々なタイプの曲が用意されているとはいえ、前作ほどガチャガチャしていないように感じるのは、音色をある程度絞った形で作られているからか。適切な引き算が生きている。

 そんな中でも本作は#8「JAPANESE」や#11「死んでほしい人」がアルバムの核として機能。前者はピアノやストリングスが物悲しさとスケール感を助長し、後者はBUCK-TICK御大の「Jupiter」を意識してそうな気がする壮大な楽曲で、いずれもがバラード調で強いメッセージ性を持つ。「死んでほしい人なんて、この世界にいらない言葉」と全てを慰謝するように放つその背景には、結成して17年が経ち、様々な経験を通して人間としても懐が深くなったのもあるが、これまで以上の包容力と温かさに思わず胸がじーんとくる。特に#11はかつての「9月3日の刻印」とベクトルは違うものの、彼等の重要な楽曲になっていきそうだ。

 正直なところ、パンチが効いた作品かといえばそうではない。だが、ここ数作の中では、最適なバランスが保たれているように感じるので、まとまりと流れを自然と感じられる作品になっている。ガンズのあれをネタとして盛り込んだ#9「Hallelujah」みたいな曲をやる余裕もあるし、個人的な印象では、やっぱり自然体といえるアルバムなんじゃないかなあと思う。


 

シャングリラ(初回生産限定盤)

シャングリラ(2012)

 結成15周年を迎えた彼等が放つ、2年ぶり10枚目のフルアルバム。”エレクトロ・ムックと多様化”というのが近年の”MUCCの音楽”の印象なのだが、本作は路線で言えば2つ前の作品にあたる『球体』に近いかな。某インタビューでは、今回はエレクトロをスパイス風に使ったというが、その通りにロック・バンド然としたサウンドで牽引しつつ、電子音がバランス良く配分されている。

 獰猛なヘヴィネスを緩急自在に用い、ツインヴォーカルなんて飛び道具も出てくる#1「Mr.Liar」、重厚さと煌くデジタル・サウンドが融合した横揺れチューン#2「G.G.」、DAISHI DANCEの助力で見事な哀愁エレクトロを体現した#3「アルカディア」、個人的には最近のシングルの中では一番傑作だと思う#4「ニルヴァーナ」とこの序盤の楽曲の出来栄えと流れは近年では最高だと思う。

 これ以降も様々な音楽をまぶしてきたことで多様化した彼等のスタイルが聴ける。ガレージ・パンク風の#5「ハニー」だったり、崩しの効いたジャズっぽい「ピュアブラック」などなど。ただ、この辺りは序盤からするとちと弱いかなと。全体通して多彩な表情を見せたいのは彼等らしいとは思うんだけどもね。しかしながら、壮大なスケールで綴られる#12「MOTHER」、北欧ポストロックの叙情味あふれたサウンドと達郎のエモーショナルな歌唱が噛み合った#13「シャングリラ」で飾る最後はなかなか。おまけの#69「MAD YACK」もかつての「遮断」クラスの破壊力があって良し。

 近年のエレクトロ・ムックへの傾倒と音楽性の多様化は、やはり今でも様々な意見はあると思うが、本作はそれをそこそこ上手く昇華している内容となっており、わりと楽しめる内容だと思う。新しいムックのひとつの軸になりそうな1枚になるかもしれない。


 

カルマ

カルマ(2010)

 約1年半ぶりとなる9thフルアルバム。前作『球体』では、とりあえず音楽探究が一周して久々にメタル色を強めた作品という印象を受けたが、本作ではそれを鮮やかに反転、デジタル化を推し進めた作風になっている。端的に言えば、『志恩』の時と比べてさらに小奇麗な電子装飾とフロア寄りのダンス・グルーヴを重視し、それをロックとうまいことまとめあげた形。過去の焼き直しよりも、新しいムック像を模索した模様で、過去最大の問題作をぶん投げたといえるだろう。そういうわけで、かなり賛否両論が分かれている。

 前作の方向性から、まさかここまでクラブ/ディスコ要素を前に出してくるとは自分も思ってもみなかったので、ピコピコの電子音と4つ打ちで攻める#1からかなり驚かされた。「こんなのムックじゃないっ!」って意見が出てくるのも当然だろう。ただ、そこまで本作の事を悪いと思わないのは、一味違う事をやっておきながらスムーズに諸要素が組み合わされていることかなと。シングルとして切った#2「フォーリングダウン」では重厚なバンド演奏と明滅する電子音が巧く融合しており、その端々からは琴線に触れるムックのメロディが顔を出す。

 フロア的な快楽もさることながら、決して彼等らしい叙情性が抜け落ちたわけではない。達郎の歌声を生かした作品構成、昭和歌謡に脈づいたメロディ、場面場面の音の選び方は巧いなあと感じる。ダイナミックではないし、激しくもない。メタリックな#11を除くと(この曲も怪しいけど)衝動が湧きあがる様な曲は無いのだが、違った魅力をしっかりと浮かび上がらせている。ここを認められるかが境目となるだろうか。自分は認めつつも、過去を憂う気持ちはもちろんある。

 #3、#4は非常にデジタル色が強く、かなり挑戦的な姿勢を打ち出していて、この辺りが作品の表情を決定づけているような気がしないでもないが、決してそこに留まらない振れ幅の広さがあるのがもうひとつの特徴といってもいいはず。ジャズっぽい落ち着いた佇まいで聴かせる#8、えらく豪勢な音色とファンキーなビートが扇動する#9、ピアノバラード#12とバラエティは豊か。J-POPに流されすぎた感のある最後の2曲はどうかとも思うが、消化不良はそこまで感じず。最終的には良い着地点を見つけたと印象だが、本作の方向性にこれ以上の上積みができるのか?とは感じてしまう部分もある


 

球体(初回限定盤A)(DVD付)

球体(2009)

 1年ぶりとなる8thアルバム。4thアルバム「朽木の灯」で絶望と混沌の最果てに辿りつき、その次の「鵬翼」からはポピュラリティと光を求めていったムック。それでどんどんと作品を重ねるごとにふり幅が広くなっていったのだが、本作ではとりあえずその音楽探求の旅路がちょうど一周したかのような印象を受ける。

 端的にいえば、近作で培ってきたものをエッセンスとして抽出している作品といえるだろうか。#2「咆哮」では武器であるメタリックなリフとヘヴィネスを叩きつけ、前作を踏襲した#7「オズ」では打ち込みで攻めたり、#9ではお得意の歌謡曲チックなバラードを入れるなど、6thアルバム「極彩」辺りに通ずる幅広さ。というわけで、これまでのカタログのひとつのまとめ的な作品に仕上がっていて、さらには多少のメタリックさをスパイスして攻撃性をちょっと高めている。

 #2「咆哮」~#4「ハイドアンドシーク」までの畳み掛けに、ずば抜けてかっこよい先行シングル#10「空と糸」など惹かれる人は多いだろう。それに昭和歌謡に通ずるメロディセンスの良さも彼等の楽曲の馴染みあるもので安心するが、物足りないと感じるのが正直なところ。ラストトラック#11「hanabi」を打ちあげた今後のメンバーはどこへ向かっていくのだろうか。


 

志恩

志恩(2008)

  「極彩」以来1年3ヶ月ぶりのニューアルバム(通算7枚目)。統一感に欠けやや散漫であった前作の「極彩」と違って、今回は明確なコンセプト”ダンサブル”、”民族テイスト”という二つのキーワードを軸にしっかりと練られた作品。先行シングル#4「ファズ」で聴かせた打ち込みによる軽快なダンスビートとダイナミックなロックサウンドの融合。シングルを聴いた時点では迷走という解釈をしていたのだが、今作「志恩」を聴く限り、解答であったと気づかされた。

 バンドの頭脳であるミヤがいうには『ちょっと絵を描くような感覚で曲作った』という通り今までとは様相が違う。全体を通してエレクトロニカを導入した曲が多く、オリエンタルな質感も目立つ。開放的で明朗な曲が多かった前作と比べて、初期ほどではないがダークさが戻っている。だが、バンド自身が本来持つメロディのよさに陰りは全くなく、琴線に触れる哀愁のメロディが心を締め付ける。ムック自身がこれまでに築き上げてきた土台の上に、今回新たに積み上げられた前述の要素は新たな可能性を十分に押し広げているといえるだろう。それはやっぱり「鵬翼」以降、ジャンルという枠組みに捉われない音楽探求をしてきたこその成果のようにも思える。

 エスニック風のギターリフと打ち込みサウンドが斬新な#2「梟の揺り篭」、そして前述の#4。ディスコ風ビートが効いている#7「アンジャベル」、#11「空忘れ」と今回新たに取り入れた”ダンサブル”、”民族テイスト”というスパイスの効いた曲が多くを占める。もちろん、バンド本来の屈強さを存分に出し切った激アグレッションの#3「塗り潰すなら臙脂」やこれぞムックといえる哀愁ノスタルジー溢れるバラード#8「小さな窓」といった曲も健在。

 トライバルサウンドを軸にずっしりとした重量感、壮大さがバンドの懐の深さを物語っているといえるサブリミナルな#10「志恩」にいたっては今作のハイライトといえる名曲。へヴィメタル風のイントロのフェイクから開放的なメロディと疾走感が印象的な#12「シヴァ」というユニークな楽曲もおもしろい。そして最終曲#13「リブラ」ではへヴィながらもメランコリックな旋律と光と闇がダイレクトに交錯する。なぜ、この曲で「志恩」を締めくくる必要があったかはその耳と体で感じ取ってほしいところだ。

 個人的に今作は久々にグッときた作品だが、もったいないなあと思ったのは浮きまくってる超明朗なシングルの#6「フライト」を収録したこと。そしてヴォーカルの加工が以前よりも多く、不自然な印象を覚えてしまうところか。特にヴォーカルはあまりいじらない方がよかったのでは?と思う。

 「朽木の灯」で闇の終着駅までたどり着いた彼等。その後は新たな自分たちを見つけるべく、新たな音楽探求の旅路に出続けてきた。闇から光への転換、それは世間から見れば保守的であったかもしれないが、バンドにとっては革新的なことを行ってきたように思う。そんな中で発表された今作はその中でも解答の一つとなりえるのではないかと思う作品。


 

WORST OF MUCC

WORST OF MUCC(2007)

 結成10周年を記念して発売された裏ベストアルバム(もちろん表ベストも出てますが、買ってません)。こちらの裏ベストはムックがムックであるムックのための作品である(意味不明)。要するにムックというバンドを形成している要素が詰まっている、いわば心臓のような作品なのだ。ムッカーと呼ばれるコアなファンにどの曲が好き?と質問しても大抵がこの作品に収められている楽曲を挙げるだろうと思う。超名曲の「家路」を中心に「アカ」「絶望」「茫然自失」「翼をください」「スイミン」「前へ」「蘭鋳」「断絶」とキリがないほど名曲中の名曲が収録されており、その深く暗い音世界とリアルに内面をえぐる詩が伝える想いは非常に重く、心に突き刺さってくる。心に潜む闇の代弁、これこそ我々がムックに共感していた大きな要因。現在ではムックの音楽は俺達の翼を後押ししてくれるような優しいバンドとなっている。しかし、ムックというバンドの足跡を辿る、いやムックの本質を知る上でこの作品は初心者には決して避けては通れない一筋の轍だろう。


 

極彩

極彩(2006)

 通算6枚目のフルアルバム。先行シングル4枚がエモーショナル・フォーク・ロックと言われる類のメロディアスなものだからこのアルバムに対して期待などほとんどしなかったのだが、タイトルトラックである#2を聴いてびっくりした。この曲は彼等の現在・過去・未来という時間軸を一つにつなぐマスターピースとも言える1曲ではないかと思えるぐらいの凄みを感じたからだ。続いての「嘆きの鐘」でも従来どおり怒涛のヘヴィネスを叩きつけられるが、続くシングル「謡声」が明るいポップスで小休止。

 今作は正直、楽曲の出来・不出来が顕著みたいで。キャリアを重ねたために余裕をもって新たな要素に挑戦しているってのはわかるのですが、楽曲の幅が広がっているだけで、クオリティが追いついていない曲の方が多いと感じた。完全に成功しているといえるのは哀愁の泣きメロとファルセットを駆使したロックチューンの#5「月光」、ジャジーで不穏な空気感を浸透させる#11「25時の憂鬱」、沖縄民謡を取り入れた#13「優しい歌」ぐらい。

 また、「謡声」を除いた3枚のシングル(#7,#12,#14)ではフックの効いたメロディがあって佳曲として存在感を出しているが、イマイチそれ以外の曲の存在感が薄いかなあと。全体的にムック特有のメロディが薄まっているとも感じた。だんだん個性の発揮どころがわからなくなってきたんじゃないかとちょっと聴いてて心配になったりもする。ムックの力を考えるとやはりクオリティの高い作品を期待してしまうだけに今作はちょっといただけない

 正直、「極彩」というタイトルに負けているといいますか・・・。せいぜい「多彩」ぐらいのレベルのできで、全14曲が凛とした輝きを放っているとは言いがたいかな。それでも通常初回ボーナスディスクに収録されている「G.M.C」なんて露骨にスレイヤーのデスラッシュで笑った。


 

mucc6

6(2006)

 4ヶ月連続リリース第3弾!の日欧同時発売特別ミニアルバム。メンバー自身が前作「鵬翼」がシングルだとしたら、この「6」はカップリングと発言していた作品。「朽木の灯」以前で見せた楽曲の重苦しさと重厚感、さらに攻撃性が顕著に出ている。とはいうもののそれで収まらずに、ロックンロール、パンク、バラードと様々なタイプの楽曲を詰め込んで構成。1曲1曲の主張はなかなかにおもしろいと思うが、それが良いのかと問われると逆に散漫な印象を受ける人は結構いるかも。

 うねりをあげる重厚なヘヴィネスが漆黒へ染め上げる#2「空虚な部屋」、痺れるヘヴィネスファストチューン#3「赤い空」、穏やかで懐古のメロディが染みるバラード#9「遥か」はかなり好みで好印象。だが、他の楽曲が一定の水準はクリアしているものの、ムックのクオリティを考えると若干弱いかなという印象。9曲約30分という時間ではムックの濃いエキスを出すにはちょっと尺が足りなかったかもしれない。しかしながら濃い世界観が表現されずとも「鵬翼」にはなかったヘヴィな攻撃的な側面を見せているので、過去作に入る前の入門編としてもオススメできるかもしれない。


 

houyoku

鵬翼(2005)

 今まで描いてきた深く暗い世界観の集大成となった前作「朽木の灯」。その作品が一つの区切りとなったのだろう、今作は明らかにムックの目指すベクトルが変わってきている。そのキーとなる言葉はずばり“光”そして“翼”。

 ムックの十八番とも呼べるメタリックでメロディアスなロックチューン#2「サル」や厭世観を全面に出したミッドテンポのヘヴィネス#11「モンスター」など従来の持ち味を出した楽曲が今作では逆に変化球とも取れるほど、優しさや温かさを感じられるメロディがアルバム全体を包む。そして昭和歌謡的なメロディが今まで以上に増量しており、聴いていて懐古・郷愁の想いに駆られる事がしばしば。

 特に先行シングルとして発表された3枚のシングル「ココロノナイマチ」「雨のオーケストラ」「最終列車」の存在感の大きさだろう。これらをシングルの時から聴いていて、方向性の変化を顕著に感じていたが、涙腺を刺激するメロディとドラマティックな構成には舌を巻いたものだ。さらに女性的な視点で描かれた#5「1R」、懐かしい少年時代を思い出す#6「昔子供だった人たちへ」、メロコア風味の#10「蜘蛛」、人間のぬくもりを覚える温かい冬のバラード#12「優しい記憶」など個人的に感動を覚えた。

 そして、ムックが初めて前を向いたと思えるだろうラストの#14「つばさ」。我々にも翼を与えてくれたかのように心に染みる曲。以前から負の感情を吐露してきたムックだからこそ伝わる楽曲だと思う。

 正直、丸くなったと一言で表せるムックの変化だが決して魅力が無くなったわけではない。むしろメロディの活かし方やドラマティックな曲構成はこの「鵬翼」で成長を見せている。十分、バンドの懐の深さは堪能できると思う作品だ。通常盤の初回ボーナスディスクに収録されている「遮断」が、痺れるギターリフ&負の感情を一気に放出するヴォーカルがかっこいいので聴き逃しないように。


 

朽木の灯(初回)(DVD付)

朽木の灯(2004)

 その悲痛でネガティヴな歌詩と7弦ギターと5弦ベースを主体としたヘヴィなサウンドを武器にロック界に殴り込みをかけてきたムック。そんな彼等の結成当初からの理念であったであろう、深い世界観が見事に結実・完結を迎えたのがこの「朽木の灯」という傑作アルバム。自分としては、彼等の最高傑作に挙げたい作品である。

 前作よりも詩・音ともさらに重さを増しながらも、壮大なスケール感とダイナミズムを持つ楽曲が多い。それでいて、心に染み入るような昭和歌謡メロディが曲のドラマチックさをさらに強調させており、1曲1曲のストーリー性というのが明確である。「葬ラ謳」では1曲の殺傷度があまりにも高かった分、不出来な楽曲も目立ったが、今作は全体の楽曲の水準が高く、アルバムを通しての引き込む力が以前の作品よりも断然強い。

 ヘヴィさとグルーヴの効いた#2、悲痛すぎる歌詞が胸に突き刺さる#3、重戦車級のアグレッションで殺傷力抜群の#5,#6、哀愁を帯びたミドルバラード#7、涙腺を刺激する哀愁のロックチューン#10、ムック流の明快なメロコア#13、メロディアスな広がりをみせる#14。以前よりも静と動のバランスの良さ、押し弾きが非常に良くなりアルバムの世界観も曲を重ねるごとにドラマ性を増していく。

 そして、14の曲を経て、最後にCDから流れてくるのは死霊への賛歌とも取れるリズムからギターが負のオーラを放出する8分超の大曲#15「朽木の塔」。半端ではない圧迫感が終始続くこの曲の殺気の高さは異常値を記録し、キャンパス全てを黒で塗りつぶしてしまうような、闇の底に引きずり込まれるような感覚に苛まれる。身震いを覚えてしまうほど恐怖を覚える楽曲だ。

 ヘヴィでラウド、重量感溢れるサウンドを掻き鳴らしたかと思えば、フォークにも通ずる情感あるメロディを見事に融合させ、そこにノッかかるのは表現力を増したヴォーカルと前作よりもさらにリアリティを増した詩。作品を聴いているとムックの叫びが胸に刻み込まれていくかのようだ。負の感情が一気に襲い掛かるこの作品はインディーズ期から追い求めてきたものを完全に表現しきったといえるだろう。“負の一大絵巻”は今作で完結した。それと同時にムックというバンドも一つのピークを迎えた作品だ。


 

是空

是空(2003)

 3枚目のフルアルバムにして、メジャーデビュー作品。メジャーというしがらみもあったのでしょうか、今作は形振り構わず自分達の負を吐き出してきたこれまでとは違い、普遍的なロックへの接近を試みている作品。歌詞はちょっとばかり表現にこっている衒いもあるが、以前のような負を感じさせる側面のものばかり。だけれどもそれが楽曲に乗った時にはどこか薄まっているというか。それと新しい要素を出した楽曲が後半に多々出てきますが、どこか説得力に欠けると感じてしまう。

 シャレたジャズ要素が効いたインスト#1「心奏」からスリップノットばりのパワーとヘヴィネスを問答無用で叩きつける#2「茫然自失」の凄まじさや哀愁のメロディを纏いながら疾走する#4「商業思想狂時代考偲曲(平成版)」、ライブで必ず演奏されるファストチューン#12「蘭鋳」のかっこよさ、大人への不満を吐露した壮大な#11「9月3日の刻印」等は非常に今作でも飛びぬけていると思う。

 ただ、この「是空」はムッカーの間でも人気の低い作品としてレッテルを貼られていたりする。まあ、「葬ラ謳」よりもメジャーよりになったのが原因でしょうかね。確かに#7「双心の声」なんて悪い冗談としか思えない意味不明な楽曲だし。ロックバンドとしての幅を広げようというのはこちらにも伝わってくるが、そこがあまりうまくいっていないなあとは確かに感じるところ。もう少し練りこんでいただけたらよかったかと思う、ムックのクオリティの高さは前作までで証明しているわけだから。

「葬ラ謳」と「朽木の灯」というムック2大名盤に挟まれていて、今一歩という評価を下されているのは否めないが、「朽木の灯」のための助走の一歩、過度期としてもっと好意的に捉えてもいい作品だとは思う。


 

葬ラ謳

葬ラ謳(2002)

 1stアルバム「痛絶」発売以降「赤盤」「青盤」「負ヲ讃エル謳」という3枚のマキシを発表し、それがファンの間でも語り草と成るほどの出来だったムックが満を持して放つ2ndアルバム。

 高校3年の時に彼等のこの作品を聴いてムックというバンドの存在を知ったのだが、当時はもの凄い衝撃を受けたものだった。7弦ギターと5弦ベースが生み出す超重量級のサウンドはどす黒い負のパワーを圧倒的に増大させ、絶望・孤独感に苛まれる超ネガティブな歌詩とも合わせてリアルに胸を打ち抜く。さらに昭和歌謡的なメロディが厭世観丸出しのヘヴィサウンドに一種の清涼をもたらしており、ムックならではの音楽観を形成。前作「痛絶」よりも詩、サウンド、表現力はさらなるスケールアップを遂げており、ムックがいかに強い個性を持ったバンドであるかを証明するに至っている。

 タイトル通りの絶望感に支配されるヘヴィな#2「絶望」を筆頭に、キャッチーなロックチューン#6「ママ」、メロコア風味でありながらも相反するような詩とのギャップが良い#10「前へ」、漆黒の摩天楼を突っ切る#11「黒煙」、悲痛な心の叫び声が轟く#12「スイミン」といった楽曲の素晴らしさに特に感動させられる。

 ムックがなぜ支持されるのか?それは前述の曲を聴けばよくわかると思う。ラストに収録されている#14「ズタズタ」では殺気に満ちた怨念で周りの人間全てを呪い殺してしまうような恐ろしさが感じられる。負の怨念に埋め尽くされたこの世界観はそこらのひよっこブラックメタルバンドが赤子のようにかわいく思えるほどだ。個人的にはこの作品を聴いていると部屋の片隅で両膝抱えて苦悩している少年の姿が思い浮かぶ。

「夢」はいつか叶うなんて言葉はもう聞き飽きた 「希望」なんて言葉簡単に口にする偽善者よ死んでくれ

 上記は#2「絶望」の詩の一節だが、これだけでもムックの詩の強烈さがわかるだろう。愛や希望など偽善ばかりを唄う人間どもにこういった詩の重要性を説きたいぐらいだ。少なくとも俺はうそ臭い詩よりもこういった感情剥き出しの詩に共感を覚える。

 確かにアメリカ・モダンヘヴィネス勢のパクリと揶揄されることもあるが、彼等はそれらには無い和のメロディという武器を持っている。それにはやはり同じ日本人として心撃たれるものがある。そして、絶望の雨に打ちひしがれるような歌詩には個人的に共感を覚えてならない。彼等の音楽は何よりもリアルに心に響くのである。絶望の深淵に立たされた時、人は何ができるのか?この作品は物語ってくれている。いうまでもなく名盤、そしてバンドを代表する1枚として今もなお君臨し続けている。


 

痛絶

痛絶(2001)

 cali≠gariの主宰するレーベル密室ノイローゼより発売されたムックの1stアルバム。かつてヴィジュアル系と呼ばれたバンドの中でここまで負を全面に押し出したバンドがいたであろうか? リアルに人間の心の闇を代弁してくれるかのように唄い、サウンドのヘヴィさと楽曲の重苦しい雰囲気は精神剤を投与しているかのごとく病ませる。あまりにも陰鬱すぎて人に紹介するのもためらうぐらいだ。何とも表現しきれないくらいの濃さが滲み出ているので俺も初めて聴いた時は驚きを隠せなかった。

 楽曲のヴァリエーションはロックチューンからバラードまで様々ながら、それらが一本の筋となって深くダークな世界観へと収束していっている。挨拶代わりには重過ぎるぐらいの深みを持つ#2「盲目であるが故の疎外感」、危うさを覚えるビートとヴォーカルが特徴的な#5「鎮痛剤」、爽快な失踪チューン#8「背徳の人」、詩は非常に重いながらもメロディアスに疾走する#9「娼婦」等、構成は荒いながらもインパクトの高い楽曲が揃っている。特にラストの#10「断絶」はミヤの実体験を元に作られたバラード。アコギの繊細なメロディと悲痛な詩に胸を掻き毟るほどの衝動を覚える名曲。「断絶」を初めて聴いた時は本当に感動させられた記憶がある。

 アルバムジャケの真っ赤が示すように痛みで血に染まった作品といえるかもしれない。それほど悲痛な想いが全編惜しげもなく表現されています。隠しトラックとして69曲目に収録されている「狂った果実(笑)」を聴けばより混沌とした世界に浸れるでしょう。

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