凛として時雨 ‐‐Review‐‐

2002年埼玉にて結成されたG&Vo北嶋徹、Drピエール中野、B&Vo中村美代子による3ピースバンド、凛として時雨。独創的なバンド名に恥じぬ、男女高音ツインヴォーカルやサディスティックとも評されるほど攻撃的な音が特徴的なロック・バンドだ。2007年に発表した2ndアルバム『Inspiration is DEAD』がインディーズ・シーンでは異例のヒットを記録すると、ライヴの動員もそこから桁違いにアップ。2009年にはメジャー1stアルバムとなる通算3作目の『just A moment』を発表し、翌2010年には地元である埼玉スーパーアリーナ公演も大成功に収める。現在、最も勢いに乗るバンド。2010年9月には4枚目となる『still a Sigure virgin?』を発表した。

レビュー作品

> i’mperfect > still a Sigure virgin? > just A moment > moment A rhythm > Telecastic fake show > Inspiration is DEAD > Feeling your UFO > #4


i'mperfect

i’mperfect(2013)

 まさかのオリコン1位を記録した『still a Sigure virgin?』から、2年半ぶりとなる通算5枚目。アニメのタイアップ曲である#2「abnormalize」を収録していることやバンド自身の発言から全体的にポップになったとの意見をよく見たが、個人的にはそうかなあ?と少し首をかしげる。以前ほどではないにしろ、十分に攻撃的だと思うんだけども。

 抜群のコンビネーションをみせるキンキンの男女高音ツインヴォーカル、鋭角に切り込み、また耽美に咲いたりと多彩な色を奏でるギター、楽曲を力強く推進していくリズム隊と曲を構成するパーツは大きくは変化していない。最近では、個々の活動が活発化している割にそれを時雨にあまりフィードバックしていなくて、この3人で出せる音を徹底追及している感じか(それでも、TK from 凛として時雨からの影響は感じる)。

 相変わらずのスリリングな展開には全身がヒリヒリとさせられるし、刹那の切れ味や爆発力は他を圧倒するものがあると思う。だが、かつてのような冷たく鋭いナイフで切られる様な感覚が希薄なのは、感傷的でメロディアスな曲調が目立つのが要因か。空気を切り裂くような鋭利さは見せつつも、どこか衝動が抑えられてポップが隠し味になっている#2「abnormalize」、美しい音のカーテンに包みこまれる様な#8「キミトオク」からかつての「傍観」にも似たインパクトのある#9「Missing ling」の流れはその印象を強く与えるものだと思う。目まぐるしい展開の連続である#3「Metamorphose」辺りは、彼等らしい鮮やかな切れ味があって良いしね。

 ちょうど良い地点で美と激が均衡しているが故に、本作はこれまでの作品の中でもかなり取っつき易いことは確かかな。時雨らしい彩度に満ちた割と手堅い一手。ちなみにどこから話を持っていったかは知らないが、「make up syndrome」のミックスをなぜかイェンス・ボグレンが担当していたりする。


still a Sigure virgin?

still a Sigure virgin?(2010)

   メジャーに移籍しても勢いは全く止まることなく、加速し続けている”凛として時雨”の1年4カ月ぶりとなる4thフルアルバム。

 タイトルからは、初めて彼等を聴く人々に加えて、以前からのファンに対しても未知の世界・リスニング体験を目指していることが伺えるが、本作も基本的な軸に全くブレはない。男女ハイトーンヴォーカルがキンキンと鼓膜を突き、極彩色に咲き乱れるギター、剛柔の表情豊かなベース、凄まじい狂騒のリード役であるテクニカル・ドラムの絶妙なアンサンブルが着実に地力をつけながら、破壊力に磨きをかけている。崩壊ギリギリの情感、生々しくも鮮やかな刺激を内包した複雑な構成の基で劇的にドライヴしていく楽曲は衝撃十分で、猛威を振るうハリケーンばりの#1「I was music」、#2「シークレットG」は時雨節そのもの。むしろ、過激さや厚みがさらにアップデートされたといえるかもしれない。豊潤なインスピレーション、それを楽曲に落とし込んで具現化する彼等のセンスや演奏力はミクロレベルで研ぎ澄まされている。

 その中で幅の広がりを持たせているのは、躍動感を感じるピアノとつぎはぎのイカレた音響エディットが主導となった#3「シャンディ」の存在だろう。時雨サウンドを根幹で成しながら、新しい手法が彼方から別の波を引き連れ、世界にまた違った色を与える。それがまた彼等の混沌に奇妙な輝きをきっちりと与えていることが凄い。12弦ギターを用いたという#4では、影響を受けたと公言しているLUNA SEAの面影が見えるアルペジオを鳴らし、美しくもどこか刺のあるサウンドからクライマックスの混沌模様へ神経質なまでに塗り分けながら進んでいく。ラストではメロスピみたいなピロピロギターソロが飛び出してくるのも新鮮。そしてまた、前作から導入したアコギによるシンプルなナンバー#6「eF」も最近のポストロック勢と共振するような柔らかな磁場を生成(同名のバンドもおりますが)し、凪いだ心地良さをもたらしてくれている。決して、苛烈なテンションと瞬間瞬間の切れ味だけで勝負するだけでなく、巧緻な構成力でしっかりと聴かせてくれるようになったのも頼もしい。また、それに見合う洗練と熟成が曲から伝わってくる。

 刹那を突き進む時の突進力/衝撃力、凪いだ時の叙情性、緩急の妙、キリギリの中で溢れだすエモーションなどなど華々しい音の衝突と調和による時雨劇場は、より一層の刺さり感を演出して魅惑の色を深めている。鮮烈なる瞬間の築き、それが全体を通した計り知れない衝撃へと収斂していく様に今回も感覚麻痺へと至らされることだろう。暴と美が螺旋となりながら心を突きあげていく#7、#8の次に、寂寥感と切ない余韻を残しながら劇的で美しいエンディングを奏でる#9での締めくくりも見事である。曲数は9曲で約37分とコンパクトな造りだが、詰め込まれた膨大な音の数とヴァリエーション豊かな曲調は、蒼い炎のような昂揚と柔らかなメランコリーを投げかけながら、確固たる世界を眼前に映し出す。実験性を持ちつつも、無二たる軌跡を刻んでいく、本作も充実の一手といえるだろう。個人的には前作よりも好み。


just A moment

just A moment(2009)

   メジャー1stアルバムとなる約1年9ヶ月ぶりの3作目。先行シングル2枚で見せた極端なまでの”静と動”がリスナーの波紋を呼んでいたが(どちらかといえば静の方で)、瞬間瞬間を圧倒的な推進力と切れ味で切り裂いていく激情轟音鋭角サウンド、それと対比するかのように荒涼とした風景を描き出す冷たい静寂。それらが狂いに狂った変則的展開とともに脳髄に突き刺してく様は相変わらずである。千紫万紅のギターが描く奇天烈な色と変幻緩急自在のリズム、脳の裏側まで響く男女ハイトーンヴォーカルによる時雨劇場はメジャーにいっても見事なまでに開演中。破壊と再生を鮮やかに繰り返しながらエモーションを突き刺してくる。前シングル『moment A rhythm』ではポストロック的な静寂の旅路が哀愁を醸していたが、本作ではその静謐のパートが以前のアルバムよりも根付いている印象。特にアコギの導入によりひんやりとした情緒を出すことに成功した#3「Tremolo+A」はその最たるものだと思う。確かに毒気はやや抜かれ、ドコドコと畳み掛ける迫力も『Inspiration is DEAD』程ではない。繊細な表現を突き詰めたことでさらなる奥深さとドラマティックな世界観が生まれている。このように作品の丸みを帯びたところが個人的には結構好き。肉体的な快楽を期待した人からするとその辺りが本作についてのマイナスポイントになっているわけであるわけだが。けれども初のインスト曲も含めてトータルとしてやはりおもしろい。押し寄せる激情、鮮やかに狂い咲く美に感情麻痺必至の一枚だろう。


moment A rhythm

moment A rhythm(2008)

   1曲16分50秒、そしてTKが撮った48Pのブックレットが付属した規格外のメジャーデビューシングル(シングルとしては通算2枚目となる)。その16分50秒という長さが物語るようにこれまでのファンをふるいにかけるかのような作品だ。

 寒々としたギターのアルペジオと囁くような歌声が淡く漂い、丸みのある柔らかなリズムと共にゆったりと進行していくミディアムチューン。轟音へと膨れ上がるのもホンの一瞬で、それも静けさの中に自然と溶け込んでしまっている。各パートが火花を散らし、瞬間瞬間を圧倒的な推進力と鋭利さで切り刻んでいく従来の時雨サウンドとは全くもって違う。激しいアプローチは完全に封じこめている。普通なら長尺な曲を作る場合でも、持ち味ともいえるDillinger Escape Planばりの変則カミソリサウンドを下地にした複雑プログレッシヴな楽曲構築でも目指そうとするだろう。だが全編にわたってベクトルは静であり、枯れた哀愁が耳から内側へと入り込む。聴いてて思うのは、静寂パートだけを抽出したMONOやExplosions in the Skyといった印象。音の濃淡をしっかりと表現しながら、冷たく荒涼とした世界が広がっている。

 本作で提示した音像は今までの時雨とは対極にあるようで、実は隣り合わせであるような気もする。それは激しく衝突を繰り返す本来の爆音旋風とは逆に、本作に存在する静謐なる激情ともいうべきものになぜだか心が強く打たれるのだから。だが、寒々とした悲壮感が身に沁みる静寂の旅路は迂闊には踏み込むものではないことは確かで、大人しくなったとは言い難い別次元の混沌が聴く者の内部を破壊してくる。全編を通して起伏には乏しいし、個人的に彼等にはドラマティックな芸術性というのを求めていないのだけども、本作の身を切られるような哀切さには惹かれる部分があった。ただ、写真をつけて3000円にするというぼったくりに近い商法はもう勘弁してほしい・・・。


Telecastic fake show

Telecastic fake show(2008)

    初めてのシングル作品。新曲3曲と初回盤には去年のツアーファイナルのライブ映像5曲を収録したDVD付きという内容。新曲は3曲ともにベクトルの異なったもの。どの曲も去年の「Inspiration id DEAD」からの延長線上であるといっても差し支えはないだろうと思う。荒々しく鋭角的に切り込み、そりゃあ無茶な!と思うぐらい急停止や方向転換で、変態的に暴れ突き刺さる#1はもはや十八番といえる曲だろう。#2は曲の展開も、浮かび上がる世界観も次々と変遷していく攻撃的なナンバー。#3が今作の中では異色かなと思う。ざらついたところも無く、不思議な浮遊感が漂う叙情スローナンバーで一番驚かされた曲。全体的にどことなく洗練された印象を受け、少し刺激が足りない辺りがちょっぴり今までの時雨気質ではないかなあと思うのだが、従来のファンにも新規ファンにもアピールできるバンドの魅力が詰め込まれた3曲で構成された挨拶代わりの作品といえるはず。1秒たりとも気の抜けない刺激的サウンドを創造する彼等は、これからどういった方向に進んでいくのだろうかが気になるところです。


Inspiration is DEAD

Inspiration is DEAD(2007)

    既にインディーズで話題に話題を呼んでいるバンド、凛として時雨の2ndアルバム。千紫万紅と言えるほど多彩なギターの色と鋭利な刃物のようにサディスティックに貫く轟音鋭角リフ、狂乱と衝動の連続、刹那ごとに雪崩れ込む刺激には鳥肌が立った。全てのものを薙ぎ倒すかのごとく、爆発的な突進力と刹那の衝動の連携が凄まじいエネルギーを生んでいる。各楽曲が前作をも圧倒するパワーを持っており、体中に獄炎が駆け抜ける#1~#4はもの凄いボルテージが上がる。たった一行の詩を激情と美の怒濤の展開で何度も再構築する#5から始まる後半の楽曲は前半のボルテージを削がれるものの、前作よりもメロウさに磨きがかかっており、さらに幅を広げている印象を受けた。ラストの#9では哀愁メロディの愛おしさがどこか懐かしさすら思い出させる1曲だ。人間の五感をこれほどまでに刺激し続ける楽曲の数々には感謝したい。美しい薔薇には刺激的な棘が存在するように、凛として時雨の持つ暴と美という表裏一体の側面が絶妙に感じた作品だ。


Feeling your UFO

Feeling your UFO(2006)

   たった5曲のミニアルバムでしかない、だがどうしてここまで魅了されてしまうのだろう。感覚麻痺・脳に焼きつくギターと吹きすさぶ轟音に身を任せ、竜巻を起こす約22分の狂騒とセンチメンタリズムの時雨劇場。ギターの引き出しは前作よりも多くなっており、心の琴線に触れる美旋律がたまらなく、味のある仕上がり。それとは逆に男女高音ツインヴォーカルの刺激度は高まっていて三半規管の機能を奪う。メロディの比重度は高くなっているのだが、楽曲の攻撃性は前述したヴォーカルの刺激度の高まりもあってさらに鋭角的。オープニングの#1の強烈なインパクトが大きいと思うが、以前から名曲と言われるバンドの特徴を1曲に凝縮した6分の短編ストーリーの#5「セルジオ越後」や上品なギターリフから変態的に押し迫る#2や・・・あ、もう全部の楽曲好みで心臓をストレートに射抜かれたわ(笑)。前作の10曲よりも俺はこちらの5曲の方が気に入った。それほどまでに楽曲に感情や感覚を奪われていき、それは宇宙へと導かれるように消えていった。


#4

#4(2005)

   #1~#3までのEPを発売していた凛として時雨が満を持して発表した1stフルアルバムがこの「#4」だ。様々な音色と温度を持ったギター、インパクトの大きい男女高音ツインヴォーカル、柔と剛を心得ている強靭なドラミング・・・挙げればキリが無いほど凛として時雨というバンドは個性的だ。温かくポップネスに満ちたメロディが鳴り響いたかと思えば、突然の転調から絶対零度のサディスティックなギターが神経を刺激したり、カオティック轟音サウンドが聴くものを圧倒したり、共鳴する男女ツインヴォーカルが畳み掛けるように意識をすり減らす。そういった多数の要素が渾然一体となってこのバンド特有の革新的ともいえる“毒”を生んでおり、ハマると身体中から抜けそうも無いほど強烈な毒に犯される。バンド名もそうだが、楽曲名もセンスありすぎ。「鮮やかな殺人」なんてタイトルを今時誰がつけるんだよ(しかもそれが名曲だし)。とにかくバンドとしての個性は凄まじく、日本ではかなり稀有な存在である。#3なんてこのバンドでしか今のところ造ることができないといえるぐらいの名曲。

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