イタリア出身の2人組によるポストロック/ポストメタルユニット。
レビュー作品
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Closer to the Small/Dark/Door(2010)
2曲入り22分の傑作EP『Psygnosis』を挟んでいるものの、1stアルバムからは実に4年もの月日を費やした2ndフルアルバム。1stは未聴のままだが、昨年のEP『Psygnosis』ではPelicanとExplosions In The Skyの奇跡的邂逅ともいうべき轟音と叙情の塗り分け、さらには上へ上へと登りつめていく物語性の高さが完全に僕のツボであった。その柔和なメランコリーと雄叫びのような轟音ギターに大いなる希望を感じるほど。
その傑作を経ての本作は、聴いていて驚くことにまるでNadjaのようなシューゲイジング・ドローン的な要素が表立ってきていて、冷たくも暗く、それでいてこれまでのようにオリエンタルな情感な質感も携えている。ずっしりとした重量感と美しくも冷たいシューゲイズ・ギターの先に艶めかしいメロウさが引き立っていく#2、#7はその辺りが顕著だろう。蒼白い炎を揺らめかせながらも、グルーヴはより強化されている印象だ。全体に耳を傾けても、楽曲に10分を越える曲は無く(ラスト・トラックは15分だが無音部分を挟んで2曲に分けられている感じ)、モグワイの『Mr.Beast』のように静と動の引き締まった展開でコンパクトに物語を描ききっている。心身を揺さぶるヘヴィさはもちろん、轟音ギターの炸裂っぷり、メロディから発露する詩的な美しさは実に見事だ。
アコギを用いて大草原の上を駆ける風のように軽やかな1~2分台のインストから、広大な景色を音で奏でていくPelican風の静と動の塗り分けが巧いインストまで揃えていて、本作は曲調の広さ・幅を感じる内容にもなっているのも惹かれる要因だ。ひゅんひゅんのサンプリング音やヴォーカルを効果的に導入し、さらに#3のようにサックスを用いた曲もあって、意外な引き出しの多さに驚かされたりもする。けれども展開は流麗さを損なわずに描き行く物語を深く拡張していくところがセンスの賜物。ダークな感性、アンビエントな揺らぎ、ドローン的感触、そういった様々な要素を含蓄しながら見事に昇華したインストゥルメンタルはひとつの造形美を表しているようにも感じた次第だ。
低音域の充実とグルーヴの強靭さによるずっしりとした感触と冷たくメロディアスな品位を湛えながらも、ここまで心に訴えかけていくインストを創ってこれるVanessa Van Bastenはもっと注目してほしい存在の一つ。この豊かなハーモニーは、バンドの個性を雄弁に物語っている。
Psygnosis(2009)
イタリア出身のポストロック/ポストメタルユニットVanessa Van Bastenの全2曲22分のEP。
凄まじい爆発力を備えた轟音と美しく柔らかいニュアンスのある叙情。鮮やかに移ろいゆく風景をその2つ艶やかに駆使して描く幽玄めいたサウンドスケープに心を瞬く間に持っていかれた。美しいトレモロやメランコリックな旋律が胸を締め付け、徐々に揺らぎをもたらすマーチングドラムが鼓動を高め、蒼き激情と共に震天動地の轟音を振りかざし、炸裂させる。静かにもたらされる昂揚感と大爆発と共に溢れ出す感情。明暗・濃淡・静動のグラデーションを見事に汲みつつ、緻密に打ち立て、劇的に抽出されるこの雄弁な音楽物語には脱帽する。聴いているうちに溢れんばかりの詩情に飲み込まれてしまいそう。何たる美しい世界なのだろうか、豊かな情感と余韻を聴き手に残していく。収録された2曲それぞれが力強さと麗しさを備えた名曲であるのもポイントだろう。約9分と約14分の二つの世界がもたらす感動は本当に筆舌しがたいのである。
そんな彼等の音を聴いていて頭をよぎるのがPelicanの名作であるセカンドアルバムであり、EITSの「All of a Sudden ~」といった作品。いわばVanessa Van Bastenがもたらすカタルシスは前述のバンドとなんら遜色なく、それぐらいのポテンシャルを感じさせる豊潤なハーモニーを響かせているのだ。そんなわけで、本当に文句なく絶品のインストゥルメンタル作品である。むしろここまでの説得力を持った2曲だからこそ余計に感動したのかもしれないと思ったりもしている。
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